第75話

 あなたが下着を仕立てたり、合間にナンパをしたり、使用人を食ったりなどする傍ら、宣言通りに訓練も行っていた。


 冒険の中で使う技術には、実地でしか覚えられないものもある。

 一方で、町中で訓練できるものもある。施していたのは町中でも出来るもの。


 つまりは開錠技術。壁などの掘削技術。気配察知、罠察知、罠解除。

 そうした、一見して非常に地味な。華々しい冒険譚を夢に描く者には好まれない技術だ。

 だが、冒険とは地味なものだ。いつだって華々しい活躍があるとは限らない。


 あなただって、ロックピックを数百本ダメにしたり、罠にかかって壁の中に叩き込まれたりなどして来た。

 死んだ魚のように濁った眼になるまで武器の訓練をしたり、魔法を唱え続けたりもした。


 そんな地道な積み重ねがあって、今のあなたがある。

 基礎や基本、その積み重ねを怠るものに栄光などありはしないのだ。


「ご主人様、できました!」


 いまは開錠の技術を教えている。

 適当に錠前を買って来て、片っ端から開けさせている。

 ちんけな鍵でも初心者にはなかなか難しいものだ。


 開錠技術と言うのは基本を教えたら、あとは地道に磨くしかない。

 本を読んで勉強したりもいいが、やはり実際に開けるのが一番早く身につく。


 10個の錠前を開錠できたことをサシャが報告してきたので、あなたはサシャを褒めた。

 あなたは基本、ペットは褒めて伸ばすタイプである。ご褒美もたっぷりあげる。

 人によっては付け上がるからほどほどにしろ、と苦言を呈したりもするが、あなたはこのやり方を変えない。

 調子に乗ったらベッドの中で分からせるので、むしろ付け上がって欲しいまである。


 あなたはサシャに、よくできたのでいつものようにご褒美をあげようと提案した。

 訓練で物を与えていてはキリがないため、訓練成功のご褒美はささやかなものだ。

 夕食のメニューの希望を聞くとか、下着のデザインを凝ったりとか、そのくらい。

 なにがいいかを尋ねると、サシャはちょっと考えてから、提案した。


「その、では……ご主人様、じっとしていてもらえますか?」


 そんなサシャの提案にあなたは目を丸くし、頷いた。

 いったいなにをしてくれるのだろうか? 最高に楽しみだった。


 仕立てていたサシャの下着を一旦机の上に置き、あなたはサシャに向けて椅子を動かして体を正対させる。

 サシャは緊張したような顔つきをしていて、深呼吸をしてから、よしっ、と意気込みを見せた。


 そして、サシャはよじよじとあなたの膝に上ると、ぎゅっと身を寄せて来た。

 サシャの甘酸っぱい少女の香りがなんともたまらない。もう最高。

 これで終わりなのだろうか? 抱き締め合うのもそれはそれで心地いいので嫌いではない。


 しかし、サシャはそっとあなたの頬に手を這わせると、その小さな手であなたの頬を包み込んだ。

 そして、眼を閉じて顔を寄せてくる。あなたも弁えたもので、そっと眼を閉じてサシャを受け入れた。


「ん……ちゅ……」


 まだまだ拙くて、勢いばっかりが先行した、なんともへたくそなキスだ。

 だが、それがいい。むしろ、不慣れな少女が一生懸命がんばっている感じがしてたまらない。


 おずおずと、おっかなびっくりにサシャがあなたの口内へと舌を滑り込ませて来る。

 あなたはされるがままにサシャの舌を受け入れると、サシャが舌を絡めて来た。

 サシャがここまでしてくれるなんて! あなたは感激に震えながら、サシャと濃厚なキスを交わした。


「ぁ……れろ、ん、は……」


 触れている個所から、サシャの鼓動が聞こえてくる。

 どきどきと強く早い鼓動は、サシャが緊張と興奮を感じている証だ。


「ん、ぷは……」


 サシャが唇を離すと、あなたとサシャの唇の間に唾液の糸がかかった。

 頬を赤く染めたサシャは照れ臭そうに笑うと、あなたを抱き締めた。


「え、えへへ……その……私から、しちゃいました。なんだか、恥ずかしいですね……」


 嬉しかったよ、とあなたは微笑んでサシャを抱き締め返した。

 あなたの膝に座るサシャの重みと、服越しに伝わる熱が心地よい。


「うぐっ、くっ……! くぅぅっ! あっ」


 一方、あなたとサシャの濃厚なキスシーンを見せつけられていたフィリアがロックピックをへし折った。

 あなたのペットはサシャとフィリアの2人なので、訓練を施すとなったらもちろんフィリアもいる。


 先にできた方がご褒美をもらえるのだ。

 鍵開けは大抵フィリアが負ける。不器用らしい。

 罠の解除などもフィリアは負ける。探知はフィリアの方がうまいが、サシャもそこまで劣るわけではない。

 壁の掘削はハーブによる増強のお蔭でサシャの方がうまいというか、膂力の分だけ早い。

 唯一、フィリアが安定して勝ち越すのが気配察知だ。冒険者としての年季の差だろう。


「うふふ……」


 フィリアに勝ち誇ったような顔をしているサシャもかわいいものだ。

 可愛いペットたちに取り合いの対象にされるのも胸が満たされる。

 やはりあなたも女なので、自分を巡って争う姿には自尊心などが満たされる心地がするのだ。


「その、ご主人様、よければ、今晩……」


 なんて、サシャにお誘いまでされてしまっては頷くしかない。

 あなたはもちろんと頷き、サシャにキスをした。


 愛を交わし合うあなたとサシャの姿に、フィリアは泣きながら開錠の訓練を続けていた。

 悔しさをバネにして頑張って欲しい。その時、ご褒美はフィリアのものである。


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