第68話
「ちょっと気になってたことがあるんだけど、究極破壊兵器ってほかになにがあるのよ。あなた割と軽々しく使ってるみたいだけど」
そう問われ、あなたは顎に手をやって、天井を眺めながら究極破壊兵器の数々を思い出した。
そもそも究極破壊兵器ってなんなのか教えてちょうだい! と言われれば、その時点で悩むことになる。
率直に言って、究極破壊兵器とはフィーリングとノリの産物なので、厳密な定義が決まっているわけではない。
一応の定義ではだが、エムド・イルの時代が産んだ超科学文明の産物による品を言う。
兵器、であるからして、道具類であるのはたしかなのだ。そのため、イ・ドの時代に作られた人造神は兵器とは言えない。
人造であるから道具ではあるのだが、あれは絶対の裁定者、あるいは調停者として神の名において鋳造されたもので、兵器ではないのだ。
ただ、凄い破壊を齎せるのはたしかなので、一般認知としてはそれらも究極破壊兵器と呼ばれるのだ。
そうした一般認知において度々究極破壊兵器である、と論じられるものを述べると。
ルス・マクナの時代に鋳造されし、始まりにして永遠の神剣。
ベエラ・ドオ・デラの時代が育んだ、滅落の種。
ローナの時代が産んだ叡智の限りを尽くした、滅びの呪文。
ロ・ラの魔科学兵器の到達点である、空の振り子。
ゼン・デンドの時代に大地を焼き尽くした神の怒り、破壊神の槍。
マクナ・イス・デオリスの闘争が産み出した悲劇の申し子、終わりの魔剣。
エ・セラ・テールの過ちの嬰児、怒りの弓。
エムド・イルの超科学文明が産んだ破壊の申し子、猛病の揺籃。
イリオク・ドンゼの激戦の果てに産まれた、風渡る刃。
オゼラの時代が産んだ寵児、人造破壊神。
イ・ドの神々への抗いのために鋳造されし、神殺しの剣。
そんなところだろうか。
「思った以上に……いっぱい、あるわね……」
実際のところもっとある。
エムド・イルの時代に産まれた究極破壊兵器は、三柱の時間神、狂走の運び人、怒れる雷霆などがある。
ローナの時代に産まれた滅びの呪文は、代表的なものはメテオスウォームだが、他にもフィアフルストーム、ヴァーミンテンペストなど。
イ・ドの神々への抗いから産まれた数多の神殺しの武具は絶大な力を有しているので、当時の著名な品は全て究極破壊兵器と言える。
「魔法使いとしては滅びの呪文って言うのは気になるわね……どんな魔法なの?」
やはりレインとしてはその辺りが気になったらしい。
あなたも究極破壊兵器について聞いた時は、その辺りが気になったものだ。
まぁ、あなたは戦士でもあったので、マクナ・イス・デオリスの終わりの魔剣なども気になったのだが。
「で、どんなものなの?」
メテオスウォームはシンプルな呪文で、分類としては召喚魔法の類になる。
あなたたちが生きている大地の遥か空の彼方、星々を囲む岩塊の群れから数十個無作為に召喚して地表に叩き落とす呪文だ。
「なんだか聞く限りはそう大した呪文じゃないような……岩を落とすだけなんでしょう?」
と言っても猛烈なスピードで落下しているので、地表に着弾すれば、周囲数キロメートルを消し飛ばすほどの威力がある。
あんまり大きい岩を召喚すると、別大陸に迷惑がかかるからやめようね、と言う紳士淑女協定もあったりするくらいだ。
以前、500メートル級の大海嘯が発生した時は、これはやばいと超級冒険者が総出で対処に回ったし、神々もマジギレしながら対処した。
「お、思った以上に凄まじいわね……他はどんなものなの?」
フィアフルストームは単純なものだ。超高温の砂塵を含んだ猛烈な嵐。
数百度の熱砂と共に吹き荒れる暴風は凄まじく乾燥しているため、飲まれたものは容易く死に至る。
飲まれたものは一見して眠っているかのように死んでおり、しかし、触れればひどく乾燥し切った体が脆くも崩れ去るという悍ましいものだ。
町ひとつくらいならあっさりと壊滅させられる上に、防ぐ方法が家屋に逃げ込むしかない。相手の行動を制限する意味でも強力な魔法だ。
「高温の砂塵で……砂漠でそう言う現象が起きるとは聞いたことがあるけれど、それ以上ね……」
ヴァーミンテンペストは数百万匹の蟲を召喚して敵を襲わせるだけのものだ。
蟲の1匹1匹が魔法の特性を帯びているため、普通の鎧や防具では防げない。
ただし、単体の攻撃力は大したことが無いので、一定以下のダメージを遮断する類の防具を着ていれば軽々防げる。
対軍勢用魔法なので、強力な個に対処するためのものではないのだ。まぁ、その強力な個も遮断系防具をつけていなければだいたい死ぬが。
「見るにおぞましい魔法ね。絶対に呑まれたくないわ……まぁ、飲まれたら瞬く間に死ぬんでしょうけど」
レインでは残念ながら一瞬で死ぬだろう。並みの人間なら20匹程度に襲われただけで死ぬ。
冒険をする中で生命力が強くなっている者でも、100や200に襲われれば容易く死ぬ。
とは言え、ヴァーミンテンペストは結構扱いが難しい魔法で、大規模な魔法が使えるものなら対処は容易だ。
蟲1匹1匹はかなり脆弱なので、先ほど述べたフィアフルストームを打ち込めば蟲は瞬く間に全滅だろう。
「へぇ……まぁ、数で圧す類の魔法だとは思っていたけど、その程度でいいのね。それなら割と対処は容易ね。盛大にかがり火を焚くのでも結構な数が始末できるんじゃない? ほら、夏場に麦畑の真ん中で火を焚くみたいに」
ヴァーミンテンペストは魔法による産物なので、蟲1匹1匹が魔法の特性を備えているため、魔法的な効力がなければ倒せない。
そのため、なんらかの魔法的な効能を付加したかがり火でなければいけない。
「ああ、そう言う魔術的防護を備えてるのね。召喚物では珍しくない特性だけど、万単位の蟲に付加するなんて……」
このほかにもさまざまな滅びの呪文がある。
あなたはメテオスウォームをよく使う。
友人たちと遊ぶ時に、とりあえずメテオスウォームを放ち、ナインを豆まきのようにばら撒いたりする。
「あなた、友人と想像を絶する喧嘩をするのね」
喧嘩ではない。これは単なるじゃれ合いだ。
喧嘩するなら普通に殴り合いである。その方が強い。
「滅びの呪文より強い殴り合い……!?」
ぶっちゃけメテオスウォームは猛烈な火の属性を備えている。
そのため、火への完全耐性があれば完全ノーダーメージである。
ヴァーミンテンペストも遮断系防具があれば雑に防げる。
フィアフルストームに至っては速度が大したことないので走って逃げれる。
まぁ、凶悪な呪文ではあるのだが、絶望的な強さと言うほどではないのだ。
猛烈な破壊を齎す魔法であるのはたしかなのだが……。
「想像を絶するというか……なんと言うか……」
話がひと段落したところで、喉が渇いたので使用人を呼びつける。
お茶が飲みたいのでお茶ちょうだい、との要望だ。
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