16話
昼食と違い各自で用意した夕食後、せっかくだからとあなたはハンターズと酒宴を催すこととした。
モモとトモとは存分に飲み交わしたことがあるが、ただの1度きりだ。
単なるパーティーでは10も20も催さねば至れない仲に酒宴ならば1度で至れることもある。
あなたはアトリやキヨ、リンにメアリとも仲良くなりたいのだ。ベッドの中でも、普通の意味でも。
「しかし、夜の湖畔はたまんねーくらいに涼しいな!」
「だねぇ。ほんとにすごくいいところだね、モモくん」
「あ、うん、その、なんだ、太ももに手を置くのはやめてもらえるか? うん、その、すまない、股間をまさぐるのもなんと言うか、やめてもらえるか?」
モモがトモによってねっとりと襲われている。なかなか目の保養になるではないか。
あなたは男同士の恋愛推奨派なので、ゲイのカップルのむつみ合いを微笑ましく見守るタイプだ。
「頼む、やめてくれ、やめてくれないか……」
「でも、硬くなって来たよ? 喜んでるんでしょ?」
「条件反射的に硬くなることくらい分かってんだろお!?」
「でも、モモくんが硬くしてるから、僕も硬くなってきちゃったよ。ほら」
「ひあっ……か、硬くて、ビクビクしてる……」
机の下でモモがなにかを握らされると、途端に態度がしおらしくなりはじめた。
「す、すごい……」
「モモくん、ちょっと人のいないところにいこうよ」
「えっ? で、でも、ここは外だし……」
「そうだね、で、それがなにか?」
「だ、誰かに見られたら……」
モモが頬を赤く染めて狼狽する姿はひどく可憐だ。
まるで生娘のような恥じらい方は演技には見えない。
「でも、僕はしたいな」
「そ、そんなこと言われても……ほ、ほら、ここは街中じゃないから、野生動物とかいて危険だし……」
「僕は、したいって言ってるんだけど?」
「わ、わかり、ました……」
モモが頬を赤く染めながら了承の意を返すと、トモがモモを連れて出ていく。
やっぱり以前に見て取った通り、モモが受けで、トモが攻めなのは間違いないようだ。
「トモちん、涼しいからってお盛んになったでござるな……」
「まぁ、ああも暑いと寝床で絡むなんて御免だからな」
「温度が下がるとトモちんのブツの角度が上がるでござるよ」
「最悪だな」
そんな話をして笑い合うハンターズだが、あなたからすると色々と信じ難い話だ。
まぁ、それはあなたが女好きだからで、トモが男好きだからなのだが。
周辺にいる、40人近い女性、老いも若きもより取り見取りで、容姿の系統に種族も様々だ。
それらを一顧だにせず、男に向かって突撃していくのはかなり理解しがたい。
「いちおうトモちんは女もイケる口でござるが、男の方が明らかに好きでござるからなー」
「例えばこう……オッサンと学生の女の子が連れ込み宿に入っていくところを写真機で激写したとするだろう」
「エロい本の導入みてーでござるな」
「で、その写真をネタに脅すとするだろう」
「ますますエロ本でござるな」
「で、普通の男は女の子の方を脅して、ヤらせてくれって迫るだろう? 場合によってはオッサンの方を脅して、金をせびるかもだが」
「まぁ、よくある定番の導入でござるな」
「だが、トモちんは違う。オッサンの方を脅した上で、オッサンのケツを掘る方を選ぶ」
「最悪でござる」
なるほど分かりやすいとあなたは頷いた。
あなたなら脅すのは女だし、要求するのは体だ。金ではない。
まぁ、何をしてもいいという条件ならば、また話は違うが。
なにをしてもいいならまず、女の子はそのまま、オッサンは女にして抱くだろう。
オッサンは年齢的に結婚している可能性が高いので、妻も脅す。
オッサンが仕事をクビになる可能性を示唆してやれば楽勝だ。
そして、オッサンに娘がいればそちらも。当然、母親も生きていれば抱きたいところである。
「情け容赦がないでござるな、主殿……」
「こう、アレだな……友人になったので家に招くと、妹や姉はともかく、母親や祖母まで食ってる感じで怖過ぎる」
「怖いどころじゃねえでござるよ。よぼよぼのババアが雌の顔になってるところとか見たくないでござる」
「なにかこう、醜悪な交配の儀式みたいなことをやるのをやめてもらえるか?」
「トモちんと主殿を町に放てば、その町がいずれ滅びそうでござるな」
あなたはペットたちが夫を持つことをむしろ推奨するタイプなので、そこは問題ない。
ちゃんと子供たちが生まれ、町は存続していくだろう。
そうでなくともあなたは女性を孕ませることが可能である。
そんなことを話していると、慌ただしくモモとトモが戻って来た。
モモに至ってはずぶ濡れであり、いったいどうしたのかと訝し気な視線が降りかかった。
そして、モモが腕に抱えていた太い代物を地面へと放り投げた。
「うおおおい! ウナギ! ウナギ獲れた! ウナギいるわこの水系!」
「うう……この大陸に来てからと言うもの、いまいちイチャれない……」
「おお! これは食いでがあるな! 最高だ!」
「うおっ! でっか! これはオオウナギか? あっ……でござる!」
キヨが思い出したようにござるを付け足すほどに衝撃的だったようだ。
モモが捕獲して来たのは、あなたの足ほどの太さがある2メートルほどの巨大なウナギだった。
こんなに巨大なウナギがいるのかとあなたは興味深げにそのウナギを見つめる。
エルグランドでは下民、あるいは下層労働者の食べ物として知られる魚だ。
あなたはそうした階級別の食事の差には頓着しない方だが、それでもウナギは好んでいなかった。
「トモのオオウナギに乱暴されているのかと思ったら、マジモンのオオウナギを獲って来るとはな。どうしたんだこれ」
「こう、川辺に移動したあたりで、美味そうなカニがいてな。スープにしたらさぞかしうまかろうと目星をつけてたら、こいつが出て来てカニを食い出したんだ」
「ほう。そう言えばウナギは夜行性で、甲殻類食か」
「こんなの捕まえるしかねぇだろ! なぁ!」
どうやら、トモとの逢瀬はウナギによって中断されたらしい。
どうもそんな気はしていたのだが、そうした行為の主導権は実はモモの側にあるらしい。
サドマゾプレイと言うのは、お互いに信頼関係がなければできない行為だ。
そして、主導権がサド側にあると暴走しがちであるから、主導権をマゾ側が握るということは珍しくない。
いわゆるところの誘い受けと言うヤツだろうか。いやよいやよも好きのうちなのかもしれない。
あるいは、あなたが聞いたことのない真のNGワードがあるのかも。それを口にしたらすべての行為を取りやめるというような。
「さっそく捌いて食うでござる。白焼きでござるなー」
「肝は吸い物にして肴だな」
ハンターズはこのウナギを嬉々として食べるらしい。
昼食はあんなにおいしかったのに、あんなものを好んで食べるとは。
ハンターズの味覚はどうなっているのかと、あなたは首を傾げた。
「ほんとは蒲焼にしたいでござるが……醤油があれば」
「上物だからなぁ、醤油。いや、金はどうにでもなるが、流通量が少ないのは金ではどうにもならんからな」
あなたは首を傾げ、醤油と言うのは黒くてしょっぱい液体かと尋ねた。
「そうだよ。知ってんの?」
「この大陸にも醤油あるんでござるか?」
あなたは頷き、自分が錬金術で作ったものだが、それでよければと言って瓶入りの醤油を取り出した。
「ペロ……こ、これは……醤油! 間違いねぇでござる!」
真偽を確かめるためか、キヨが指先に醤油をつけて舐めた。
「色合いは濃口でござるが、味気は淡口に似てござるな。ちと辛いでござるか」
「ほう、これはたしかに醤油だな……うむ、うまい」
「マジで醤油じゃん。うめぇうめぇ」
「たしかに醤油だな……うむ、私の交渉した範囲内にこれは含まれるよな?」
「ほんとに醤油じゃないですかこれ、うん、美味し……」
「…………調味料をペロペロ舐めるのはどうかと思うよ」
トモを除いた全員が醤油の味見をし出したが、みんな指につけてはペロペロ舐めている。
よっぽど醤油が恋しかったのだろうか? 故郷では一般的だったのかもしれない。
しかし、トモが苦言を呈した通り、あの塩辛い調味料をペロペロ舐めるのは体によくない。
「お、おう、悪い。うん、しかし醤油があれば……蒲焼でいけるな!」
「やったでござるぅぅぅう! 蒲焼! 蒲焼!」
「うな重だ、うな重にするぞ!」
モモにキヨにリンが大喜びしている。メアリにアトリも喜んでいるのがよく分かる。
それほどまでに蒲焼にしたウナギは美味しいらしい。しかし、蒲焼とはなんなのだろう。
「ガマって知ってるか。こう……握るともふぁっとなって種が飛んでく植物」
あなたは首を傾げ、タイファと言う植物のことかと尋ね返した。
多年生の水草で、リンが言う通りにソーセージのような形状をした種の集合体を作る。
時期が来るとこれが爆発したように広がり、風に乗って飛んでいくのだ。
エルグランドには存在しなかったが、ボルボレスアスを旅していた頃には見かけたことがある。
「そう、それだ。ウナギをぶつ切りにして串刺しにして焼くと、蒲のように見えるから蒲焼という」
なるほどとあなたは頷いた。たしかにウナギをぶつ切りにして串焼きにしたらそんな風に見えるかも。
「まぁ、いまでは開いて焼くので蒲のようには見えんのだがな……」
名前だけが名残として残っている類のものらしい。
そう言うこともあるなとあなたは頷いた。
嬉々として調理に取り掛かるキヨたち。
ウナギの頭を固定し、これを掻っ捌いていく。
「これは食いでがあるでござるよ。大きいから骨も立派でござるな。骨切りするでござる」
キヨの華麗な手さばきによってウナギがどんどん捌かれていく。
身に細かく包丁を入れた後、これに串を打って焼くらしい。
モモは鍋に醤油のほかに酒や調味料を放り込んで、それを煮詰めている。ソースを作っているらしい。
ウナギを捌いた際に取り払った背骨を揚げ焼きにしたものも煮込んでいる。いい風味が出るのだとか。
ウナギを焼いた後、これをソースにつけ、また焼くらしい。
こうすることによってふっくらと焼き上がって美味……らしい。
ウナギと言えば茹でるものだったあなたにしてみると新鮮な調理方法だった。
「できたでござる!」
「ご飯も炊けましたよ」
昼にあんなに食べたのに、またガッツリと食べるつもりらしい。
リンがウナギを捌きはじめるやいなや、ライスを炊き出したのは眼を疑った。
まぁ、ハンターズにしてみれば酒のつまみくらいの感覚なのかもしれないが。
「ちと硬いでござるか? でも、味は抜群でござるな! うん、うまいうまい! うまいでござる!」
「くぁー……! たまんねぇ!」
「トモちん、明日も捕まえて来てくれ」
「なんで僕に言うの……?」
「股間に立派なオオウナギつけてるから」
「どういうこと……」
「トモちんのちんちんを水辺に付けたら、ウナギが仲間だと思って寄ってくるかもしれんな」
「嫌だよ! 噛みつかれたらどうするの!?」
「……イクのか?」
「イクか!!」
馬鹿話をしているハンターズを後目に、あなたは驚嘆の想いでウナギを味わっていた。
ふっくらしっとりしていて、それでいて風味豊かなソースが抜群のパンチ力を持っている。
たんぱくな味わいのライスが無限に食べられるほどにソースが美味である。
ソースをつけて焼くと、これほどまでにウナギを美味しく食べられるとは思いもしなかった。
調理方法は見ていたので、そのうち真似をしてみようと思うほどだった。
「おいしいですね、お嬢様」
メアリもニコニコしながら蒲焼を食べている。実に可愛らしい。
まぁ、手にしている食器のサイズと、盛られている料理の量はまったく可愛くないが。
「ちなみにですけど、ウナギは滋養強壮に効くんですよ」
そんな効能があったのかとあなたは感慨深げに頷いた。
エルグランドでも栄養豊富であるとは知られていたが、そう言った薬効は知られていなかった。
ウナギを食べている労働者はもしかしたら生産性が高かったりしたのかもしれない。
「精がつくので……ね?」
なるほどとあなたは笑った。そして、そっとメアリの手を取った。
あなたは内心で覚悟を決めると、おそるおそるメアリに提案をした。
サシャといっしょにいいことをしない? と。
「それって……3人で、ってことですよね?」
あなたは力強く頷いた。
「もぉ~、お嬢様ったらえっちなんだから……でも、お嬢様がしたいならしょうがないですね~、もぉ~……ほんとにえっちなんだから~」
そう言ってあなたの胸元を指でグリグリしてくるメアリ。
なんだこの身もだえするほどに可愛い生き物は。
あなたは狂おしいほどの愛おしさに苛まれた。
本当はハンターズのテントにお邪魔して普通に寝るつもりだったのだが。
この調子では今晩も熱い夜を過ごすことになるだろう。
サシャとメアリ、2人の相性はそう悪くはないと予想しているが、実際に逢瀬を楽しんでみないと分からないのが正直なところだ。
叶うことならば、2人の相性が抜群であるといいのだが……。
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