26話
やがて集落の者たちすべてが起き出してきて、朝の活気が燃え上がり出した。
そんな中、蛮族の少年戦士は、火を焚いて朝食の準備などを始めていた。
「食うか?」
少年がそのように申し出てくれたが、あなたは断った。
あまり豊かではない生活をしていることが伺える者たちに食事を振舞ってもらうのは、いささか心苦しい。
昨晩は肉の提供元があなただったので遠慮せずに食べたが。
「そうか」
彼は特に拘らず、あなたの謝絶を受け取った。
そうこうしていると、あなたの仲間たちも起き出して来た。
「うぅ、寝足りない……宿に戻って寝直しましょう……」
レインは眠たげである。まぁ、あれだけ頭を使った後に夜半まで宴に参加していたのだ、寝不足は必然と言える。
サシャは幾分か眠そうであるが、単にこれは寝起きだからだろう。
「宿に戻ってお祈りをしないと……」
フィリアは落ち着かない様子だった。
いつもの習慣であるお祈りがここではできないからだろう。
あなたたちは巨人族のテント村を辞して、宿に戻ることとした。
「ところで、次はいつ挑む予定なの?」
帰り道の最中、レインがそんなことを訪ねて来た。
あなたは思案中であると答えた。
訓練をしつつ迷宮に挑むつもりだったが、予定を変更しようか決めかねている。
二層ではなく一層で小銭を稼いで、それを探索費用に充てる。
そんなことを考えていたが、このままソーラスの町で訓練だけをしていてもいいかもしれない。
実践するより訓練の方が磨きあがるのが早い技術と言うのもある。
というより、技術の大半はそうだろう。
剣技の腕を鍛えるだけなら、実戦よりも訓練の方が速い。
ただ、実戦的な剣になるかと言うと微妙である。
実戦的な剣には身体能力と戦術眼も必要になる。
単一の技能を鍛えるには訓練の方が適している。
実戦は複数の技能が同時に鍛えられるが、密度が訓練ほどにはならない。
濃い密度の戦闘に身を投じるのはいろいろとむずかしい。
危険というのもあるが、単に密度の濃い戦闘と言うのが早々ない。
戦争でもあれば話は別だが、まさか訓練のために戦争を引き起こすわけにもいくまい。
「たしかに、訓練期間を長く取るべきかもしれませんね」
フィリアもむずかしい顔であなたの考えに同調した。
フィリアにしても、サシャとレインに足りないものを感じているのだろう。
『銀牙』とやらで手慣れた者たちと冒険していたフィリアには足りないものが如実に感じられるのかもしれない。
「戦力の不均衡というか。私はお姉様ほどではないですけど、熟練冒険者と言える程度には磨きあがっているはずです」
それは頷ける話である。フィリアは極普通に熟練冒険者と言って差し支えない技量がある。
少なくとも、エルグランドでもそれなりにうまくやっていけるだろう。
あなたのような超人を見ていると感覚が狂うが、エルグランドだって化け物しかいないわけではない。
サシャのような駆け出し冒険者だっているし、レインのような駆け出し卒業と言った初心者もいる。
そしてもちろんフィリアのような熟練冒険者もいるし、ハンターズのように仲良く徒党を組んでいる者たちもいる。
「そのせいで、なんと言うんでしょうね……? こう、頼るべき場面で頼れなくて、頼らずに乗り越える場面で頼ってしまうというか……連携の不均衡があると思うんです」
あなたはフィリアの言うところに思い至るところがあった。
たしかに、三々五々に動いてしまっている場面がある。
レインは積極的に魔法を使って戦闘し、魔法を使うほどでなければ石を投げるなどする。
しかし、前衛だけで片付くだろう、という場面でも積極的に攻撃してしまっている面もある。
前衛に丸投げしてしまっていい場面で、自分も参戦する。悪いとは言わないが、よいとも言えない。
サシャも同様に、後衛を気にし過ぎているという面があるだろう。
あなたの投石が誤射されたら即死なので、気にしてしまうのも分かるのだが。
前衛のラインに固執し過ぎているというのもあるだろう。
突っ込むべき場面で突っ込めない、というのは危ういところがある。
同等程度の力量の持ち主たちで、ゆっくりと歩んでいけば解決される問題かもしれない。
しかし、あなたたちはどうしても同等程度の力量の持ち主ではない。
あなたが前衛の剣士として戦うというのも、よろしくはないのかもしれない。
前衛が突破されるかもしれない、という緊張感がレインにはない。
フィリアもその緊張感は感じていないかもしれないが、突破された場合にどう動くかという戦術のベースはあるだろう。
絶対的な強者であるあなたを前衛にすることに慣れると、混戦になった場合に致命的な隙を晒しかねない。
「正直、これってレインさんやサシャちゃんが努力してどうこうなる問題じゃないと思うんです」
痛くなければ覚えないという言葉もあるので、その点は言えている。
実際にその状況に放り込まれなければ、その状況に慣れることはない。
かと言って、その状況に意図的に放り込むというのもむずかしいだろう。
「まぁ、訓練で改善されるならそれが最善なので……しばらく、訓練に専念してみますか?」
あなたはとりあえずそれが無難な対応だろうと頷いた。
宿に戻り、レインは即座にベッドの住人となった。昨晩は風呂にも入らなかったが、大丈夫だろうか?
フィリアは朝のお祈りをした後は、昨日放り出したワンドの作成を続けるとのこと。
そして、あなたはサシャに手を引かれて町中に繰り出していた。
「ひどいです、ひどいです。ご主人様はひどいです」
サシャがぶちぶちと文句を言うが、そこまでひどいことをしただろうか。
たしかに、一昨日サシャにはお預けをしてしまった。
さらに昨日はレインに誘われるまま巨人族の集落に行き、流れで泊まってしまった。
「ご主人様のことだから、きっとカイラさんに手を出しましたよね」
鋭い。あなたは眼を反らしつつも、肯定した。
「私は我慢したのに」
仕方のないこととは言え、これはあなたが悪い。
全面的に分が悪いので、あなたは言い訳せずに謝った。
「きっと、昨日はご主人様が早く帰って来て、たくさん埋め合わせをしてくれるんだろうなぁって、ずーっと待ってたんですよ」
そう言えば、そうなのである。あなたの顔色が悪くなった。
あなたはサシャに、明日たくさん遊ぼうね、と言ってカイラと共に出掛けたのだ。
「帰って来たのはすっかり日が昇ってからでしたね」
朝にセリナと遭遇し、朝食をいっしょに食べ、そのあとはのんきに試合をした。
しかも、あなたはそのまま大豆を買って来て、ショウユの試作などをした。
「しかも、私のことは放って、ショウユを作り出してましたよね」
全面的に分が悪いというか、普通に全面的にあなたが悪かった。
サシャとの約束を忘れて、あなたは遊んでいたのである。
「午後から、きっと素敵なことをしてくれるんだろうなぁって、思ってたのに」
あなたはもう平謝りである。なにもかもあなたが悪い。
こんな大失態を犯すのは滅多にないことである。
この大陸に慣れだして、気が緩んでいたのだろうか。
「レインさんに誘われて、巨人族の村に遊びに行って……まぁ、それは私も楽しかったですけど」
その点は認めるらしい。
「でも、寝る前には町に戻って、どこかの宿ですっごく優しく可愛がってくれるんだろうなぁって……思ってたのに」
あなたはドゲザした。100%の降伏を示す姿勢である。
普段ウカノにしかしないが、これ以外の方法などない。
あなたも一応女なので女心は世の男性よりもわかる。
寂しがらせてしまったり、怒らせてしまった時、宥める方法も分かる。
だが、これはあなたが全面的に悪いのだから、まず謝意を示す以外にできることがない。
「私のことを大事だって、可愛いって言ってくれたのも嘘だったんですよね」
それは違う。あなたは必死で弁解した。
サシャのことが大事なのは決して嘘ではない。
「でも、私との約束は忘れてたんですよね。他の女と楽しいことをして帰って来たんですよね」
あなたはもう泣きそうである。
サシャのことが大事なのは本当だ。
だが、この状況ではどう弁解しても嘘くさい。
せめて、サシャに連れ出される前に、サシャに謝ってから埋め合わせに出掛けていれば違った。
だが、あなたはサシャに連れ出され、指摘されるまでそれを忘れていたのだ。
あなたはサシャが昨日集めた話を纏める時間が必要だろうと、1人で出掛けるつもりだった。
そんなことをしていたら、もう口すら聞いてもらえなかったかもしれない。
そう言う意味ではこの状況は最悪ではないのだが、最悪に近いのはたしかだ。
とにかくあなたは必死で謝った。持てる限りの言葉を尽くして謝った。
「どうせ、ご主人様にとって私なんて何十人といる女の1人に過ぎないんですもんね」
などと言いながら笑うサシャの眼は酷く冷ややかだった。
粉をかけている女はこの大陸だけでも既に100人を突破しているなどと言い出したら、もう許してくれそうにない。
「ああ、そっか」
突然サシャがなにか納得したような顔をした。
「私、ご主人様がいないともう生きていけない、なんて言っちゃいましたもんね」
たしかに言った。あなたはついにサシャが堕ちたと喜んだ。
あまりに可愛すぎて、そのままたくさん可愛がったくらいだ。
「釣った魚にエサをやらないタイプなんですね、ご主人様って」
状況があなたにとってあまりにも不利であり過ぎた。
それがあった当日を除けば、それからサシャを抱いていない。
そう言う意味で言えば、サシャに対して興味を失ったように見られても仕方ない。
まだ大して日数も経っていないのだが、そうだと言われて否定する要素がない。
そもそも論理的に説明したところで納得してくれるとは思えない。
サシャは理性的な少女だが、常に理性的であるとは限らないのが人間だ。
「あ、見てください、書店がありますよ」
サシャが指差す先にはたしかに書店があった。
あなたが以前にサシャに本を全て買い与えた店とは違う店だった。
埋め合わせに本を買って欲しいと言うことだろうか。それならば喜んで全て買い上げる。
「でも関係ないですね。私になにか買い与えても無駄になりますもんね。うん、いいんですよ、それで。所詮、奴隷ですから」
あなたは書店ごと買ってあげると弁解した。
それができるだけの金は持っている。
しかし、それをしたところで許してくれるだろうか?
ただ物を買い与えるだけで納得してくれるとは思えない。
「お店ごと買ってもらっても、困りますね。お店を持ってても、しょうがないですから」
まさにその通りである。あなたは先走ったことを理解した。
「無理しなくていいんですよ、ご主人様。もう、私に銅貨1枚だって使うのも惜しいですもんね」
そんなことはない。サシャのためならなんだってする。
あなたは必死で弁解した。泣きそうというか、もう泣いていた。
どうしたら自分の愛をサシャに理解してもらえるか、考えても分からない。
なにより考えている時間があるのかどうか。
考え抜いている間にサシャに嫌われたらあなたはもう立ち直れない。
この大陸に来てすぐに買った、かわいいかわいいペット。
あなたに甘える姿も、ベッドの中で乱れる姿もかわいい。
それが、あなたにベッドに誘われたら義務的にベッドに入り、ことが終わったらさっさと出て行くようになったら。
あなたに甘えることをしなくなり、ただ奴隷と主人と言う義務的な関係だけになったら。
その考えるだけでも恐ろしい想像が、もしも現実になったりしたら。
『ナイン』で全部吹っ飛ばしたら、少しは気が晴れるかもしれない。
あなたは完全に自暴自棄に陥り、この大陸のあらゆる町を『ナイン』で吹き飛ばし出すだろう。
と言うかなんだったら、この大陸なら問題ないからと『てのひらのはめつ』を使うかもしれない。
さぞや見事に大陸が抉り飛ばされることだろう。たぶんこの星そのものが終わる。
「ふー……ご主人様、許して欲しいですか?」
どうか許してください。あなたはサシャが慈悲を垂れてくれることを願った。
サシャの雰囲気と言うか、調子が変わったことを感じながら、あなたは誠心誠意謝った。
「じゃあ、今日こそ、たくさん遊んでくれますか?」
あなたは頷いた。可愛いサシャと遊びたい。
「待たせた分、たくさん可愛がってくれますか?」
あなたはたくさん可愛がると答えた。
サシャを可愛がるだけで許してもらえるなら、こんなにうれしいことはない。
「ふふ……じゃあ、許してあげます」
そう言って微笑むサシャの姿はいつも通りのものだった。
先ほどまでの冷ややかな眼はなんだったのだろうというくらい、いつも通りである。
女とは生まれながらの女優である。
よくよく知っていたことであるが。
しかし、市井育ちの、純朴な少女までもがあそこまでの演技をするとは。
戦慄を禁じ得ないことであるが、あなたはむしろ燃えた。
あなたにあんな演技をするくらい、サシャはあなたに夢中なのだ。
可愛がってもらえなかったから、愛を試すためにあなたに冷ややかな態度を取った。
こんな面倒臭い女は要らない、などと言い出さないか、サシャは怖かったことだろう。
あるいは、あなたがそんなことを言うはずがない、と信じていたのかもしれない。
どちらにせよ、サシャはあなたの愛が欲しくて欲しくてたまらなかったのだ。
愛を試すというのは、繰り返し過ぎれば、その愛のあり方を喪う行いだとあなたは知っている。
だが、的確に行うことで、より強く、より大きく、その愛を燃え上がらせることもできると知っていた。
サシャがそれを理解してやったとは思えないが、まさに的確な行動だったと言える。
たしかに、サシャがあなたに堕ちたことで、あなたに安心した部分がなかったとは言えない。
その点で言えば、サシャの行動はあなたのサシャに対する執着心を燃え上がらせる行いだった。
サシャはあなたに夢中だったが、あなたはサシャに夢中ではなかったかもしれない。
しかし、サシャの行動で、あなたはサシャに夢中になってしまった。
サシャ一筋になるかと言えばそれは別の話だが、あなたにとってサシャと言う少女がより一層重要な存在になったのは確かだ。
あなたはその可愛くて夢中のサシャを抱き上げると、『雪輝晶の夢亭』へと向かった。
いい宿で、蕩けるくらいに甘い時間を過ごすのだ。
そして、そろそろいいだろうと目星をつけていた行為にも手を出す。
今まではサシャを可愛がり、蕩けさせるだけだった。
一流のタチであるあなたにとっては、それだけでも十分満足できる。
だが、そろそろサシャも慣れて来た。
あなたも楽しんでもいい頃だろう。
まずは細めのやつから。やがては太めのやつまで。
本当の意味でサシャとしたい……あなたがそう囁くと、サシャは顔を赤くした。
「あ、その……フィリアさんにやったっていう……その、お、男の人のものを象ったやつを……」
あなたは頷いた。
「わぁ……い、いつされるんだろうって、ずっと思ってて……私、待ってました……」
サシャを大事に思っていたからこそサシャが慣れるのを待っていたが。
それはある意味でサシャを不安にさせてしまっていたのかもしれない。
サシャはずっとあなたの女になりたかったのだ。少なくともあなたはそう理解した。
あなたは脳が沸騰しそうなほどの興奮を感じながら、サシャに謝った。
「あ、えと、ご、ご主人様が、その……私のことを、大事に思っていてくれたのは、分かってて……わ、私、まだ小さいですから……その、初めては痛いって言うのも、小さいと余計にって……だからその……」
しどろもどろになりながら弁解するサシャはかわいい。
あなたはサシャはもう立派な大人の女になったと伝えた。
少なくとも、指が2本入るから問題ない。
「はぅ……い、いっぱい、かわいがって、ください。その、ご主人様も、もう、がまんしないで、ください」
あなたの最後の理性のタガが外れた。
もう我慢できるわけなかった。
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