第32話
絶望したあなたはヤケ酒をした後、サシャの下へと向かっていた。
なんかもう女を買うとかそう言う気分じゃなくなっていた。
あなたにだって10年に1度くらいはそう言う気持ちになることがある。
同意も了承も取っていないが、サシャとは魔道具を用いて生命を結びつけている。
と言っても、結んだ対象がどこに居て、どの程度生命力が残っているかを判別する程度の効果しかないのだが。
ともあれ、その効果であなたにはサシャの場所が分かる。
その位置に向かって行くと、辿り着いた先は少しばかり高級な酒場だった。
手持ちの金を使い切るにはいいチョイスだ。酒と言うのは上を見れば天井知らずに金がかかる。
あなたにしてみれば吟遊詩人の死体が転がっていないだけで最高の酒場と言えるが、店のランク自体で言えばそんなところだろう。
そもそもエルグランドの酒場なら最高級の酒場でも吟遊詩人の死体は転がっている。
酒場と言えば吟遊詩人がつきものであり、ヘボ詩人にはヤジで物が投げられることもある。
問題があるとすれば、エルグランドでは命は紙切れより軽いので、飛んでくるものが命を獲りに来ることがあるくらいだろう。
あなたも駆け出し冒険者だった頃、酒場で興が乗って演奏をした際はひどいヤジを喰らったものだ。
握りこぶし大の石ころが飛んできて頭に直撃したり、おひねりにと中身入りの酒瓶が飛んで来たりした。
割と真剣に命の危機だったし、実際に頭が弾け飛んで死んだこともあった。
今ではあなたがヤジる側。へぼ詩人にくれてやるのはもちろん石ころ。
なぜならヘボ詩人に洗礼をくれてやるのが冒険者だからだ。
まぁ、その石ころが一般的には岩と言えるサイズだったりするのは余談だ。
さっそく店に入ってみると、サシャの後ろ姿が見えた。テーブル席についているようだ。
その対面に、2人の少女……にも見紛うくらいの美少年。相席しているのだろうか。
ほう、とあなたは感嘆の息を吐いた。こちらでは初めて見た。
サシャの隣に座ると、その2人の少年が視線を向けてくる。
「あ、ご主人様。よくここが分かられましたね」
サシャのことはいつでもどこにいても分かるよ。逃げられないよ。
そう告げると、サシャの笑顔が引き攣った。
「に、逃げるつもりはないけど……ないけど、怖い……!」
ちょっとした冗談なのに過剰に反応されてちょっぴりあなたは悲しかった。
ともあれ、この対面に座っている感心な少年たちは何者なのかとサシャへと尋ねる。
「感心な少年……? えと、よくお2人が男性だって分かりましたね」
あなたは自分には高性能なゲイダーが搭載されているので、同性愛者は一目見ればわかるのだと胸を張った。
その言葉に、桃色の髪をした少年が口にしていた酒を噴き出した。もう1人の亜麻色の髪の少年はくすくす笑った。
「だれがゲイやねん! 俺は異性愛者だっ!」
「えー? いいじゃない。僕は嬉しいけどな」
「あのね、俺はトモちんと違ってホモじゃないの。女の子が好きなのね。マジでね。嘘じゃないから」
1人はしっかりと自分が同性愛者と認めているが、もう1人はなんとしても認めたくないらしい。
しかし、あなたには分かる。この少年らは相思相愛の感心なゲイカップルだということが。
ゲイのカップルはいいものだ。つまり、女が2人余る。あなたが2人多く食べれるということだ。
だから、あなたは男の子は男の子同士、女の子は女の子同士で恋愛をすべきだと思っているのだ。
「……カワイコちゃんと相席できたと思ったら、とんでもない人が出て来たな」
「さすがにそこまで言うとは思わなかった」
さすがにあなたの超理論には2人の少年も困惑気味だった。
「っと、僕はトモです。それでこっちが」
「モモロウ。モモって呼んでくれ」
トモとモモ。名前が似ているのでこんがらがりそうである。
まぁ、ゲイのカップルとだけ覚えていれば十分だろう。
なお、桃色の髪をした少年がモモロウで、亜麻色の髪の少年がトモだ。
「だから俺はホモじゃ……」
「モモくん、モモくん」
「あん?」
トモがモモを振り向かせると、その顎に手をやって頤を持ち上げた。
そして、オイルランプの灯りの中でも艶めくトモの唇とモモの唇が触れ合った。
その姿にサシャが驚き、思わずと言った様子で自分の顔を手で隠す。しかし、隙間から目が覗いていた。
「わ、わ、わぁぁ……」
触れ合うだけのバードキスはすぐさまディープなものへと変貌し、舌の絡み合うエロティックな音が響く。
あなたは、いいぞっ、ブラボー! と感動の声を送った。美少年同士のキスとはいいものが見れた。
つつー、と唾液による銀の橋が2人の間に流れ、お互いの唇が離れる。
「ん、ごちそうさま」
トモがいたずらっぽくウインクし、モモはとろんとした目でカクカクと頷いた。
「じゃ、モモくん。モモくんはホモだったよね」
「あ、はい……ホモでいいです……」
おめでとう! 素敵なゲイカップルの誕生だ!
あなたは拍手して2人を祝福した。
「モモくんは素直じゃなくって可愛いんですよ。ベッドの上だと特に可愛いんですけどね~」
「べ、ベッドの上……あ、あの、その、やっぱり、その、そう言うこと……するんですか?」
「うん、するよ」
トモが頷く。なるほど、どうやらトモがタチであるらしい。
同性愛者にも色々な形がある。そして、見る限りにおいてだが、トモとモモの相性はよくない。
相性が良くなくとも、それを超える愛と絆が2人にはあるのだろう。なんて美しいのだろう。思わず目頭が熱くなる。
先ほどよりもトモとの距離が近いモモの姿はなんとも愛らしい。
今まで豪快に酒を飲んでいたのに、キスをされてからと言うもの飲み方が随分と大人しい。
突然なよっとしたというか、随分と受け身な性質に変わったものだ。
「お、男の子同士ってどうやるんですか……?」
「それはまぁ、ほら、穴は1つだけじゃないでしょ」
「う、後ろで!? いや、だって、そこは出すところですよ!?」
「それ言ったら女の人だって挿れるところじゃなくて出すところでしょ、あそこは。赤ん坊とか」
「そ、そうかも、しれませんけど……」
サシャは新たな知識を得ている。いいことだ。冒険者にとってはどんな知識も有益なものと言える。
まぁ、男同士の性技と言う知識が女のサシャにとってなんの意味があるかは知ったことではないが。
あなたは気分がよくなったので、ウェイターを呼んで金貨を数枚握らせると酒をジャンジャン持ってくるように言った。
とにかく今晩は飲みたい気分だったし、この愛らしい2人の少年の前途を祝いたくなったのだ。
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