5話

 男子生徒が毎週2人ずつ減っていく中、うだるような暑さの夏がやって来た。

 サーン・ランドは極めて温暖な気候だが、夏となればすさまじい熱波が押し寄せて来る。

 信じ難いのは、あなたからするとうめき声をあげるほどの暑さであっても、まだまだ夏本番ではないこと。

 真夏に浜辺で遊ぶのは危険で、今が海水浴の絶好の好シーズンであるらしい。


「あなた、すごい肌白いし、エルグランドはかなり寒いところみたいだものね」


 額に汗を垂らしながら、レインはそんなことを言う。

 この大陸に住まう人からしても、サーン・ランドの暑さは堪えるようだ。


「まぁ、だからこそ夏休みがあるんだしね」


 そう、サーン・ランドの冒険者学園には、夏休みと言う概念がある。

 暑過ぎて仕事にならないし、勉強にもならないから長期休暇を取ろうという考えだ。

 これは一般市井でも極普通にある概念で、1か月ほどのバカンスを楽しむのが普通なのだとか。

 避暑地に旅行に出向く者もいるというから、よほどに暑いのだろう。


「とりあえず、今週末は海に遊びにでも行く? 水泳の好シーズンよ」


 毎週末遊び回っていたあなたの水泳の練習はまったく始まっていなかった。

 同時に複数のことを始めるのはよくない。あなたの長年の経験から来る教訓だ。

 そのため、ある程度まで内功とやらがこなれるまでは水泳の練習は控えていた。

 しかし、セリナからはそれなりに及第点を貰えたので、あなたは水泳の練習を始めることを決めていた。


「まずは水着ね」


 もちろん用意済みである。と言っても、下着みたいな形状の服を、透けないように気を付けて作るだけだ。

 難しいことなどなにもないし、水場が子供たちの一般的な遊び場であるサーン・ランドでは市販もされている。

 当然ながら、レインの分の水着も用意済みだし、サシャとフィリアの分もバッチリ用意してある。

 しかし、あなたをして着用するのになかなか勇気が要る服だが、ここらでは普通だというのだから異文化と言うものは面白い。


「ああ、そう……手回しがいいことで」


「ええと、その……」


 サシャがもごもごと何か言い淀んでいるが、もちろんサシャの成長分は加味してある。

 可愛いサシャは学園に来てからも、週に3回は可愛がっている。成長は逐一確認済みだ。


「あ、そうですか……」


 最近のサシャは成長が著しい。やはり、栄養状態が改善されたことが大きいのだろう。

 それに、今まさにサシャは成長期真っ盛りと言う状況らしい。

 背もグングン伸びて来て、今まではあなたが少し身をかがめないとキスできなかったのに、今ではそのまま抱き合ってキスができる。

 いずれはあなたの方が背伸びをしてキスをする日が来るのかもしれない。

 そんな未来のことを考えると、嬉しいような寂しいような、そんな気持ちにさせられる。


「その、胸も、最近大きくなって……」


 ちょっと恥ずかし気に言うサシャの脳天に衝撃を受けるほどのかわいらしさだ。

 もちろん触って舐めて吸って堪能しているあなたはその辺りも把握済みである。

 成長途上の可愛らしいお乳を保護してくれる下着だって用意してある。


 これからもっともっと成長することだろう。

 あなたが揉んで成長を促進するので間違いない。

 




 楽しみにしていた週末が訪れ、あなたたちは浜辺へとやって来ていた。

 あなたが行くなら、と言うことで、他にも複数人の女子生徒たちがついて来ている。まだ男子生徒をやっている者も数人。


「お姉様、どうしたんですか?」


 熱が押し寄せて来る浜辺の中、あなたはいつも通りの服装のままで立っていた。

 周囲の者たちはみな水着に着替えているが、あなたはいつも通りだ。


 フィリアの胸を覆う白い水着と、下半身を隠す水着。

 どちらも下着同然の面積しかない過激な服装だ。ビキニとか言うらしいが。

 フィリアはそれにパレオなる巻きスカートも身に着けているが、それでも露出は凄い。


「あなた暑くないの?」


 などと言うレインに至っては、パレオなる巻きスカートすらもない、物凄い露出度だ。

 それよりすごい露出は見ているが、これを真昼間に、それも野外でやるというのは、なかなかに凄い。

 黒のビキニの破壊力は凄まじく、レインの瑞々しい肢体が陽光に照らされあまりにも眩しい。


「えと、ご主人様、水着はどうしたんですか?」


 そして、サシャも同様の恰好だ。あなたが用意した青のビキニはサシャの成長途上の肢体を辛うじて覆い隠している。

 普段は結構な恥ずかしがりやの癖に、水着は下着じゃないから問題ないと、恥ずかしそうな様子は全くない。

 あなたからすると、どう考えても下着そのものなのに、なんで恥ずかしくないのか不思議でならない。

 あなたは3人に対し、その水着は恥ずかしくないのかと真顔で問いかけた。


「……? そりゃ、まぁ。普段とは違うから、多少恥ずかしいと言えばそうだけど。べつに下着姿でいるわけじゃないし」


「えっと……水着ですよ?」


「んんーと……まぁ、恥ずかしいと言えば……恥ずかしい、のかな?」


 これこそまさにカルチャーショックと言うやつだ。あなたは思わず嘆息する。

 エルグランドでは海水浴の文化が薄く、寒冷な気候と言うのも関係しているのだろうが。

 こんな凄い薄着でうろついても、なんにも問題ないと思う心境がよく分からない。


 つまりはそう、あなたは水着姿になるのが恥ずかしかった。


 普段あんなことしておいて何を今さらと言うのはあるが。

 あなたは野外で肌を晒すことは好まないし、露出プレイの類も好まない。

 野外でスるのに解放感があるのもたしかだが、誰かに見られる可能性を思うと好んでやりたくはなかった。


「……あなたもたまには常識的なことを言うのね」


「えっと……水着にならないと、泳げませんよ」


 心外だったが、水着にならなければ水泳はできないと言われては仕方ない。

 冒険の最中ならば着衣のまま水泳するべきだろうが、今はそうではない。あくまで練習だ。

 これは練習のために必要なことだからと自分に言い聞かせ、あなたは服を脱いだ。

 水着自体は下着代わりに着用済みなので、脱げばそれで済む。


「…………な、なんかイケないことをしてるような気分になるんですけど!」


「お、落ち着いてください、レインさん。あ、あの、お姉様、そんな恥ずかしがりながら脱ぐと、それはそれで変な色気が漂うのでちょっと……」


「え、えっちだ……」


 服を脱いでるだけなのだが。べつにストリップの技術の類も使っていないというのに。

 たしかに恥ずかしいのでもぞもぞやってる自覚はあったのだが、特に誘ったりなどはしていない。

 堂々と脱げと言われても心情的に難しいので、あなたは周囲の文句は黙殺して服を脱いだ。


 脱いだ服を『ポケット』の中に纏めて放り込んでいると、ついて来ていた男子生徒数人が前かがみになっていた。

 射貫くような目があなたを突き刺しており、あなたは思わず自分の肌を腕で隠した。


「ヌッッッ!!!」


「センパイちゃん、それは逆効果だから……!」


「も、もう俺はダメだ……た、立てねぇ……!」


 男子生徒たちには逆効果だったようである。

 たしかに腕で肌を隠すには露出している面積が多過ぎる。

 ならば、男子生徒の眼の方を塞げばよい。

 あなたは手ごろな石を探して周囲を見渡した。

 いつも投げている石は未だサシャに貸し与えたままなのだ。


「落ち着きなさい! 頭ごと眼を潰そうとするんじゃない!」


「逃げてー! 男の人逃げてー!」


「ご主人様それはまずいです!」


 レインに羽交い絞めにされ、フィリアは避難誘導をし、サシャはあなたの頭にしがみついた。

 3人の努力もあって辛うじて落ち着いたあなたは、泳ぐ前からどっと疲れていた。


「って言うか、それだったらもっと落ち着いた水着にすればよかったじゃない……」


 それはそれでイヤ。自分的な好みを出すとなると、ビキニなる水着の形態になってしまうのだ。

 好みを優先するか、自分の羞恥を優先するかで言えば、好みの方が優先順位が高かった。

 羞恥心にはなんとか折り合いをつけようと頑張ったが、なかなかうまく行かなかったわけだ。


「み、水に入りましょう! 水に入れば気になりませんよ、ご主人様!」


「それよ、サシャ天才。そう言うわけだからホラ! 泳ぐわよ!」


 レインとサシャに促され、あなたはさっそく海に入ることになった。

 蒼く透き通った美しい海に踏み入っていくと、水の冷たさが太陽の熱で火照った肌に心地よい。

 なるほど、この大陸の人々が水泳を好むわけだと納得する。

 エルグランドでも海水浴をする者は居たが、こういう心地よさはなかった。


「水泳の基本は、まず水に慣れることよ。顔を水に漬けて、息を止めることから始めましょうか」


「ご主人様、息ってどれくらい止めて居られるか分かります?」


 普通にやって2時間。頑張って4時間。死ぬほど頑張れば6時間くらいだろうか。


「そんなに止められないわよ……」


「いや、まさか、ご主人様ならできるのカモ……」


 もちろんできる。ただ、呼吸を止めていると、当然体を動かすことはできない。

 人間は身体能力を発揮するのに酸素が必要なのだ。呼吸を止めていては体を動かす力を生み出せない。

 肉体を動かせる程度の呼吸停止と言う意味なら、せいぜい30分やそこらだろうか? 訓練すれば倍くらいはいけそうだが。


「十分異次元の数値なんだけど。サシャ、あなたどれくらい息止めてられる?」


「えっと……1分くらい……でしょうか」


「そうよね、普通それくらいよね」


 1分しか息を止められなかったら1分しか泳いでいられないということになる。

 よほど高速で泳ぐ方法が存在するのだろうか? あるいは何か秘密の技法がある……?


「……秘密の技法ってわけじゃないけど、息継ぎと言う技があるのよ」


「息をするために水面に顔を出す泳ぎ方があるんですよ」


 なるほど。そのテクニックを使うことで、水中を移動しつつも生命を維持するわけだ。

 死ぬほどがんばって呼吸を止めつつも高速移動し、息の根が止まる前に目的地に辿り着くというチキンレース泳法ではないわけだ。


「そんな地獄みたいな泳ぎ方してる人間いないから」


「まぁ、息継ぎしない方が速いので、行き先が近いならそう言う風に泳ぐ人もいますけど……」


「と、ともかく、まずは水に慣れるところからよ。ほら、水に顔を漬けて」


 あなたは言われた通りに水に顔を漬ける。特になんということもない。

 いつまでやっていればいいのだろう? あなたはとりあえず顔を上げろと言われるまで待ち続けた。


「いや、いつまで漬けてるのよ! 死ぬわよ!」


 3分ほど漬けていたら抱き起こされた。漬けろと言われたから漬けたのになぜなのか。


「いや、これ、ほんとに……息も乱れてない……」


「30分も息を止めてられると言うのが真実味を帯びてきましたね……」


 なぜかレインとサシャが戦慄していた。


「ま、まぁ、水に顔を漬けてられるなら問題なさそうね。次は体を浮かす方法。体の力を抜いて、水に体を乗せるのよ」


 あなたはそれは無理であると答えた。力を抜こうがなにをしようが絶対に沈む。


「まさか。人間の体は水に浮くように出来てるのよ?」


 あなたの体重自体は軽いが『ポケット』に山ほど荷物が入っている。

 その重量はグレートホース10頭分を優に超えるほどの質量だ。

 そんなもん背負っているのだから水に浮くわけがない。絶対に沈む。


「ああ……その荷物を出しなさい」


 冒険中に水泳することがあろうから練習しようとしているのだ。『ポケット』の荷物を排したら冒険ができない。

 単に遊行として水泳をするのならそれでいいのだが、これはあくまで冒険のための水泳なのだ。


「う、うーん……ねぇ、サシャ、どうしたらいいと思う?」


「えーと……馬が潰れないために常時空を飛んでたりしてましたよね、ご主人様」


 あなたは頷いた。あなたはたしかに常時飛行することで馬に乗っている。

 肉体疲労はともかく精神的疲労が酷いのであまりやりたくはない。


「それ、水泳の時もやってみては」


 それしかないかとあなたは嘆息して、その方法を使うことにした。



 それからあなたの水泳の練習は順調に進んでいった。

 元々、体を動かすことは得意中の得意である。やり方が分かれば練習するだけだし、コツさえ掴めばあとは簡単だ。

 自身の肉体を把握し、制御することを基本とする内功の訓練を積んでいたためか、細かな肉体制御のコツが掴めていたのが大きい。


 内功の訓練を積むにあたって、内功に対して今までの訓練を活かすことはできなかった。

 だが、逆に内功の訓練を積み、自身の肉体を完全に把握することは、他の訓練に対して絶大なシナジーがある。

 これからも内功の訓練は真剣に積もう。あなたはそんな決意をした。


「朝はあんなにぎこちない泳ぎ方してたのに……」


「もう私より上手くなってますね、あれ……」


「って言うか、速い。速過ぎるわよ。イルカか何か?」


「手足の力が私たちの比じゃないレベルみたいなので、そのせいでしょうか」


「そう言う問題なのかしら……?」


 今やあなたはすっかり泳ぎの熟達者となった。ソーラスの迷宮を攻略する自信もついてきた。

 次は着衣のままで泳ぐ訓練を積み、やがては水中でそのまま戦闘できるように訓練も積みたいところだ。


 泳げるようになってくると、泳ぐことの楽しさも分かって来た。

 サシャが幼い頃は近くの湖でよく泳いでいたと言うのもわかる。

 あなたもこの大陸で生まれ育っていれば、趣味や遊びとして水泳を嗜んでいたことは間違いないだろう。

 水場で女の子たちと致す趣味も出来ていたかもしれない。水場での行為は体質が問われるところがあるので相手を選ぶが。

 粘度が高くないと、水と混ざって流れ出てしまうので痛みを伴ってしまうのだ。あなたは水中でもイケる。


「ねぇ、泳げるようになって楽しいのは分かるけど、そろそろ昼時よ。お昼にしましょ」


 あなたはレインに言われ、泳ぐのを止めた。たしかにそろそろ空腹を感じ出す頃だ。

 たっぷり泳いで、運動をした実感もあるため、あなたも割と空腹を感じていた。

 水から上がり、濡れた髪を手で払うと、サシャがほう……と溜息を吐いた。


「ご主人様、すごく綺麗です……」


 などと感嘆の声を漏らすサシャもまた、水に濡れた肌がなんとも艶めかしい。

 今夜はサシャと遊ぼうと決意しつつ、あなたは昼食の準備をするために浜辺へと戻るのだった。

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