6話

 あなたはカイラと密やかに、そして熱く愛し合った。

 カイラの居宅は仲間たちと共同生活を送る場でもある。

 そして『世界樹の王』のメンバーは御在宅だった。


 カイラの仲間たちにバレないよう、密やかに愛し合う。

 たとえ防音加工とやらがされていても、近付かれればバレる。

 この、こっそりやるという行為こそが最高のスパイスとなる。


 秘せずにいれば花ならぬものも、秘すれば花となる。

 そのような意味の言葉をかつて舞台役者が残したと言うが。

 きっとそれはこういう意味なのだ。

 オープンにしても構わないカイラとの逢瀬も秘することでより興奮すると!


 灼けるほどに熱い興奮を味わいながらの行為は最高だった。

 そして、一通り終わって、あなたは帰るべく身支度を整えていた。

 外では真っ赤に燃える夕焼けがソーラスの町を照らしている。

 まだ夜ではないが、夜になるのも時間の問題だった。


「私のあなた。やっぱり、行っちゃうんですね」


 ベッドの上で薄布1枚だけを纏ったカイラがそう言う。

 口惜し気に、どこか諦めの滲んだような悲し気な声だった。


「私がどんなに求めても、私のところには留まってくれない人……別の日には、私以外の女を抱いてるんですよね……」


 正直に答えていい問いなのだろうかこれ……。

 あなたは内心でビクビクしながらも、カイラの問いに頷いた。


「私のあなた。あなたのせいで、寝取られが性癖になりそうなんですけど、どうしてくれるんですか?」


 そんなこと言われても。

 あなたはカイラの突然の告白に戸惑った。

 寝取られもなにも最初からそう言うものなのだが。


 いや、自分のものにしたい存在が、なってくれない。

 どころか、他の存在にいいようにされているというのは脳破壊案件だろうが。

 だからと言って、これを寝取られて評していいのだろうか?


「うぅ……寝取られ癖のあるヤンデレ女……? 意味の分からない存在になって来ました……ヤンデレなら寝取られは即殺アクションになるような……私は、ヤンデレでは、ない……?」


 言われてみるとそんな気もしなくもない。

 考えてみると、カイラはあなたに対して1番ダメージを入れられる方法として自殺を提示した。

 そこからすると、カイラはもしやヤンデレではなく、自分を大切にしないだけのサディスト……?


 これが自殺を手札にして、あなたの気を惹くために言っているなら違うのだろう。

 だが、カイラはシャレ抜きで自殺する気であり、それはほぼ確実だろう。

 あなたにダメージを入れられるなら自分の損に拘らない。そう言うことだと思われる。

 あなたはカイラと言う深みがありすぎて泥沼みたいな女の存在に戸惑った。

 というか、カイラは自分がヤンデレと言う自覚はあったのか……あなたは内心で驚いた。


「……私の性癖が悪化しないうちに、また来てくださいね?」


 これ以上カイラの性癖がこじれても困るので、あなたは頷いた。


 冒険を始める前に、あなたはヤリ納めをする。

 今回はヤリ納め期間を1週間取ることはできなさそうだが。

 ソーラスの町での冒険は度々帰還することになるのは間違いない。

 それほど長い禁欲期間にはならないので、なんとかなると思う。たぶん。


 だが、準備期間の最後の1日はたっぷりと楽しみたい。

 その日は、カイラといっしょに激しく愛し合いたいのだが……どうだろう?


「1日中、ずっと……私、壊れちゃいます~……でも、私のあなたに壊されるなら、本望です……」


 そんな健気なことを言って、最後にカイラがキスをねだって来た。

 あなたはそれに快く応じ、深い口づけを交わした。


「ん……1週間後、空けておきますね? ちゃんと、来てくださいね?」


 あなたは力強く頷いた。




 ソーラスの町を駆け、あなたは道を急いだ。

 レインからの連絡は来ているので向かう先は分かる。

 途中、ポン引きや私娼の客引きが目に入ったが、泣く泣く諦める。


 そして、あなたが辿り着いたのは『水晶の輝き』と言う施設だった。

 ここは宿ではなく、総合アミューズメントパークなる施設だ。

 一般的な分類で言うと公衆浴場に当たる施設なのだが、その規模は大きい。


 大規模な食堂施設と、遊行施設。

 男女別に分けられた大きな浴場。

 演奏や歌劇がたびたび催されるステージ。

 そうした、1日中遊んで楽しめるような施設だ。


 料金を支払って入場し、食堂へと入る。

 あなたはサシャと生命力を繋いでいるので、大雑把に居場所がわかる。

 そちらへと向かうと、いつものメンバーの3人が揃って食事をしていた。


「あ、ご主人様。おかえりなさい」


「お先にいただいてます」


「遅かったわね」


 なかなか検査が大変だったのだ。

 腕を万力で挟まれたり、絞首台にかけられたり。

 常人だったら死んでるような過激な検査だった。


「それって……あなた、カイラって子に恨まれてるんじゃないの……?」


 そうかな……そうかも……。

 たしかに恨まれている可能性は否めなかった。

 カイラの道を踏み外させたのはあなただし。

 その性癖をグンニャリ捻じ曲げたのもたしかだ。

 人にもよるだろうが、恨みに思ってもおかしくはない。


「心当たりがありそうな顔してるわね……あの、私たちの方にまで持ち込まないでちょうだいね……? 刺されたくないわ……」


 レインの言うこともごもっともなので、あなたは頷いた。

 まぁ、カイラが万一危害を加えるにしても、自分にだ。

 あなたにと言う意味ではなく、カイラ自身にと言う意味で。


 カイラはあなたの性格をかなり正確に見切っている。

 あなたの周囲の女を殺すより、自身が自殺した方が効くと分かっているのだろう。

 なのでレインの心配は割と的外れなのだが、特に指摘しなくてもいいだろう。


 まぁ、カイラがレインに危害を加えないにしても。

 あなたの目の前で自殺を敢行する際、レインもいる時を選びそうな気はする。

 レインの前で笑いながら「あなたのせいですよ!」とか言ってからやらかすだろう。

 普通の人間は目の前で人が自殺し出したら、かなり心理にダメージが入る。

 あなたもカイラが自殺すれば、壮絶なダメージが入るし、相当悔やむだろう。


「まぁ、とりあえず座りなさいよ。そして飲みなさいよ」


 レインが自分の隣の席をべしべし叩いて示して来る。

 あなたは言われるがままに座り、レインが向けて来た酒瓶を受ける。

 呷ってみると、キツい蒸留酒だった。湖水地方の酒のようだ。


 キツイ酒精の喉を焼く味わいを感じながらも飲み干す。

 コップを置くと、レインがそのまま再度注いできた。

 駆けつけ3杯と言うわけだろうか?


「ちょ、ちょっと、レインさん。飲ませ過ぎですよ。お姉様はまだ何も食べてませんし……」


「ご主人様、あーん。あーんしてください!」


 フィリアがレインを止め、サシャが口へと謎の料理を運んでくれた。

 言われるがままにあーんして受け止めると、ザクッとした食感がした。

 たっぷりの油で揚げ焼きした卵に、葉物野菜を巻いて、香味野菜をかけた料理のようだ。

 サックリとおいしい軽食と言ったところだろうか。なかなか美味だ。


「それで、剣の方はどうなの? 1週間でなんとかなるって?」


 レインの問いにあなたは頷いた。

 あなたの分も、サシャの分も、問題なく揃うらしい。

 目ん玉飛び出るような額は請求されるが。


 パペテロイなる合金は、アダマンタイトの性能とミスリルの性能を併せ持つ。

 非実体への攻撃能力もあるし、エンチャントなどの通りもよいのだろう。

 しかし、よくよく考えたら非実体への攻撃はあなたには必要ない性能だ。

 カイラの作るアダマンタイト製の剣でよかったような気がしてくる。

 アダマンタイトなら1万分の1くらいの値段で済むのだ。まぁ、いまさらだろうか。


「そう。ならよかったわ。こっちは宿は既に取ったわ。それから、フィリアにはギルド関係に顔を出してもらったわ」


「と言っても、この町での探索を行う宣言とギルドの規約に従う宣誓をしただけなんですけどね」


「でも、フィリアさんがいないと、この町の迷宮には入れませんからね……」


 このチーム、『EBTG』のリーダーはあなただ。

 だが、それはあくまで実態であり、名義上のリーダーはフィリアなのだ。

 フィリアが『銀牙』で培った実績と名声を元に迷宮の探索許可を得ているのである。


 あなたが名実共にリーダーのままでやるなら実績を積む必要があった。

 しかし、べつにあなたは名義上だれがリーダーであっても構わない。

 名声はどうでもいいし。あって困りもしないが、なくても困らない。

 なのでフィリアがリーダーなのはそのまま継続となっていた。


「あとは、純粋に冒険の準備を整えるだけで、いけるわね」


「最終調整をするばかりですね。ソーラスの迷宮に合わせて道具類を少し揃えるくらいでひとまずはいけるでしょう」


「表層の大森林は、よほど適当にやってもなんとかなると思いますから、2層からが問題ですね」


「2層もどうにでもなると思いますよ。それより、全員が未知の階層である3層こそが問題だと思います」


「泳ぎは得意な方だけど、それがどこまで通じるかよね……」


 前回はあそこで消耗が重なり、突破できずに攻略を断念した。

 今回はあそこで苦戦するほどやわなパーティーではない。どうにでもなるだろう。

 そして、3層以降の挑戦がどうなるかは、これからだ。


 噂によると、3層は『大瀑布』の名を持ち、水場になっているという。

 そのために水泳の特訓はバッチリ積んだが、どこまで通用するだろうか?

 自分の実力が通用するかどうかわからない迷宮。

 それを思うだけでワクワクしてくる。


 あなたはこれからの冒険を想い、酒杯を再度乾かした。

 じつにうまい酒だった。燃えるような味わいに、あなたは静かに笑った。

 あなたは明日からの英気を養うため、大いに飲むことにした。

 そのあとは風呂に入って身を清め、それから宿でサシャとお楽しみと行きたい。


 先ほどカイラとお楽しみしたばかりだが、それはそれ。

 お楽しみとは1日に何度あってもいいものだ。あなたはそう思っていた。

 あなたはレインに今日は奢るから存分に飲めと言った。


「いいの? じゃあ、存分に飲ませてもらうわ!」


 サシャとフィリアにも、同じように好きなだけ飲み食いするように言った。

 元々、サシャとフィリアの払いはあなた持ちなのだ。


「これからの冒険の成功を祈願して、と言ったところでしょうか。そうですね、たまには私も飲もうかな?」


「じゃあ、私も1杯だけ……」


 あまり酒は好んでいないサシャも、こうした場では飲むこともある。

 あなたたちはそろって乾杯をすると、明日からの冒険の成功を祈った。




 存分に飲んで食べ、それから風呂に入り。

 湯上りに涼みながらちょっとばかりボードゲームを嗜み。

 それからいい気分で『水晶の輝き』を出た。

 あなたにチャタラでボロ負けしたレインは癇癪を起こしていたが。


 レインが取っていた、やや高級な宿にチェックイン。

 レインがフィリアとサシャへと部屋の鍵を渡す。

 今回はそれぞれ個室を取ったらしい。


「入浴もやってるらしいけれど、まぁ、大抵は『水晶の輝き』に行くことになりそうね。ここには寝に戻るみたいな」


 あなたも鍵を渡されるのを待っていたのだが。

 レインが普通に話しを始めた。あなたはレインに抗議をした。

 自分には野宿をしろというのか。レインのベッドで狼藉を働くぞと。


「どうせ使わないくせに……3部屋を4人で使う約束で割引してもらったのよ。あなたは適当に誰かの部屋に転がり込みなさいよ」


 まさかそんな節約をするとは。

 しかし、たしかに部屋を取っても使うかと言うと。

 荷物はどうせ『ポケット』か『四次元ポケット』の中だ。

 たしかに部屋はなくてもいいような気はする。

 しかし、落ち着いて時間を過ごせる部屋がないのは問題な気が。


 まぁ、とりあえず……今晩はサシャの部屋に転がり込もう。

 それでもって、自分で部屋を取るかは明日考えようではないか。

 あなたは明日の自分が解決してくれるさと楽観的に考えることにした。

 とりあえずの目先の快楽に負けただけとも言う。

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