第61話
晩餐は賑やかに続き、やがて酒も入り出す。
食事類は下げられて、それらは使用人の腹に入ることとなる。
その辺りも踏まえて余るほどに作ったので、使用人たちの腹も大いに満たしてくれるだろう。
女性が酒を飲むのがはしたないとされる文化圏もあるらしいが、この辺りではそうではないらしい。
ちなみに、エルグランドではそう言った風習は全くない。酒をガバガバ飲んで娼婦や男娼を買う女も珍しくはない。
そう言う意味ではあなたも安心して酒を飲めるので、そう言った風習がないのは安心できる要素と言える。
「うちのワインセラーを空っぽにしてやりましょう。あー、あのクズ秘蔵のワインが美味しい」
レインはザーラン伯爵が蔵していたワインをガバガバ飲んでいる。
高級な品なのだろうが、まるで安酒のごとき飲み方である。
「ぷぇ……私、やっぱりお酒苦手です……」
サシャは言葉通りに酒が苦手らしく、甘口のワインをちびちびと飲んでいる。
そう言えば、以前にモモとトモといっしょに飲んだときも、薄い酒を舐めるように飲んでいた。
まぁ、酒が飲めない類の人間もいるので、そう言うこともあるだろう。
エルグランドでは水に恵まれない都合から、酒が飲めない人間は死んでいく。そのため粗方の人間は酒が飲める。
この辺りは水が豊富だから、酒に強い人間でなくても生きていける。だから酒に強くない者も多いのだろう。
「お姉様、このお酒おいしいですね」
フィリアはあなたが女をコマすために覚えたカクテルを喜んで飲んでいる。
料理とも錬金術ともつかない、言ってみれば酒調合の技術はあなたをして極めたとは言えないほど奥深いものだ。
飲み口がスッキリしていて、つい飲んでしまって酔いが回る。そう言うカクテルばかりを飲ませている。
程よくフィリアに酔いが回ってきて、少しふらふらし出した。
そこであなたはフィリアを抱き寄せ、耳元で囁いた。部屋に行かない? と。
「……はい。ぜひ」
酔いとはまた違う理由でフィリアは頬を赤く染めると、あなたに微笑んで答えた。
あなたは立ち上がり、居残る面々に対して、先に失礼することを伝えた。
「あら、もう?」
昨晩は余り寝ていないし、昼寝もあまり長時間取ったわけではないので眠いのだと一応の理由を答える。
「そう言えば、あなた凄く眠そうだったものね。おやすみ、いい夜を」
そう言ってワイングラスをレインが掲げた。
いい夜に乾杯と言うことだろうか?
「おやすみなさい、ご主人様」
おやすみ、と答えながらあなたはサシャの頭を撫でた。
頭頂部についた耳の感触がくにくにふにふにとして心地いい。
サシャも気持ちよさそうに撫でられている。とにかくカワイイ。
「私も、ちょっと酔って来ましたので、失礼します~」
フィリアがちょっとふらつきつつ立ち上がったので、あなたはそっとフィリアを支える。
そして、部屋まで送ろう、とフィリアの手を取ってエスコートを始めた。
食堂を出ると、フィリアがあなたへとしなだれかかってきた。
酒精の香りを纏う中に、フィリアの甘い香りがあなたの鼻孔をくすぐる。
「お姉様、ちょっと、寂しかったです……」
最初にだいぶ無体を働いた後、フィリアとは1度も夜を共にしていない。
そのため、フィリアはだいぶ寂しい思いをしていたようだ。
あなたは微笑むと、フィリアに熱い口づけをした。
「あ……ん、ぅ……」
情熱的な舌使いで、あなたはフィリアの口内を嬲る。
舌を絡める中、フィリアを抱きすくめると、その背を優しく撫ぜた。
その動作にぴくんとフィリアが震える。優しい触れ合いの中に、微かな甘い快楽があった。
今日はたくさん可愛がってあげる。朝まで寝かせないよ。
そのように甘く囁くと、フィリアがぎゅうっと力強くあなたに抱き着いてきた。
「はい……いっぱい、可愛がってくださいね……」
そう言って笑うフィリアの顔には、たしかな情欲の色があって、その瞳には甘い期待と、それと同じくらいの恐怖。
どれくらい凄いことをされてしまうんだろう? そんな怖いもの見たさのような、甘い恐怖だ。
あなたは嫣然と微笑むと、フィリアを颯爽と抱き上げた。これからは熱い夜が始まる。
「わぁぁ……えへへ、お姉様の腕、力強いです……」
嬉しそうにフィリアが笑うと、あなたへと体を預けてくる。体から強張りも抜けた。
あなたにすべてを預ける姿勢だ。これはもう好きにしてください、と言うことだろう。
「私、女にしては結構上背があるから……こういう風に抱いてもらえるの、ちょっと憧れてたんです……」
たしかにフィリアは結構上背がある。あなたよりも背は高い。
とは言え、男なら特に抱き上げるのに苦労するほどでもないだろう。
つまりは、愛しい人にはこうして欲しかったと、そう言う湾曲的な言葉だ。
あなたは腕の中のフィリアにキスを落とすと、足早に部屋へと向かう。
今夜は眠れないな!
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