19話
カイラの言うしばらくってどれくらいだろう。
そんなことを思いつつも、あなたはサーン・ランドに魔法の船を買いに出向いた。
値段次第では買うのではなく、値段の確認になるが。
まずは、どの店にあるのかの確認になるだろうか。
そう思いながら、各所の魔法商店を巡るなどした。
そして、あなたは購入を断念することとなった。
単純に想定していたよりも遥かに高額だったのだ。
そもそも、魔法の使われていない普通の船でも金貨1000枚オーダーはザラ。
大型商船となると、やはり魔法が使われていなくても3000枚オーダーだ。
あなたが欲しているのはより小型の船ではあるのだが。
魔法を使うとなると、1000枚オーダーはザラだった。
魔法のアイテムは高額だが、なにもぼったくってるわけではない。
単純に原価が高いし、作れる人間も限られている。
高額な原価にプラスして、貴重な魔法使いの人件費で高額になるのだ。
しかも、船と言うのは、普通は船大工が作るものだ。
魔法で作るにしても、造船知識が無ければ作れない。
つまり、魔法使いでありながらも造船技能が無ければいけない。
しかも、求められる魔法が第5階梯と言うからかなり高度。
そんな人材、どこを探したら見つかるのだろうか?
作られている以上、居ることは居るのだろうが。
とんでもなく貴重な人材なことは間違いない。
値切ったところで、半額まで持っていけるかどうか。
その半額にしても金貨500枚だ。あなたたちの資金では捻出不能だ。
やはり、パイクリートを用いた船……ハバクックを試すべきなのだろう。
転移でソーラスへ。そして、宿へと向かった。
仲間たちはまだ戻っていないようで、いずれの部屋もがらんとしていた。
あなたはとりあえずサシャの使っている部屋に入った。
簡素なライティングデスクの椅子に腰かける。
デスクの上には羊皮紙が投げ出されており、美しく整った文字が並んでいる。
なにかしらの文章と言うわけではないようで、文字の書き取り練習のようだ。
サシャの恐ろしく高度な筆記能力の由縁と言ったところだろうか。
結局、どんな高度な能力も、大層な秘密などない。
地道な練習を高密度に延々こなした者にこそ神がかり的な能力が培われる。
しかし、書き取り練習のために高価な羊皮紙を大量消費するのはなかなか豪儀なやり方だ。
ぼんやりしながらしばらく待ったが、誰も戻って来ない。
そろそろ昼を回るが、どこかで昼を食べて来る感じだろうか。
まぁ、高価な品の交渉となると、長時間に渡ることも珍しくはない。
それを思うと、あなたの帰りは遅いと思われているのだろう。
では、このまま帰りは夜と言うことにして、他の用事も済ませよう。
王都を旅立って2週間ほどになるが、問題があるなら噴出している頃だ。
それに対応したら、あとは数カ月単位で留守にしても大丈夫だろう。
あなたはそう考えると、転移魔法で王都へと向かった。
「あら? おかえりなさいませ、旦那様」
王都屋敷に戻ると、バッタリとブレウに出くわした。
サシャの母だが、あなたの齎した若返りの薬でサシャの姉同然の外見だ。
そして、あいかわらず微妙に間違った呼び方をしてくるのが妙にかわいい。
あなたは女なので、奥様とかその辺りの方が正しい。
まぁ、夫がいるわけでもないので奥様と言うのも微妙に違うが……。
さておき、ブレウは腕にたくさんの布地を抱えている。
どうやら、仕事道具を裁縫室に運んでいる最中のようだ。
あなたは手伝おうと申し出ると、ブレウの手にしていた布地を手に取った。
「ありがとうございます、旦那様。助かりました」
などと言って柔らかに笑うブレウ。
あなたは大したことではないと笑って帰した。
まぁ、口うるさい侍従長のマーサあたりに見つかったらお小言が飛ぶだろうが。
あなたはべつに貴族と言うわけではないので、そのあたりは曖昧でいいと思っている。
「そう言えば、旦那様がサシャのためにと建ててる図書室ですけど、大工の人が旦那様に意見を伺いたいと言っていましたよ」
また詐欺めいた交渉を持ちかけられそうなので、パス。
ほいほい頷いていると、永遠に工事が終わらない。
「そうですか? 王宮の工事現場を見学すれば、きっと意見も変わると言っていましたよ」
王宮の工事現場なんて見学できるのだろうか。
まぁ、できるのならそれはちょっと面白そう。
だが、図書室の工事が永遠に終わらないのは困る。
口惜しいが、そのあたりは我慢しよう。
「あと、王宮のメイドは金で買えるとか」
なんだって? それは本当かい?
あなたは詳しい説明をブレウに求めた。
買えるというのは、やはりそう言うことでいいのか。
スパイめいたそれとして買えるのでは話にならない。
ベッドの上での行動を買えるのか、そう言うことを知りたい!
「そ、そのあたりはよく分かりませんけど……大工の人に聞けばわかるのではありませんか?」
それも道理と、あなたは深く頷いた。
どうやら、図書室の建築計画に更なる追加が生まれる時が来たようだ……。
裁縫室に布地を運び込んだ。
あとはブレウが整理するとのことで、適当に机の上に布地を置く。
部屋にはたくさんの布地のほか、種々の裁縫道具が置かれている。
最新式のミシンも数種類置かれており、大抵の裁縫に対応可能だ。
このミシンはこの屋敷のものではなく、ブレウの個人所有品だ。
まぁ、贈り主はもちろんあなたなわけだが。
「ありがとうございました、旦那様。力強くて素敵……」
そう言いながら、ブレウが抱き着いてきた。
好意の表現がストレートで、それがどこか可愛らしい。
するするとあなたの太ももにブレウの尻尾が巻き付いて来る。
「この部屋には仮眠用のベッドもあるの。ね? 可愛がってくれるでしょう?」
人目のない場所に2人切りになれたからか、口調も砕けたものに。
そして、ものすごい直球ストレートなお誘いを受けた。
あなたはもちろん喜び勇んでブレウのお誘いに応じた。
ベッドの上でブレウと甘く優しく愛し合った。
獣人の行為は、どことなく優しく甘い。
毛づくろいをするような、甘くやわらかな行為が主体だ。
特にブレウはキスが好きで、触れ合うようなキスを何度もせがんで来る。
もちろんあなたは優しく甘い口づけを何度も贈った。
行為が終わった後、ブレウがあなたにコサージュを贈って来た。
刺繍の施された華麗なリボンで造られた造花は繊細な美しさを宿している。
作りこそ小さいものの、相当な手間暇をかけて造られたような雰囲気だ。
「伝統様式の花飾りで、本当はサシャが結婚する時に贈ろうと思ってたんだけど……」
それをもらうのはまずいのでは?
くれるのはうれしいが、そう言う親子の絆はもっと大事にすべきだ。
「ふふふ、大丈夫よ。だって、旦那様がお給料をたくさんくれるから……サシャにはもっといいコサージュを作ってあげられるわ」
なるほど、それなら問題ない。
不要物を押し付けられたという見方もなくはないが。
丹精込めて造られた品であるのは間違いない。
あなたは喜んで自分の服の胸元にそれを留めた。
「というか、サシャは結婚できるの?」
気軽な調子で投げかけられたクリティカルな質問にあなたは固まる。
あなたは可愛いペットたちの結婚に関し、口出しするつもりはない。
だが、同時に積極的に結婚の世話をしてやるつもりもない。
すると、答えはそこまでは責任を持てないということになる……。
あなたは、将来のサシャは結婚したがるかもしれないから……と未来に責任を丸投げた。
「そうだといいいんだけど……いい人がいるかしら……」
母の悩みは尽きることはないのだろう。
だが、我が子の幸せを願う母の姿は美しい。
あなたはサシャが結婚できるといいなと思った。
サシャを夫から寝取り直す楽しみもできることだし。
ブレウとしばらくピロートークを楽しんだ後、あなたは執務室へ向かった。
そして、突然の帰宅に驚く侍従長、いわゆるメイド長のマーサに軽く状況説明を聞いた。
「現状、使用人らに大きな問題は出ておりませんね。1人、結婚するので辞めるという話も出ておりますが……」
可能なら続けて欲しいが、無理ならいい。
その際は、結婚祝いと言うことで金貨を5枚ほど贈ろう。
あなたは使用人の結婚退職についてそのように答えた。
「よろしいのですか? ご主人様のお手付きのメイドですが……」
もちろん分かっている。あなたは深く頷いた。
「メイドから聞いていたのですね」
そうではない、これはもっと単純な話だ。
あなたのお手付きじゃないメイドがいないだけだ。
「そ、そうですか」
他には何か報告があるだろうか?
「そうですね……セラーや銀食器などにも問題は出ておりません。1人減るメイドの雇用について、なにか要望はございますか?」
よほど問題のある子でなければいい。
メイド長のマーサの眼を信じようではないか。
「かしこまりました。あとは、そうですね……私事で恐縮なのですが……少しだけ、お茶に付き合っていただけないでしょうか?」
あなたはマーサの可愛らしいわがままに快く頷いた。
では、お茶もお茶請けもすべてマーサに任せる。
そのように告げると、マーサはほっとした顔でお茶の支度をした。
つい先日も迷宮内で飲んだ、壺茶だ。
用意されているのは1つだけで、それをお互いに回し飲みする。
マーサはそのお茶に対し、はちみつをひとさじ垂らした。
それを自分で飲んだ後、お湯を継ぎ足し、はちみつをさらにもうひとさじ垂らした。
渡されたお茶を飲むと、ハチミツの甘い香りが広がる。
魔力回復のための薬草が入っていないので、苦味も落ち着いて爽やかだ。
さらにハチミツ入りなので、爽やかな苦みに甘みがあって美味である。
「いかがですか?」
あなたは今すぐベッドに行きたいと答えた。
壺茶にハチミツを垂らすのは、そう言うことのメッセージだという。
お湯の温度や茶葉の濃さ、入れる砂糖やハチミツにはメッセージが込められている。
甘いものは、そのまま甘いメッセージなのだ。
「はい、ご主人様」
そう言って、マーサはかすかにはにかんだ。
あなたはマーサの奥ゆかしいお誘いに感じ入った。
世代や年齢が違うと、こういう奥深いリアクションが見られたりする。
あなたはマーサをベッドに連れ込むと、深く愛し合った……。
マーサと愛し合った後は、ポーリンの下に出向いた。
本来はあなたが主なので、ポーリンを呼びだすべきなのだが。
さすがに、マーサと情を交わした後の部屋に呼び出す勇気はない。
「まぁ、ミストレス。おかえりになっていたのですか? 呼んでくださればすぐに向かいましたのに」
驚いたような顔をするポーリン。
あなたはちょっと立ち寄っただけと応えた。
なにか問題がないかだけ確認にちょっと寄ったのだ。
「そうでしたか。現状、特にこれと言った問題は起きておりませんわ」
ポーリンの役目はスチュワードのそれに類する。
ただ、スチュワードは本来は男性使用人の統括が役目でもある。
男性使用人の統括は、やはり男性にやってもらった方が不便がない。
そのため、男性のスチュワードもちゃんといる。
ポーリンはあなたの秘書と言うのが正しいかもしれない。
「強いて言うならそうですわね、スチュワードのランザーが腰を痛めたくらいですわ」
かなりどうでもいい報告だった。
あなたは本当に何も起きていないことを理解した。
では、この後は雇っている最中の大工に会いに行こう。
こう、王宮のメイドが金で買えるという話について、詳しくやらしく聞きたい。
「ああ、あの大工ですか。今日は屋敷におりませんわよ。最高の名材を仕入れて来るとかで……」
では今日はお預けかとあなたはちょっとがっかりした。
まぁ、即日で見学にいけるとは思っていなかったし。
そう口惜しいことでもないかと気軽に考えた。
「その様子ですと、ヒマになってしまわれましたか?」
あなたは頷く。
「では、ミストレス。もしよろしければ、私と少し遊んでくださらない?」
あなたはポーリンのセクシーなお誘いに頷いた。
なんだか今日は年配の女性陣と縁がある。
まぁ、こういう日もある。年配組み食べ比べといこう。
とは言え、今のブレウとポーリンは20歳前後くらいの外見だが……。
あなたは3戦目の戦いに挑むべく、ポーリンをベッドへと押し倒した。
ポーリンとの情交を終えると、あなたは3連戦したことになる。
まったく、向こうから3連続もお誘いが来るとは、望外の幸運があったものだ。
たまには屋敷に帰って、使用人らを堪能しないと損だ。
これからもちょくちょく屋敷に帰らなくては。
学園に通っていた頃と違い、休みは自由に取れるのだし。
大工の話も聞きたいことだし、次もまたすぐに来よう。
マーサが新しいメイドを雇うと言うから、そっちの味見もしたいところだ。
あなたはこれからを楽しみに思いつつも、ソーラスへと帰った。
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