11話

 あなたは試合会場から降りる。

 まったく納得がいかない。

 そして、試合会場を降りた先で、モモロウが笑顔で待っていた。


「今、どんな気持ち? ねぇねぇ、どんな気持ち! 俺たちに負けてどんな気持ち!」


 すごいむかつく。ぶち殺していいだろうか。


「やめてください死んでしまいます」


 割と本気であることに気付いたらしい。

 モモロウが顔を蒼くして謝って来た。

 あなたは先ほどの試合はなんだったのかと聞いた。

 どういう経緯で、どういう形でああなったのか。

 それがよく分からなかったのだ。


「ああ、解説か……俺はあんまり把握してないんだよな。作戦通りに動いてただけなんだ」


 まぁ、そうだろうとは思っていた。

 魔法を主軸に、こちらを嵌める作戦だった。

 魔法に疎い人間が建てられる作戦ではない。

 魔法詠唱者のだれかが建てた作戦だろう。


「まぁ、なんと言うか、すまんがこれから3試合あるんだ。それが終わってからでいいか?」


 そう言えばそうだった。

 あなたはわかったと頷くと、観戦することとした。



 あなたとハンターズの試合は壮絶なものだった。

 って言うか、あれはもう試合を通り越して実戦だった。

 あなたの首がほぼ切られたり、コリントの頭をほぼ叩き割ったり。

 一歩間違えば死人が出ていたレベルの壮絶な激戦だった。


 だからか、後の試合は見ごたえがなさすぎたらしい。

 まぁ、高位魔法を連打したり、それをも踏み越える壮絶な打撃戦が展開されたり。

 周囲に及ぼす影響の規模からしても、臨場感や迫力は抜群だったろう。


 特にコリントの『魔法の矢』の多重展開。

 そしてあなたの『魔力の破砲』の連続詠唱は派手だった。

 『魔力の破砲』は『魔法の矢』とそう変わらない仕組みの魔法だ。

 だが、込められた魔力や規模感から、まるでボルト系魔法のような派手な軌跡が出る。


 だからか、それ以降の試合は不評だった。

 これはべつにあなたが悪いわけではないのだが。

 やり過ぎだからもうちょっと自重して……などと苦言を呈された。

 あのレベルの冒険者を招くなんて何を考えているのか、常識くらい弁えろ。

 あなたはそのように反論した。教師陣は眼を反らした。自覚はあったらしい。




「ご主人様、大丈夫ですか?」


 いつものメンバーと合流すると、サシャに心配された。

 まぁ、ふつうの人間は首に攻撃が命中するだけで致命傷だ。

 あなたのように、ギロチンにかけられても「痛いよぉ」とぼやく程度で済む方が珍しいのだ。


「お姉様、首は大丈夫ですか? よければ回復魔法をかけますけど……」


 あなたは問題ないと答えた。

 そのあたりはちゃんと既に回復済みだ。


「とんでもない高位魔法の連発だったわね……あの強力な『魔法の矢』とかも気になるし」


 レインは『魔力の破砲』などが気になったらしい。

 べつに教えてもいいのだが、ほぼ無意味だろう。

 あれは『魔法の矢』の威力に限界を感じた者が使う魔法だ。

 常識を超えたダンジョンに挑まない限りは無意味だと思われる。

 そもそもレインの『魔法の矢』はまだまだ威力が向上する。


「ふぅん……それにしても、あんな高位の冒険者を招くなんて、どうやったのかしらね」


 たしかに、そこのところは気になる。

 冒険者学園が招いたというより、モモが集めたようではあるのだが。

 それにしたって、依頼料は冒険者学園が捻出したのであろうし……。

 あのレベルの冒険者となると金だけで雇えることはないのだが。


 まぁ、その辺りを含めて、後々に教えてくれることになっている。

 その際にレインらが同席することは問題ないだろう。


「なるほど。じゃあ、話しやすい席でも用意しておきましょうか。あとは食べ物とお酒も」


 そうしようとあなたはうなずき、この後の話し合いのための準備を整えた。





 対抗試合はもちろんハンターズが勝利した。

 もう勝利なんてものではなく、圧勝だった。


 みんな半泣きで挑んでいたのが印象的だった。

 勝てるわけないだろ! と叫んでいる者が目立った。

 実際、その通りなのであるが。

 ハンターズを招くのはやり過ぎである。


 まぁ、それでも終わってしまえばいい思い出。

 絶望的な相手にも挑まなければならない時もある。

 そんなときに折れない心を養うことができただろう。


 さて、これが終われば冒険者学園対抗演習はおしまいだ。

 教師陣の眠たいコメントやお説教が滔々と行われていく。

 そして最も多くの勝利を積み上げたあなたが閉会のスピーチを担った。


 冒険者最高! 冒険者最高! 冒険者、最高!

 おまえたちも冒険者最高と叫びなさい!


 そんなノリで復唱を迫ったら、みんな冒険者最高と復唱してくれた。

 ほんの十数秒の短いスピーチだったのも好印象だったようで、壇上から降りれば歓声が沸き上がった。


 こうして、冒険者学園の一大イベント、冒険者学園対抗演習は無事に終わった。



 対抗演習終了後も冒険者学園は解放されている。

 ここが稼ぎ時と、昼から屋台を開いている者も張り切って商売をしている。

 昼間の観戦で盛り上がった後は、酒と踊りで盛り上がっている者も。

 そして競技があるからと酒を控えていた生徒も、どんちゃん騒ぎをしていた。


 そんな中、あなたたちは喧騒の片隅で席を用意していた。

 いつものメンバー、EBTGのメンツに、モモを筆頭にした自称ハンターズだ。


「えー……そこな金髪の女たらしをキャン言わせるために、過去の伝手を辿って無敵最強メンバーを招集した結果が、この面子です」


 モモがそのように言う通り、このメンバーは間違いなくあなたの知る限り最強だろう。

 大陸でも屈指、世界全土に名が轟き渡るほどの実力者が揃っている。

 その割に誰も見覚えがないし、名前も聞いた覚えがないのだが。


「自己紹介しましょうか。私はジル・ボレンハイム。アルトスレア大陸で冒険者をしている者です」


 白髪に白目と言う不思議な配色の少年とも少女ともつかない人物だ。

 先ほど戦闘した時は、少年らしい外見をしていたのだが。

 どうもいま見る限りは、少女のように見える。明らかに乳房の膨らみがあるのだ。


 しかし、アルトスレア出身らしい。聞き覚えのない名前だ。

 まぁ、見た目からしてかなり若いので、知らないのは不自然でもない。

 あなたがアルトスレア大陸を旅した時点ではまだ冒険者ではなかった。

 あるいは、まぁ、そもそも生まれてもいなかったのだろう。


「ブライド・オブ・コリントと呼ばれているわ。まぁ、名前じゃないのだけど、名前は嫌いだから名乗らないわ」


 白銀の髪に、黒と銀のリボンで目を覆った美女がそんな風に名乗る。

 ブライド・オブ・コリント。コリントの花嫁と言う意味になるが。

 そうすると、彼女はコリントではなくコリントと言う人物の妻なのではないだろうか。


「コリントは地名のことよ」


 人名どころか地名だったらしい。もはや完全に名前ではない。

 コリント出身の花嫁、またはコリントに嫁に来た花嫁と言うことだろうか。

 そんな名前ですらないものを呼称に使うのが、自分の名前が嫌いだからとは。

 かなり変わった理由である。どこ出身なのかについても言及がない。


「べつの次元世界だから、言ったところでわからないと思うわ。私はエルディエン・ターリアと言う惑星上にある、忘れじの領域の冒険者よ。ターリアにはほかに、ファロン、ヌナーン、コーデリオンと言った大陸があるわね。著名な人物で言うと、アルミンステルと言う魔法使いがいるわ」


 なるほどさっぱりわからない。

 アルミンステルなる人物も聞き覚えがない。

 べつの世界……と言う概念自体がよく分からないが。

 まぁ、ここに似ていて、そうではない世界がある。

 そう言う概念はいちおう分からないでもない。


「あたしはセリアンさ。コリントと同じく、別の次元界から来た身でね。詳しくは姉者に聞いておくれよ」


 黒髪に黒目の獣人らしい美女がそう名乗る。

 見た目的にはあなたとそう変わらない年齢に見える。

 しかし、その姉者と言うのは?


「儂じゃ。儂はエルマ。見ての通りのエルフじゃ」


 そう言って笑うのは小柄なエルフ。

 見た目的には10代初めころに見える。

 しかし、あきらかに種族が違う。

 なにかこう、複雑な家庭環境なのだろうか?


「儂らの世代に家庭と言う概念はなくてのう」


 家庭と言う概念がない。

 意味が分からずあなたは首を傾げる。

 いくらなんでも無から発生と言うことはないだろう。


「儂らの出身次元世界は比較的若い世界でな。ほんの1万年ほど前に創造されたんじゃ。儂らはその頃に神によって手ずから創造された身じゃ」


 そう言うことかとあなたは頷く。

 神の手で創造されたなら家庭環境がないというのも分かる。


「はじめにエルフが造られた、その次に獣人が。じゃから、その頃においてエルフと獣人が義姉妹や義兄弟であることは珍しくなかったんじゃ」


 なるほど理解したように思う。

 さて、それではこちらの自己紹介に移ろう。

 あなたは名乗りつつ、軽く来歴を紹介する。

 その後に、エブリシング・バット・ザ・ガールのメンバーに自己紹介を促した。


「サシャです。キリム……毛の一族の出身です。魔法剣士をしてます」


 サシャのフルネームは、サシャ・ラジット・ダインクス・エリザベス・キリムと言う。

 キリムだけ所属する氏族を意味するらしい。

 ほかは獣人の英雄とか歌姫の名前なんだそうな。


「レインよ。魔法使いをやってるわ。いまのところ4階梯まで使えるわ」


 レインはフルネームを名乗るつもりは毛頭ないらしい。

 貴族であることに不満があるとかではないようだが。

 同時にこだわりもないらしく、名前しか名乗らない方が多い。


「フィリア・ユールスです。聖職者をしています。第5階梯まで使えます。よろしくお願いしますね」


 最後にフィリアが名乗る。

 ユールスは出身修道院の名前らしい。



 さて、自己紹介は済んだ。

 では、さっそくだが、先ほどの試合についての解説を聞きたい。

 なんで負けたのか、考えていてもよくわからなかったのだ。


「ああ、それについては……ジルはアルトスレアで人類最高と謳われる冒険者チームのリーダーでな。だから指揮は任せてたんだ」


「へぇ、人類最高とまで謳われるなんて……すごいチームなのね」


「いちおう、名の知られた冒険者を集めたチームではあります。有名どころでは、銀月の騎士ノーラ・アルマンタインとか」


 ノーラ・アルマンタイン。聞き覚えのある名前だった。

 かつて、アルトスレア大陸を旅していた頃に知己を得たことがある。

 黒の呼び声と言われた魔神討伐戦成功の立ち役者だ。あなたも参加している。


「なるほど、あなたが」


「有名な事件なのか?」


「はい。15レベルセッションのリプレイ、漆黒のウォークライのキャラクターですね。今はもっと成長していますが、当時は15レベルのフェアリーテイマーかつフェンサー技能持ちのエルフです。リプレイに記載のなかった冒険者はあなたですね」


 リプレイと言うのがなにかは分からないが、なにかしらの記録だと思われる。

 記載がなかったとのことだが、エルグランドの冒険者はあなただけだったので、おそらくあなただろう。

 しかし、ノーラは口説き落とせなかったのが心残りだった。

 ジルのチームに所属しているなら、そのうち会いに行きたいものである。


 凛とした美女だが、稚気と幼さを残しており、非常に可愛らしい人だった。

 今度こそ落として、懇ろになりたいものである。


「おい、ジル。引き合わせたら、ノーラがさらに嫁き遅れるぞ」


「もう手遅れだと思いますよ。彼女に貰われた方が幸せなんじゃないですか」


「って言うかジルが貰ってやれよ。可哀想だろ。おまえがブートキャンプとか言って修行させたんだろ」


「しかしですね、黒の呼び声の時点で彼女が136歳。適齢期真っ只中です。それから冒険者学園の学園長をしているわけですから、私ではなく冒険者学園が悪いのではありませんか?」


「責任転嫁しなや。最後の追い込み時期に修行させてたのはおまえだろが」


「そうかもしれませんね。では、話を戻しましょう。あなたはアルトスレアの魔法などについては詳しいと考えてよいでしょうか」


 完全に知悉しているとまではいわないが、一般的な魔法の多くは把握していると思う。

 いわゆる秘術系である真語魔法、信仰系に相当する神聖魔法。

 これらのうちメジャーなものはおおよそ把握しているだろう。


「なるほど、そうでしたか。では、アルトスレアの魔法などについて詳しい解説は不要ですか」


 あなたは多少分かるが、他のメンバーはわからない。

 そのため、申し訳ないが詳しく解説を頼むこととする。

 あなたも完全に把握しているとは言い切れないのだ。

 それに、別次元の魔法となると完全に分からない。

 そちらはあなたにも解説が必須だった。


「わかりました。では、各々がた、使った魔法については説明できるようにおねがいできますか」


「ええ、もちろん」


「構わんぞ」


 魔法を使った3名の了承も得ると、ジルが解説をはじめた。

 あなたは一言一句聞き逃さないと耳を澄まし、メモ帳を手に聞き取る体勢に入った。

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