第23話

 護衛の依頼が必要とされるということは、旅程にそれ相応の危険が潜んでいることを意味する。

 それがモンスターであるのか、危険な人物であるかは不明だが、やることは排除である。そこに違いなどない。


 とは言え、今のところ武力が必要となる事態には陥っていなかった。

 かっぽかっぽと馬車を引く馬を眺めながら、のんびりと歩く。穏やかな旅だ。

 サシャの様子にも気をつけていたが、中々の健脚ぶりを見せており、疲れた様子はない。


 とは言え、こう言った旅の本番は2~3日が経過したあたりからだ。

 1日目は根性でどうにでもなるが、2日目あたりから加速度的に疲労感が増す。

 肉体的にはなんとかなっても、精神的な疲弊も中々に侮れないものがあり、足は重くなるものだ。


 今回の旅は、4日の予定となっている。

 詳しい地理を知らないので何とも言えないが、全て野営だとすれば中々苦しい旅になるだろう。

 あなたならちょっとした散歩感覚でこなせる依頼だが、サシャは違うだろう。


 さておき、昼時になると、イスタール商会の男が馬車を止めて大休止にすると告げた。

 その言葉に各々が足を止め、食事の準備を始める。


 商会の男はパンと水で薄めたワインを食べ始める。

 オウロらは、各々が持ち合わせていた干し肉やパンなどを食べ始めている。

 一方あなたは『四次元ポケット』から事前に調理していた料理を取り出す。


 今日のメニューは薬草カレーパンだ。

 滋養強壮に効果があるが、苦くて評判の悪い薬草。

 それを多種の香辛料と油で煮込んだ薬草カレー。

 それをパン生地に包み、油で揚げる贅沢な一品である。

 それを皿に山盛り取り出す。『四次元ポケット』に入れていたので、揚げたてアツアツのままである。


 サシャ、お食べ。


 そう告げると、パンを見てごくりと喉を鳴らしていたサシャが飛びつく。

 よっぽど美味しそうに見えたのだろう。いつもなら確認を取ってから食べるのに、すごい勢いだ。


「はふっ、あつっ、おいひぃ……!」


 カリカリの外側、そしてスパイシーなカレー。そのふたつの合わせ技は美味としか言いようがない。

 苦くて評判の悪い薬草も、強烈な香りと味を漂わせるカレーに合わせると、苦味がいいアクセントになる。

 辛味と苦味がお互いに程よく中和されてマイルドになるのだ。薬草が加熱すると苦味が和らぐのもあるが。


「すごく贅沢なパンですね、ご主人様っ。おいしいです!」


 たくさんおあがり、とサシャの頭を撫でながら告げると、サシャは嬉しそうに尻尾を振る。

 可愛らしい仕草に微笑みながら、あなたもカレーパンを頬張る。


 あまりにも美味そうな香りを漂わせるカレーパンに、イスタール商会の男も、オウロらも羨ましそうに見ていたが、あなたはスルーした。

 譲ってくれと言うなら普通に譲るが、何も言われなかったからだ。食事は自弁なのだから、それが当たり前である。




 昼食を済ませても大休止は続き、その間、あなたはサシャの脚を揉んでいた。

 脚の疲労を抜くためであり、厭らしい意図は一切ない。あなたが興奮しているのはコラテラルダメージだ。


 しばらくそうした後、あなたは包帯を取り出して、それをサシャの脚へと巻き始めた。

 怪我をしているわけではなく、脚を締め付けてやると、脚の鬱血を防ぎ、疲労軽減に効果があるのだ。

 そうは見えないが効果は高く、これをしているとしていないでは全然違って来る。

 それに加えて、スパークソーダを飲んでおくように告げて、疲労の回復にも気を配った。


 あなたはペットや奴隷のご主人様であり、その指揮者でもある。

 こうしたコンディション管理は手慣れたものだった。



 そうして再出発を迎え、それから日没まであなたたちは歩き続けた。

 今夜は野営であるらしく、道から少しばかり外れた平坦な地形で野営を行う。

 商会の男は馬車の中で眠るようで、オウロらは荷物から取り出した毛布やらで野営をするようだ。

 あなたは『ポケット』から携帯用の寝具を取り出し、それにサシャを寝かしつけた。


 あなた自身は不寝番を行う。さすがにこの不寝番はオウロらと合同で行う。

 あなたの体力がいくら無尽蔵でも眠らなければ疲れは取れない。

 最低限の睡眠はどうあっても必要なのだ。


 とは言え、この不寝番に際しても一悶着あった。


 1人起きていれば十分と言うオウロらに対し、あなたは最低でも2人は必須と答えたのだ。

 不寝番1人と言うのはあてにならない。集中力が落ちるのは当然、1人だけだと居眠りの可能性もある。

 2人ならお互い監視になるし、別方向にも警戒が出来る。それゆえ最低でも2人なのである。

 そもそも1人しか居ない場合、不寝番する都合上どうしても焚火が必要なため、位置がバレバレなのである。


 遠距離から狙撃して不寝番1人を殺害してやれば、襲撃側はどうにでもなってしまう。

 不寝番が2人、3人になるにつれてそれは難しくなるため、多人数の不寝番は必須なのだ。

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