第21話

 またも男性が重傷を負ったが、あなたの手によって治療されたので問題ない。


「2人とも大変お強いんですね。戦闘のある依頼は十分こなせそうで安心しました」


 エルグランドでは及第点くらいなものだが、こちらではそうでもないらしい。

 冒険者学園とやらはいったい何だったのだろう。あるいは戦闘能力に偏り過ぎたエルグランドがアレなのか。

 どちらが標準でないかと言えば、エルグランドなのは間違いないと思われる。


「とは言え、大きな実績もありませんので……それほど困難でないことが予想される護衛依頼などが主となりますが、よろしいでしょうか?」


 それで構わないとあなたは告げる。


「今のところはこのような依頼が存在しますが、どうされますか?」


 提示された紙切れの内容を目で追うと、言葉通りに護衛の依頼である。

 細々とした条件に違いがあり、食事の支給ありだとか、移動の際は馬車に同乗であるとか色々とある。

 あなたはそのうち、食事支給無し、馬車への同乗も無しの依頼を請けることとした。


 食事の支給が無い方が遠慮なく料理ができるし、サシャの行軍能力も見ておきたい。

 待遇が悪いのは依頼者の人品に問題があるわけではなさそうだ。依頼の報酬自体は最も高い。

 馬車の積み荷が大きく重いので、他のものを積載する余裕がまったくないと言ったところだろう。


「こちらの依頼ですね。では、受諾致します。なお、この手の依頼は他冒険者チームとの共同依頼となる可能性もありますので」


 それについては紙面にそのような旨の記載があったので把握している。


「では、出立は明日とのことですので、指定の時刻に指定の場所に集合されるようお願い致します」


 あなたは頷くと、サシャに仕事の準備をするので街に行くと告げて移動した。




「ご主人様、なにかお作りになるんですか?」


 紙だのインクだの宝石屑だのを購入していくあなたにサシャが尋ねかける。

 なにやらよく分からないものを購入しているので気になったのだろう。

 あなたはポーションなどを作る予定であると告げる。


「ポーション……ご主人様はポーションまでおつくりになられるんですね」


 ヒマだったので学んだだけである。エルグランドの錬金術はさほど価値の高いものではない。

 ポーションの効果は常に一定である。腕のいい術者ならいいポーションも作れるが、限界がある。

 その点、エルグランドの魔法には限界が無い。リミッターとか限度とか常識も無いので、濫用すると死ぬが。


 あなたの軽傷治癒の魔法は最高級のポーションに余裕で勝る効果がある。

 ポーションを濃縮し、薬効を爆発的に高めると言った調合技術もあるのだが……。

 コストパフォーマンスが悪過ぎるので、やはりポーションを回復の主軸には置けないのが現実だった。


 もちろんそれはあなたが超級の冒険者であるからで、普通の冒険者には十分有用なものだ。

 あなたにとっては水代わりに飲むものでしかなくとも、サシャには十分な効果がある。持たせる価値はある。


 考えてみれば、そう言った道具は結構いろいろとあるのだ。

 あなたにとってはオモチャでしかないワンドの類もサシャにとっては有用だ。


 ワンドとは魔法を充填した短杖で、魔法を封入したスクロールと同種のものだ。

 ワンドを使うのにもある程度の技術は必要だが、魔法を覚えていなくても使えて、魔力も使わないと便利な道具である。

 サシャにいくつか持たせておくのも悪くはないだろう。


 あなたは種々の材料を購入した後、宿に戻ると『四次元ポケット』の中に突っ込んであった道具を取り出す。


 ポーションを手持ちの材料で幾つか調合する。

 

 精製した水と、いくつかの薬草。そして魔法を用い、軽傷治癒のポーション。

 同様の材料にいくつかの薬草を更に加え、より強い魔法を用いた致傷治癒のポーション。

 疲れを癒してくれるスパークソーダとか言う飲み物。


「わぁ……凄いです。ポーションってこういう風に作るんですね」


 この辺りではどうだか知らないが、エルグランドでは少なくともそうなのであなたは頷いた。

 余分に作ったスパークソーダの栓を抜き、あなたはそれをサシャへと差し出す。


「しゅわしゅわしてますね。炭酸水って言うんでしたっけ。どこかにしゅわしゅわする水が湧いてるって聞いたことあります」


 言いながらサシャがそれを口に含むと、口の中で弾ける刺激に目を白黒させた。


「不思議な感じです……でも、おいしいですこれ!」


 そう言って嬉しそうに飲むサシャ。スパークソーダは疲労回復にも効果がある。

 実際には、疲労感を脳に伝える臓器を回復させるので、肉体疲労はそのままだったりするのだが。

 ただ、まったく疲労回復効果がないわけではないし、疲労感を回復させるだけでもだいぶ違う。


 あなたは作ったスパークソーダを、疲れた時に飲むようにと伝えた。

 また、小指ほどの大きさの瓶に入ったポーションは怪我をしたときに飲むように。


「はい、分かりました! お疲れの時はご主人様にお渡ししますね!」


 あなたはそれには及ばないと告げる。あなたには自前の分がある。

 あなたが懐から取り出したのは透明な薬瓶にたっぷり入った円筒形の物体である。

 ブルーカプセルと言うもので、中にはスパークソーダの薬効成分が濃縮されて詰まっている。

 このサイズでスパークソーダと同等以上に効くので、あなたはこちらを愛用している。

 使う際の見た目が危険薬物の乱用に見える以外は非常に便利な品だ。


「そんなお薬もあるんですね。そちらの方が便利な気がしますが」


 サシャがこちらがいいというならサシャの分も用意する。

 しかし、ブルーカプセルは別に美味しくもなんともない。

 それでもいいなら、と告げると、サシャは耳をぴこぴこ揺らした後、頬をちょっと赤く染めた。


「えと、その……こっちのほうがいいです……えへへ……」


 照れ臭そうにサシャが笑い、それがあんまりにも可愛かったのであなたはサシャを抱き締めた。

 むせ返るほどに濃厚な命の香りと、甘酸っぱい少女の香りを胸いっぱいに吸い込んだあなたは癒された。


「んぅぅ……あの、えっと……今日は、しないんですか?」


 おずおずと尋ねてくるサシャに、仕事が終わるまではしないとあなたは告げる。

 あなたは仕事中にはそうした色事を基本的に避ける。どうしても色事の最中は気が緩む。

 仕事の最中にそうした油断は命取りである、と言う戒めからだ。


「そうなんですね。分かりました。じゃあ、その……」


 ちょっと恥ずかしそうにしながら、サシャがすりすりとあなたに頬を寄せて来た。

 それがどういった意図の仕草なのかは不明だ。だが、とにかくカワイイ。

 滑らかな肌の感触を頬に感じながら、あなたはサシャの暖かな温もりに浸されて癒しを感じていた。

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