17話

 ウカノへの信仰を新たにし、レインとフィリアにあれこれと語った後、あなたたちは就寝した。

 何分、冒険に挑んだ当日であるからして、みな疲れていたのである。

 サシャは本当に嬉しそうに瑞穂狐を抱いて眠りについた。

 あなたはそのサシャを抱き締めて眠りについた。





 あなたは体の違和感で目覚めた。

 眼を開けると、部屋はまだ薄暗く、夜明けから間もなくと言った頃合いのようだ。

 視線を下へと下げると、そこではサシャがあなたにまたがって、あなたの服をはだけている姿があった。


「あ」


 眼が合い、バレちゃった、と言う感じの顔をするサシャ。

 なにやら眼が妙に爛々としているというか。あまり寝れていない感じだ。

 これはたぶん興奮し過ぎて眠りが浅かったのだろうとあなたは推察した。


 サシャは少し固まってから、何食わぬ顔であなたの服を解く作業に戻った。

 手が少し震えているので、緊張しているようだ。さぁ、なにをしてくれるのか。


 胸元が開かれ、やがて寝る時用の下着が露となる。

 味もそっけもないデザインの下着である。

 そして、サシャの手があなたの下着の中へと潜り込んで来た。


「はぁ……ご主人様の胸……すごく柔らかい……」


 陶然とした声でサシャが呟く。あなたの魅惑のバストにサシャは夢中なようだ。

 手は探るように優しい手つきであなたの乳房を撫ぜて行く。

 そのもどかしい感触にあなたは思わず身を捩ると、サシャの手が止まった。

 そしてあなたの様子を伺ってから、サシャの手が再び動き出す。


 あなたの吐息が次第に熱く、そして荒くなっていく。

 朝からこんなに情熱的なことをしてくれるとは嬉しい限りである。

 積極的なサシャも悪くない。もちろんベッドに押し倒されて、可愛く受け入れるサシャも最高だ。


「硬くなってきましたね……」


 などと言いながら、サシャの指があなたの胸の頂点に触れる。

 んっ……と押し殺した声を発しながらあなたは身を捩った。


「……!」


 サシャがあなたに覆いかぶさって来た。

 そして、あなたの肌にサシャの熱い舌が這う感触。

 なんて情熱的なのだろうか! このまま本番まで行ってしまうのだろうか?


 レインとフィリアが寝ている横で、密やかに行われる秘め事。

 それはなんとも背徳的で魅惑的な行いだ。あなたは興奮した。


 そこであなたは足元のシーツを足の指先だけで蹴り上げ、自由になっている手で引っ掴んで体を覆った。

 突然シーツに包まれたサシャがびっくりして動きを止める。

 そして、横合いから聞こえて来た衣擦れの音にサシャが身を硬くした。


「うう、ん……もう朝……」


 寝ぼけた声でフィリアが呟きつつ、ベッドから身を起こしている。

 フィリアの朝は早い。ほとんど夜明けと同時に目を覚まし、身嗜みを整えてから朝の礼拝をする。

 たっぷりと1時間もかけて朝の礼拝を執り行うため、起床は夜明けと同時でも、活動の開始はみんなとさほど変わらない。


 あなたは眼を閉じて寝たふりをした。呼吸も穏やかに、ゆっくりと深い寝息のようなものへと。

 シーツの下でサシャも身を固めている。バレたらまずい、と思っているのだろう。


 あなたは別にバレても構いやしないと思っているのだが。

 こういう時はバレないように隠すのが楽しいのである。


「ふわぁ……んんっ……んーっ……! はぁっ」


 フィリアはベッドから降りて背伸びをしているようだ。

 そして、ごそごそと身支度を始めた。かばんを開いている音がする。

 寝間着から普段着に着替え、顔を洗いに行くのだろう。


 寝たふりをして着替えの鑑賞。なんとも捨てがたい行いだ。

 まぁ、べつにそれはいつでもできるので、今日はサシャとの秘め事を楽しみたい。


 サシャはバレていないことで安心したのか、動きは最小限にしつつもまた動き出した。

 熱く滑った舌があなたの肌を撫でて行く。そして、舌があなたの頂点に触れた。

 ぴくりと身を強張らせるあなた。わざとだ。バレそうなことをしてサシャの反応を楽しまなくては損である!

 まぁ、サシャが萎縮してやめてしまう可能性もあるのだが、そこはそれ。それはそれでいい! 後で続きをしてもらうので。


 サシャは一瞬動きを止めるも、フィリアが気付かずに着替えを続けているので、また動き出す。

 あなたの胸を這う舌。そして、サシャがほんのわずかに顔を動かすと、あなたの胸へと吸い付いた。


 んんっ……と声を漏らすあなた。


「お姉様?」


 フィリアが音量は絞りつつも、声をかけてくる。起きたのだと思ったのだろう。

 まぁ、起きてるのだが。と言うか普段からあなたは一番最初に目を覚ましている。

 まぁ、いっしょに寝ている相手を抱き締めたりしててだいたい最後までベッドの中にいるのだが。


 あなたは不自然でないように、んん……ん……などと唸って身を捩った。

 ただの寝返りに見せかけて動きつつも、シーツの下のサシャの姿はうまく隠す。

 朝や夜に幾多のイタズラを受けつつも、バレそうでバレないように反応して来たあなたの経験が光る。


 あなたの動きにフィリアもただの寝言と判断したようで、ふぅ、と小さく溜息を吐いて着替えに戻った。

 一方でサシャは大胆にもあなたを責め立て続けている。なんとエッチな……すばらしい……あなたは感動した。あなたは愚かだ。


 やがてフィリアが部屋から出て行くと、サシャがもぞりとシーツを上げた。


「えへへ……バレなかったですね」


 あなたはいたずらっ子サシャちゃんを抱き締めた。

 そして、あなたはサシャをベッドへと押し倒した。


「あぅ。ご主人様?」


 隣にまだレインが寝ている。そのようなことをあなたはサシャへと告げた。


「あ、はい」


 声を出してはいけないと命じるや、あなたはサシャの服を脱がし始めた。


「あぁ……が、がんばります……」


 攻守逆転である。やっぱりこういうのは双方向でやらなくては……。

 寝ている女の子にイタズラをするのは最高に楽しいのだ。

 サシャは十分楽しんだのだから、次はあなたが楽しむ番である。

 あなたをシーツを引っかぶると、サシャにいたずらをし始めるのだった。





 朝からたっぷりと秘め事を楽しみ、レインが起き出して来たところであなたとサシャもベッドから出た。

 たっぷりねっとりとイチャついたので、朝から気分充実と言ったところである。

 まぁ、さすがに最後まで出来なかったので欲求不満ではあるが、夜への期待度が高まったとも言える。


「にしても、エルグランドの神はあそこまで緻密に信徒に慈悲を施すのね……」


 スクランブルエッグに数枚のベーコン、そして季節の葉物野菜。

 そこに雑穀混じりのパンと、暖かいお茶と言う簡素な朝食を食べながら、レインが感心したように言う。


「すごいですよね、エルグランドの神……」


 はぁ……と切なげにフィリアは溜息を吐いている。

 こちらの大陸の横着な神々との落差でも感じているのだろうか。

 あなたはウカノの教えに改宗するなら大歓迎だと伝えておいた。


「あ、あはは……ま、まぁ、考えておきます……」


 やはり信仰心篤い修道女であるからか、色よい返事はもらえなかった。

 まぁ、激怒されなかっただけでも前向きな返事と言えるだろう。


「ウカノ様、か……」


 レインは何か考え込んでいる様子だ。

 改宗ならもちろん大歓迎である。


「……なにかこう、大がかりな儀式とかあるの?」


 そんなものはない。

 ウカノを第一の神とするという誓いを立てるだけだ。


「うーん……考えておく……」


 などと眉根を寄せながらスクランブルエッグをつつくレイン。

 存分に悩むべきだ。改宗と言うのはそれだけ大きなことなのだから。

 浮気性の男みたいに軽々に神を乗り換えるなど、神をも恐れぬ冒涜者だ。

 レリックだけいただいて回るなど許されることではない。まぁ、一定数いるのだが。


 恙なく朝食が終わり、レインは二度寝に向かった。疲れているようだ。

 フィリアはワンドの補充がしたいとのことで買い物に出て行った。

 あなたは瑞穂狐の使い心地を試したいというサシャの提案で広場に来ていた。


 広場の適当な場所で瑞穂狐を抜き払うサシャ。

 握ってみて、その使い心地を試す。


 短剣のおもしろいところは、逆手持ちと言う選択肢があることだ。

 長剣ではほぼありえない選択肢だが、短剣に限っては十分にあり得る選択肢だった。


「逆手持ちの利点ですか」


 あなたはサシャの鎖骨のあたりを指先でトントンと叩く。

 逆手持ちの場合、振り上げて振り下ろすというシンプルな動作を行った場合、正対した相手の鎖骨近辺に当たる。

 その場合、肋骨の防御に逸らされることなく短剣の刃先は心臓にまで達するのだ。

 もちろん鎖骨に弾かれる可能性もあるものの、肋骨の隙間を狙って突くより格段に心臓に達しやすい。

 また、体術を組み合わせる場合、逆手持ちの方が都合のいい場面などもある。

 長剣同士で戦いながら、相手の剣をいなした隙に一瞬で肉薄、短剣を抜いて喉元を一撃、と言う使い方でも逆手が基本となる。

 刺突を用いる際は逆手の方が力を振り絞りやすいので、短剣で防具を突破しながら刺突するなら逆手の方が強いのである。


 そのほか、手首の可動域の都合上、攻撃に用いるにあたっては逆手持ちの方が負担が小さい場面もある。

 肩がぶつかり合うほどの超インファイトの場面においては腕そのものを防御できるなど。

 また、揉み合うほどの近距離戦、あるいは体術を交えた戦闘では順手だと自分に刺さり易いという難点がある。


「なるほどー……長剣とはまた違った使い方が必要なんですね」


 短剣と言うのはまったくもって馬鹿に出来ない武装なのだ。

 至極立派なプレートメイルを纏っていても、きちんとした鋼鉄の短剣を突き立てれば貫通させることも可能だ。

 また、長剣のクリーンヒットであっても短剣を圧し折ることはできず、十分にガードができる。

 短剣を盾に近い立ち位置で用いる二刀流と言う選択肢も存在するのだ。


「短剣を盾に、ですか?」


 盾は携帯性が悪い。当たり前の話であるが。一方で、短剣の携帯性はそう悪くない。

 盾ほどの防御の可能性は与えてくれないが、短剣を盾にするのもアリなのだ。


 もっと明白に盾として運用する短剣として、ソードブレイカーなども存在する。

 まぁ、ソードブレイカーは戦場用とは言い難いが。

 携帯性を気にするところからわかるように、どちらかと言えば日常用の剣だ。


「ご主人様はどう使うんですか?」


 お守り。あなたはシンプルにそう答えた。

 あなたは瑞穂狐を武器として使うことは滅多にない。

 武器に備わる各種の予防効果が強力だから常に持っている。

 まぁ、敬愛する神から与えられた品だということも理由だが。


「な、なるほど」


 サシャもとりあえず持っておいて損はないだろう。

 使う使わないは別として、各種の強力な耐性効果があるのだ。


「でも、せっかく持ってるんですから使いたいですよ」


 であれば、まず長剣と同時に使うかを考えるべきだろう。

 短剣は短剣単体として使うのか、あるいは長剣と共に使うのか。

 長剣と共に使うことは想定せず、予備武装として短剣を使うのか。

 予備武装として使うにしても、長剣を喪った際のバックアップとするのか、長剣が適さない場面で代替として用いる第二の武器とするのか。

 どうであれ、長剣を喪った時の予備として短剣単体で戦う術は覚えるべきだろう。

 昨日の閉所での戦闘も、短剣を安心して使える技術を持っていれば長剣の使い方に悩む必要はなかったはずだ。


「たしかに、そうですね」


 サシャは真剣な顔で頷いた。

 戦うことにかけては向上心が旺盛で助かる。

 武器の技術は実戦で扱うのが一番上達が早い。

 基本的な扱い方はともかくとして、実戦的な運用は実戦でしか積めないものだ。


 つまり、今日もマロンちゃんに挑みに行こう。


「今日はいますかね?」


 いなければいないで適当な連中に挑めばいいのだ。

 マロンちゃんだけだと経験が偏る可能性も否めない。

 体格の良い相手、劣る相手、速い相手、遅い相手、色々とあるものだ。

 色んな敵を相手にすることは大事なのである。


「わかりました」


 そう言うわけであなたとサシャはマロンちゃんを探した。

 そして、そう苦労することもなくあなたはマロンちゃんを見つけ出した。

 先日と変わらず、指導者の少女ことベルもいた。


「まぁ、ご友人様。今日は来ていただけたのですね。闘士様も心待ちにしておりました」


 どう見てもそう言う風には見えないのだが、ベルが言うからにはそうなのだろう。

 マロンちゃんは常と変わらず茫洋とした眼付きで佇んでいる。


「挑戦料は銀貨1枚だ」


 友好を深めるでもなく、シンプルに金を要求された。

 あなたは先日と同じく銀貨を5枚払うと、サシャとの試合を要求した。


「ああ……わざわざ金を払って嬲られに来るとは、おまえたちも些かばかり狂っているな」


 べつに嬲られるのが主目的ではないのだが。

 ともあれ、あなたはサシャに挑むように促した。


「はい! 今日も胸をお借りします、マロンさん!」


 サシャが短剣を片手に挑む。

 あなたはその後ろで、短剣を用いる際の勘所についてちょくちょくアドバイスをする。


 短剣は短いため、心理的な作用として相手を突き離そうと刺突を選びやすい。

 これは長柄の槍などを用いる際にも顕著に表れるのだが。

 刺突を選ぶことが悪いのではなく、無暗に刺突を使うのがよろしくない。


 刺突は強力だ。だが、強力な分だけ隙も大きい。

 極めた刺突は恐るべき一撃だが、素人の刺突は隙を晒すに等しい。

 破れかぶれの一撃と言うなら悪くないが、無暗に使うものではない。

 まぁ、破れかぶれそのものがナシと言うことなら、そもそも刺突は磨くまで使うなと言うことになる。


 短剣は小回りの良さと、その取り回しの良さから来る手数が最も恐ろしい。

 たしかに致命に至る傷を与えるのには向かない武器であるが、できないわけではない。

 懐に潜り込んでの超近接戦における小回りの良さも恐ろしいものである。


 咄嗟に退こうとした相手の腿を切り裂くなどの小技も忘れてはいけない。

 咄嗟に下がると、どうしても上体が先に逃げるということになりがちなのである。

 腿を斬られれば場合によっては死に至ることもあるのだ。足を置いていってはいけない。


「な、なる、ほど!」


 マロンちゃんにボコにされつつも、サシャは一生懸命あなたのアドバイスを聞いて戦っている。

 あなたはうんうんと頷く。ボコられながら強くなる。何事も楽な道などないのだ。頑張って欲しいものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る