第50話

 ついに王都へと到着した。王都の街並みは見慣れないものだ。まぁ、これはスルラでも同じことだったが。

 サシャは今までに見たことが無い大都市なので、周囲をきょろきょろと見渡している。


「あなたは慣れてる感じね」


 エルグランドの王都もこんなものだったので慣れているのだ。

 あなたとしては、どこらへんに『ナイン』を設置すれば綺麗に消し飛ばせるかとかが気になる。

 エルグランドの王都では、ちょうど宿屋がある辺りが綺麗に消し飛ばせる位置だった。


「絶対にやらないでちょうだいね」


 あくまで気になるだけで実行するつもりはなかったので、あなたは素直に頷いた。


「ともあれ、ザーラン伯爵家の王都屋敷に行くわよ」


 あなたは頷いた。期待に胸が膨らんでたまらない。


「えと、あのぉ……レインさん、そのお屋敷って、使用人はどれくらいいるんでしょうか?」


「え? そんなにはいないけれど……精々20人やそこらくらいね。臨時雇いを入れたりもするけれど、常時雇いはそれくらいよ」


「お若い女性はどれくらい居ますか?」


「また変なこと聞くわね。それなら1人だけよ。あとはみんなそれなりの年ね」


「そうなんですか……それなら、まだ安心なのカナ……」


「?」


 レインが不思議そうにしている。あなたも不思議である。なんで年齢なんかが気になるのか。

 まぁ、あなたも使用人たちの年齢は気になるところだ。

 メイド長はやはり50代が食べ頃と信じるあなたである。




 ザーラン伯爵家の屋敷は立派なものだった。

 本拠は違うのだろうが、やはり伯爵家ともなると王都の屋敷も立派なものだ。

 丁寧に整えられた庭園もあれば、維持費の高い噴水などもある。厩も立派なものだ。

 そこに馬を繋ぎ、飛び出して来た使用人にレインが話を通すと屋敷の中へと迎え入れられる。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


 屋敷の入り口で出迎えたのは、40がらみと言ったところの女性だった。

 厳格そうな面持ちの、額に深いしわが刻まれた姿はまさにメイド長と言った風情である。

 若い頃はなかなかの美人だったのではないかと思われ、あなたは内心でウヘウヘと笑った。


「ただいま。こっちはお客様よ。あの『銀牙』のフィリアもいるから、失礼のないようにね」


「かしこまりました」


「それと……彼女は私の個人的な恩人なの。だから、最大限配慮してあげてちょうだい」


「はい」


 レインがそのようにあなたを紹介した。あなたはもうワクワクが止まらない。


「私はマーサと申します。当家の侍従の取りまとめ役をしております。どうぞお見知りおきを」


 やはりメイド長のようだ。あなたはもうウキウキである。

 まず、客室に案内するとのことで、マーサがあなたたち3人を連れて移動する。

 レインは勝手知ったるなんとやらなので、私室の方で着替えてくるそうだ。


 客室は1人1部屋である。まぁ、当然のことではある。

 相部屋など貧乏くさい真似は貴族の家ではそう滅多にすることは無い。

 ただ、当然ながら使用人用の小部屋などはある。使用人と同じ部屋に入ることは、相部屋とは換算しないのだ。

 サシャとフィリアが疲れているようだから早く休ませてやりたい、と言って2人を先に部屋に入らせる。

 その後、マーサが最後に残ったあなたをこちらの客室をお使いください、と案内した。


 その際、ちょっと聞きたいことが、とあなたはマーサに問いかけた。


「はい、なんでございましょう」


 レインは父を嫌っているようだが、なにがあったのだろう? と、あなたはクリティカルな疑問を投げかけた。

 その言葉にマーサは眉をひそめたものの、特に隠すことでもないのか話し始めた。

 もちろん、外に漏れぬようにと部屋のドアを閉じ、万一が無いように鍵を閉めてだ。


「旦那様はかつて、懸想していた女性がいらっしゃいました。ですが、身分違い故に結ばれることは許されぬ身でした」


 よく聞く話である。


「旦那様は婚約者を娶った後、この王都屋敷でその女性を側室へと迎え入れたのですが……」


 これもまたよく聞く話だ。


「ですが、そもそも、その女性と旦那様は特段恋仲ではなく、旦那様の横恋慕だったようなのです」


 これはあまり聞かない類の話だ。


「旦那様はその女性の夫を殺し、無理やり側室へと迎え入れました。女性の娘もまた、自分の隠し子であるとして……」


 なるほど、そう言うことであれば嫌うのも分かろうものである。

 あなたはなるほどと頷いて、言い難い話をさせて申し訳なかったと頭を下げた。


「いえ、いえ。頭をお上げください。お嬢様は大変晴れやかな顔をされていらっしゃいました。きっと、あなた様がたがよい縁を齎してくださったのでしょう」


 マーサは厳格そうな顔つきに優し気な笑みを浮かべ、あなたへと頭を下げた。

 幼い頃から知るレインの苦悩を少しでも解きほぐしてくれたと思っているのだろう。実際は根本解決したわけだが。

 そして、あなたは頭を下げるマーサの肩を掴んで頭を上げさせると、口づけをした。


「!? お、お客様っ、なにを!?」


 あなたのことをもっとよく知りたいな。

 あなたはそう言ってマーサを抱き上げると、よく整えられたベッドへと連れ込むのだった。

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