21話
カイラを入念に可愛がり、もう二度とあなた無しでは生きていけないほどに乱れさせた。
甘く可愛がりつつも、プレイ自体は割と激しめにいった。道具も使った。
カイラは未経験のため一番細いものを使ったが、満足いただけたようだった。
「ふふふっ、ああ……私、あなたの女にされちゃいました」
ベッドの中で抱き着いてくるカイラはそんなかわいいことを言う。
やはり、挿れられるとなにか感覚的には違うものなのだろう。
男性に準えて考えると、特に不自然な感覚でもないが。
「好き……好きです……私のあなた……私の全部を、あなたにあげますから……」
抱き着いてくるカイラは可愛らしい。
だが、その求めに応じることはできない。
カイラが全てを捧げても、あなたはカイラに全てを捧げてやれない。
強欲だが、それがあなたと言う人間なのだ。
1人の女の子のために全てを懸けて戦うことはできても。
その1人の女の子のために全てを捧げることはできない。
「ふふ……そうですよね……分かってました……」
悲しそうにしながらも、カイラは理解は示してくれた。
「本当に悪いひと……まるで、おとぎ話の妖精みたいに無邪気で残酷……そのくせ、人を呑むくらい魅力的なんだから……」
そう言われても困ってしまう。人を呑む、と言う部分はあなた自身にもよく分からない。
だが、そう言う部分が自分にあるらしい、と言うことはあなたも知っている。
そして、それはあなたが自分の父から受け継いだ側面なのだろうとも知っていた。
あなたの父は、大きな二面性を持つヒトだった。
太陽のような暖かさと、月の冷たい輝きのような悲しみを胸の内に抱えるヒト。
その悲しみは誰とも分かち合うことができないほどに大きく、重い。
エルグランドの空から大地を睥睨する双子の月を見上げるあなたの父の背中は酷く悲し気に見えた。
双子の月に、なにか思うところがあったのか。あるいは、双子の月に何か思い入れがあったのか。
そんな姿を見ていると、自分だけがこの人を理解してあげられる……そんな想いを抱かせるヒト。
女に対しては極悪人である、とあなたの母は父を評していたが、まさにその通りである。
あなたも大差ないが、あなたの父も相当な女たらしだったのである。本当に、悪いヒトだった。
「私だけのものにはなってくれないくせに、離れ難いなんて、ほんとうにひどい人」
言いながらカイラがあなたの胸を突く。やや痛い。
「朝までは、私だけのあなただから……抱き締めて……」
あなたは言われるがまま、カイラを抱き締めた。
耳元で、可愛いね、と囁き、その背を指先で撫ぜる。
「ん……朝になったら、いつもの私に、なりますから……いまだけは……」
朝まではあなたはカイラの王子様で、カイラはあなたのお姫様なのだ。
それは酷く残酷なことかもしれないが、それを求めたのはカイラで。それに応じたのは、あなただった。
朝になると、名残惜しそうにしながらもカイラはあなたの腕から離れた。
お互いに身支度を整え、1週間後にはサシャの剣を用意すると確約して去っていった。
寂しいようなそんな気持ちになりつつも、あなたは宿へと向かって歩き出した。
このソーラスの町では異種族の姿を割合とよく見かける。
エルグランドでは明白な敵対種族として知られる者もいるため、若干驚くこともある。
大陸が違えば文化や風習も異なるとは言え、中々に慣れさせてくれないものだ。
そう言う意味で言えば、ボルボレスアスの民たちの方がこの大陸では適応しやすいのかもしれない。
ボルボレスアスの人型種族は人間と竜人……俗にドラゴニュートと言われる種族だけである。
逆に言うと、ボルボレスアスの民たちは、相手をカタチで敵か否か判断する素地を持たない。
「お」
そんなことを考えながら歩いていたら、セリナとばったり遭遇した。
ハンターズのメンバーだという、物凄いドスケベな衣装を着こなす少女。
あなたは手を挙げてあいさつをすると、カイラの紹介の件について礼を述べた。
「ああ、カイラか。なに、ただの礼だからな、気にするな……なんだ、変な顔で見るな」
変な顔もしようものである。今日のセリナは随分とまともな恰好をしている。
洗いざらしと言った様子のチュニックに、なんの変哲もないズボン。そして足元はサンダル。
そこら辺を歩いている市民の娘と言った様子だ。先日の娼婦でも着そうにないすごい恰好はどうしたのだろう。
「あれは一張羅だからな。普段着はこんなものだ」
あれが一張羅なのか。あなたは変な顔になった。
あれでもセリナは失礼が無いようにバッチリとキメていたらしい。
あんなスケベな格好、無礼だと思わないのだろうか。いろんな意味で。
「まぁ、いい。どうだ、朝飯でも食わんか」
あなたはセリナの誘いに頷いた。誘われて断る道理がない。
セリナに誘われた先は、普段サシャと訓練などしている広場だ。
そこはいつもの様子と異なり、物凄い数の屋台が立ち並んでいる。
「冒険者は自分で飯なんぞ作らんからな。朝方の屋台街の賑わいはこんなものだ。あそこのババァのスープがうまいんだ」
とのことで、あなたはセリナの示した屋台へと向かってみる。
するとなるほど、皺くちゃの老婆が鍋を掻き回しており、ぷぅんと濃厚な匂いが立ち込めている。
なにやら妙なくらいに腹が減って来る香りである。
「婆さん、スープ2つ」
「はいよぉ」
老婆はセリナの注文に笑顔で答え、震える手でスープボウルにスープを注ぐ。
セリナが金を払い、あなたへとボウルをひとつ寄越して来たので受け取る。
具は、薄切りにしたリーキのようなものが少しばかり入っているだけである。
メインのスープと言うより添え物と言った雰囲気のスープである。
「このスープはな、あそこのポロといっしょに食うと最強になる」
最強。なにやら凄い表現が出て来たものである。
気になったあなたは、肝っ玉お母ちゃんと言った雰囲気の女性がやっている屋台でポロとやらを購入してみた。
なんの葉か不明だが、大きな葉っぱに乗せられた米料理が山盛りで供された。
こんなに山盛りなのに、一皿あたり銅貨2枚らしい。
セリナの分とあなたの分を手に、そこら中にあるテーブルに適当に腰かける。
ポロと言うのは羊肉をメインに使った米料理のようだ。
ニンジンとタマネギが混ぜ込まれており、味の予想がつきそうなシンプルな料理だ。
あなたは『ポケット』から食器を取り出し、ポロとやらに手を付けてみる。
なるほど、素朴な味と言うか、なんと言うか。
もっと美味しくする方法はいくらでも思いつく味だった。
ただ、それをするとコストが大幅に増えるだろう。
あの値段で供するには適当な具合なのかもしれない。
「ポロだけだと物足りんさ。だから、そのスープを飲みながら食うんだ」
なるほど、スープは調味料として使えということだったらしい。
あなたは言われた通り、スープを口にしてみる。
あなたは思わずうなった。強烈なまでにうまい。
濃厚な旨味があるが、味自体はそこまで濃厚ではない。
味そのものはシンプルで、基本は塩気。旨味が強烈なのだ。
質のいい油は鶏のそれのようだが、鳥肉はひとかけらも見当たらない。
たっぷりの旨味だけを溶かし込み、そこに塩気と、独特の香ばしさのようなものを加えている。
「ポロを食ってな、スープを飲むと……うまい……」
あなたはセリナの食べ方を真似した。なるほど、うまい。
ポロに足りない塩気と旨味をスープが齎してくれる。
スープ単体で飲むには味が濃すぎるが、味わいの淡白なコメによく合う。
この大陸は地味に食事が美味い気がする。美食家が多いのだろうか。
朝から食べるには幾分か重いメニューのような気もするが、昨晩激しく運動したあなたに塩気の強いスープが実に美味に感じられた。
米のじんわりと活力になってくれる感じが頼もしい。
感覚的なものだが、米はエネルギー効率がパンよりも優れている気がする。
即効性で活力になるのはパンだが、米は長持ちしてくれる感じがするのだ。
どちらがいい悪いとかではなく、使い分けるべきものだと思われる。
朝からしっかり食べて、なにやらひと心地ついた。
やはり、激しい運動をした朝には活力を得られる食事が必要だ。
「腹ごなしにどうだ」
そう言ってセリナが木剣をどこからともなく取り出して見せた。
本当にどこからともなく取り出したが、一体なにをどうやったのだろう。
『ポケット』を使ったなら分かるのだが、セリナには魔法を使った気配がない。
不思議に思いつつも、冒険者の手札についてアレコレ詮索するのはよろしくないため、あなたは何も聞かずに木剣を受け取った。
スープボウルを老婆に返した後、あなたとセリナは広場の方へと向かい、木剣を手に対峙した。
合図はない。自然と、セリナの纏う気配が鋭いものとなり、開始の合図となっていた。
ひどくやりにくい相手だなとあなたは内心で眉を顰めた。
セリナの剣技の傾向は何となく察していたものの、対峙したことでよく分かった。
セリナの剣技は剣先を取り合う類のものであり、間合いの制圧と侵略に根底がある。
あなたの剣は機と猛攻にある。間合いを伺いつつも、それを一気に食い破る。
セリナのそれとは真逆のそれであり、このタイプのかち合いは純粋な技量のみで結果を測れなくなる。
セリナは木剣を手に、ゆるりと構えている。いや、本当に構えているのだろうか?
無造作に立っているような気もするし、カウンター狙いの構えを取っているようにも見える。
試合の場だというのに、奇妙なくらいに、ゆるい。
まるで風に揺れる草のように、しなやかだ。
そのくせ、雰囲気と言うか、気配が、嫌なくらいに鋭い。
何をしでかすか分からない怖さがある。
対峙したことが無いタイプの剣士だ。
ただ構えていてもジリ貧なので、あなたはセリナが瞬きをした瞬間を狙って切りかかった。
何をしてくるか分からないなら、なにもできないような勢いで斬り付けるしかない。
剣の根元どころか、柄で斬り付けるくらいに肉薄し、大上段から一気に振り下ろす。
セリナが僅かに身を躱し、そして、剣を差し出してくる。
その防御ごと押し潰す。あなたは剣が折れない程度に力を込めて振り抜いた。
そして、その一撃はあっけなく捌かれた。
異様な感触だった。剣と剣が触れ合った感触とは思えない柔らかさ。
剣の軌道が逸らされ、それを腕力で力づくで補正すると、あなたは追撃を放つ。
その剣戟もまた逸らされ、いなされていく。なるほど、全然通らない。
防御かと言われると、違う気がする。
だが、攻撃の事前準備かと言うと、それも違う気がする。
ではこれは何なのかと言われると、分からない。
おそらく、セリナの用いる武技においてはなにかしらの理由がある術利なのだろう。
どうにせよ、これはとにもかくにも死ぬほどやり難い。
攻め続けている限り負けはしないが、かと言って勝てるわけでもない。
セリナの消耗を狙えばなんとかなるかもしれないが、苦労して捌いていると言った調子ではない。
半日くらい攻め続ければ違うかもしれないが、そこまで時間を使っていられない。
セリナの反撃が時折飛んで来るが、適当に避ける。
前兆と言うか、攻撃の予備動作と言うか、そう言うものがまるでない。
眼で見ていないと、来ると分からない攻撃だ。
元々、眼で見て戦っているあなたには関係ないが。
まぁ、常人では絶対に回避も防御も不可能な速度なのだが。
あなたは常人ではないので関係ない。あなたが速度を全開にすればセリナにセクハラをし尽くしてからでも避けられるくらい余裕だ。
普通なら、試合だから意図的に受けるのだが。
技術で負けたなら、分かりやすくそれを示すために。
だが、あなたはその選択肢をハナから除外していた。
当たったら絶対にヤバいという勘が働いているのだ。
なぜかは分からない。だが、とにかく当たったらヤバい。
気のせいかもしれないが、あなたは自分の勘には基本的に従う。
自分の勘を無視すると大体痛い目に遭うのだ。だからこそあなたは勘に従う。
冒険者ギルドの受付や、貴族の令嬢に手を出してはいけないというのも勘にビンビン来る。
ビンビン来る癖に散々痛い目に遭ってきたからあなたの愚かさが分かる。
あなたとセリナの試合はそれから少しして終わった。
「ええい! ラチがあかん! 日が暮れるわ! じゃんけんだ! じゃんけんで決めるぞ!」
セリナがキレて、試合の勝敗はじゃんけんで決めることになった。
あなたもいい加減飽きて来たので、その提案に頷き、あなたは試合に負けた。
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