冒険者学園編2年目 学園対抗演習

1話

 月日が経つのは早いもので、あっという間に冬がやって来た。

 と言ってもあなたからすると、これが冬……? と言うのが正直なところだが。

 なにしろ暖かい日は20℃を超えており、寒い日でも16~18℃程度もあるのだ。

 半袖でも普通に過ごせるし、さすがに海で泳ぐのは厳しくとも、浜辺で日光浴をするなら逆に心地いいくらいだ。


 そんな現大陸の冬、過ごしやすいだけあって冬期休暇と言うものはない。

 しかし、年明けを盛大に祝う風習こそないものの、休みにするくらいの慣習はあるらしい。

 ほんの3日ほどの休みだが、それを期にあなたはエルグランドへの里帰りを敢行した。


 と言っても、特筆することなど何もないのだが。


 あなたの最愛のペットが女主人として――あなたも女主人だが――しっかりと仕切っていてくれたため、居城の管理はカンペキ。

 留守にしていた間の報告を受け取り、所有する物件からの収益と出費について処理するなどした。

 そして、滞納しまくっていた税金の関係で、DEAD OR ALIVE生死問わずで指名手配が為されていた。


 あなたは税金の支払いのため、やむなく役所へと出向いた。


「女を隠せ! 金髪の女たらしが来たぞ!」


「ガード! ガード!」


「大人しくお縄についてくださいおねがいしますなんでもしますから!」


「ちくしょうなんで俺が当番の時に納税しに来るんだよぉぉぉ!」


 あなたは邪魔な衛兵を適当に蹴散らし、請求書に対応するだけの税金を納めた。

 さて帰るかと踵を返すと、衛兵が応援を呼んだのか半泣きの衛兵が大挙していた。


「大人しく武器をおいてくださぁぁぁぁい! 死にたくない! 死にたくなぁぁい!」


「神妙にお縄についてくださいおねがいします! 私には妻と夫と猫がいるんです!」


「おまえは戦いに積極的に参加しようとしている! 闘争者は歓迎されない!」


 あなたはまとめて片付けるかと魔法を使おうとしたところで、思い直した。

 手にしていた剣を納める。すると、半泣きの衛兵がほっとした顔をした。

 あなたは『ポケット』から『ナイン』を取り出すと、スイッチを入れた。


「逃げろォー!」


「しぬぅ! ころさえう!」


「ラーラララララ! おしまいだァー!」


 そして『ナイン』が起爆した。

 我は死なり。世界の破壊者なり。

 解放された圧倒的な破壊のエナジーが大地を舐める。


 あなたはその爆発を爆心地のど真ん中と言う特等席で眺めていた。

 役所が綺麗さっぱり消し飛び、当たり一面が焼け野原になっていく。

 じつに見事な爆発だった。たまには『ナイン』を使うのもいい。


「ちくしょうお縄についてくださいって言ってるだろぉぉぉ!」


「熱い熱い! ノータイムで『ナイン』使いやがって頭おかしいんじゃないのか!?」


 あなたが過去何度も地面に叩き込んだためか、一部衛兵はたいへん頑丈になっている。

 ことに、税金滞納の廉で指名手配されるたび、腹いせに役所を吹き飛ばしている。

 役所に勤めている衛兵が無意味なまでに鍛え上がっているのも仕方ないことだろう。


 まぁ、もともと『ナイン』の威力はそう大したものではない。耐えられるものは少なくないのだ。

 あなたは適当に『魔法の矢』で生き残った衛兵を爆散させた。


「ウァーッ!」


「おうち……かえ……ぅ……」


「た、隊長ォー!」


 これで借金も役所もきれいさっぱりだ。

 しかし、なんの遠慮もなく殺戮を振りまけるエルグランドは気楽でいい。

 エルグランドではいまのように衛兵を片付けても、3日後には蘇ってくる。

 いま冒険している大陸ではそうもいかず、大人しくせざるを得ない。

 たまの里帰りにあたっては、ちょっとくらいハメを外しても許されるだろう。


 あとは税金滞納の罪を赦してもらうため、教会で免罪符を買えばよい。

 罪を贖うのは簡単ではないが、無罪を購うことは簡単なのだ。



 教会のある町に出向くと、やはり衛兵が絡んで来た。

 適当に1発ずつ衛兵の頭に剣を叩き込んで片付ける。

 道中、通りすがりの乞食などもなんとなく切り捨てておく。

 酒場の前を通りかかったところ、駆け出し吟遊詩人らしきものが弾き語りを披露している。

 足元の石を拾い上げ、吟遊詩人に向けて投げつけた。

 吟遊詩人が静かになり、満足したあなたは歩みを再開した。


 教会に辿り着くと、免罪符売り場へと直行する。

 金貨数十億枚を支払って免罪符を購入し、あなたの罪は赦された。

 あなたは意気揚々と『引き上げ』の魔法で自宅へと帰宅した。



 自宅で夕食を摂った後は、最愛のペットと熱く愛し合った。

 そして翌日は実家に顔を出し、両親にいろいろな土産話をした。

 相変わらず両親は抜群に可愛くて美しくてサイコーだった。


 ついでに土産として、冒険中の大陸で汲んで来た水を渡した。

 よその大陸で言うとなにかの冗談のように思われがちだが、本気だ。

 タルいっぱいの水は冗談抜きで土産として歓迎されるほど貴重なものだ。

 なんなら、面識のない貴族の家に尋ねて行って、タルいっぱいの水を献上したいと言ったら大歓迎してもらえるくらい貴重だ。


 あなたのような超級冒険者なら、水の調達くらいはなんとでもなるのだが。

 たとえば『ミラクルウィッシュ』のワンドをガン振って水を願いまくるとか。

 他の大陸まで魔法で転移して汲んで来るとか、そう言う力業での解決手段がある。

 あなたの両親もそうした解決手段は楽勝で取れるが……。


 めんどくさいのだ。くれるというなら喜んで貰う人間の方が多いくらいには。

 そう言う理由であなたの両親も歓迎してくれたわけだ。

 そして実家で一泊してあなたは冒険中の大陸に帰って来た。




「へぇ……そんなにエルグランドって水が貴重なのね」


「それだけ水が貴重だと、生きていけないんじゃ……?」


 サシャの疑問に、あなたはあくまできれいな水が貴重なのだと答えた。

 覚醒病に汚染された水がほとんどなだけで、エルグランド自体はむしろ水の豊富な大陸だ。

 雨は多いし、世界屈指の豪雪地帯でもあるから、雪解け水も豊富だ。

 特に、常雪地帯の雪解け水は覚醒病の汚染の少ないきれいな水で重宝される。


「ああ、なるほど。と言うことは、貧しい人は、汚い水を飲んでると……」


 そうなるとあなたはうなずいた。


「にしても、ほんの3日の里帰りでよかったの?」


 休みが3日しかないのだからしょうがないとあなたは答えた。

 それに、いつの間にかこの大陸に来てしまった理由も知りたい。

 それを知るなら、この大陸で過ごすのが一番の近道だと思われた。


 あなたはナラカと言う迷宮の攻略中にこの大陸に来てしまった。

 通常空間とは異なるナラカから外に人を出すのは、人知を超越した行いだ。

 間違っても定命の存在にできる行為ではなく、神格の介入を感じさせる。

 ウカノの思し召しなら文句は何もないが、ウカノからの神託はない。


 すると他の神格がなにかしらの意図をもってあなたを動かしたのだろう。

 それがどういう目的かは不明だが、おそらくかなりの高位神格だ。

 さすがに超位神格、超越神格クラスではないと思うが……。


「ふぅん……いつの間にか、この大陸にいた、ねぇ……」


「そんなことあるんですか……?」


 まぁ、ひとつの可能性として、寝ぼけたあなたが大移動をした可能性もある。

 ナラカからの脱出は簡単なので、そこから脱出後に、この大陸までなんらかの手段で移動した可能性だ。

 ランダム転移をしてみたら偶然あそこに辿り着いたとか。

 もしくは宇宙空間にでも出て、落下した先があそこだったとか。


「ちなみに、可能性としてはどれくらいの割合なのよ」


 たぶんほぼありえない。一応それであそこにいた説明はつかないでもないが。

 口語会話が通じているのが分からない。魔法による翻訳ではない。

 ふつうに頭で理解して、感覚で喋れている。母語同然にだ。


 すると、神格がなんらかの介入をし、その際に言語理解能力を与えたと考えるのが自然だ。

 その点に関してはラッキーと思うほかないが、なんのためなのか分からず不気味だった。


「なるほどね……ひとまず、手立てとしては高位の占術魔法で調べることだけど……私に使えるレベルじゃないわね」


「調べ方にもいろいろありますからね……現地に残った魔法のエッセンスを調べる方法、過去を垣間見て視覚的に確認する方法……」


「でも、どの手段にせよ私には使えないわ。呪文の心当たりもないから、まずは呪文を探すか、使える人を探すか……」


「いちおうの手立てとしては、お姉様の『ミラクルウィッシュ』のワンドで呪文を再現するという手がありますね」


「知らない呪文って再現できるのかしら……あなた分かる?」


 わからない。魔法のエッセンスを調べるのはともかく、過去を見るのはどうやるのだろう。

 『ミラクルウィッシュ』のワンドはべつに余裕があるので試してみてもいいのだが。

 うまく行かずにほかの魔法が再現されたら大惨事を引き起こしかねない。

 エルグランドなら「おっと魔法が滑った!」とでも言っておけば済むだろうが、この大陸ではそうもいくまい。


「魔法が滑った、じゃないのよ」


「魔法が滑ったって」


「それで済まされるんですかね……」


 町の1つや2つが消し飛んだところでごたごた言う者もいない。

 と言うか、ごたごた言うやつごと消し飛んでいるので、だれも言いようがないというべきか。

 ともあれ、『ミラクルウィッシュ』のワンドで再現するのはナシで。


 すると、真っ当に魔法の使える人間を探すのが分かりやすい方策だろうか。

 しかし、どのくらいの魔法なら分かるという目途も立たないので、探しようがないというか……。


「そうね……まずそれが出来る人間を探すところからするべきかしらね。あるいは、それを可能とする魔法のアイテムとか……」


「強力な占術を発揮できる魔法の水晶があるくらいしか聞いたことないですね」


「その占術を発揮できる魔法のアイテムを探すための、占術を使えるようになる手立てを探すのが賢そうね……」


 なんてまどろっこしいのだろうか。まぁ、冒険などそんなものだが。

 すると、今年の目標はとりあえず、その占術の手立てを探すと言ったところか。


「あら、新年の目標なんて可愛らしいことしてるのね」


「私は2階梯の『熱線』を使えるようになるのが今年の目標です」


「私は……近接戦闘の教官に勝ち越し、にしようかなと思います」


「みんなもやるの? なら、私は4階梯が使えるようになるのを目標にしようかしら」


 新年らしく、みなで新年の目標を決めた。

 あなたの目標がややふわっとしている感じだが、しかたあるまい。




 冬場のサーン・ランドは潮風がやや冷たい以外は涼しくて過ごしやすい。

 現地の人間にしてみれば少し肌寒いらしく長袖の人間が多いが、あなたからするとぽかぽか陽気で過ごしやすいくらいだ。

 こういう、ほどよく過ごしやすい気候の時こそ座学が捗るというもの。


 座学系の授業は、なにしろ別大陸なのでなにを受けても新鮮だ。

 なのでとにかく楽しいことこの上なく、勉強に身が入るというもの。


 そして、みんな知ってるので真面目に受けない授業を真面目に受けるあなたは目立つ。

 目立つし、担当している教員からは大変な好印象を得られる。

 すると、放課後などに個人的質問からの、熱いプライベートレッスンなどが受けられる。

 ベッドの上で受けるレッスンはもうたまらないし、けしからん限りである。

 時として、生徒であるあなたが教える側に回ることもあり、まったく滾ることこの上ない。


 この学園の生徒がすべて女子となり、女学園となって久しい。

 そして、上で述べたように、プライベートレッスンによって教員らもまた、すべてが女子教員となろうとしている。

 つまり、あなたがこの学園の生徒から教員まで、すべて平らげる日は遠くない。


 しかし、春になれば、冒険者学園には新入生がやってくるのだ。

 人数としてはそれこそ20~30人なわけだが、口説き落とす楽しみがある。

 さらには夏前ともなれば、学園対抗演習が行われる。


 別の学園の生徒とお知り合いになれるチャンスが来る。

 1年生の時は応援する以外は許されなかったが、2年生となる今年はあなたにも参加資格がある。

 よその学園の女子生徒をどれだけ食べられるか……学園対抗演習のほかにも、負けられない戦いがそこにはあった。


 邪な目標を立てるあなた。

 今年もまったく気を抜いていられない日々が続く。

 女子生徒を食べる、男子生徒を口説いて女子生徒にする。

 どちらもやらないといけないのが女しか好きではないあなたのつらいところだ。

 だが、それを貫き通す覚悟はとうの昔に出来ている。


 まったく、今年もサボっていられないな!

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