27話

 もう我慢できなくなったあなただが、さすがに町中でおっぱじめたりはしない。

 『雪輝晶の夢亭』までサシャを連れ込み、一番いい部屋を取った。

 コネなどがないのでさすがにロイヤルスイートは取れなかったが、スイートルームを取れた。


 そして、あなたは濃厚な愛の時間を過ごした。


 サシャも立派に成長した。敏感で可愛らしくて、あなたとの行為を受け入れる素地を得た。

 えっちに成長した可愛いペットが、あなたの腕の中で身悶えする様は、それだけでにやけるのが止め難い。

 もう最高。あなたは絶対にサシャを逃がさないことを改めて決意した。

 なにがなんでもエルグランドに連れ帰り、ゆくゆくは自分の子を産んでもらうのだ。


「んん……ごしゅじんさまぁ……」


 あなたの腕の中ですやすやと眠るサシャは満足げだ。

 ついに破瓜の時を迎えたサシャだが、あなたの入念かつ丹念な準備のお蔭でなんらの支障もなかった。

 らぶらぶえっちをして、お互いにたくさん満たされた。


 しかし、これはゴールなどではない、はじまりなのだ。

 あなたとサシャは結ばれ、お互いに夢中で、愛を抱いている。

 その愛をより深くし、その絆を固くしていくのは、お互いの努力である。

 そして、サシャを開発するのはあなたの手管と技術にかかっている。


 まったく、サシャと愛を深め合う、サシャを開発する、他の女にも粉をかける。

 全部やらなくちゃあならないのが、女好きのあなたのつらいところだ。

 しかし、覚悟はとうの昔に出来ている。具体的にはあなたが初めてペットを得た頃から。




 目を覚ますと、あなたの腕の中にサシャの姿はなかった。

 今日はサシャよりも寝坊してしまったらしい。

 あなたが眼をこすりながら身を起こすと、すぐ近くにサシャの姿を認めた。


 町中での普段着に使っているドレスシャツ。常ならば上に何か羽織っているが、今はシャツだけを羽織り、お茶を淹れている。

 シャツの裾から、尻尾がふりふりと揺れているのが見えた。

 脱ぎ散らかされた下着類が転がっているところを見るに、裸身にシャツだけのようだ。


 裸シャツ。


 なんと、なんと素晴らしい……あなたは感動に打ち震えた。

 すらりと伸びる脚のなんと美しいことか。

 ほっそりとした脚と、尻尾が揺れる都度にちらちらと覗く小さなお尻。

 ニンフェットな魅力が無尽蔵に湧きいずるかのようだ。


「あ、ご主人様。おはようございます」


 感動に打ち震えていると、サシャがあなたの起床に気付いた。

 そして、手にしていたカップをあなたへと差し出してくる。

 サシャの手にもカップがある辺り、そろそろ起きるだろうという推測があったようだ。


 実際、日は高く昇っているため、起床していてもおかしくはない時間のようだ。

 時計は持っているが、特段時刻を気にして生きていないあなたは確かめはしなかった。


「なんだかまだ、なにか挟まってるみたいで、へんな感じです」


 カップを手に、ベッドに腰かけたサシャがそんなことをはにかみながら言う。

 いずれ慣れると言いながら、あなたはサシャの頭を撫でた。

 相変わらず触り心地抜群の耳をふにふにくにくにとすると心が和む。


「ん……ご主人様、私の耳、好きですね」


 大好き。あなたは笑顔でサシャに答えた。

 あとサシャのもちもちほっぺも大好きである。

 かつては肉付きの悪かったサシャの頬も、今ではもちもちだ。


 たくさん食べて、たくさん運動をし、たくさん可愛がった。

 女の子は可愛がれば可愛がるほどに肉付きがよくなるものだ。

 今のサシャは健康的な年頃の娘さんそのものだ。


「えへへ、身長もちょっと伸びたんですよ」


 そう言って胸を張るサシャは可愛らしい。

 思わずシャツを押し上げている先端を指先でくすぐってしまう。


「あん……もう、カップを持ってる時は危ないですよ」


 めっ、と言いながら鼻をツンとされてしまった。

 あなたはあまりのかわいらしさに身悶えした。

 カップを手にしつつ、サシャを抱き寄せてキスをした。


「んぅ……ちゅ……」


 触れ合うだけの優しいバードキスは、とても甘かった。





 優雅な朝の時間を過ごした後、あなたとサシャは宿に戻った。

 下の食堂では宿泊客が談笑など交わしていたが、レインとフィリアの姿はない。

 部屋へと上がってみると、レインとフィリアは机の前でなにか話し合っていた。


 部屋に唯一ある書き物机の上は実に雑然としている。

 木工用の工具が幾つかに、オイルフィニッシュ用だろう油や布などがある。

 木くずの中で転がっている細い指揮棒のような木の枝はワンドだろうか。


「あら、おかえり」


「おかえりなさい、お姉様」


 ただいま。そのように答えつつ、あなたはなにをしていたのかを訪ねた。


「ワンド作りのコツを聞いてたのよ。特に、前段階の部分をね」


「持ちやすくて振りやすいワンドにするのには、結構コツがいるんですよ。まぁ、秘術用品店なんかだと、秘術を込める前のワンドも売ってるんですけどね」


 使いやすいワンドを作り上げるには木工細工の腕も必要と言うことだ。

 まぁ、それは当たり前と言えば当たり前の話ではあるのだが。

 小さくて細い杖なので、多少デキが悪くてもどうにでもなるが、やはり丁寧に作ったものの方が使いやすい。


「考えてみると、あなたも魔法が使える以上はワンドくらい作れるのよね」


 滅多に作らないができる。あなたはそのように答えた。

 エルグランドのワンドは誰にでも使える代わり、効果が一定なのだ。

 そのため、魔法が使える人間にとって、ワンドはあまり実用的でない。


 それより強力な魔法が使えるのだから、ほとんど無意味なわけだ。

 まぁ、魔力は使わないと言う利点があるし、術者の技量で威力が左右されない魔法のワンドなら持ち歩く者もいるが。


 あなたの場合、魔力を節約しなければならないほど魔力量に不安がない。

 そのため、荷物を増やす手間を嫌ってワンドは殆ど持ち歩かないし、作らない。

 『ミラクルウィッシュ』のワンドはいくつかの数少ない例外に該当する。


「たしか、その代わりに魔法が使えなくても使える……のよね?」


 あなたは頷いた。以前に魔法を教え合っていた時にそんなことを教えた覚えがある。


「でも、エルグランドの魔法は殆ど戦闘用のものなのよね……」


 あなたはそれにも頷いた。そのため、戦士にとってもそこまで有用ではない。

 ある程度以上の強さを得ると、威力が一定のワンドより殴った方が強い。

 もちろん遠距離攻撃ができるという利点はあるが、べつに弓とか銃でよくない? と言う根本的問題が。


 まぁ、純粋魔法属性である『魔法の矢』などが手軽に使えるという利点もなくはない。

 エルグランドの魔法は戦士でも手軽に習得できるので、『魔法の矢』だけ覚えておけばいいのでは、とか言う疑問はさておいてもだ。


「サシャに持たせておけば手札が増える……くらいよね」


 それならそれでサシャに普通に魔法を教える。

 エルグランドの魔法なら覚えるのも使うのもすぐだ。

 使い過ぎで死ぬのもすぐだが。なに、蘇生もすぐだ。問題ない。

 そう言えば、サシャに魔法を教えると約束しておいて、未だ守っていなかった。


「そう言えば、そうですね」


 とりあえず『ポケット』の魔法から教えることにする。

 サシャの身体能力なら相当な荷物も持ち歩けるだろう。

 まぁ、重さも軽減してくれる魔法のかばんもあることなので、そこまで有用ではないかもだが。


 あなたはベッドに座り、サシャを膝の上に招き寄せた。

 そして、サシャの手を取り、サシャを通して『ポケット』の魔法を発動させた。

 以前にサシャには魔法的な感覚を覚えさせたため、サシャには『ポケット』の魔法の流れが分かっただろう。


「んん……こ、こう……かな?」


 むむむ、と力むサシャだが、『ポケット』が発動する気配はない。

 魔法的な感覚は得ているとは言え、魔法の行使の感覚はまだ養われていない。

 この辺りに関しては、繰り返しやって覚えるしかない。


 『ポケット』の魔法はほとんど魔力を消費せずに使える。

 これは膨大な魔力を持つあなた視点ではなく、一般的な視点から見てだ。

 魔法的な才覚に乏しいドワーフなどでも、なんら問題なく使えるのだ。


 そのため、魔法の行使に慣れる意味でも『ポケット』の魔法は極めて有用なのだ。

 エルグランドに魔法使いが多い理由は、非常に覚えやすく使いやすい魔法が主流と言うだけではない。

 幼少期から『ポケット』の魔法に慣れ親しんでいるため、全員が潜在的に魔法使いの素地を持っているのも理由なのである。


 あなたはサシャの手を取って、行使の不出来な部分を強調して『ポケット』を発動させる。

 そうしたことを繰り返すうちに、サシャの『ポケット』は無事に発動した。


「わぁ! できた! できましたご主人様!」


 財布を『ポケット』の中に仕舞ったサシャがそんな風に喜んだ。

 次は『ポケット』から出してみるように、と伝えると、こちらも問題なくこなした。


「……見てるとすごく理不尽に感じるわね」


「そうですか?」


「ああ、うん……秘術使いからすると、すごくね……私、魔法を使えるまで2年もかかったのよ……」


 こちらの魔法はそれくらい習得に時間がかかるものらしい。

 まぁ、これは感覚的なやり方、言ってみれば邪道なやり方である。

 正統派の術式を正しく把握し、それを丁寧に構築するやり方ならもっと時間がかかるものだ。


 また、魔法的な感覚に目覚めるのにももっと時間が必要だ。

 サシャの場合、あなたが丁寧に魔力を浸透させて魔法的な感覚を強制的に養ったのである。

 へたくそがやると相手が爆散したりするが、あなたは熟練魔法使いだ。9割方成功する。


「えへ、えへへ、私も魔法使い……魔法使い!」


 まぁ、エルグランドでは『ポケット』の魔法が使えても魔法使いと認められることはないのだが。

 嬉しそうに『ポケット』にものを出し入れするサシャが可愛かったので、あなたは細かいことは言わなかった。


 それに、名実共に魔法使いにしてしまえばいいのだ。

 あなたはサシャに『魔法の矢』の魔法も教えることにした。


「はい! ぜひ!」


「大丈夫? エルグランドの魔法よ?」


「うっ」


 レインに冷静に指摘され、サシャが硬直した。

 あなたは笑って、サシャの魔力量なら3回くらいは問題なく使えると教えた。

 あくまで無理して使うと危険なのだ、エルグランドの魔法は。


「な、なるほど」


 それに、使っていくうちに段々と魔力も増えてこなれるものだ。

 そのうち3回から4回になり、やがて5回や10回となるに従って魔法使いになれるのである。


「考えてみると、私もお姉様にエルグランドの蘇生魔法とかを教えてもらえれば……」


 あなたはそれは止めた方がいいとフィリアに忠告した。

 エルグランドの蘇生魔法は強力な分だけ非常に難易度が高い。

 フィリアでも1発で魔力は枯渇してしまうほどに消耗も大きいのだ。


 戦闘中に使うことになった場合、既に魔力は消耗しているだろう。

 そうなった時に無理やり使えば、おそらくフィリアは爆散して死ぬ。

 って言うか、なんなら魔力満タンの状態で使っても爆散するかもしれない。


「やめておきます」


 フィリアは実に冷静な判断をした。


「でも、たしかに有用な魔法もあるはずよね……ねぇ、転移術とかないの?」


 もちろんある。短距離テレポートのほか、行ったことのある町に徒党まとめて転移する魔法など。

 まとめて転移する魔法はそれほど高度な呪文ではない。まぁ、町限定と言う制約はあるのだが。

 これに関しては町にマーキングする、と言う魔法の特性なので、やろうと思えば野外にマーキングすることも可能ではあるのだが。


「いや、それ最高位の転移魔法じゃない……って言うか、その呪文があるなら復路は転移でよかったんじゃないの?」


 それはその通りなのだが。それに関しては移動に慣れるという側面もある。

 往復のことを考えて準備をする経験は積んでおいても損はないはずだ。


「それもそうか……」


 しかし、考えてみるとその選択肢はありかもしれない。

 エルグランドでは地殻変動で時折現れる迷宮に挑んでいた。

 町の近くにあるとは限らなかったため、冒険の準備はおろそかにできなかった。


 だが、この大陸においては町に付随するような形で迷宮がある。

 正確に言えば、迷宮があるから町が成立したので、迷宮に付随する形で町があるのだが。

 ともあれ、町から町に転移するだけで挑めるのならば、移動に慣れる必要はそこまで重要ではないかも……。


 まぁ、いずれフィリアとサシャはエルグランドに連れ帰るつもりだ。

 そのエルグランドのやり方に慣れてもらうという意味でも、このやり方は続けた方がいいかもしれない。


 あなたはレインとサシャに、魔法を覚えたいならこれから教える、と伝えた。

 2人は頷いたので、今日は魔法講義をすることとなった。

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