第64話

 しばらくレインと話し合って、この地の迷宮の特徴などを聞いているうちに、フィリアが起き出して来た。

 4人が揃ったところで、あなたはこれから本格的に訓練をすることを2人に話した。

 レインに関しては、あなたのペットではないので本人の努力目標だろう。


「本格的な訓練、ですか。今までは違ったんですか?」


 サシャに対して施していたあれは単なる基礎訓練である。

 本格的な訓練となれば、冒険者としての訓練である。

 今まで施していたのは単なる戦闘訓練だったのだから。

 迷宮探索が行えるようになったので本格的に訓練をするのだ。


「まぁ、そう言われればたしかにそうですね」


「でも、冒険者としての本格的な訓練って、なにを?」


 まず、迷宮内における地図の描き方。そして野営の仕方。

 風雨を避ける術、旅を素早くこなす移動方法などの基本的な部分。

 迷宮探索における周囲の警戒、気配の察知、罠の探知、そして罠の解除。

 また、迷宮内におけるなんらかの物品の採取技術、発見した宝箱の開錠技術。

 場合によって道を切り開くための壁の掘削、迷宮内でうまく逃げる方法などなど。


「え……凄い多岐に渡ってやるんですね……」


「普通、そう言うのはそれぞれ専門を決めてやるものだと思うわよ」


 しかし、エルグランドでは違う。あなたはいま述べた技能の全てを会得しているし、極めている。

 もちろんすぐに完ぺきにこなせとは言わないが、習得はしてもらう。

 まず、身を守るための方法は全て会得してもらわないと困る。なによりも命あっての物種だ。


「わかりました。がんばります」


「はい。自分の身を守るためですもんね」


 2人が頷いてくれたので、あなたはとりあえずと袋を2人に差し出した。

 あまり大きくない、手の平に納まる程度の袋である。


「えと、これは?」


 おこづかい。あなたはシンプルにそう答えた。

 私的使用のための金銭なので、自由に使ってよい。

 これから迷宮に挑む準備期間に際して自由な時間が増えるので必要だろう。

 ただし、私的使用のためとはいえ、自分の買い戻しに使ってはいけない。


「あ、はい。それはもちろん」


「ねぇ、その場合、サシャの収入ってどうなるのよ? あなたが給与を払うわけじゃないんでしょ? 奴隷らしく無給?」


 それに関しては冒険で得た成果がそのままサシャのものになる。

 先日の護衛の報酬に関してもそのままサシャに与えている。


「それだと、割とあっさり自分を買い戻せたりするんじゃないかしら」


 その可能性は高いだろう。金貨500枚の収入を得るのにどれくらいかかるか分からないが。

 まぁ、冒険の報酬がそのまま手元に残ることになるので、割と早く買い戻せるのではないだろうか。


「そうなの。サシャ、がんばってね」


「はい、ありがとうございます」


 まぁ、逆に言うと、あなたが冒険だるいからサボろう、と言ったら収入はゼロなわけだが。

 期間ごとに定額の給与支給よりも、自分の匙加減で収入のタイミングを調整できた方が都合がいい。

 まぁ、額に関しての調整は利かなくなるわけだが、そこまで大々的に挑むつもりはないので、莫大な収入にはなるまい。

 自分を買い戻せる額を溜める前にサシャを完全に堕とし、あなた無しでは生きていけない、と泣きながら縋って来るようにしなくてはいけない。

 あなたはそんなことを内心で思いながら、悪だくみに浮かぶ笑みを綺麗に隠し通した。


「あの、でも、ご主人様」


 なんだろうか。


「その、私が奴隷じゃなくなっても、えと、冒険者の仲間として、一緒に冒険したり……そう言うのは、許してもらえますか?」


 もちろんである。女の子に誘われたらどんな危険な迷宮でも喜んで挑む。

 あなたはそれで両手の指では足らないくらい爆散している。

 だから普通にいっしょに冒険に行こうというお誘いを断るわけがない。


「なら、よかったです」


 安心したようにサシャが笑う。

 そうなった場合、堕とし切れずにサシャが自分を買い戻しても堕とす機会がまだまだある。

 あなたにとってもサシャにとっても最高の結果と言えるだろう。


「ところで、訓練ってもう始めるの? うちだと都合が悪いんじゃない?」


 あと3日は休養期間なのでやらない。

 それに関しては冒険の準備期間に含むべきものだろう。

 休む時はキッチリ休むべきなのだ。


 そのため、あなたの生活習慣に関してはこう分けられる。


 すなわち休養期間。準備期間、冒険期間。


 このうち休養期間は完全に休養のためなので、長くても1週間やそこらである。

 準備期間では迷宮に挑むための期間なので、1か月や2か月、長ければ年単位で取る。

 冒険期間は挑む場所次第なので変動するが、長くても1か月程度だろう。

 ちなみに以前軽い訓練期間を取ったが、あれは分類で言うと準備期間に入る。準備期間にも細かい区分けがあるのだ。


「そう。分かったわ。じゃあ、あと3日はおやすみね」


 まぁ、今夜はもちろん眠れないわけだが。

 あなたはテーブルの下でサシャのふとももに手を這わせた。

 サシャは一瞬ぴくりと反応したが、フィリアとレインの目があることから努めてそれを隠した。


 あなたは丹念にサシャの太ももを撫でながら、3日後の朝から冒険に向けての準備を始めようと提案した。

 各々がその提案に頷くと、あなたはサシャを連れて部屋へと戻った。


「あ、あの、ご主人様……その、ほんとに……?」


 冒険の準備期間にヤリ納めはするが、それはそれとして、今サシャと愉しみたい。

 2日ならがんばれるよね? 3日もイケちゃったりするんじゃない?

 そんなことを囁きながら、あなたはサシャを部屋へと連れ込む。


「ひぅ……わ、私、おかしくなっちゃうかも……」


 おかしくなってしまっても、ちゃんとペットとして責任を持って可愛がる。

 将来を悲観する必要はない。あなたの下に居る限りは安泰だ。


「は、い……その……ご主人様……」


 上目遣いであなたをうかがうように、それでいて、媚びるような愛らしい目つきで、サシャは言う。


「い、いっぱい……かわいがって、ください……」


 あなたの理性は蒸発した。

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