5話

 モモが魔法的に女の子になったり、トモが物理的に女の子にされる予定ができたり。

 そんな具合の事件は起きたものの、日々は慌ただしくも平和に流れている。


 まず2人はあなたの提案と言うか命令通りに文通から始めたらしい。

 モモが返事をくれないからと3通目くらいでやめようとしていたが。

 トモをギロチンにかけながら、返事が来るまでは絶対に書けと命じた。


 誠意を伝えようとしているのに面倒がってどうする。

 いまはとにかく根気よく許しを請うしかないのだ。

 100人以上の女を激怒させ、刺されて来たあなただからこそわかる。


 あなたほど女関係で成功した人間もいないだろうが。

 同時にあなたほど女関係で失敗した人間もいないだろう。

 その果てにいまの女たらしムーヴを可能としているのだ。



 そして次に、モモだが……予想以上の勢いで女子に受け入れられている。

 と言うのもまぁ、あなたがこの学園に3年間巣食っていたことから分かるように。

 この学園において、男女関係のもつれと言うものは、まず起きないのだ。


 つまり浮気された可哀想な子はまずいないのである。

 そのためか、全女子生徒の同情を買ってちやほやされている。

 モモがかなり愛らしい少女と言うのも要素としては大きいだろうか。庇護欲を誘う感じの容姿なのだ。


 あとはまぁ、ハンターズのメンバーとの口さがないやり取りもあるだろう。

 既に女子寮にいたアトリ、リン、キヨ、メアリの4人は生来の女。

 彼女らが自然に受け入れる姿がある種の保障となったわけだ。


 そうして受け入れられたモモだが、それなりに女子寮生活を楽しんでいた。

 元々メス臭い少年だったが、女になってみると下手な女以上に女らしい。

 なにより、生来の女かと言うくらいに振る舞いが自然なのだ。逆に気味が悪い。


 ハンターズの女子組とまったく変わらない。

 そんな振る舞いが出来るのだからすごい。

 まぁ、ハンターズの女子組がかなり男っぽいというか。

 冒険者らしい荒っぽさのある連中だからと言うのもありそうだが。


「堕ちたメスに咲く百合の花~美しき雌娼太の転換~! どうでござるか!」


「淫行娼年の拒むことを知らないオンナのカラダ! どうだ!」


「雑魚どもが! 雌堕ち娼夫のクライミライ~俺、もう男の子にもどれない……~」


「真打登場、ってわけですよ! 淫乱雌娼太、女に堕ちる~発射無制限、イキまくり吹き放題の潮に溺れる~……どうですか!?」


 そのハンターズの女子組……まぁ、女子と言っても、全員20代半ばくらいだが。

 その彼女らが酒を酌み交わしながら変な話をしている。

 学園だからかまだしも常識的な飲み方だが……。


「なんで企画物みてぇなタイトルばっかなんだよ! 衝撃デビュー! 元少年の美少女たくさんエッチします。みたいな感じの方がそれっぽいだろうが!」


 モモがよくわからない反論をする。

 それでいいのだろうか。

 まぁ、いいのだろう。

 しかし、そもそもこれはなんの話なのだろう。


「モモが雌堕ちしてるので、それがエロ本になったらどう言うタイトルか選手権でござる」


 なるほど、かなり最悪な話題である。

 酒飲み話には適切と言えばそうかもしれないが。


「しかし……実際問題、よりを戻すつもりはあるのか?」


「トモちん次第かな」


 などと言いながら酒を呷るモモ。

 まぁ、トモの誠意次第なのはたしかだろう。

 あなたはそう思ったのだが、ハンターズには違ったらしい。

 アトリを筆頭に、リン、キヨ、メアリとため息を吐いた。


「おまえ、実のところそんなに深く考えてないだろ」


「ブチギレしてから3日くらいで頭は冷えたけど、今さら許すのもなーってノリでとりあえず今の状況継続してますね?」


「とりあえずトモちんの反応でも眺めとくか……的なアレだろう」


「早いところ戻れでござる」


 そんな軽いノリだったのか。

 あなたは思わず胡乱な目でモモを見やる。


「いや、キレてたのはマジだよ? フツーに今でも許してないからな? 頭冷えたのはたしかだけど、許してないからな?」


 と思ったら、普通にキレてはいた。

 ちょっと落ち着いただけのようだ。


「なるほど、根に持って事あるごとに引き合いに出してネチネチと責め立てる気だなコイツ」


「トモちんが最大限に反省するまでの待ちの姿勢ですか……」


「あと、あれでござろう。主殿がトモちんのちんちんを調教中でござるから、それの完了待ちではござらん?」


「ああ、なるほど。アルトスレアでのアレみたいになったら困るしな……」


 責め殺しかけたというやつだろうか。

 ちょっと異常に過ぎる話だ。


「マジであれは死ぬ。寝てる間に口で出させて回数を減らす作戦がうまく行ってなかったら、2回目3回目も起きてた可能性あるしな……」


 そんなことしてたのか。

 随分と力業で解決していたものだ。

 もしや、トモの言うこの大陸に来てから減ったというのはそれだろうか。


「そうじゃねえかな。一晩あたり、せめて5回くらいまでに抑えてくれればな……」


 それが出来るようになるまで、あなたが訓練させる。

 もしも出来なかったら呼んで欲しい。すぐに去勢する。


「怖っ……」


 モモが慄いている。

 だが、必要なことだ。

 ちゃんと反省したら回復する。


「あ、治してはくれんのね」


「まぁ、治さないとトモちんまでメスになってしまうでござるから……」


「ハンターズが正真正銘女だけの集団になってしまう!」


 あなたとしては嬉しいくらいだ。

 だが、彼女らには割と問題なのだろう。

 あなたはモモとトモが元通りうまく行くことを願うだけの友情の持ち合わせがあった。


 叶うことなら、モモとトモどちらも女の子にして食べてしまいたい。

 あなたにとって最大限に得な結果だ。

 しかし、そうなったらなったで元鞘に収まりそうな気もする。

 つまりモモとトモが以前とはまた別の性別でカップルになるだろう。

 あなたは2人がイチャつくのを傍から見る羽目になるだろう。

 それはそれで悔しくて楽しそうである。


 あなたは未来がどうあれ、楽しく受け止めてやろうと決意した。




 トモの特訓が続く中、あなたは期間限定のモモ女の子味を堪能している。

 この元少年、やたらと雌だからか、女子力が妙に高い。

 そして、共に過ごすようになって知ったことだが、能力が非常に高い。


 ハンターズのメンバーに出来ることは、モモにもできる。


 シンプルに表現するとこうなるのだが、これが真実なのである。

 リンやキヨよりも料理は上手いし、裁縫などもずっとうまいのだ。


 家事だけではなく、戦闘技能もそうなのである。

 アトリは片手剣以外は基本しか使えない。

 が、モモは他のメンバーの武器も使えるらしい。

 そして、装備品類の工夫による差を除けば、他のメンバーより上手いか、同じくらい。

 なんでこんなにハイスペックなのだろうか、この元少年。


 そして、すごい世話焼き気質だということも知った。

 一緒に部屋にいると、なにかと世話を焼いてくれるのだ。

 しかもこれが優しくて甘やかしてくれて、もうたまらないというか。

 膝枕をねだったらしてくれるし、あーんをねだってもやってくれる。


 ベッドに誘うと、恥ずかしがりつつも頷いてくれる。

 この時の恥じらい方が非常に初々しくてたまらない……!

 間違っても初心な少女ではないのに、そう思わせるほどの恥じらい……!

 そして、直接的に体を重ねず、手を握って添い寝だけした時の安心したような微笑み方……!

 手と手を握り合うだけで心を通い合わせられる。

 そんな同性愛の最上の美しさとも言われる交歓だ。


 まったく、モモと言う少年の味わうほどに分かる奥深さ……。

 これを独り占めしていたとは、まったくずるいものだ。

 そうだろう? と、あなたは対面のトモに冗談交じりで問いかけた。


「ギギギギギ……モモくん……モモくん……ギ、ギギギ……」


 トモがうめき声を上げている。

 あなたはこんな調子でトモに自慢話をしまくっている。

 毎回やってたら、だんだん人格に異変を来してる気もする。

 まぁ、それで励みになるなら、いいのではないか。


「僕だって……僕だって……! がんばってる……! でも、自分でやってもあんまり気持ちよくなくて我慢が効かないんだ……出してる小瓶もいっぱいになっちゃったし」


 そう言って白濁した液体がなみなみと満たされた瓶を見せて来るトモ。

 あなたは気にしないからいいが、これは相当えぐいセクハラなのでは……?

 そもそも貯める意味は? そして、ここに持ってきて見せた意味は?


 しかし、1リットルは入りそうな瓶が満杯になるとは。

 まだ禁欲訓練を初めて10日しか経っていないのだが……。


 まぁ、頑張っているのはわかる。

 男を引っかけずに自慰で耐えようとしている。

 自慰はよい。パートナーとのプレイにも使える。


 パートナーを見ながらの自慰と言うわけだ。

 パートナーは見られるだけ。体に負担がない。

 なので、しょうがないにゃあ……と承認を得やすいわけだ。


「……モモくんのほうは、どう? な、なにか変わったこと……あった? 僕のことなにか……」


 昨日、モモがクッキーを焼いてくれた。

 サクサクで超おいしかった。


「僕にも焼いてくれたことないのに……!?」


 しかも、可愛いエプロン姿を見せてくれた。

 手でハートマークを作っての、おいしくなぁれの呪文は最高に可愛かった。


「おいしくなぁれの呪文! おいしくなぁれ! か、かわゆすぎる……! 僕も見たい!」


 でも見せてあげなぁ~い! いまのモモは自分のものでぇ~す!

 そんな全開の煽り口調であなたはトモを煽った。


「ウギィーッ! モモくんは僕のだ! 僕のものだ!」


 地団太を踏んで悔しがるトモ。面白い。

 ここまで懸想するなら浮気しなければいいのに。

 そうは思ったが、口には出さない。

 おまえが言うなと突っ込まれたら反論できない。




 そんな感じのことをモモに報告したところ、神妙な顔で聞いている。


「そーか……頑張ってはいるんだな」


 相当頑張っている。若さ溢れるあの年ごろであの禁欲ぶりは素晴らしい。

 まぁ、自慰に制限がないのを完全な禁欲とは言えないと思うが……。


「……おっけー。分かった。次、俺もいっしょに行くわ」


 なにか用事があるのだろうか。

 それとも、よりを戻すのだろうか?


「トモちん次第かな。まぁ、すぐ男に戻るわけじゃないし……男に戻るにしてもしばらく後だよ」


 そうかとあなたは頷いた。

 しばらく後と言うのは安心できるが。

 そう言うということは、戻る気はあるということ。

 まぁ、惜しいが……それはしかたない。

 どうせ、戻るとなったらあなたでは止められない。

 以前、複数本の『ミラクルウィッシュ』のワンドを譲っている。

 あなたから買い上げなくとも、自分の判断で戻ることができるのだ。


「ああ、トモちんの答え次第ではあんたに骨を折ってもらうことになるけど、いいかな」


 あなたはお安い御用だと頷いた。

 どういう用事かにもよるが、モモの頼みなら頑張ろうではないか。


「頼もしいよ。じゃ、次の時は俺も頼むな」


 あなたは快く頷いた。


 そうした会話があった翌日。

 毎度のごとくの報告にモモの姿がある。

 モモの姿を認めたトモの眼に光が宿る。


「も、モモくん……!」


「精液臭……俺の半径5メートル以内に近寄らないでもらえますか、トモさん」


「アッ……! アッ、アッ……! わぁ…………ぁ……」


 顔を見るなり、汚いものを見るかのような目での暴言。

 そして、他人行儀な口調で距離を取る仕草。

 実にすばらしい心理攻撃だ。これはつらい。

 トモはクリティカルヒットを喰らったらしく、胸を抑えて泣いている。


「はぁー……今日は、ちょっとした交換条件を持ってきたんですけどね」


「う、うん……な、なにかな? モモくんの言うことならなんでも……」


「馴れ馴れしいんですけど。モモロウさん……ですよね?」


「アッ……!! ウワ、ワァァ……!」


 愛称の使用も否定され、トモの瞳から涙がこぼれる。

 モモはそんな様子も無視して、テーブルの上にあるものを置く。

 それは、指揮棒のように細く、短い杖だ。

 立ち上るのは魔法のエッセンス。

 見る者が見れば、ワンドだということがわかる。


 長さは約20センチ、太さは1センチででやや太め。

 こうした素性はワンドの標準と言ってもいいだろう。

 だが、美しく磨き抜かれたワンドの基材はなんと水晶製。

 それに飽き足らず、全体に宝石が飾られ、先端には大粒のダイヤモンド。

 それ単体で美術品として成立するほどの品だ。

 そして封じ込まれた魔法は『ミラクルウィッシュ』。

 現実を捻じ曲げ、神の奇跡を引き起こす最上級のマジックアイテムのひとつだった。


「えっと……『ミラクルウィッシュ』のワンド……だよね? じゃなくて、ですよね?」


「そう、性転換に使えるワンドです。お楽しみ棒を生やしたり無くしたり……やらしい魔法だなぁ」


「なんて?」


「よって、ハンターズ首脳部としては、直ちにこれを用いて性転換することを提案いたします」


「えっ?」


「わかります? 使えって言ってるんです。ね?」


「でも、僕が女の子になっちゃうのは……さ、さすがに……僕これでも長男だし……い、いつかは子供作らないといけないだろうし……」


「なにが子作りだァ!? そんなもんお姉さんに任せて諦めろよコノヤロウ!」


 突如として激高するモモ。

 それに怯み、涙目になるトモ。


「でも、僕だって子供欲しいし……養子になるかもしれないけど、モモくんといっしょに子供も育てたいし……」


「なんだよコイツ、ノリ悪いなぁ、オイ。萎えるわ……おっ、いいこと思いついた」


「な、なに……?」


「あんた、ファイヤートングを使え。30回転もやったら、コイツの玉袋は体からおさらばだ!」


「えええええええ!?」


 なんと物理的に性転換させようとは。

 モモもすごいことを提案しに来たものである。


「ま、待って! 待ってよ! ほんとにその、怒らせたことは謝るから! その、物理的な去勢だけは! 去勢だけは!」


「ゴチャゴチャうるせー!」


「ギャアアアアァ――ッ!」


 突然モモが剣を抜いて振り抜いた。

 トモが悲鳴を上げながらものけぞって躱す。


「いいか。おまえの選択肢は、性転換するかしないかだ。しないなら、このまま頑張ることだ」


「え……し、したら……?」


「少なくとも前ほど酷いことにはなんねぇだろ。浮気もマシになるだろうし……だから、より戻してもいいぞ」


「精転換したいでぇぇぇぇぇす!」


 一瞬の躊躇もなくトモがワンドを引っ掴み、女の子になることを願った。

 そして、瞬く間に女の子へと変わって行くトモ。

 察してはいたが、外見はほとんど変わらない。

 胸が膨らみ、くびれが出来たくらいだ。


「な、なったよ、モモくん!」


「そうかそうか。じゃあ、さっそく女の子同士で仲直りックスしちゃう?」


「はじめてだから、優しくしてね……」


「大丈夫! 今回はプロも招待するからな」


「え? プロ?」


 そこでモモがあなたへと目線を向ける。

 まさかの展開に、あなたも自分を指差して尋ね返す。


「あんたのスゴ技テクで、こいつをあへあへのうはうはにしてくれるか?」


 あへあへのうはうはとは。


「俺、前にコイツにイキ殺されかけたことあるんだよな」


 それは以前にも聞いた。


「同じ目に遭わせてやってくれ。そしたら俺の溜飲も下がるかも」


 そいつは素敵だ。面白くなってきた。

 あへあへのうはうはにして、ガチ天国に行かせると。


「そう言うことだな」


「あ、の……? ま、待って? ぼ、ぼく、モモくんとだと思ってたんだけど……」


「俺もいる」


「えっ?」


「3人で仲良くやろうなぁ! 前後から死ぬほど責めてやるからなァ! バカになって言葉が喋れなくなるまでイカせまくってやらぁよ!」


「ウワーッ! 未だに思ってたよりもメチャメチャ怒ってるー!」


 まさかこんな面白いことになるとは。

 あなたは思わずモモに『ミラクルウィッシュ』のワンドを3つ渡した。


「え? ああ、そう言えば女紹介したらって約束だったな……いや、2つ多くない?」


 シチュエーションが美味しいのでサービスだ。


「なるほど。もらっとく。じゃ、行こうか、トモちん」


「待って! 待ってやだ! はじめてが3Pは変な性癖に目覚める!」


「女装趣味のあるホモ野郎が変な性癖に目覚めるもクソもあるか! これ以上難儀なのに覚醒したら別れるからな!」


「それも嫌ぁ!」


「男は度胸だからなんでも試してみるものだって言うだろうが!」


「初耳だし、今は女の子だよ!」


「こまけぇこたぁいいんだよ!」


「って言うか僕が死んだらどうするの!? 今回、神官の子いないよ!?」


 あなたは蘇生魔法なら手持ちがあると答えた。

 そもそも、『ミラクルウィッシュ』のワンドがあればどうにでもなる。


「逃げ道が潰されていく……!」


「はー……まぁ、どうしても嫌って言うならいいけど、より戻す話はナシな」


「ウグッ……」


「そう言う感じでさ、トモちんはしたくないらしいから……俺たちだけでやろーな?」


 そう言ってあなたの腕に絡みついて来るモモ。

 小ぶりな胸を押し付けて来る感触が心地よくてたまらない。


「ま、待ってぇ……それは、それだけは……あ、あう、あぅううう……! 僕の前で、モモくんとっちゃ、やだぁ……」


 べしょべしょ泣きながら懇願するトモ。

 あなたはその肩に手を置き、どうしたらいいかわかるね? とだけ言った。


「わ、わかりました……いきます……2人にイキ殺されます……身をもって、罪を償います……」


「うん、よくできました。じゃあ、そう言うわけだから……部屋にいこうぜ?」


 まったく、こんな展開になるとは。

 今夜は眠っていられないではないか。

 あなたはウキウキ気分で部屋へと向かうのだった。

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