第69話
お茶と、あなた提供のクッキーで喉を潤していると、サシャが姿を現した。
1日たっぷり休んだからか、それなりに元気は取り戻しているようだ。
「おはようございます、ご主人様」
そう言ってあなたの座っていたソファにサシャが腰を落ち着ける。
ほとんどぴったりとあなたにくっつくような位置だ。可愛いものである。
サシャの頭を撫で、頬に軽くキスをすると、サシャも応じて頬にキスをしてくれた。
「はぁ……仲いいわね」
これくらいのスキンシップなら許容範囲なのか、レインは溜息を吐くだけだった。
「世界滅びたりしないかしら」
ただ、やけにやさぐれた眼で世界の滅びを希求していた。
世界が滅んでしまうと、世界中の女性も死んでしまう。それはちょっと困る。
「究極破壊兵器なんて物騒極まりないものがあるんだから、世界の滅びくらいなんとかできるんでしょ」
残念ながらできない。究極破壊兵器と言っても、精々大陸を焼き尽くすとかが精々である。
星ひとつ、世界ひとつをどうこうしろ、というレベルの代物ではないのだ、残念ながら。
「スケールが大き過ぎて嫌になるわ……そう、さすがにいくらなんでもあなたでも無理なのね」
世界の滅びを何とかする場合、究極破壊兵器ではなく、終末兵器を使う必要があるだろう。
「……そう。究極破壊兵器とやらより、とんでもないものが、あるのね」
とは言え、終末兵器はあなたですらも使用を躊躇うほどに危険な代物だ。
面白半分で使った結果、相当大変なことになったので迂闊な使用は戒めている。
「あなたが躊躇するほど? それって相当……」
「ご主人様が……そ、それって大丈夫なんですか? いえ、大丈夫じゃなさそうですけども……」
さすがのあなたも終末兵器は年に1回か2回使うかと言ったところだろうか。
まぁ、比較的に危険の少ないものを、やむを得ずに使うとかそのくらいなのだが。
逆に言うと、世界が滅ぶほどの危機がエルグランドでは年に1回か2回は起きているということでもある。
もっと言うなら、あなたが察知して対処しているものだけでそれなので、実際はもっと起きている可能性が高い。
「十分軽々しく使ってるわね」
「躊躇とはいったい……」
「一応聞くんだけど。終末兵器よりも危険なものがあったりしないでしょうね」
これ以外だと、禁断兵器と救世兵器がある。
ただ、救世兵器はそう言うものがあるらしい、ということを知っているだけで、持ってはいないが。
「そう……そんなにね……で、終末兵器とやらはどんな危険物なのよ。さぞかし頭のおかしい代物を持ってるんでしょうね」
あなたは『ポケット』から終末兵器のひとつである『てのひらのはめつ』を取り出した。
それは指先で摘まめる大きさの、大変小さなガラスの球体だ。内部にふわふわと銀色の物体が浮かんでいる。
「意外と小さいのね。で、それはどういう代物なの?」
これは『ナイン』よりも強大な破壊力を持った爆弾である。
エムド・イルの超科学文明が産んだ終わりの兵器。
ちっぽけな爆弾だが、『ナイン』の数千倍、あるいは数万倍の威力があるらしい。
詳しい威力は不明なのだ。1度しか使われたことが無いので。
エムド・イルの超科学文明は、これの製造をも可能とした。
だが、これの使用を神々は許さなかった。神々の激怒を招いたのである。
結果、神話大戦が勃発。エムド・イルの超科学文明は砂にうずもれ消えた……。
「そんなに……神々が激怒するほどって……」
「神様が……」
レインとサシャが青くなっている。神々の激怒を招くというのは本当に恐ろしい。
あなただってさすがにやりたくない。だってウカノ様も激怒するってことだし……。
でも、ここはエルグランドじゃない。ウカノ様も怒らない。
なので、イケそうな時があったら『てのひらのはめつ』も積極的に使っていきたい。
「絶対にやめてちょうだいね!? あなたがよくても私たちがよくないわよ!」
「や、やめてください! おねがいします!」
あなたはレインとサシャに必死に止められてしまったので使用を諦めた。
「なんだってそんな物騒ものがあるのよ……信じられないわ……」
まぁ、終末兵器は文字通りに終末を招くから終末兵器と呼ばれるのだ。
要するにだが、終末兵器とはその文明の滅びを招いたがために終末兵器と呼ばれる。
シ・エラの文明が滅ぶ時、その引き金となった代物が新たな終末兵器となるだろう。
そのため、そんなに数多くは存在しない。精々20種類くらいなものである。
終末兵器は1つの文明に対して2~3個とかあることもある。エムド・イルの終末兵器もこれ以外に『はいいろのそら』があるのだ。
「十分多いわよ」
「待ってください、もしかして究極破壊兵器はそれ以上あるんですか……」
たくさんある。具体的に何個あるかあなたも知らないくらいある。
あなたの把握してる範囲だと、究極破壊兵器は300種類くらいある。
「……いずれにせよ、使わないでちょうだいね」
どうしても必要そうだったら使うけど、出来る限り善処するとあなたは頷いた。
「う、うぅん……たしかに、どうしても必要な場面もあるかもしれないけど……でも、でもぉ……!」
「レインさん、逆に考えましょう。それが必要なほどの場面があったら私たちはたぶん死んでます。気にしないことにしましょう」
「前向きに卑屈な意見ね……」
「後ろ向きに熱血なのよりはいいかなって……私たちが死んででも止めるみたいな……」
「そうかもね……」
とりあえず同意が取れたので、究極破壊兵器の使用は許されたようだ。
正直な話、なにがなんでも使いたいとかではないので、特に気にはならなかった。
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