7話

 灼熱の夏がやって来た。この大陸における南端に位置するサーン・ランドの夏は凄まじい暑さだ。

 冒険者学園の生徒たちはあまりの暑さで溶け、魔法使いたちは魔法で暑気を凌ぎ、その暑気を凌げる魔法を依頼する生徒で溢れ返っていた。

 そのため、サーン・ランド冒険者学園の生徒たちは、割と余裕そうな者がちらほらと見受けられた。

 かく言うあなたもその1人である。あなたの場合は装備品にその効果があるのであって、魔法によるものではないが。


「凄い暑さよねぇ。南国の暑さって言うのをちょっと舐めてたわ」


 そう言いながらキンキンに冷やした水を口に運ぶレイン。魔法によって暑気を凌いでいるので、外見は余裕そうだ。

 愛用のジョッキの底に『金属冷却』の魔法を込めた金属片を埋め込んでいるとのことで、注いだ水が瞬く間に冷える。

 エルグランドには存在しなかった魔法だし、その使い方もなかなかに面白い。

 エルグランドにも凍結系の魔法は存在するが、威力が威力なので水を冷やすどころか、一瞬で凍り付いてしまう。


「外に置いてた鎧の上に卵を割ると、目玉焼きになってましたよ」


 サシャも同様にレインによって暑気を凌ぐための魔法をかけてもらっているので余裕そうだ。

 最初はがんばって我慢していたのだが、暑さに耐えきれずにレインに料金を払ってかけてもらっていた。

 基本的に、学園内で魔法使いに魔法を依頼する場合、料金は必須となっている。

 まぁ、魔法と言うのは金がかかるものなので、料金の請求自体はおかしいものではない。


 これが学院の外だったら無料で気軽にかけてくれたのだろうが……。

 いや、どうだろう。レインは意外とがめついので料金を請求してたのかも。


「その時はあなたに請求してたから安心しなさい。サシャはあなたの奴隷でしょ?」


 なるほど、たしかにサシャにかける魔法の料金をあなたに請求するのは理に適っている。

 まあ、サシャが支払った金銭の出所もあなたなので、実質的にあなたが払ったようなものだが。


「そう言うわけだから……請求先はこの金髪の女たらしだし、フィリアもどう?」


「い、いえ、これしきのことで魔法に頼るわけには……」


 フィリアは暑さで溶けそうになっている。魔法に頼るのは恥ずべきことと言う認識があるらしい。

 神に与えられた魔法を自分のために使うなと言う、聖職者としての基本の教えがあるとかなんとか。

 しかし、暑さを舐めてはいけない。暑さを舐めると死ぬ。


「し、死にませんよ、お姉様は大げさですね……」


 いや、本当に死ぬ。熱射病とか日射病と言う病があり、暑いと罹り易いのだ。

 これに罹患すると、最悪の場合は死ぬし、そうでなくとも重い後遺症が残ることがある。

 処置が速ければ予後は良好なのだが、処置が遅れると死ぬか後遺症が残る。


「え……」


 フィリアが暑さで顔を真っ赤にしていたのに、突然顔を蒼褪めさせると器用な真似をする。

 人間と言うのは意外と脆いところがあるので、そんなことで? と言うような死に方もするものだ。

 逆に妙に強靭なところもあるので、なんで生きてるの? と言うような生き残り方もするが。

 その筆頭が日射病だろう。暑い野外でうろついていたら死ぬ。本当になんでそんなことで? と言うような死に方だ。


「こ、怖いですね……ど、ど、どうすれば防げるんですか?」


 水をよく飲むこと。それから塩をたっぷり取ること。

 そして、そもそも論として、暑さを無暗に我慢しないこと。暑いときは暑いのだ。

 ちゃんと涼をとって、喉が渇いたら水を飲み、塩気が美味いと感じたら塩を取る。


「なるほど……つ、つまり、魔法がなくても耐えることは可能……!」


 フィリアはそう言う結論に辿り着いたようだ。

 まぁ、フィリアがそれでいいなら、いいのではないだろうか。


「あなた、強力な魔法が使えるんだし、その魔法で学園全体を冷やしたりとかできない?」


 レインがそんな無茶振りをして来た。まぁ、可能不可能で言えば可能だ。だが、手加減が出来るとは限らない。

 学園全域を人間が生きていけないほどの超低温環境にすることは容易い。

 しかし、人間が快適に涼を取れる程度に手加減をするのは極めて難しい。

 超低温殺戮学園になるか、爽やか清涼学園になるかは神のみぞ知ると言ったところか。


「そんなに威力あるの……」


 全体を均等に適度に冷やすなんて言う魔法は存在しないのだからしょうがない。

 学園全域を覆えて、全体的に超低温にする魔法ならばいくつかあるものの、ほどよい手加減なんて分からない。

 特に、エルグランドの凍結系魔法は別大陸とは異なった特性があってかなりややこしいところがある。


 エルグランドが混沌の大地であることは以前にも語ったはずだが、これは本当にそのままの意味だ。

 上と下、善と悪だけが定まった大地であり、なんとなくそれっぽい感じで全ての事象は成立している。


「なんとなくそれっぽい感じってなによ」


 なんとなく直感的に正しいと思ったことが大体そのまま成立する感じだ。

 そのため、別大陸では成立している自然法則ですらもがあてにならない。

 つまり、エルグランドの凍結魔法はマイナス300度だろうが3000度だろうが可能なのだ。


「ふぅん……?」


 レインがよく分かってないような感じで頷いた。

 どうもこちらの大陸では絶対零度と言う概念は一般的ではないらしい。

 絶対零度とは温度にはある一定の下限があるというものだ。

 詳しい数値は不明だが、マイナス270度くらいであるらしい。


 エルグランドでは絶対零度と言う下限は成立しない。

 なんでかと言われたら困るが、上下と善悪しか定まっていない大地なのだから、温度と言う法則だって定まっていない。

 当然、温度と言うものは存在するし、それらは上がるし下がる。

 だが、温度と言う法則が定まっていないがために、いくらでも上がるし、いくらでも下がる。そう言うことだとしか言いようがない。

 そもそも、場所によっては重力ですら正確に働いていないので、手から離したものが落下するという当たり前でさえ信用できないのだ。絶対零度が成立しなくても不思議ではない。


「それで、つまり?」


 手加減を効かす範囲が広過ぎて死ぬほど難しい。あなたはそのように答えた。

 あなたが全力で放てばマイナス100億度の超冷凍光線だって放てる。

 マイナス270度から0度程度までの範囲で手加減するのに対し、マイナス100億度から0度までの範囲で手加減をするの、どちらが難しいか。

 まぁ、どう考えても後者の方が難しいと誰だって思うし、実際その通りなのだ。


「なるほどね……まぁ、そんな簡単にはいかないか」


 そもそも、それをやった場合、学園関係者全員に料金を請求しなくてはいけないのではないだろうか。

 そんな面倒臭いことはごめん被る。


「どう、かしらね? 自分が涼を取るためだってことなら問題ない気もするけど」


「自分の部屋の中だけでやれって言われそうですけど……」


「たしかに……」


 加えて言うなら、学園全体を寒冷にして涼をとることに関しては断固反対する。

 薄着で出歩く女子生徒たちが見られなくなってしまう。

 特に最近は男子生徒の数が激減しているので女子生徒たちの気も緩んでいる。

 異性の眼と言うのは行動に慎みを持たせてくれるので、それがなくなると自然と緩むものだ。


「ああ、そう……」


「この学園が女子学園になる日も近いですね……」


 今のペースで行くなら秋ごろには全生徒が女子生徒になるだろう。

 元々からして、全校生徒100人を少し越す程度の数しかいないのだ。

 男女比は男に偏っていたものの、精々60から70人程度。それが毎月8人ずつ減少していく。

 要するに約9か月で全員が女子生徒になるわけだ。


「……計算合わなくない?」


 あなたが男子生徒を女子生徒にするに従い、自発的に女子生徒になりたいと申し出てくる者が出て来たのだ。

 意外と異性化願望を持つ人間はいる。それが強いか弱いかは人それぞれではあるが。

 また、なにか勘違いした男子生徒に襲われることがあったため、返り討ちにして女の子にした上で食った。


「まぁ、あなたが負けることはまずないでしょうけど……なんで襲われたのよ?」


 あなたがエルグランドでは娼婦をやっていたと聞いて、なにか勘違いしたらしい。

 そんなにキモチイイことをしたいと言うならご期待に応えるまでである。

 エルグランドの超強力媚薬を飲ませた上で、朝まで可愛がってやった。


「アレをですか。アレは……凄いですからね……」


 フィリアが暑さとは別の理由で顔を赤らめながら言う。


「……そんなにすごいんですか?」


 サシャが恐る恐ると言った調子で聞いてくる。

 あなたは頷いた。あれはすごい。

 たとえば、サシャとあなたがベッドの上で勝負をしたとして。

 普通にあなたが100戦100勝するだろう。


「まぁ、そうでしょうけど……もしかして、私にも勝ち目が出て来るとか?」


 それどころか、余裕であなたが100戦100敗するだろう。

 まぁ、勝ち負けをどこに定めるかによっても違って来るが……。

 先にイッた方が負け、という条件なら100戦100敗は確実だ。

 先に体力が尽きた方が負けというなら多少は勝ちの目がある。


「え……そ、そんなに……?」


 あなたは、媚薬を試してみたいと言うなら用意はするとサシャに伝えた。

 サシャは顔を赤くすると、あなたにこそっと耳打ちをして来た。


「じゃ、じゃあ、その、今晩……大丈夫ですか?」


 あなたは満面の笑みで頷いた。どっちが飲むのだろうか、どっちもだろうか。

 どっちであるにせよすごい。いつもはいいように鳴かせているサシャに散々鳴かされるのも悪くない。

 うだるような暑さの中、汗に塗れた肌を絡み合わせるのには得も言われぬ快感がある。


「…………ほどほどにしなさいよ」


 何か言いたげな顔をしつつも、レインはそんな風にたしなめるようなことを口にした。

 ほんとは自分も使ってみたいと思っているのだろう。バレバレである。

 こっそりと媚薬を盛るか、あるいは逆にうっかりと媚薬を飲むか……どちらなのかを見極める必要があるだろう。


 まだ快楽と言う世界を知ったばかりの少女に淫靡な世界を教え込む。

 このあまりに滾るシチュエーションを無暗に浪費するのは損失と言うものだ。

 あなたはじっくりとレインの動向を見極めることとした。


 とりあえずいまは、今晩のサシャとの逢瀬が楽しみだ。

 ついに媚薬までも使って愉しむことになろうとは。サシャも本当にえっちな子になった。

 もっともっとえっちな子になってもらい、いずれは複数人と言うのもしたいものだ。





 あなたはサシャにけちょんけちょんにされた。

 なんのことはない。媚薬を飲むのがあなただけだったからだ。

 あなたは手足をへし折られても、首を刎ねられても我慢することが出来る。

 我慢できるのであって、平気であるとか生き延びられるとかそう言うことではないが。


 だが、絶頂を我慢するというのは無理だ。

 人間の肉体はそう言う風にできていない。

 絶頂しつつも気合で行動することは可能だが、あなたの戦闘力は半減と言ったところか。

 半減したところでサシャくらい小指で薙ぎ倒して食うことが可能だが、それでは面白くない。

 ペットにベッドの上で散々に嬲られるのも一興と言うもの。


 なにより、今回の一件ではサシャの新しい側面を見れた。

 今まではどうもサシャの性向と言うか、性癖と言うか、その辺りがいまいち分からなかったのだ。

 ベッドの上では大人しく、あなたに導かれる面が目立っていた。

 だが、積極的に逢瀬を重ねたり、時としてサシャが責める側に立ってみたりと言ったところもある。

 リバかと言えばそうだが、なんとなく違うような気もする。


 だが、媚薬によって全身性感剥き出しのクソザコと化したあなたを前に、サシャは本性を魅せた。

 ちょっと触れるだけで面白いように達するあなたを、サシャは容赦なく責め立てたのだ。

 本当に容赦がなく、あなたでなければ割と真剣に死んでいた場面が幾つかある。それくらい容赦なく責め続けられたのだ。


 つまりだが、サシャはサディストである。それもドがつくほどの。

 それでいて、普段はあんなに大人しく、誘い受けみたいなところがある。

 これは獣人の特性なのか、相手の強さや状況を冷徹に見極めている節がある。


 万全のあなたにサシャが勝てる余地は一切ない。それはあらゆる側面でだ。

 だが、媚薬に冒されたあなたにベッドの上で勝つことは非常に容易い。

 その状況に立った時、サシャは本性を剥き出しにしてあなたを責め立てた。


 相手が強ければ、服従の姿勢を見せる。

 相手が弱ければ、強気の姿勢を見せる。


 非常に分かり易い態度である。野生動物的な序列の決め方が垣間見えた。

 弱いものいじめというか、獲物を嬲る肉食動物的な雰囲気があった。


 かわいいサシャが、あなたが弱っていると見るや一転攻勢。

 あなたはドロドロのグチャグチャにされてしまった。


 なんと、なんと素晴らしい……あなたは感動に打ち震えた。


 1粒で2度おいしいというわけではないが、そう言うのもイイ。

 いたいけな少女にイケナイことを教え込んでいくのもいいが、いたいけな少女が無邪気な悪意で以て責め立てて来るのも素晴らしい。

 大満足の一晩だった。最高である。思う存分責め立てられたい時は、サシャに頼めばいいのだ。


 それはそれとして、今度はサシャに媚薬を盛る。

 あんなすごいものを知らないのは損だ。

 けちょんけちょんにされたのが腹に据えかねたとか、そう言うわけではない。

 まったくないとは言わないが、やはり実地で知るのは大事というのが大きい。


 媚薬による快感の強烈さを知れば、相手がどれほどすさまじい快感に打ちのめされているのかがよく分かる。

 相手の痛み、苦しみを知らなければサドマゾの関係において、優秀なサドになることはできないのだ。

 もちろんあなたはどっちもいける。そしてどちらも一流となるべく修練に励んで来た。


 次はサシャの頭がパーになる寸前まで責め立てよう。

 なにもかも分からなくなるほどの快感の世界を知ってもらうのだ。

 強烈過ぎる快感が苦痛になることも、そして人は慣れてしまう生き物だということも。

 単調に攻め過ぎては、その快感に慣れてしまい、ある程度の余裕が持ててしまう。


 責め口を変え、責める場所を変えてと、趣向を凝らさなくてはならない。

 またあるいは、執拗に同じ場所を責め続けるというのもひとつの回答だ。

 快感の波に慣れると、少し余裕が持てる。だが、それは大波の前の凪にすぎない。


 強烈過ぎる快感が苦痛になり、その苦痛に慣れると無となり。

 しかし、その無の壁を越えて、また強烈な快感の波がやってくる。

 これもまた実にすばらしいものなのだ。ぜひとも知ってもらわなくては……。

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