5話
カイラといっしょにいろいろと測定をした。
普通の身体測定に始まり、細かな指のデータを取られ。
それだけに飽き足らずに、皮膚や髪の毛の耐久検査などをさせられた。
カイラの興が乗ってしまったらしく、そこからエスカレートしだした。
あなたの超人的な身体能力がよほど面白かったのだろう。
万力に腕をかけられたり、首吊りさせられたり、ナイフで切られたり。
普通に拷問でしかないこともされたが、あなたはピンピンしていた。
あなたの皮膚の強度は生半な刃物を弾き返すほどのものだ。
骨の強度も同じくであり、万力にかけられた程度では折れたりしない。
首吊りなど余計に楽勝だ。窒息も頸椎脱臼も、あなたの筋力なら問題なく耐えられる。
カイラはドン引きしていたが、あなたもドン引きだった。
カイラには相当好かれている自覚があったのだが、こうまで実験台扱いされるらしい。
知的好奇心が刺激されると、すべての理屈が吹っ飛んでしまう類だったのだろうか。
「う~ん……ここまで超人的だとは~……これ、見てください」
そう言ってカイラがなにやらアルコールランプのようなものを取り出す。
そこへと白い半透明の薄片を入れて蓋をすると、火が灯った。
「これは生命力を糧に燃えるとか言う、呪いの道具みたいな代物なんですが……」
みたいもなにも、常識的に考えて呪いの道具そのものだ。
「まぁ、そうなんですけど。そうなんですけどね~……そこはどうでもいいです~」
そう言うならそうなのかもしれない。
それで、その呪いの道具ではない致死性の灯火器具がどうしたのだろうか。
「ここに入れたのは、先ほど採取したあなたの口内粘膜です~。この薄片に残っている生命力なんて、この火が一瞬で燃え尽きる程度の生命力しかないんですが~……」
どうみてもメラメラと勢いよく燃えている。
「あなた本体の生命力はこれの数千万数億倍はあるはずですから~……あなたの生命力は常人の数千万倍から数億倍と言うことになりますよね~?」
そのくらいはあるのではないだろうか。
具体的に測定したことがあるわけではないが。
常人なら軽く100回は死ねる『ナイン』の直撃に万単位で耐えられるのだ。
数千万倍から数億倍はザラにあるだろう。
「その『ナイン』と言うのは~?」
あなたは『ナイン』を『ポケット』から取り出して見せた。
そして、極めて強力な爆弾であり、町ひとつを吹き飛ばす破壊力があると説明した。
「へ、へぇ~…………あの、私のあなた?」
なんだろうか。
「ここに書いてある、黄色い地に黒で扇形のマークが3つと、中心に丸い点が書いてあるこの表示は……なんですか?」
詳しいことは知らないが、様式美として描いてあるらしい。
これは『ナイン』に限らず、同種の爆裂弾と呼ばれる道具に共通のマークだ。
『ナイン』のほかにも『ワン』から『テン』にもこのマークがどこかに描かれている。
『テン』は極めて強力だが、同時に数がかなり少なく、製造方法も喪われている。
一方で『ナイン』は『テン』に威力こそ劣るが、残存数も多く、製造方法も残っている。
「……私のあなたの故郷ではこれの製造技術があるんですか……?」
あなたは頷いた。エルグランドではこれがよく乱用されている。
あなたもよく使う。むしゃくしゃしたとか、気分が乗ったとか、きれいな花火が見たいとか。そんな理由で使う。
もし興味があるなら、いずれ使うところを見せてあげようではないか。
見てごらんなさいカイラさん、こんな美しい花火ですよと言うこと請け合いだ。
「!?!?!?」
カイラが百面相をし出した。そんなに驚くことだろうか。
たしかに手軽に使える道具としては破格の破壊力だが。
それほど大した破壊力ではないのだが。
「大した破壊力ではない!? 少なく見積もっても数百キロトンクラス、下手すればメガトンクラスの核兵器ですよこれ!?」
核兵器とか言う名称はなんだろうか?
これは爆裂弾と言う道具なのだが。
「起爆したら、このソーラスの町を綺麗さっぱり消し飛ばすほどの破壊力が大したことないというんですか!?」
まぁ、たしかに町のひとつやふたつは消し飛ぶかもしれないが。
しかし、凄腕冒険者を焼き払える威力があるかと言うと、ない。
あなたは純粋な生命力で耐えられるが、エネルギーの流れを見極めてダメージを軽減するくらいは誰でも出来るだろう。
そうでなくとも、そうした技術に熟達した者ならば、エネルギーの流れを捌き切ってノーダメージも可能なはずだ。
結果、これは弱者を焼き払うための道具でしかないのだ。
「そ、それは……あれ? たしかにできますね……? エネルギー量はともかくとしても、爆風の速度自体は音速をやや超える程度のものですから……距離さえあれば……」
カイラも『ナイン』のなんとも言えない使い勝手に気付いたらしい。
そう、『ナイン』は賑やかしの花火としての役割しかないのだ。
派手な破壊こそ齎すが、大した打撃は与えてくれない派手なだけのオモチャ。
「いえ、でもフォールアウトの問題はどうなるんですか?」
フォールアウトとは?
「爆発した後の放射性物質を含んだ塵です。広域放射能汚染の原因ですけど……」
あなたはそれがなんなのか分からずに首を傾げた。
その、放射能汚染とやらが起きるとなにか問題なのだろうか?
「放射線障害による重篤な病態が引き起こされたりするのですが……髪の毛が抜けるとか、動物に畸形が生まれるとか……」
あなたは『猛病』のことかとあたりをつけた。
『ナイン』を含めた爆裂弾の系譜には『猛病の揺籃』と言う正式名称がある。
『猛病』を引き起こす道具だから『猛病の揺籃』と呼ばれている。
ただし、製造方法が残っている『ナイン』には『猛病』を引き起こす能力がない。
どこかに死蔵されている『ナイン』以外の爆弾にはあったりなかったりする。
製造方法の残っている『ナイン』は、NNタイプと呼ばれる爆裂弾だかららしいが、詳しいことは不明だ。
「NNタイプ……まさか、Non-Nuclearですか?」
それは知らない。なんかそう言う違いがあるらしいとだけ知っている。
なにせ、『ナイン』を含めた爆裂弾の製造方法はエムド・イルの超科学文明によって見出された。
これは遥か古の超科学文明であり、もはやその技術のほとんどがロストテクノロジー。
具体的な年数は不明だが、数百年どころではないほどの過去なのだ。
むしろ『ナイン』の製造方法が残っているだけすごいくらいだ。
そのため『ナイン』の正式名称も、そのタイプや運用方法もすべて謎なのだ。
『猛病の揺籃』と言う名前は、あくまで後世の人間が名付けた名前に過ぎないし。
「……これ、いただいてもいいでしょうか~?」
べつに構わない。大して高価な代物ではないし。
「へ、へぇ……高価な代物ではないんですか……たしかに製造より維持コストの方が高いものではありますが……」
ただ、王都を消し飛ばされるとちょっと困る。
せっかく新築中の図書室も更地になってしまう。
なので、王都での起爆は出来れば控えてもらいたい。
「起爆はしないから大丈夫です~……」
それなら一安心だ。
「さて……諸々の検査は終わりましたし、あなたの信じ難い生命力が事実と言うことも分かりました~。あと、エルグランドなる大陸が激烈なまでにヤバい大陸と言うことも分かりました。毎日のように熱核戦争が起きてるとかどういう大陸か理解に苦しむどころではないですね~」
まぁ、あそこは常識と倫理の墓場なので。
深く考えずに、そう言うところと諦めるのが賢いだろう。
「そうですね……さておき、あなたが本気で振ったら、もはや通常物質では絶対に耐えられないこともわかりました」
そうだろうとは思っていた。
「ですので、私のあなたが手加減をして振る限りにおいては、素材は大体なんでもいいらしいことも分かりました」
めんどうだが、今の今までそうやっていたので問題はないだろう。
あくまで武具に何も特別なエンチャントが欲しくないだけなのだ。
「素材、どうしましょう? パペテロイにしますか? もっといい素材がなくはないんですが……複合装甲素材として開発したものなので、武器に使うにはパペテロイが一番いいんですよね~」
では、そのパペテロイで構わない。
サシャの剣とまったく同じものになるわけだ。
「剣の形状の指定などはありますか~?」
あなたはいつもの腰に吊っていた愛剣を外し、カイラへと渡した。
「普通のロングソードですね~。形状としては後期型のものですか。どちらかと言うと、大型のワイドレイピアに近いような印象もありますね~? ……あら? 解析が通らない? おかしいですね~?」
解析というのがなにかは不明だが、魔法が通じないらしい。
エルグランドの『鑑定』の魔法は問題なく通るはずなのだが。
『解析』なる魔法はそれとは別種なのだろうか。
「この剣って、なにか魔法を避けるとかそう言う効果があったりします~?」
ない。むしろ魔法を増強する効果がある。
他に強いて言うなら、生きているので生き血を啜るくらいだろう。
「……呪いの武器みたいなものをしれっと渡さないでくださいな~」
呪われていない。むしろ祝福されている。
血に飢えているわけではないので、使い手から勝手に啜ったりもしないのに……。
「まぁ、形状の指定は分かりました~……これを模したものにしますね~。納期はサシャちゃんのと同様、1週間後です~」
2本作るのに1週間で済むのだろうか?
「実際のところ、鉱石素材の剣なら1日どころか3時間くらいで造れるんですよね。だからって明日に取りに来るとか言われても困りますからね~」
あまりにも身も蓋もないが、その通りではある。
そのあたりを明かしてもらえるあたり、信じてくれているのだろう。
あなたは、そう言う職人的な技能に対し金を払うことを惜しまないし。
職人側の言う通りに、時間がかかると言われたら素直に待つ。
「……素敵! さすがは私のあなた! そうですよね! 1日で終わるからって1日で終わらせてたら納期が厳しくなりますもんね~!」
勢いよく抱き着いてきたカイラ。
ふにゅんと柔らかな感触が服越しにも伝わってくる。
もちろん、あなたは素直に待つし、金もしっかり払う。
前回は1本で金貨400万枚だったろうか。今回はその倍額となるだろう。
「うふふ、私のあなたのためなら、お安くしておきますよ~? ただ、可愛がってくれないと、お値段の勉強はできかねますね~?」
などと言いながら身を摺り寄せて来るカイラ。
カイラから女の子らしい香りと、手入れ用の油にも似た独特の香り。
無骨な職人に身についた臭いを思わせるそれはカイラ特有のものだ。
あなたはカイラにこのままベッドに行こうと提案した。
シャワーを浴びて身を清めてからベッドに入るのもいい。
だが、そうして身を清めずにベッドに入るのも、濃厚な香りが楽しめる。
そもそも、あなたの故郷であるエルグランドには入浴の習慣が薄い。
そのため、そうした濃密な体臭を感じながらの行為の方が慣れ親しんでいる。
「ええ~……私のあなたって、そう言う臭いフェチみたいなところもあるんですね~? ふふふ、私のあなたがそう言うなら……しょうがないですね~?」
カイラも乗り気らしい。
今まで居た研究室なるスペースから、カイラの私室へと。
元々カイラの私室の隣室で、扉で繋がっている部屋なのだ。
カイラが普段使っているのだろう部屋は整然としている。
生活感はあまり感じられず、あちこちに本が置かれている。
埃っぽさなどはあまり感じないので掃除はしているようだが。
ベッドは綺麗に整えられているが、これまた質素なものだった。
「ふふ、防音室なので、ちょっとくらい騒いでも平気ですよ~」
言いながらカイラが眼鏡を外し、ベッド脇のナイトテーブルへと眼鏡を置く。
あなたはその眼鏡を手に取ると、それをそっとカイラへとかけた。
「あらら?」
眼鏡は外さない方がいいと思う。むしろ外してはいけない。
眼鏡をかけた娘はレアリティが高い。なにせ高価だし。
カイラには眼鏡っ娘という絶大な価値があるのだ。
「も~。フェチなんですから~……でも、眼鏡を外すとキレ散らかす層もいますからね~……」
さすがに入浴時や就寝時はともかくとして。
睦み合うときにつけているくらいは許されるはずだ。
いや、許されてくれないと、あなたが困る。
あなたは眼鏡はつけたままの方が興奮するタイプだった。
「まぁ、私のあなたのためなら……あなたのために、眼鏡をつけたまま……」
カイラがベッドへと身を横たえる。
そして、あなたへと向けて手を伸ばして来る。
「来て……?」
あなたは歓び勇んでカイラへと覆い被さった。
夜までには帰らなければいけないのは惜しい。
だが、それまでたくさん楽しんで、カイラを可愛がりたい。
ヤンデレの扱いは怖いが、それはそれ。
時にはヤンデレの刺激が欲しくなる時もある。
夜までに満足させる、あなたも満足する。
この2つを満たし切る行為を完遂させてみせる。
あなたは決意し、カイラとの戦いへと臨んだ……。
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