第31話
「ねぇ、どうしてここなの……」
少し付き合って欲しいと言われたあなたは、レインを連れ込み宿に連れ込んでいた。
連れ込み宿とは、そこらで立ちんぼ、つまり私的に娼婦をしている女性を連れ込むための宿だ。
こちらはエルグランドと同じように、裏通りの少し薄暗い場所にあったので見つけるのに苦労はなかった。
何か内密な話があるのかと思ったのでそうした、とあなたはレインに嘘八百の理由を伝える。
本当はなにかしらの頼み事をされれば、そのまま報酬としてレインをいただくつもりだからだ。
「そう……まぁいいわ」
それで、話とはなんだろうか? あなたは逸る心を抑えてレインに尋ねる。
レインは手ぶりであなたにもっと近づくように伝え、あなたはレインに密着するような位置に座った。
そして、レインはそっとあなたの耳元に口を近づけると、密やかな声で話し出した。
「あなた、本当は護衛依頼なんかで日銭を稼ぐ必要がないほどの凄腕なのよね」
それは間違いない。この地での実績が無いので渋々やっているだけだ。
「……非合法の仕事があるの。報酬は、あなたが望むものをなんでも支払う」
なんでも。なんでもと言ったか? あなたは耳を疑い、レインに尋ね返す。
「ええ、なんでも、よ。私が持っているもので、あなたが欲しいものなら、なんでも……なんでもするわ」
あなたは狂喜した。即座にレインを押し倒して美味しくいただこうと思ったが、気を取り直す。
ベッドで待っている、と言うエサで散々酷い目に遭い続けたあなただからこそ、その冷静な対応が出来た。
遭い続けた、と言うところから分かるように、冷静な対応が上手く行ったことは1度たりともなかったが。
「それで、あなたは何が欲しいの?」
その前に、自分に何をさせたいのか。その点をあなたはレインへと尋ねた。
「そうね。殺してほしい人間がいるの」
そう言うのは大得意である。誰を殺せばいいのだろうか?
相手の強さ次第で難易度こそ変わるが、手段は問わずならば方法などいくらでもある。
あなたの『四次元ポケット』の中には空前絶後の大量破壊兵器も無数に眠っているのだ。
「殺してほしいのは、私の父親よ」
なんと父親を殺してほしいとは。あなたは少し驚いて、なぜそんなことを頼むのかと尋ねた。
「父親と言っても、血縁はないわ。私の母の再婚相手だから父親なだけ……それに、あんな奴を父親だと思ったことはないわ」
どうやらレインにとっては不満がある相手であるらしい。
親子で殺し合いなどエルグランドにおいてはありふれた事象だ。
しかし、こちらでは殺したいと思うほどとなると、相当な不満なのではなかろうか。
「不満なんてものじゃないわ……あいつさえ、あいつさえ居なければ……」
ギリ、とレインの歯が食いしばられた。歯茎に悪いのでやめるようにとあなたはレインを気遣った。
すると、レインが変な顔をした後、ぷっ、と噴き出すと笑いだした。
「おっかしいの。歯茎に悪いからやめろって。あなた、こんな場面で言うことじゃないわよ」
おかし過ぎて涙出て来ちゃった、と言いながらレインが本当に零れた涙を指先で拭った。
「それで、聞かせてもらえるかしら。やってもらえるのかどうかを」
もちろんやるとあなたは応えた。人間を1人殺すだけでレインを好きにしていいなら大喜びだ。
しかも男。つまり何の気兼ねもなく殺せる。女なら殺す前に色々と愉しみたいところなので大変な面もあるのだ。
「本当にいいの? 想像はついているかもしれないけれど、あのクズは貴族よ。金に飽かせた護衛だって雇っている」
金で雇える程度の護衛なら問題ないだろうとあなたは応えた。
良くも悪くも冒険者というのは自由な存在であり、金ごときで縛れる程度の存在は大したものではない。
「金で雇える程度なら、問題ない、って……」
金など使い切れないほどにある。真に優れた冒険者と言うのはそう言うものだ。
本当に優れた品は金では買えない。自分で見つけ出して手にしなければならない。
そう言ったレベルにまで至ると、金で仕事を依頼することは難しくなるのだ。使い道がなくなってしまい、金が溢れ返るからだ。
金ごときで長期間に渡って雇えるなら、まぁ、その程度、と言うことだ。
それはつまり、金が尽きてしまう程度にしか稼げない、と言う事なのだから。
「あなたって、いったい、どれほどのレベルの冒険者なの……?」
さぁ? あなたは韜晦するでもなくそう答えた。
本当に分からないのだ。この大陸で、自分がどの程度の立ち位置なのか。
少なくとも相当強いであろうことは分かるが、最上位の存在と比較してどの程度なのかは不明だ。
「そう、なんだ……分かった。あなたに賭けるわ」
ではさっそく報酬が欲しいとあなたはレインにねだる。
「報酬だけもらって逃げられたらたまらないから、報酬は後払いよ」
あなたは絶望した。
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