29話
飲んで食べて、たっぷりと楽しんだ翌日。
あなたたちはレウナと別れ、一時王都に帰還した。
王立図書館は王都にしかないのだ。
マーサとポーリンに軽く帰宅の挨拶をした。
そのあとはすぐさま行動を開始。すべきことをする。
「ひとまず、王立図書館に行ってくるわ。利用方法を教えたら、戦利品の売り捌きにかかるわね」
「私は文献をあたって、使えそうな魔法を探してみます」
「私は消耗品類の調達に、防寒具の購入にかかります。お姉様は?」
あなたは雪山登山用の道具を買い集めて来ると答えた。
この大陸でも手に入らないことはないのだろうが。
それよりも雪国であるエルグランドで調達してくる方が速い。
「なるほど、お姉様じゃないとできないですね」
エルグランドに転移できるのはあなただけなのでそうなる。
あなたは出発前に、全員の顔型を取らせて欲しいと提案した。
スノーゴーグルは顔に合わせて造るので顔型が必要なのだ。
「いいけど、どうやるの?」
目元に粘土をくっつけて造る。
目元の型さえ取れればいいのでそう時間はかからない。
「すぐ終わるんでしょ? パッとやってパッといきましょう」
とのことで、あなたはパッとやってパッと終わらせた。
まぁ、眼窩のくぼみ具合さえ分かればそれでいいのだ。
それほど難しいことではないのですぐに終わった。
型取りを終え、各々が目的を果たすために出発していく。
あなたはそれを見送った後、自分も用事を果たすべく転移で出発した。
エルグランドで各種買い物を済ませた後、あなたは屋敷へと帰還した。
買いこんだ荷物を整理した後、あなたは耐え難い欲望の滾りに体を掻き毟った。
もう限界、今すぐヤりたい。エロいことがしたくてたまらない。
あなたは燃え滾る欲望のままにサーン・ランドへ飛んだ。
今日はケモ耳を楽しみたい。それも生半なものではダメだ。
あなたのことが大好きで、エッチなことも大好きで、しかも可愛い娘じゃないと。
つまり、メアリだ。あなたは冒険者学園に在籍中のメアリを訪ねて行った。
「メアリなら海賊の紅葉卸作るっつって馬で出かけてったよ」
あなたは気が狂いそうになって壁に頭を叩きつけた。
石造りの壁が砕け散り、あなたはがっくりと項垂れた。
「ど、どうした……? メアリになんか用事か……?」
あなたはモモロウに泣きながら説明した。
メアリと激エロスーパーセクシータイムを楽しみたくて来たのだと。
話してるうちにもっと悲しくなって、あなたは本気で嘆き悲しんだ。
「……分かってはいたけど、コイツやっぱり頭おかしいぞ?」
「知らないよ……」
モモもトモも冷たいではないか。
ところで2人とも未だに女の子のままだが、どうしたのだろうか?
男に戻る予定ではなかったのだろうか?
「トモちん女の子味が美味し過ぎて戻れない」
「女の子の体が楽し過ぎて戻れない」
なるほど、2人とも自由である。
というか性別に関するアイデンティティとかないのだろうか。
あなたはふつうに男の自分がかなり嫌で性転換しないのだが。
「俺は、まぁ、な」
「だって女の子なら女の子の服が綺麗に着こなせるんだよ?」
モモは特殊過ぎる来歴のせいで、もはや慣れているようだ。
トモはファッションを楽しむために女の子をやっているらしい。
まぁ、人の感性はそれぞれだ。あなたは女の子が増えたままでうれしいのでそれでいい。
「ええと、とりあえず、あれだ。色狂いのレナイア呼んでこようか? ケモ耳ついてないけど、あんたのことが大好きでエロいこと大好きだぞ」
ケモ耳ついてないとヤダ! 絶対ヤダ!
あなたは泣き喚きながらそのように叫んだ。
エロいことが大好きで、あなたのことも大好きで、ケモ耳がついてる可愛い女の子とエッチがしたいんだ!
あなたはなに憚ることなく全力で欲望を垂れ流した。
そして、欲望を叶える術がないことを悟り、あなたは涙を流した。
滔々と流れる涙が、床に水たまりを作っていく。
「どうするよ?」
「僕たちにどうこうできる?」
「メアリを連れ戻して来るくらいか?」
「どこに行ったかも分かんないのに?」
「まぁ、そうな」
あなたはモモとトモに見捨てられた。
ちくしょう、こんな世界なんか大っ嫌いだ。
腹いせに『てのひらのはめつ』でも使うとしよう。
あなたはエムド・イルの超科学文明が創り出した反陽子爆弾なる『爆裂弾』を取り出した。
これでサーン・ランドを新しい入り江にしてみようと思うのだ。
「まぁ、落ち着けよ。なんかよく分からん代物仕舞え。な? それがなんなのか知らんが、絶対にロクなもんじゃねえだろ」
あなたはこれは『てのひらのはめつ』と言う道具だと説明してやった。
エルグランドに存在する、各種の次元違いの威力を誇る強力な爆弾。
それを『爆裂弾』と、爆弾とは別格の存在として表現するのだが。
『ワン』から『テン』よりもなお隔絶した威力を持つというのが、この『てのひらのはめつ』だ。
「ほーん……『ナイン』ってのはなんかあんたの話で聞いたことあるが……どれくらいの威力なんだ?」
『ナイン』は町をひとつ消し飛ばせる。
サーン・ランドどころか王都だって一発で更地だ。
「それより強力な爆弾ね……即座に仕舞え。仕舞ってくれないなら、今すぐこの学園の女子生徒を殺して回るぞ」
あなたは大人しく『てのひらのはめつ』を仕舞った。
ボルボレスアスの狩人は人を害せないように洗脳されているが。
そうした処置と言うのは、強い意志で振り切ることも可能だ。
おそらくモモなら振り切れるし、その上で教職員含めて殺れるだろう。
あなたは女子生徒が無残に殺されることに耐えられない。
「……自分でこの町を吹き飛ばしたら女子生徒も死ぬよね? なのにモモくんに殺されるのは嫌なの?」
「異常者に正当な論理が通じると思うのか?」
「あーね……」
なんだか酷い言われようである。
あなたはメアリがいないのなら用はないと、立ち去ることにした。
「ああ、そう。一応、アトリとキヨはいるが」
メアリじゃなきゃやだ。あなたはそのように答えた。
「……本当にケモ耳好きなんだな」
あなたは気が狂うほどにケモ耳が好きだ。
しょうがないので、ほかのケモ耳を当たることにする。
あなたは颯爽と王都へと帰還した。
王都屋敷に帰還し、あなたは身支度をする。
あなたのことが大好きという条件は望めないが、娼館に行こう。
たっぷり小遣いを弾めば大サービスはしてくれるだろう。
そうしていると、あなたの私室のドアがノックされた。
「旦那様、ブレウです。いま、よろしいでしょうか?」
あなたはもちろんと答え、入室を許可した。
すると、いつものお針子用のお仕着せ姿のブレウが入室して来た。
ブレウの目線があなたの胸元のコサージュで留まると、笑みを浮かべた。
ブレウ謹製のコサージュはもちろんつけている。たらしとして当然だ。
さておき、あなたはどうしたの? とブレウに問いかけた。
「先日お伝えした、離宮の見学の件なのですが」
ああ、あれ。大工が提案していた見学の件だ。
またぞろ妙な提案を呑まされるのだろうが……。
王宮のメイドが金で買えるとか言うウワサの真実が知れる!
「大工の方が、いつでもいけるとのことなのですが」
あなたはじゃあ行くとしようと頷いた。
ただ、サシャとフィリアも行きたいと言っていた。
なので、他の面々の帰参を待つとしよう。
でも、その前に頭がおかしくなりそうなので娼館に行って来る。
「えっと……どうして頭がおかしくなりそうなのですか?」
あなたは定期的にケモ耳成分を摂取しないと、禁断症状で死ぬ。
発疹と吐き気、高熱と高い中毒性、筋肉痛と酷い咳、うわごと、ひきつけ、そして死……。
そうした禁断症状を避けるべく、あなたはケモ耳成分を摂らないといけないのだ。
「そんな! あの、私の耳ではダメですか!?」
ブレウが血相を変えてあなたに迫って来た。
冗談だったのだが、真に受けてしまったらしい。
あなたは胸元を抑えて苦しむと、優しくえっちなことさせてくれないと死ぬと答えた。
「すぐベッドにいきましょう!」
身重の身で大丈夫だろうか?
まぁ、お耳を堪能して、優しいペッティングくらいなら問題ないだろう。
ブレウと優しく触れ合うのも実によい。
メアリに求めていた激しい行為はできないが。
こうした優しく甘い触れ合いは心が満たされる。
あなたはブレウと共にベッドへとなだれ込んだ。
サシャたちの帰宅まで、あなたはブレウと優しく愛し合った。
そして、帰宅したサシャらを離宮の建築現場の見学にいけるらしいから行こうと誘った。
「へぇ、以前話してたやつ。私はパス。いずれ行く機会くらいありそうだし」
「私は面白そうなのでいきます!」
「では、私も。あの時の巨人に対応できる城壁って、どれほどなんでしょうね」
どうやらサシャとフィリアだけが参加者のようだ。
あなたは屋敷に滞在している女大工に建築現場の見学に行こうと伝えた。
女大工は相変わらずの胡散臭い調子であなたたちを建築現場に案内してくれた。
乗合馬車に揺られて、離宮の建築現場へ。
冬用、とは言うが、べつに暖かな地方に建てているわけではなく。
王都近辺の敷地的に余裕のある地に、冬用の構造を導入して建築しているらしい。
「見えてきましたよ、奥様。あれが冬用の離宮、ハワフリアエ宮殿です」
ハワフリアエ。この大陸における言葉で、美しい眺め、という言葉だ。
その言葉通り、たぶん美しい宮殿なのだろう。
城壁があまりにもバカ高過ぎて何も見えないが。
いくらなんでもやり過ぎな気がする。
「まぁ、そもそもの話、昨今の建築形式で城壁自体が下火なんですけどね」
「そうなのですか?」
大工のぼやきにフィリアがちょっと驚いた調子で言う。
あなたは城壁は割と簡単に壊せるからしかたないねと頷いた。
「そうですね。昨今は大砲も発達して来ていて、それに耐える城壁と言うのは難しいんです。最近は星形要塞と言うのが主流ですね」
「そうなんですか……従軍ってやったことなくて」
「やはり、荒っぽいところですから。お若い女性の聖職者様はなかなか従軍に回されることはありませんよね」
「あのー、じゃあ、王様の住んでる宮殿とかも、その星形って言うのにはしないんですか?」
「まぁ、住みにくいので……」
「割と卑近な理由だったんですね」
「そもそも王都の宮殿となると、居住機能と同時に政務機能も要求されるわけで。あまり武張った建築形式にすると、
「要塞だと敵兵がなだれ込まないように通路が狭かったりしますもんね」
「そう言うところですね。他国との戦争なら国境線付近の要塞でやればいいので、王都近辺の宮殿に本来は城壁やら城砦機能なんかいらないんですよ」
当然といえば当然だなとあなたは頷いた。
この国の内情が不安定で、暴動が多発していたり、革命の機運があったりするならべつだが。
基本的に王宮に必要なのは、居住機能と政務機能だ。
どちらかに能力を振り切った方がいいものができる。
城砦としての機能も、居住機能も政務機能も全部欲しい! というのは無茶なのだ。
「最近は臼砲や榴弾と言うものも出て来まして。要塞自体が廃れる兆しがありますしね。守れないんですよ、もう」
「臼砲に、榴弾……要塞が廃れて、どうなるんでしょう?」
「強力な騎士の白兵戦、騎馬戦術。そして、機動性を重視した竜騎兵。この2つですね。攻城戦ではなく、会戦が主体になるとのことですよ。それに伴って機動力重視の軍隊になるそうで」
「なるほどー。城砦が過去の遺物となり、かつての騎士物語のロマンティシズムを匂わせる建築物になる、と……」
手元の羊皮紙にメモを書きつけるサシャ。
集めた知識を自分で編纂し、やがては本でも出すのかもしれない。
「その割に、高い城壁を持った王宮がいま出来てるんですよね?」
「まあ……建築家や将軍が主張することが……王家の主張と噛み合うとは限りませんので」
要するにクライアントの意向だからやむなし、ということらしい。
まぁ、最新鋭の戦術に適応し続けるのはかなり難しいことだ。
少々ばかり時代遅れの建築様式を持ち出してしまうのも、歴史を眺めればたびたびあることなのだろう。
なにより、直近に神話の如き巨躯を持った巨人族の襲撃があったのがよくなかったろう。
それに対応できる城砦を! と叫んでしまう気持ちも分かる。
「まぁ、城壁はともかく……内側の宮殿の美しさは誰もが認めるものになったと思いますよ。最新鋭の技術で造られた、前時代の城壁と言うのも見世物としてはいいですしね」
大工がそんなことをぼやき、馬車が止まった。
どうやら、建築現場についたらしい。
「さぁ、いきましょう。うちの工房の先輩方が案内を務めてくださるとのことですよ。私はちょっと奥様と、新しい技術についての知見の話がありまして」
やっぱり新しい建築案があるのだろう。
今度はいったいどんな妙な案が出るのだろう。
あなたは怖いもの見たさ、そして代価として差し出される女大工の熟れた体を楽しみに女大工についていった。
「どうですか、この城壁。奥様としては、お気に召されますか?」
いくらなんでも城壁はいらない。
こんなばかでかい城壁があったら洗濯物が乾かない。
庭の芝生も枯れるし、夏は空気がよどんでクソ暑い。
「そこではなく。この壁材はマフルージャで採れました、トイネの石材じゃありません、我が国のものです。しばし遅れを取りましたが、今や巻き返しの時です」
隣国のトイネはいい石材が取れるらしい。
そのため、トイネの宮殿の美しさは類例がないとか。
しかし、あなたの見る限りハワフリアエ宮殿の城壁も大変美しいものだ。
なるほど、これが流行りになるのも分かるというもの。
あなたはこの城壁は結構好きだよ、と答えた。素材も含めて。
「石造りの城壁がお好き? 結構、ではますます気に入ってくださると思いますよ! さあ、どうぞ!」
そう言って大工が転がっていた石の破片を渡して来た。
柔らかな赤みのかかった石で、非常に美しく切り出されている。
きわめて整然と整った城壁は大変に美しかった。
防御性能はゴミらしいが、見た目が美しいのはたしかだ。
「新しい石材ですよ。美しい切り口でしょう? ああ、おっしゃらないでください。美しく切り出しても性能に関係はない、それはたしかです」
何も言っていないが、大工の長広舌は止まらない。
たぶん、この城壁になにかしら思うところがあるか。
あるいは、この城壁になにかしら思い入れがあるのだろう。
「でも、城壁の防御性能が求められていないのは先ほど話した通り。城壁に求められるのはいまや美しさ。それに、ごらんの通り天辺までたっぷりあります。どんな巨人でも大丈夫」
たしかに、15メートルを超える城壁の高さは凄い。
あなたの知る限り、もっとも高い城壁だろう。
だが、たぶん『終末』で出て来る巨人は、このくらいの壁は叩き壊す。
高さの問題と言うより、単純に強度が足りない気がする。
「どうぞ触れてみてください、いい大きさでしょう? 余裕のサイズだ、距離が違いますよ」
ちょうど石を積んでいるあたりに辿り着いた。
大工が示して来た、これから積むであろう石。
触れてみると、美しく滑らかに切り出されている。
どうやら、魔法で成型したもののようだ。
サイズも実に大きい。運搬は大変だったろう。
近隣の石切り場でなければとてもではないが持って来れない大きさだ。
「どうでしょう、これと同じ石材で図書室を作りませんか? 実に美しい建物になりますよ!」
王宮の石材と同じもの使って大丈夫なのだろうか。
この国の王家はなんか狭量なところがある気がする。
妙な難癖をつけられて、この国の王家が断絶しても困るのだが。
まぁ、その辺りが問題ないなら、石材の変更はいいだろう。
あなたは赤が好きなのだ。石材の柔らかな赤が気に入った。
「お値段はこちらとなっております」
そっと大工が見積書を出して来た。
今までの建築費用が突然20倍に跳ね上がっている。
あなたは見積書を破ろうと掴んだ。
「ああ、なにを! 破っちゃダメですよ! 待って! 止まってください! うわぁあああ!」
大工が叫んで腕に縋って来る。
あなたは20倍はぼったくりすぎだろときつく言い放つ。
「しょうがないじゃないですか! 王家が最優先で需要が逼迫してるんです! 最速納期だとこうなるんですよ! 最速で造れとおっしゃったのは奥様でしょう!」
たしかにそう言った。
それなら最速が無理な石材を使わないで欲しい。
「でも、こっちの方がいい石材なんですよ。名材を捨て置くなんてもったいない!」
べつに名材じゃなくてもいい。
赤い石は気に入ったが、以前指定していた白大理石でもいいではないか。
「ところで話は変わりますが、王宮のメイドを味見できる話なのですが」
詳しく。あなたは見積書を破くのも忘れて聞き入った。
「ええ、ええ。もちろんお知りになりたいですよね。ですが、さすがに王宮内での事ですからね……大した事ではなくとも外部に漏らさぬようにという誓約書が必要です」
言って大工が新しく書類を取り出して来る。
これより見知ったことをいずれにも漏らさぬことを誓う。
そのような内容の文言が厳めしい文章で書いてある。
「サインをお願いいたします、奥様」
あなたは嬉々としてサインした。
「こちらもお願いします」
あなたは見積書にもサインした。
「見積もりにご同意いただき、ありがとうございます。さて、王宮のメイドですが……お耳を拝借」
耳打ちで大工が教えてくれる。
王宮の使用人は特段に身分ある存在ではないらしい。
ごく普通の平民が使用人として雇われているとのこと。
そして、約1万人の使用人のうち、3割程度が宮殿内に居住している。
メイドも1万人の中に含まれ、いくらかが宮殿外に居住している。
そして、宮殿の近隣の家賃は極めて高額。給金だけでは賄えない。
そのため、体を売って家賃を稼いでいる者が少なくないとか。
この国の王宮使用人の待遇がクソなお陰で、王宮のメイドが食べれるらしい。
「つまり、夜になったら王宮から退勤するメイドは……金で買えます!」
あなたは最高に興奮する情報に狂喜した。
メイドを片っ端から買い漁らなくては!
今夜は王宮近辺でメイドの退勤を待たなくてはいけない!
20倍の金額の石材を使う見積書にサインさせられたことにも気付かずあなたは気炎をぶち上げた。
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