4話

 あなたたちはソーラスの町へとやって来た。

 移動は今回は『引き上げ』の魔法で行った。

 以前にやった旅程をもう1度やる意味は薄い。


 この大陸では、テレポートサービスが比較的気軽に利用できる。

 この国の正貨、マフルージャ金貨が必要と言う点は面倒だが。

 価格的にはさしたる負担もなく利用できるサービスだ。

 それを使えば、移動に関してそこまで目くじらを立てなくてもよさそうだった。

 まぁ、移動能力を高めるのに損はないので、今後も徒歩の旅も交えるつもりだが……。



 ソーラスの町へと足を踏み入れてみると、力強い活気を感じた。

 3年前に攻略を断念した時と比べても、町の活気は強く感じられる。

 以前と同じく巨人族の労働者が建築現場で大活躍している姿が目立つ。

 3年前も建築業は賑わっているように思えたが、今も変わらないようだ。

 その賑わいの成果もあってか、街並みが一変している。

 どころか、町の規模自体が3年前に比べて大きくなっているようにも思う。

 まぁ、あなたはちょくちょくこの町に来ていたので、そこまでの驚きはないのだが。


「3年来なかった間に、随分と様変わりしたのね」


「ここって、以前に歩いた通り……ですよね? 3年前なのでうろ覚えですけど、ぜんぜん面影が……」


「5年前と3年前でも印象が全然違いましたが、本当に発展してるんですね……」


 ソーラスは今が最盛期なのかもしれない。

 町と言うのは、栄える時は一挙に栄えるものだ。

 まぁ、そうした町と言うのは寂れる時も一気に行くが……。


「とりあえず、宿を取るところからかしら」


 その点はレインに任せてもいいだろうか。

 あなたはあなたでちょっとやりたいことがある。


「いいけれど。なにするのよ?」


 以前、サシャの剣を注文したカイラ。

 彼女にサシャの剣を再注文しようと思う。


 あまりいい剣を持たせるのはよくないのだが。

 以前の剣と同じものを、今の体格に合わせるくらいはいいだろう。

 アダマンタイトで出来た長剣と言うだけでひと財産ではあるが。

 魔法もなにもかかっていない、という意味では手頃だろう。


「ああ、なるほど。たしかに今のサシャには短いものね……注文してすぐにできるものでもないし、妥当ね」


「いい剣なんですけど、ちょっとリーチ不足は感じちゃいますね……」


 以前、サシャの身長は145センチだった。

 それがいまや165センチまで伸びた。20センチの伸びだ。

 剣は腕と同じ長さに合わせるのが基本だ。

 およそ10センチほど長い剣に新調するべきと言うことになる。


「たしか、以前も1週間で出来上がりましたよね。ちょうどいいかもしれないですね」


 その通りだ。実を言うと、先月の時点でアポイントメントは取ってある。

 そこで注文してもよかったのだが、サシャの採寸が必要とのことでこの時を待っていたわけだ。

 ちなみにあなたも同じ素材で剣を頼もうと思っている。

 ほどよく手加減するなら装備の質を落とすのが一番手っ取り早い。


「わかったわ。宿はこっちで取っておくわね。迷宮に挑むわけでもないし、連絡は魔法で取るわ」


「私もレインさんといっしょに行きますね。以前行った、公衆浴場に近い宿がいいですよね」


「ああ、そうね。あそこはよかったものね。また行きたいわ」


 そんな会話をしながら宿を取りに行った2人を見送る。

 あなたはサシャと共にカイラの家へと向かう。

 胃の中に鉛を押し込まれたような感覚と、背筋が騒ぐような妙な興奮が奔る。

 まったく、ヤンデレ少女の相手は心臓とか性癖に悪い。


 アポイントメントを取った理由は、カイラが確実にいる時間を抑えるためでもあるが。

 同時に、サシャを連れて行っても自殺し出さないための予防線でもあった……。




 ソーラスの町、その中心部に近い、一等街区。

 貴族や有力冒険者の拠点が立ち並ぶ高級住宅街。

 そこに建つ白とピンクを基調としたやたらと少女趣味な屋敷がカイラの自宅だ。

 立派な豪邸なのは間違いないが、住むのにやや勇気がいるような外装をしている。

 以前はまだしも好意的な反応だったサシャも、今回はげんなりとしている。


「ちょっと、子供っぽすぎますよね……住むのは恥ずかしいです……」


 最近、サシャはパステルカラーの下着を好まなくなった。

 また、ストライプ柄の下着も子供っぽく感じるとのこと。

 シックな黒の下着や、やや責めたセクシーな下着が最近の好みのようだ。

 サシャの成長が感じられ、うれしいやら寂しいやら滾るやらな気持ちになる。


「わ、私の下着のことはどうでもいいんですよ。い、いきましょう」


 そうした大人っぽい下着を使っているのも、まだちょっと照れがある。

 今まさに大人になろうとしている少女の味わいはたまらない。

 あなたはサシャの成長を感じながら、ドアノッカーを叩いた。


「は~い。どなたですか~?」


 即座に返事が返って来た。怖い。

 もしかしなくても、ドアの前で待っていたのだろうか?

 なんだろう、そのヤンデレ仕草をやめてもらってもいいだろうか?


「なんだか驚いているみたいですね~。出入口周辺は占術で監視をしているので、ノッカーを使う前から気付いていただけですよ~」


 なるほど、そう言うことであればまだ……。

 屋敷を見上げて、サシャとちょっとした会話をしていたので1分くらいは経っている。

 それくらいあれば、場所にもよるが居室からここまでくるのも可能だろう。


「お久しぶりです~。サシャちゃんも、お久しぶりです~。大きくなりましたね~」


「お久しぶりです、カイラさん。えっと……カイラさんはお変わりなく……?」


「うふふ~」


 くすくすと笑うカイラは非常にかわいらしく、淑やかだ。

 元から年齢不詳だが、3年前と外見がまったく変わっていない。

 しかし、身の振り方は違う。ここ数年でカイラはメキメキと女の子らしくなっている。

 勉学に明け暮れていただろう青春を取り戻すかのような成長ぶりだ。


 出会った当初も可愛かったが、野暮ったいところもあった。

 大学に入るための猛勉強に、卒業するための猛勉強。

 女の子らしい身のこなしを身に着ける時間すら勉強に充てていたのだろう。

 あなたと出会ったことで、それを取り戻すように女の子らしくなった……メチャメチャ興奮する。

 自分のために女の子になった女の子を、女にする……そう思うと脳が焼け付くような興奮を感じる。


「本日はサシャちゃんの剣の再注文とのことでしたね~。まずは測定ですね~」


「はい、よろしくお願いします」


 もちろんあなたも同席する。

 屋敷へと迎え入れられ、奥まった部屋へと通される。

 屋敷の中では少しばかりの喧騒を感じる。

 どこかの部屋で、複数人の少女たちが笑い合う声がする。


 この屋敷では、カイラの所属する冒険者チームの面々も暮らしている。

 チームで購入した家と言うわけではなく。

 カイラが部屋を有料で貸し出しているらしい。

 実質的に、『世界樹の王エトラガーモ・タルリス・レム』のチームハウスになってはいるが。


「では、さっそく測らせていただきますね~」


「おねがいします」


 カイラが巻き尺を用いてサシャの全身を測定していく。

 粘度型を握らせて、自然なグリップポジションのチェックをしたり。

 利き目や利き足の確認などの細かなチェックも行っていく。

 かなり細かい測定だが、以前のデータと比べているのか手早くチェックは進んでいる。


「以前から順当に成長した感じですね~。素材に関しても、以前と同じくパペテロイでしたよね~?」


 パペテロイと言うのは、サシャの剣に使われた合金の名だ。

 アダマンタイトとミスリルをどうにかして合金にしたらしい。

 それを聞いてから何度か試したが、どうやって混ぜるのかあなたにも分からない。

 少なくとも、現時点ではカイラにしか作れない高性能金属だ。


 お値段がメチャクチャに高いが、性能に関しては文句なしだ。

 アダマンタイトの強度と切れ味、ミスリルの魔力伝達能力、そして対非実体能力を兼ね備えている。

 武器としての頑健さも実にすばらしく、3年近く使い続けて、最低限の手入れだけで問題なく使えている。

 どころか、研ぎ直しすらしていないのに切れ味も未だ維持しているくらいだ。


「大体問題ないと思います~。それから、あなたの剣の注文もでしたね~」


 その通り。こちらに関しても事前に通達済みだったはずだ。


「はい、覚えておりますよ~。まずは身体測定……なのですが~」


 なのですが?


「あなたの身体能力がちょーっと異次元過ぎますので~……パペテロイでも保たないかなーって……」


 そこまで本気で振らないから大丈夫。

 今回の冒険に関しては速度を標準速度で固定するつもりなのだ。

 無茶苦茶な速度で振らないし、無茶苦茶なパワーでも振らない。

 だから壊れる心配はまずないのだが……。


「そう言う妥協もありですが~、もっと高性能な合金もあるんですよ~? その辺り含めて試験をしたいので、少しお時間いただいてもいいですか~?」


 少しとはどれくらいだろうか?


「まぁ、ザックリと6時間ほどですね~。昼間だと不都合が多いので、できれば夜間がいいのですけど~。ダメでしょうか~?」


 ダメではない。だが、即日でないとダメだろうか?

 さすがに今日の今日で留守にするのはまずい。


「今日じゃないとダメというわけではありませんが~、試験が遅れるほど、自然と納期も遅れます~」


 それはちょっと困る……いや、困るだろうか?

 手加減のために剣を変えたいだけなのだ。

 べつに普段の剣でも構わないし、各種のイモータル・レリックでもいい。

 あくまでそれで無茶苦茶しない限りはだが。


 最悪、徒手空拳でもなんとかなると言えばなるのだ。

 今回のあなたは戦闘の矢面に立つつもりはないので。

 となると、今回の迷宮探索中に間に合えばそれでいい。

 冒険開始までに間に合わせる必要はない。


「ご主人様。ギルドとの手続きはフィリアさんがいれば出来ますし、剣の注文は早めに済ませた方がいいですよ」


 考え込んでいたところ、サシャにそう背中を押された。

 そう言われてしまうと、カイラの誘いには頷きたい。

 剣は可能な限り早めに手に入れてしまいたい。


 では申し訳ないのだがレインとフィリアにはよろしく言ってもらってもいいだろうか?

 サシャにそのように言うと、我が意を得たりと頷いた。


「はい。帰りは夜になると伝えておきますね」


 そうサシャが笑って言い、あなたは苦笑した。

 なんとなくカイラとの関係には勘づいているのだろう。

 泊りは許さん、夜までには帰ってこい。そう釘を刺されてしまった。


 そう言われてしまった以上はそうするしかないだろう。

 あなたは可能な限り早く戻ると答え、サシャを送り出した。


「では、カイラさん。ありがとうございました。よい剣を頼みます」


「はい~。おまかせくださいな~」


「それでは、私はこれで」


 サシャを2人で見送ると、カイラがあなたへと抱き着いてきた。

 そして、奪うような勢いで深く口づけをして来た。

 貪るような力強さのキスは乱暴だが、どこか心地よい。

 カイラがあなたのことを心底から求めているような。

 そんな肯定感を覚えさせられるような荒々しさに満ちている。


「私のあなた……しばらくこちらにいるんですよね?」


 しばらくはソーラスを拠点に冒険をすることになるだろう。

 具体的な年数はともかく、かなり長くここに居ると思われる。

 少なくとも、カイラがソーラスを攻略し切れていない。

 それを思えば一筋縄ではいかないような迷宮なのはたしかだ。


 カイラもすべての実力を発揮して攻略できるわけではないのだろうが。

 少なくとも『世界樹の王エトラガーモ・タルリス・レム』の総合力は『EBTG』より上だ。

 そもそも人数的に『EBTG』はバランスが悪いのもある。


「それじゃあ、これからは度々遊べるんですね~?」


 その通りだ。

 まぁ、もちろん、剣についてはちゃんとして欲しいが……。


「ふふ、ちゃんとやりますよ~? 私は仕事は真面目にこなすタイプなんです~」


 それなら一安心だ。

 さぁ、まずはなにをすればいいのだろう?


「まずは普通の身体測定と、脳の運動野の測定ですね~。それから肺活量や神経伝達速度の測定と~……」


 あれっ!? 思った以上に真面目な測定が始まろうとしてる!?

 あなたは内心でそう思ったものの、口には出さなかった。

 てっきりエロいことが始まるとばかり思っていたのに……。


「ザックリ2時間ほどかけて測定して、それから使用する金属材料の選定をしましょうね~」


 まぁ、剣を真面目に作ってくれることについて文句を言うのもお門違いだろう。

 あなたは内心でがっくりしつつも、カイラの提案に頷いた。


「それが終わったら……私の身体測定なんかもしてみたくありませんか~?」


 最高。それはぜひやりたい。

 あなたは身体測定が大好きだ。

 巻き尺で少女の胸回りを測る興奮と言ったら……。


「ふふ、私のあなた……夜まで、2人で色々と楽しみましょうね?」


 あなたはコクコクと頷いた。

 カイラのフェイントはなかなか素敵だった。

 次はあなたの実直なテクで翻弄しようではないか。


 そのためにはまず、真面目に身体測定をこなさなくては。

 あなたはカイラの求める通り、身体測定を始めた……。

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