第79話
あなたは昨晩禁欲をした後、朝イチで『明けの黄金亭』を尋ねていた。
ハンターズの定宿であり、ヤり納めの約束をしたメアリのいる宿だ。
ハンターズの仕事の予定の類は聞いているので、メアリがいるのも確認済み。
ハンターズは対大型モンスター専門の冒険者だ。
そのため、基本的には討伐依頼しか行わないし、自発的な冒険もほとんどしない。
そもそも、この辺りには若返りの手段を探してきているので、積極的に仕事もしていない。
ぶっちゃけた話をすると、ハンターズは大抵『明けの黄金亭』で飲んだくれている。
率直に言ってクズだが、まぁ、冒険者なんてそんなものかもしれない。
「お嬢様ぁー!」
店に入るやいなや、あなたの可愛いワンちゃんであるメアリが凄い勢いで駆け寄ってきた。
「会いたかったですお嬢様! 今日はどんなご用事でいらっしゃったんですか?」
ニコニコと笑顔でメアリがあなたの手を引き、いつものテーブルに連れて行かれる。
本当に懐かれたものである。今日は可愛いペットにいい報告が出来るので、あなたもうれしい。
「よう、おはよう」
「おはよう」
「おはようでござる、主殿」
「今日はどうしたんだ? 今日は私に可愛がらせてもらえるのか?」
アトリのお誘いは嬉しいが、今日はメアリとである。
あなたは席に着くと、各々にあいさつを返した後、用件を切り出した。
今日は冒険に出発する前の挨拶に来た。
「ああ、冒険に出るのね。王都にはもう帰らない感じか?」
帰る。冒険に出ると言っても、そこまで長期にはなるまい。
とは言え1か月やそこらは戻らないだろう。往復だけで15日は軽くかかる距離なのだ。
一応、今は2か月くらいを目安と言うことにしている。
「なるほど、2か月ね……なるほどね」
モモが難しそうな顔で何かを考えている。
「分かった。わざわざ教えてくれてありがとな。用件はそんだけか?」
一応モモに対してはそれだけになる。
「そうか。じゃあ、あんたの冒険の前途を祈って、乾杯するか!」
そう言って酒を注文しようとしたモモだが、あなたは断った。
「あれ、そうか。もしかしてもう出発する感じか? それならたしかに酒は入れん方がいいわな」
それもまた違う。あなたは隣にピッタリ寄り添って座っていたメアリの肩を抱いて引き寄せる。
そして、メアリに甘い声で囁いた。よく我慢できたご褒美に、たくさんたくさん……蕩けるくらいに可愛がってあげる、と。
「あ、わぁ……わぁぁ……お嬢様ぁ……」
感極まったようにメアリがあなたに抱き着いてきた。
メアリの細く柔らかな肢体の感触が心地いい。
「……ああ、そう。つまり、なんだ、メアリを貸して欲しいってことね。うん、好きにすれば……あの、この宿ではやらないでもらえる? 一晩くらいなら我慢すっけどさ……時間制限なしとか言ってたし、一晩じゃ済まんだろ?」
もちろんメアリを可愛がるために、最高の宿を一週間予約してある。
「そう、一週間……一週間!? え、おい、マジ……で、言ってる、よな」
「いいなぁ……でござる。主殿と一週間も……と、蕩けちゃうなぁ、そんなの……いいなぁ……でござる」
「ちょっと待て。私に蜘蛛の巣が張りそうな件についてはどうしてくれるんだ」
リンがそのように詰め寄って来るが、機会がなかったのでしかたがない。
家のメイドを全部平らげるのに夢中になっていたり、一部使用人を女にして食うなどで忙しかった。
まぁ、2か月後には帰ってくるので、それを楽しみにしておいて欲しい。
「なんで私は寝たこともない相手に放置プレイさせられてるんだ?」
「知らん。飲んだくれるのやめて自分磨きでもしてれば? もう、見た瞬間ジュンジュワーって感じにまで磨いとけ」
「そこまで行くと傾城傾国レベルでは……?」
ともあれ、メアリを借りていく同意は取れた。
あなたは可愛いワンちゃんの手を握って立ち上がる。
メアリはもう嬉し涙を流しながらもあなたについてくる。
「あー、メアリを壊さん程度に頼むぞ。立てそうになかったら、悪いがここまで連れて来てくれるか?」
宿を出ようとするあなたの背に、モモがそのように声をかけて来た。
あなたはモモに頷くと、颯爽と『明けの黄金亭』を出た。
「お嬢様っ、お嬢様っ。いっぱい可愛がってくれるんですよね……! 私、ずっとずっと我慢してたから、いっぱいご褒美、くれるんですよね?」
もちろんである。
メアリはもう眼は蕩けんばかりで肌は上気している。
こんなに美味しそうに仕上がったネコちゃんを最後の御馳走に食べる。
これはもうたまらない。
あなたも昨晩禁欲をしたので、もうはちきれそうだ。
一晩程度で何が禁欲だと言えばそうだが、あなたにとってはつらいことなのだ。
冒険中という例外を除けば、あなたが1人寝をするなど年に1回あるかないか。
そんなあなたが一晩自発的に禁欲をしたと言うのはそれくらい珍しいことなのだった。
今夜は眠れないな!
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