41話

 目を覚ますと、見慣れない木製の天井があった。

 あなたは周りを見回し、ベッドの中を見る。

 見知らぬ女が寝ていたりはしない。見知った女、サシャは居た。


 そこまでやってから、あなたは家を建ててもらったことを思い出した。

 ここはどこぞの宿ではなく、あなたの新居の一室だ。


「ん……ご主人様……もう、朝ですか?」


 あなたは頷いて、今日もいい天気だよと起床を促した。

 実際、窓の外は輝かんばかりに眩しい朝日が降り注いでいる。

 今日も昨日と同じく、きっといい日になるだろう。



 あなたの新居は2階建てだ。2階はすべて私室兼用寝室となっている。

 1階にはキッチン、リビング、応接間、食糧庫、書斎、浴室と言ったスペースがある。

 私生活用のスペースは2階に結集させている感じだろうか。


 1階に下りていくと、キッチンにレウナがいた。

 何のことはない普通の服装にエプロンをつけている。

 今まで狩装束とも神官服とも言えるような服装をしていたのですごく新鮮な姿だった。


「おはよう。朝食の準備ができているぞ。風呂も入っている。朝風呂を浴びて来るといい」


 なんと、レウナはその辺りの家事をしていてくれたらしい。

 朝から湯沸かしまでしてくれたなんて。大変だったろうに。


「いや? 水は魔法で貯めたし、湯も魔法で沸かしたからな」


 それなら多少は楽だったかもしれない。

 しかし、それでも労をねぎらうのは当然だろう。

 あなたはきちんと礼を言うと、サシャと共に風呂に向かった。


 浴室もまた木造で、新鮮な木の香りに満たされている。

 あなたは石造りの風呂もいいが、木造の風呂もいいなと頷いた。


「いい香り……温かみがあっていいお風呂ですね、ご主人様」


 あなたは頷く。木造だとこういうよさがあるとは。

 風呂と言うのは奥深いものなのだなぁと今さらながら思う。

 ともあれ、あなたとサシャは入浴して身を清めた。


 そして風呂から上がってリビングに行くと、いい匂いが立ち込めている。

 レウナがキッチンのかまどで料理をしているようだ。

 薪や炭はまだ用意していなかったのだが、どうやらレウナがそれも用意してくれたらしい。


「席に着け」


 とのことなので、大人しく席に座ると、それぞれに大ぶりな皿が1枚出された。

 皿の上に載っているのは、なにかの肉のローストだ。

 付け合わせとして野草のサラダも乗っている。

 主食代わりなのか、小ぶりなリンゴの盛られたバスケットが出された。


「あまりうまいものではないが、悪くはないぞ」


 言いつつレウナも食卓に着く。

 あなたたちは各々で食前のあいさつをする。

 朝から肉のローストとは、なかなかヘヴィだ。

 あなたはこれ以上に重い朝食を食べることもあるので気にならないが。


 肉は柔らかくローストされ、野草は瑞々しい。

 野菜と違ってアクやエグミはつきものだが、その辺りは丁寧に処理もされている。

 リンゴは酸っぱく爽やかな味だ。

 栽培品種のものではなく、野生種のようだ。


 野生種のりんごは収穫がやや難しい。

 栽培品種のものは、木に生っているものをもいで食べるのだが。

 野生種のりんごでそれをすると、早すぎる。

 まったく熟していないため、ひどくまずいのだ。


 そう言う意味では、このりんごはなかなか贅沢なりんごと言える。

 自然に落果するまで待ち、落ちたものを傷む前に収穫したのだろう。



 朝食後、しばらくのんびりしているとティーがやって来た。


「引き続き仕事をするよ。まずは残りのベッドだね」


 とのことで、ティーは手早く2台のベッドを仕立てた。

 凄腕の木工細工師とはケント氏の紹介だったが、言うだけのことはある速さと技量だ。


 それから家内部の内装を手掛けはじめた。

 机や椅子、本棚と言った木工で済む内装をどんどん作り上げていく。

 それどころか、カウチやソファーまで作り上げていくのだ。


「まぁ、本職には劣るけどね。木工細工と言えなくもないし、素材さえあれば私でも作れるよ」


 とのことである。

 ここまでできるなら、いずれ王都に招いて家の改築とか頼みたい。

 って言うか、図書室の建造にも携わって欲しい……。


 たぶん、それをやると家に逗留している女大工に喧嘩を売ることになるが……。

 新しい大工を呼ぶなんて、おまえではあてにならないというようなものだ。

 そもそも、図書室は石造り主体の構造なのでティーに頼むと全て作り直しになるし……。


 ……一瞬、木造の図書室も作ってもらうという考えが頭をよぎったが。

 それはそれで相当喧嘩を売ってることになりそうな気がするので、忘れることにした。

 仮にやるにしても、10年後くらいとかにするべきだろう。


「作りつけの棚なんかの構造について意見を仰ぎたいから、家にいてくれるかな?」


 あなたは頷き、今日は家で過ごす日とした。

 まぁ、元々ティーを口説くつもりでいるのだ。

 外出しなくていい口実が出来て好都合なくらいだった。




 レウナが食料調達に行って来ると弓を手に出かけ。

 レインとサシャは、最優先で作らせた書斎でスクロールやワンドの作成作業に勤しんでいる。

 そして、あなたはと言うとティーのナンパ……ではなく、庭仕事に精を出していた。


 せっかく広い庭がある上に、庭園でもないのだ。

 家庭菜園などやらせてもらおうではないか。

 エルグランドでもよくこうした家庭菜園に精を出したものだ。

 まぁ、広大な農園を持つあなたは豪農と言える規模の経営者でもあるが……。


 あなたは地面を馬鹿力で力づくで耕す。

 踏み固められた堅い地面だろうが、1メートルも掘り返せば作物栽培に適するようになる。

 硬い土も、『サンダリングボール』などの音波属性の魔法で砕けばいい。

 その上で肥料などを鋤き込み、馴染んだら作付けをする。


 馴染むまでは数日はかかるので、それ以外の作業に勤しむ。

 地面に穴を掘って、エルグランドで手に入れた果樹を植え込む。

 野外で拾って、そのうち菜園にでも植えようと思っていたものだ。


 数時間かけて、立派な果樹園が出来上がった。

 ナシにリンゴにミカンと言った果樹が多数立ち並ぶ。

 適宜肥料はやる必要があるが、豊かな実りで舌を楽しませてくれるだろう。


「……数時間留守にしたら果樹園が出来ている」


 満足して果樹を眺めていたら、レウナが帰って来た。

 あなたは狩猟の成果について尋ねながら、帰りを歓迎した。


「ああ、いいシカが獲れた。解体は済ませて来た。血は飲んだのでない」


 この短時間で解体まで済ませて来るとは、猟の腕はいいらしい。


「りんごにみかんに……ナシか。植物の成長を促進する魔法でもあるのか?」


 あなたはそこらから引っこ抜いてきた果樹を移植しただけだと答えた。


「よくこんな立派な果樹を見つけたな。枝ぶりもよく整っているし」


 まぁ、もしかしたら世話をしている人間のいた果樹かもだが。

 少なくとも、いずれかの人間が管理している土地で得たものではない。

 あれは純然たる野外であり、法治の及ぶ領域ではなかった。

 であれば、これは窃盗ではなく、単なる拾得品だ。


「遺失物横領の罪に問われる気がするが……まぁいいか。目の届かないところで果樹を育ててるやつが悪い」


 レウナがそのように評したので、あなたも頷いた。

 あなたはいずれ生る果物は自由に取って食べていいと伝えた。

 やがては果樹を交配させ、新しい果樹を作りたいものだ。


「ほう、そこまでやるのか。なかなか本格的に農園をやっていたのだな」


 あなたは頷く。種々の果樹を交配させ、それをさらに交配し。

 そうした苦労の末、あなたは文字通りに金の生る木や、魔導書の生える木、アクセサリーの生る木などを育てた。

 まさに遺伝子の魔術師であり、豪農と名乗るにふさわしい成果だ。


「……魔導書やらアクセサリーが生るというなら、金の生る木も、文字通りなのだろうな。エルグランドとは、いったい……」


 レウナが首を傾げていたが、エルグランドではよくあることだ。

 とは言え、さすがに果物以外が生えるのがおかしいことはあなたも分かる。

 もうそれ『果樹』じゃないじゃん、と突っ込まれたら反論のしようがない。



 畑仕事に精を出し、家が順調に整っていく。

 家の内装も整い、温かみある木造建築が完成していく。

 2日目は1階部分の内装を整えて完了だ。

 3日目は2階の私室部分を整えて終わるとのこと。

 8室ある私室部分は住人ごとに調整することになる。


「今いない人の部分は、後々追加依頼でも出してちょうだいね」


 入院中のフィリアと、未だ見ぬ新しい仲間が出来たら依頼することになるだろう。

 まぁ、それまでこの家を使っているかは分からないが。



 そうして3日目がやってくる。

 各々がティーに注文を出し、私室を整えることになる。


「私までいいのか? 居候の身で……」


 レウナが遠慮していたが、気にせずに頼むよう言った。

 改造せずにそのままにしておくのもなんだし。

 レウナが使い続けるかは不明だが、後々入る者が気に入る可能性もあるし。

 そう言う意味で、残る3室はティーの好きなように改装してもらうことになっている。


 適宜注文を請けて、そのまま改装をするティー。

 これができる時点で、かなり凄腕な気がする。

 口頭で伝えたイメージをサクっと現実にできるのも凄い。

 これほどの腕なら、金貨2100枚と言う請求もまったく法外ではない気がする。


「あんまり褒められると調子に乗っちゃうよ?」


 普通に調子に乗っても許されるレベルの腕では?

 建屋を1日で作ったのは魔法によるにしても。

 すべての部屋の家具と内装を整えたのは純然なる腕だ。

 これが出来る職人はそう滅多にいない気がする。


「おいおい、まさにその通りだよ。もっと褒めてくれ……」


 恍惚とした表情で悦ぶティー。

 あなたは全力で褒め称えた。


 スリムなボディが実にナイス。

 勝気そうな吊り目も可愛いね。

 ガッチリした腕がカッコいい。

 細くて長い足がエロくて最高。

 実は巨乳な事に凄く興奮する。


「私の容姿を全力で褒め称えるのはやめるんだ! 好きになっちゃうだろう!」


 それのなにが問題なのか分からずあなたは首を傾げた。


「私には一心同体の仲間が、ざっと50人くらいいるんだ! それを裏切ることは……できない!」


 多い。

 一心同体の仲間が5人とかなら、いいチームなのだなと思うが。

 50人と言う規模になると、なにかヤバい集団のように思える。

 というか、褒められて裏切るとか裏切らないとか、意味が分からない。


「いやほら、私だけ一足先に処女卒業は可哀想でしょ。みんな童貞か処女だからさ」


 なんかすごい集団に属しているらしい。

 50人くらいいるのに全員が清い身とは。

 なにかの修道会とかだろうか?


 あなたはその全員の処女を卒業させるのに労苦を厭わないことを告げた。

 童貞の方はちょっと管轄外だが、処女の方には全力を挙げて協力したい。


「え、いや、それは……私は同性もいけるけど、同性いけないやつもいるかもだし……」


 たしかに、どうしても同性がダメな人間は一定数いる。

 そうした者に関しては、ノータッチで。

 女もいける者は、あなたが卒業させる。それではダメだろうか?


「うーん、なるほど……よし、いずれその時が来たら……私は一足先にってことで……!」


 ティーは乗り気らしい。

 あなたはさっそくティーにベッドに行こうと促した。


「行くか……! 知識だけは豊富だ! いざ、実践の時……!」


 この大陸で初の小型種族であるティー。

 新鮮味があっていい。あなたは全力でティーを蕩けさせることにした。

 元より、処女は優しく丁寧に可愛がるのがあなたの流儀だ。

 硬く青い蕾を乱暴に散らすのは、どちらにとってもよいことではない。




 ティーは貪欲だった。

 もっともっとと欲しがり続ける姿は実に可愛らしかった。

 元より淫蕩な性質なのか、重ねた歳が故か。

 処女相手には本来しないのだが、深く繋がり合うまでいった。


 ここまで楽しませてくれるとは。

 あなたは深く満足した。

 この大陸の小型種族はえっちなのかもしれない。


「うあー……やばい、どうしよう……」


 情交の後、ティーはなぜかベッドに埋もれて困っていた。

 いったいどうしたのかと、あなたはティーの頬を優しく撫ぜながら訪ねた。


「ファ、ファー……な、ナデナデしてぇ……じゃねえよ! どうしよう! 自分で慰めるのじゃ我慢できないよこれ!」


 一段上の快楽を知ってしまった悩みと言うことらしい。

 あなたはひとまずティーを膝枕に寝かせ、頭を撫でた。


「ふぁ、ファァァ……な、ナデナデしてー……うおおおおっ! モルスァ!」


 雄叫びを上げながらティーがあなたの膝枕を脱する。

 そして、変なかけ声を上げながら床に頭を叩きつけた。


「もうやめるんだ! 元から意志の強い人間じゃないのに、快楽を注ぎ込まないでくれ! ヌォォォォォ! わ、私は……!」


 なにか葛藤があるらしい。

 ティーがあなたに溺れるというなら、溺れさせるまで。

 一生可愛がって、一生養ってあげようではないか。


「み、魅力的過ぎる……! でもダメだ! 私には仲間がいる……!」


 仲間?


「私はトラッパーズって言う冒険者チームのメンバーなんだよ」


 まさか、冒険者だったとは。

 戦闘技能はなさそうだし、純然たる職人だと思っていた。


「いや、私自身は冒険者じゃないけどね。トラッパーズの後方支援メンバーだから。でも、私たちは固い絆でつながった仲間なんだ。みんなを裏切ることはできないし、離れたくもないんだ」


 ティーの顔には固い決意があった。

 本気なのだろう。それほどに固い絆があるのだ。

 50人規模の集団でその結束を生み出すのは並大抵のことではない。


「だから、君から離れられなくなったら困る……! この関係は、これっきりにしよう……!」


 血を吐くような決意でティーがそのように言う。

 それほどの決意ならば、無理強いはできない。

 あなたは泣く泣くながらも、ティーと親交を深めることを諦めた。


「……セフレなら!」


 この関係はこれっきりにするのではなかったのだろうか。


「あ、あくまで溺れるのがまずいのであって! ただ快感を貪り合うだけの関係なら健全だからね! そう、おたがい自立して、健全かつ淫靡な友人関係ってことでね!」


 なにかティーの中での自己弁護が完了したらしい。

 ただの詭弁のような気がしてならないが……。

 あなたにとっては都合がいいので構うことはない。


 あなたはティーをベッドに引きずり込み、健全かつ淫靡な友人関係をはじめよう、と提案した。


「おっふ……お、溺れそう……! だが、私は……! 絶対に女たらしなんかに負けたりしない!」


 固い決意と共に、ティーが応じる。

 さあ、エロいことするだけの友人関係をはじめよう。

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