第70話
究極破壊兵器談義でだいぶ盛り上がったが、サシャも来たので準備の話をしたい。
あなたがそのように切り出すと、レインは頷いた。
「ええ、構わないわ」
「あの、ご主人様。フィリアさんは?」
そう言えば姿が見えないなとあなたはようやく思い至った。
いったいどこにいるのだろうか。たぶんこの家にはいるのだろうが。
ちょっと探してくるとあなたは席を立った。
サシャにはレインと必要なものがないか話し合って欲しいと命じた。
「わかりました」
「そうね、あなた色々と非常識だから、サシャと話し合った方が建設的かもしれないわ」
なにやら貶されたが、あなたは気にしなかった。
この大陸のことはよく知らないので、非常識なのはしかたないことだ。
水が貴重でないと知らなければ、あなたは大喜びで湖の水を樽で汲んだりとかしただろう。いや、エルグランドに帰る段になったらやるつもりだが。
「そう言うことじゃないわよ……」
「そうですね……」
どうやらそう言うことではないらしい。
あなたは首を傾げたが、気にしないことにした。
フィリアの使っている部屋へと向かうと、どうやらフィリアは中にいるようだ。
扉をノックして声をかけると、バタバタと中で準備をするような音がする。
「は、はい! あ、お姉様」
なにやらフィリアの顔が赤い。あなたは部屋の中を見やる。
ベッドが随分と乱れている。寝乱れている、と言った感じではない。
あなたはフィリアに顔を寄せると、すぅー、とフィリアを香った。
「あ、あの、その」
フィリアの纏う女の子らしい香り。
そして、その中にある、淫靡な香り。
乱れたベッド。上気したフィリア。
あなたは微笑むと、えっちな子だね、と耳元でささやいた。
「あぅ……そ、その……ごめんなさい……」
何も悪いことなどない。むしろいい。
えっちな女の子は最高でおじゃるな。
「だ、だって、お姉様が……サシャさんばっかり……」
拗ねているようだ。なんとも可愛らしい。
これは後で存分に可愛がってあげなくてはいけないだろう。
あなたは釣った魚には肥え太るほどにたっぷりとエサをやるタイプだった。
ともあれ、今は話し合いである。
シャワーを浴びてから談話室に来るようにと命じた。
「は、はいぃ……」
フィリアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
一緒にシャワーを浴びたい気持ちもあったが、さすがにレインとサシャをそこまで待たせるのは本意ではなかった。
談話室に戻ると、サシャとレインがあーでもないこーでもないと話し合っていた。
そもそも移動手段をどうするかという点から、移動中の経路についても話し合っている。
机の上には地図などの類が散乱しているが、どれもこれもとてもではないが正確とは言えない。
正確な地図と言うのは国家戦略上重要なものであるから、余人の手に届くような代物ではないのだ。
個人で書いた粗末な地図が精々である。エルグランドにも正確な地図はない。あなたみたいな連中が地形を好き勝手変えるせいで作っても使い物にならなくなる。
「ご主人様なら移動手段はどうしますか?」
エルグランドなら転移魔法で一瞬。
ここでなら自分1人だけなら速度を上げて走る。
4人なら無難に馬に乗るか、馬車を使うか。
「そこらへんは常識的ね……あなたはどれにすべきだと思う?」
まず街道の状況次第である。おそらくあなたの見立てでは、ソーラスの町までの街道はある。
「ええ、たしかにあるわよ」
古来から他国の侵攻を防ぐには、道をまことにクソにする、と言うのが古典戦術である。
騎馬では通れないが、人間なら通れる。
馬1頭なら通れるが、2頭横並びでは通れない。
そんな狭くて険しい道を街道にすることで攻められにくくするのだ。
同じ国の貴族と言えど、同胞と言うわけではない。そんな社会はザラだ。
だから隣国、あるいは隣の領地の貴族に攻められぬようにすることは普通であった。
しかし、迷宮から得られる莫大な利潤は王都でこそ得られているという可能性は高い。
あなたが軽く見た限り、王都の規模は立派なもので、経済規模もそれなり以上だ。
であれば、王都に運べば金になる。そのために侵攻のリスクを踏まえても街道を整備するだろう。
「あなたそんな戦略の知識まであるのね」
「ご主人様すごいです」
褒められてあなたはちょっと鼻高々になった。
ところで、あなたはレインに聞きたいことがあった。
既になにかしら手は打っているのだろうと思っていたのだが。
特になんらの動きも見えないので、ちょっと気になったのだ。
「私に聞きたいこと? なによ?」
単純な話、これからレインとポーリンは身の振り方をどうするのだろうか?
レインは自分で生きていけるだけの技術と才能があるだろう。
しかし、ポーリンにはあるのだろうか? ないような気がする。
ポーリンは伯爵家当主の妾だからこそ、この屋敷に居られるわけで。
その当主が死んだ、というか、あなたが殺したので、もう当主の妾ではない。
もっと若ければ、次の当主の妾になるという手もあっただろうが。ポーリンは30半ばと言ったところだろう。
残念ながら、前当主のようによほど愛しているか、あなたのような見境のない人間でなければ妾にするほどの魅力はない。
「…………」
レインが愕然とした顔をしている。どうやら何も考えていなかったというか、思い至ってもいなかったらしい。
「どうしましょう……」
そこであなたは提案した。ポーリンを雇いたいと。
「お母様を雇う?」
あなたはこの王都か、ソーラスに屋敷を買うつもりでいる。
単純な話、冒険に際しての拠点と言うものが欲しい。
どこに本拠を構えるかは思案中だったが、王都の辺りは無難だろう。
ソーラスに拠点を買うのもいい。どうせしばらくはそこが冒険の主軸だ。要らなくなったら売ればいい。
以前、ソーラスに本拠を構えるのか、という問いに頷かなかったのは、どちらにするか決めかねていたからだ。
サシャの故郷であるスルラの町に本拠を構えるのもいいのだが。
ソーラスからは王都よりも遠いし、王都に対しても近くはない。
サシャの歓心を買える以外のメリットがないので、ソーラスか王都だろう。
あなたの提案の本題は、その本拠の管理人としてポーリンを雇うという提案だ。
ポーリンはこの屋敷の女主人として振舞っていた経緯があるので、そうした人の使い方を弁えている。
案外、そうした技能を持っている人間と言うのは少ない。正確に言えば、雇える人間でそれらを持っているものが少ない。
レインの母なので信用できるし、この屋敷の使用人らに慕われてる様から見ても、技能は高そうだ。
なによりあなたが雇って本拠に置けば、アプローチの機会が多い。あなたはその点は黙った。
「なるほど……お母様を屋敷の管理人に……」
冒険で得た財産の類の保管もするので、屋敷の警備も雇う予定だ。
そのため、財産と同時にポーリンの身の安全も守られる。職場としては最良ではないだろうか。
当然だが、屋敷の購入に関してもあなたが金を出すし、維持管理費も全てあなたが負担する。あなたのものだから当然だが。
「私に否はないわ。ただ、お母様の同意は得てちょうだい。雇い主のあなたがね」
それは当然なので、あなたは頷いた。
ついでにだが、この屋敷の使用人も引き抜けるなら引き抜きたい。
ポーリンにも気心の知れた使用人が欲しいだろうし、実績ある使用人と言うのは価値ある人材だ。
「それはたしかにね。それに関してはあなたが出す給金次第じゃないかしら」
いまの3倍。ソーラスに本拠を構える場合は、そこまで引っ越しをする費用と、家族の職に関しても面倒を見る。
「それならほぼ全員頷くわね。ええ、分かったわ。それは私から使用人たちに布告するわ。話も取りまとめておく」
お願いするとあなたは頭を下げた。
ちなみに給金はエルグランドの金貨で払ってもいいだろうか。
「まぁ、同じ金貨ではあるから、いいんじゃないかしら。多少面倒だろうけど、その分額が多いから納得もしてもらえると思うわ。このあたりの金貨で払うなら2倍って言っておけばいいんじゃない?」
そう言う手もアリかとあなたは頷いた。ではそのようにしようと。
「よかったですね、レインさん」
「ええ、ほんとうに。あなたも、ありがとうね」
あなたは自分の欲得100%だったので、気にするなと笑って答えた。
欲得の中で仲間のためになれるなら、多少の骨を折るくらいはする。あなたにはその程度の善意の持ち合わせはあった。
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