第41話

 眠りに落ちていたあなたは傍で身じろぎする何者かによって意識を覚醒へと向かわせた。

 そっと目を開けると、薄っすらと暗い部屋。サシャが取っていた宿ではない。


「ん……おはよう」


 身じろぎした何者かは、昨夜モモに紹介された少女、アトリだ。

 お互いに一糸纏わぬ姿でシーツだけがお互いの肢体を隠している。


「すごく可愛かったよ。報酬抜きにしても、何度でも誘って欲しいな」


 そう言って微笑むアトリに対し、あなたも微笑んで何度でも誘うし、何度でも誘ってくれて構わないと答えた。

 相手がだれであれ、なんであれ、性別が女である限りは喜んで相手をするのがあなただ。

 それで相手が見目麗しい少女であればもはや何も言うことはない。そしてアトリは見目麗しい少女なのだ。

 誘われたらホイホイついていくのは当然だ。


「フフ、素敵だな。ん……」


 アトリが顔を寄せてきて、あなたの唇へとキスを落とした。

 あなたもそれに応じ、啄ばむような優しいキスをした。




 計らずも最高の一夜を過ごしたあなたは、約束通りに若返りの薬をアトリへと渡した。

 小さな瓶に入った少量の液体を陽に透かすようにするアトリは不思議そうな顔だ。


「随分と中身が少ないが、こんなものなのか?」


 そんなものである。やたらめったら大量に飲めば効果があるというものでもない。

 それに薬によって一服分の分量が異なるのは当然のことである。

 最低限の分量に抑えるのは薬品を扱うにあたっては当然のことである。


「だが、たくさん飲めばたくさん効くんじゃないか?」


 たしかにたくさん飲めばたくさん効く。そうではない薬もあることにはあるが。

 しかし、若返りの薬が効き過ぎると大変なことだ。赤ん坊以前の胎児期にまで戻るとどうしようもない。


「なるほど、恐ろしい話だ。これ1つでどれくらい効くんだ?」


 およそ2~3歳若返る。その日の体調などによっても効き具合が違ってきたりする。

 あなたは複数回以上その薬を服用したことがあるので、感覚的にどれくらい効くかは分かるのだ。


「凄いものだな。つかぬことを聞くが、これをおまえに何服か飲ませるともっと可愛くなるんじゃないか?」


 アトリはどうやらロリコンであるらしい。あなたを若返らせればもっと滾るようだ。

 あなたは女なら赤ん坊だろうが老婆だろうが容赦なく抱くのでロリコンに偏見はない。


「逆に、加齢する薬とかないのか?」


 ある。と言うより、その薬がその加齢する薬でもある。


「なに? どういうことだ?」


 正確に言えば、その薬は生物の時の針を操る薬品であって、若返りの薬と言うわけではない。

 正の方向に作用すれば若返り、負の方向に作用すれば加齢し、中立状態であれば現在の時が停滞する。

 中立状態では薬効そのものが打ち消し合ってしまうので、数分ほど動きがのろくなるだけで終わるが。

 もちろん、アトリに渡した薬は正方向に作用するように調整してあるので歳を食うことはない。


「なるほど……ちなみにだが、これは例えば、1年前まで五体満足だった者に飲ませたりするとどうなる?」


 その薬は時を巻き戻すわけではないので、たとえば手足を喪ったような者の手足が戻ることはない。

 肉体の時の針を巻き戻すというのは、肉体を若返らせる作用を意味するが、肉体そのものの時を巻き戻しているわけではないのだ。

 年齢と言う数値に対してのみ作用する、と言うと分かりやすいかもしれない。いずれにせよ、年齢を変えるだけの効能しかない。


 そう言ったことを説明すると、アトリは少々ガッカリした様子だった。


「そうか。残念だ」


 手足を喪った者がいるのだろうか。残念ながらあなたにしても手足の欠損の対処は難しい。

 エルグランドではちょっと3日ほど休んでいただく、つまりは1回死ねば五体満足で復帰出来るので、手足をどうこうすると言う考え自体が無いのだ。

 一応、エルグランド以外の大陸に存在する高位の治癒魔法、あるいは蘇生魔法を用いれば回復可能とは聞く。


 エルグランドの回復魔法は、そう言った後遺症のようなものを考慮していない。

 切断直後の腕を繋げたり、強力な回復魔法で無理やり生やしたりは出来るが、喪って久しい手足には何もできない。

 その、手足を喪った者が喪った直後の、傷口もふさがっていない状態であればあなたでもなんとかできただろうが。


「無理だな。もう喪ってからだいぶ経っている。やはり、金を溜めるしかないか」


 金があればなんとかなるのだろうか?


「ああ。高位の治癒魔法なら戻せるからな。それを依頼するための金がないだけであって」


 なるほどとあなたは頷いた。金ならあるが、さすがに頼まれてもいないのに金を払おうとは思わない。

 素晴らしいお礼が期待できるならもちろん喜んで支払うわけだが。


「なるほど。よし、分かった。では、私はこれで失礼する。また今度」


 そう言って、アトリはあなたの唇を奪っていった。

 お互いの熱を分け合うように情熱的なキスをして、あなたとアトリは別れた。

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