第90話

「『ミラクルウィッシュ』ね……凄まじい魔法もあったものね」


 しばらくして起床したレインに眠気覚ましの茶を飲ませながら、あなたは『ミラクルウィッシュ』について話した。

 願いの叶う杖。シンプルなだけに、人々の欲望を如実に表す。

 あなたも散々欲望を叶えるために使いに使いまくったものである。


「いったいどれくらいのことができるの?」


 あなたはテーブルに置いてあったワンドを手に取る。

 ダイヤモンドの埋め込まれた、素晴らしい装飾のワンドだ。

 これ単体でも十分に美術品としての価値があり、使用済みでも高値で売れる。


 あなたは『ミラクルウィッシュ』のワンドを振る。

 すると、あなたの脳裏に願いの女神の声が届いてくる。


『さぁ、願いを言いなさい! どんな願いでも、私に可能なことなら1つだけ叶えてあげましょう!』


 なんか微妙に予防線を張って来る願いの女神に対し、あなたは答えた。

 つまり、レインのパンティおーくれ、である。


 ふわり、と舞い降りて来たのは薄緑色をした、シンプルなレースの装飾がされたパンティだ。

 実に分かっている。あなたは深くうなずくと、それを懐に仕舞った。


「あんたって人はー!」


 レインのグーがあなたに炸裂した。痛くもかゆくもなかった。


「えっと……貴重な品をそんなことに使っていいんですか?」


 あなたは再度杖を振り、願いの女神に対し、願った。

 つまり、フィリアのブラジャーおーくれ、である。


 ふわり、と舞い降りて来たのは、実にでかいブラジャーだった。

 まぁ、あなたが作ったものなのでサイズは把握しているわけだが。

 やはり、メートル超えというのは迫力が違う。あなたは頷くと、それに顔を埋めて深呼吸をした。

 深い森の中で、早朝に深呼吸をしたような、そんな爽やかで満たされるような心地になった。


「お、お姉様ぁ!」


 フィリアが顔を真っ赤にしてあなたをポカポカと叩く。むしろ気持ちよかった。


「ご主人様が軽々しく使うということは、貴重ではあってもご主人様にとってはそうでもない、ということなんでしょうか」


 あなたは杖を振ると、切なる願いを声高に叫んだ。

 つまり、サシャのパンティとブラジャーおーくれ、である。


 ふわり、と舞い降りて来たのはあなたがサシャに用意した下着のセットである。

 白と黒のラインが入った上下のセットは可愛らしく、だからこそなにやら淫靡であった。

 ボーダーとは実に分かっている。幼げな娘にはボーダーの下着が似合う……!


「もうっ! もぉぉぉお!」


 サシャがぽかぽかとあなたを殴る。凄まじい威力だ。

 そこらの一般人なら一撃で殴り殺せる威力が込められている。

 まぁ、あなたにとってはレインのグーと大差ないが。


 この杖を使って相手を少年にし、性の手ほどきをする、のような楽しみ方もある。

 まぁ、あなたはおおむねの場合、美少年を美少女にして食うのに使っていたが。


「性転換……ね」


 レインが難しい顔をする。

 あなたは思い当たることがあったため、レインに諭すように言った。

 挿入されている女を男にすると大変なことになるので絶対にやってはいけない、と。


「しないわよ! そんなこと考えてもいないわよ! あなた馬鹿じゃないの!?」


 そうだったのか。では一体何を考えていたのだろう。あなたは首を傾げた。


「ただちょっと、あのクズを女にして娼館に売り飛ばしたらさぞかし愉快だったと思っただけよ」


「うわぁ」


「な、なによ!」


「いえ、レインさんって結構、こう……いじめっこなんだなって」


 いじめっことはまた。随分可愛らしい言い方である。

 義理とは言え父を女にした挙句に娼館に売り飛ばすと、やっていることは鬼畜の所業そのものだが。

 まぁ、もしそうなったら確実に死ぬまで抱き潰したあなたが言えることではないだろうが。


「あ、あなたに鬼畜の所業って言われると、凄まじく悪いことをしている気になるわね……」


 なんでだろうか。あなたは不服を訴えた。


「その魔法があなたの変態性欲を満たす力があるのは分かったわ。情け容赦のない下着泥棒が出来ることもね。でも、他にはなにかないの?」


 分かりやすいものでいえばお金だろうか。金貨数万枚がもらえる。だれもそんなもったいない使い方はしないが。

 極めて貴重な物品などももらえるが、場合によってはもらえない。

 在庫切れだと説明されるので、願いの女神は与える品をあらかじめ在庫しているらしい。

 ちなみに、武具類を望むと素晴らしい逸品が手に入る。

 まぁ、あくまでも一般的な意味で素晴らしいという程度だが。


 若さを願うこともできれば、その逆もできる。

 健康な体を願えば如何なる病も怪我も癒す。

 空間転移、魔法の再現、種々様々な願いを叶えてもらえる。


 ただ、使い方に割とコツがいるので、自在に願いを叶えてもらうのは難しい。


「それ、使わせてもらえたりは……」


 さすがに貴重な品なので対価が必要であるとあなたは断った。

 先ほど実演して見せたのは、普通に3人の下着が欲しかっただけだ。


「極めてくだらないことに使われたものが貴重って言われても納得がいかないわね」


「ですね……」


 べつに力づくで3人から下着をひん剥いてもよかったのだが。

 さすがにそれは嫌だろうから、奇跡の力を使って手に入れたのだ。


「そのなんとも言えない気遣いが底知れないほどにムカつくわね。で、どうすればそれを使わせてくれるのよ」


 そこはレインの知恵に期待と言うことでどうだろうか?

 あなたはレインからどれだけのサービスを得られるかを期待してそのように言った。

 一晩ベッドで歓迎してくれれば喜んで使わせてあげるのだが、それを言っては面白くない。

 義務的にするのが嫌なわけではないが、やはりお互い同意の上で、双方が愉しむのが一番であるし。

 いや、義務的にする行為には、それはそれでなんとも言えないいやらしさがあって素晴らしいのだが……。


 さぁ、存分に自分を誘惑し、喜んで『ミラクルウィッシュ』のワンドを差し出させるがいい!

 あなたは勇者に挑まれる魔王の如く、両腕を広げてそんな宣言をした。


「くっ……! バカバカしいにもほどがあるけれど! 賞品が魅力的過ぎるのよ……!」


 レインが顔を歪ませながらそう叫ぶ。サシャたちも欲しそうな顔をしている。

 願いが叶う杖だ。欲しいのは当然と言えるだろう。

 冒険者たるもの存分に欲張るべきなのだ。

 変に賢いフリをして要らないなどと言う者は本当に何も貰えないものだ。

 だからあなたは誘惑して欲しいと声高に宣言しているのである。

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