冒険者学園3年目 卒業試験編

1話

 冒険者学園の3年目が幕開け、あなたたちにとって最後の年がやって来た。

 泣いても笑っても、これが学園生活最後の年……留年したら話はべつだが、それはノーカンと言うことで。

 あなたたちは最高学年生となり、机上で学ぶべきことの多くを終えた。

 学園3年目の授業の多くが実戦授業であり、実際に冒険をする学外実習で学びを得る。


 そして、大詰めとなる卒業試験。

 既存の冒険者チームの臨時メンバーとして参加。

 そのチームの面々に試験管となってもらい、採点を受ける。


 そのチームにおける自分の役割を見つけること。

 その上でそれを過不足なくこなすこと。

 また、コミュニケーションを構築する能力。


 冒険者が冒険をするにあたって、実際に求められる能力だ。

 もちろん、固定メンバーを集めるのも冒険者の力量ではあるのだが。

 固定メンバーのチームだけでやって行くのが冒険者ではないのだ。


 まぁ、卒業試験まではまだまだ日がある。

 それに、あなたは今まで何度もやって来たことなので不安もない。

 例年通り、他の卒業生たちのサポートを重点的にやってやりたいところだった。




「うう……センパイがいなくなるなんて……! 私のご主人様でペットのセンパイがいなくなるなんて……! う、ううっ……!」


 嘆き悲しんでいるのは、あなたの後継者であるレナイア・アルカソニア・イナシル・バトリー。

 あまりにも性に卑しいコウハイちゃんことレナイアは、今年度で卒業のあなたとの別れを嘆いていた。

 あと丸1年もあるのだが、レナイアにとっては想像したくない未来らしく、いまから嘆いている。


「センパイが卒業したら、誰が男どもを女の子にしてくれるんですか!? 私は女しか好きじゃないんですよ!」


 あなたも女しか好きではない。

 べつに男が嫌いなわけではないが。

 かと言って男が好きと言うわけでもない。

 レナイアもたぶんほぼ同じスタンスだ。

 若干、あなたよりも男が嫌いかなと言ったところ。


「そのセンパイだったら分かるでしょう! この学園はこれから男子が増える一方なんですよ!」


 まぁ、それはそうだろう。

 この学園は共学なのだし。


「男が増えたら、これから女の子に粉かける連中が増えるじゃないですか! 私はチンチン生えてる女の子はいけても、男は無理なんです!」


 突然の性癖の開示をするレナイア。少し混乱しているようだ。

 あなたはレナイアを安心させるように肩を撫でた。

 そして、今年の1年に頼れる男子生徒がいると告げた。


「頼れる男子生徒……ですか? センパイのご友人の男子生徒がいるとは聞いていましたが」


 そう、ゲイのカップルであるモモロウとトモがいるのだ。

 トモは聞くところによれば、あなたの男バージョンである。

 これからの新入生の男子生徒はトモが食べ放題するはず。

 すると、これからは賢明なる男女分断がレナイアとトモによって行われる。

 サーン・ランド冒険者学園は、男の人は男の人同士で、女の子は女の子同士で恋愛をする楽園となる。


「そんな逸材が……!? 実家経由でサーン・ランドの男を片っ端から掘るように依頼出します!」


 とんでもない依頼である。まぁ、いいことではないだろうか。

 モモもたまには尻を休めたい日もあるだろう。

 トモだって、たまには別の男を食べたいこともあろう。


 って言うか、既にトモの周りでナヨナヨしている男が数名いる。

 既にトモは何人か食った後なのだと思われた。

 その対面で、不機嫌オーラ全開のモモがいるあたり、トモモモ間で合意が取れているかは怪しいところがあるが。


「まったく、手の早いホモ野郎ですね。なかなか頼れるではありませんか。私も新入生の女の子を漁らないと!」


 などとウキウキするレナイア。

 あなたは既に新入生は全員美味しくいただいた。

 男子生徒を女子生徒にして食うのは、もう少し様子見だろう。

 同性愛に目覚めた男子生徒を女子生徒にしては可哀想だ。


「さすがはセンパイ……手が速い。あ、そうだった。思い出した思い出した」


 あなたの恐ろしく速い漁色を褒めるレナイアが突如として何かを思い出した。

 あなたは何事かと尋ねると、美麗な装飾の封筒を差し出された。

 受けとってみると封筒にはバトリー家の紋章が記されていた。正式な書状と言うことになる。


「今年の夏季休暇は私の家に遊びに来てくださいな」


 なるほど、招待状と言うわけだ。

 どれくらいの滞在かは分からないが、ぜひともお呼ばれされようではないか。

 遊びに来させる以上、そう言うことと思ってもいいのだろう?

 そのように尋ねかけると、レナイアは満面の笑みで頷いた。


「ええ。メイドも領民もOKですよ! もし拒否って来る女がいたら、夫とか子供を殺すぞと脅しつけちゃっていいんで」


 突然の貴族仕草にあなたは思わず苦笑する。

 あなたは基本的には合意の上での行為が好きなのだ。

 おたがいに心置きなく楽しめるのがいちばんだ。


「ああ、そう言う教派なんですね。まぁ、それもありですね! 夜はメイド全員集めて、みんなで愛し合いましょう!」


 貴族の家でメイド食べ放題、貴族令嬢を添えて……なんて最高のパーティーなのか。

 エルグランドではついぞお目にかかることのできなかったパーティーだ。

 まさかこの大陸でお目にかかることができるとは……。


「単体でやるのが楽しいプレイもあるんですけどね! こう、新入りのメイドを、大人しくしないとクビにするしおまえの両親も不敬罪でひっ捕らえるぞって脅しつけてベッドに押し倒すのが最高に楽しいんですよ! センパイもやるといいですよ!」


 それはプレイじゃなくて、ふつうにガチンコの脅しではなかろうか。

 あなたの場合、そんな権利持ってないでしょうと笑い飛ばされるだろうが。

 レナイアがやったら笑えないし、冗談では済まされない類のことだと思われる。


「? 冗談じゃないですもん。拒否ったら本当にやりますよ。土下座して許しを請うてくるメイドを押し倒すのも最高に気持ちいいんですよ! そのあと再雇用して、夜ごとに呼び出してメチャメチャに犯しまくるとこれがもう……! ぐふっ、ぐふふふ……!」


 なるほど、これは卑しいし最悪である。

 これに比べれば可能な限り合意を取るあなたは聖人君子みたいなものだろう。


「いやー、今から夏季休暇が楽しみです! 領民が嫁に行く前に味見するのは貴族の嗜みですから、今年嫁に行く子を確認しないとですね! 私がいない間に生まれた赤ん坊の性別も確認しておかないとですし!」


 言ってはなんだが、よくぞまぁこんな異常者をバトリー家は外に出したものだ。

 実家から追い出されていない以上、放逐ではないのだろうが。

 あなたはヒートアップし続けるレナイアと適当に会話をしつつ、そんなことを思った。




「ああ、バトリー家はね……あそこは名門なんだけど、たまに異常者が出るのよね……色情狂は男女問わずにたびたび聞くわ」


 なんとなくレインにレナイアの異常者仕草について話を振ったところ、そんな返事が帰って来た。

 なるほど、レナイアのあの異常なさまは家系的なものだったらしい。


「……ちなみにあなたは?」


 母方でそう言うものがあるとは聞いたことがない。

 あなたの父も女好きだったが、あなたほど酷くはなかった。

 ただ、あなたはそもそも生まれるはずがない存在なので何かがおかしい可能性がある。


「そもそも生まれるはずがない?」


 あなたの父はエルグランドで生まれた存在ではなく、アルトスレアで生まれた存在だ。

 アルトスレアの古代種妖精。そう呼ばれるものは自然の発露のようなものだ。

 風が吹く時に産まれ、風が止む時に死ぬ。そのように表現されることがある。


 そのため、魂を持たぬ人造生命に近しい存在であり、同様に魂を持たない。

 その魂を持たない特質ゆえに、アルトスレアの妖精は子を残す能力を持たない。

 だが、エルグランドでやることやってたら、なぜかあなたが出来てしまったのだ。


「ゴーレムが女を孕ませたようなものってことよね……なるほど、子供がふつうだと思う方がおかしいわね……」


 そう言うわけなのであなたの女好きはしかたがないことなのだ。


「…………まぁ、そう言うことにしておいてあげる」


 どでかい溜息を吐かれたが、納得はしてもらえたようだ。


「で、バトリー家だけど。伝え聞く話では、彼女以外の異常者がいるとは聞いたことがないわね。ただ……レナイアが色狂いとも聞いたことがなかったのよね」


 醜聞なので隠していたというわけだ。

 すると、他の兄弟姉妹も同様に隠しているが異常者の可能性があると。


「まぁ、そう頻繁に出る家系と言うわけでもない……いえ、それも含めて醜聞として隠したのかしら……ちょっとわからないわね」


 まぁ、縁戚であるとか傘下でもない限り、そう内情は知らないのが普通だろう。

 仮に異常者がいたとして、レナイアの客人として訪れるあなたにけしかけるとは思えないし。

 もしけしかけられたにしても、穏便に話を終わらせるつもりだ。貴族を敵に回すつもりはないのだし。


「それがいいわね。ただ、夏季休暇中に遊びに行くにしても、ほどほどのところで帰ってらっしゃいよ」


 言いながらレインがあなたの胸元を指でツンと突いた。


「私たちのことも、バカンス中に可愛がってくれるんでしょ? ちゃんと埋め合わせしてくれなきゃ、いやよ?」


 そう言っていたずらっぽく笑うレイン。そこには愛らしい色気が漂っている。

 お姫様の思うがまま、望むがままにエスコートしようではないか。

 学園に通っている最中、余暇を見つけて逢瀬を重ねるのもそれはそれで格別だ。

 だが、夏季休暇中の逢瀬は学園に通っている最中には早々できないことができる。


 どちらもおろそかにせず、バッチリキメるのがデキる女たらしと言うものだ。

 そしてあなたはエルグランドではすべての男に恐れられる女たらし。

 町に行けば、妻を隠せ! 金髪の女たらしが来たぞ! などと言われるほどだ。

 異名通り、女と言う女をしっかりお姫様にしてみせようではないか。





 夏季休暇の予定をのんびり立てている。

 慢心はよくないが、あなたが学園の卒業試験でつまずく可能性は低い。

 そのため、他の生徒らのサポートをする以外では、あなたはかなりヒマだった。


 学年3年目は授業はそう多くはないのだ。

 まぁ、授業が多かったらイレギュラーも多い学外実習に差しさわりが出るし……。

 1年や2年の頃に比べれば、授業の数は半減と言ったところだろうか。

 学外実習のための準備、予習のこともあり、あなた以外の3年生はひぃこら言っているが。


 あなたには慣れ親しみまくった冒険の準備でしかない。

 そのため、およそ3カ月も後の夏季休暇に向けてのんびりやっていられるわけだ。

 あと、2か月後に迫っている学園対抗演習についてもだ。


 食堂でのんびり手帳を片手に予定へと思索を巡らせているあなた。

 その対面に、すとんとモモが腰かけた。濁った眼があなたを射抜く。

 同時に酒臭い。散々に飲んだ後なのが目に見えて分かった。


「トモちんのチンをチョンするワンドを譲ってもらえないか。代金は俺が体で払う」


 チンをチョンするという表現は初めて聞いたが、なんとなく意図するところは分かった。

 欲しているのは『ミラクルウィッシュ』のワンドでいいのだろうか?

 その場合、体で払う以上はモモにも『ミラクルウィッシュ』のワンドを使うことになるだろう。


「ああ。俺をあんたの女にしてくれ」


 どうやらトモの男漁りがよほど腹に据えかねているらしい。

 あるいは、トモの浮気癖に嫌気がさして自暴自棄になっているか。

 どちらかと言えば、後者であると思われた。なるほど。


 あなたは同性愛者に対して寛容だ。これはあなたがそうだからと言うのもある。

 そして、男の子は男の子同士で、女の子は女の子同士で恋愛すべきと言う信念からでもある。

 そのため、男の子同士で恋愛をしているゲイのカップルを女にして食うということはしない。

 だが、そのゲイのカップルの当事者が言う以上、遠慮する必要はどこにもないだろう。


 あなたはモモへと『ミラクルウィッシュ』のワンドを2つ渡した。

 1つはモモが女の子になって処女をご馳走してくれる代金。

 もう1つはモモの要求通り、トモのチンをチョンする分だ。


「ああ、ありがとう。俺のこと、壊してくれ。変になりたいんだ」


 そう言いながら『ミラクルウィッシュ』のワンドを手に取って振るモモ。

 声高に性転換を望み、その肉体が見る間に女の子らしく変じていく。

 そして、あなたの背筋にぞくぞくと走る初めての不可思議な快感。


 異性の友人として交友を深め、仲良くなったモモ。

 それが女の子となって、あなたへと体を開く。

 その異様なシチュエーションにあなたの脳は蕩けそうだった。


 なるほど、こういうのもあるのか……。


 あなたは友情が愛欲と性欲によって汚れる快感を知った。

 あなたの性癖はますますひん曲がっていった。


「さぁ、いこうぜ。あいつのことなんかもう知るかよ。俺をあんたの女にしてくれよ、はやく」


 あなたは喜んでモモを部屋までエスコートすることにした。

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