第14話

 昼になると、あなたは小麦粉を使ったモチの作り方をサシャに教える。

 本当ならイネから……それも、モチに適した種類のイネから作るのだが、エルグランドにはそのイネが渡って来ていない。


 なので、代用品であるが、小麦粉を使って作る。


 作り方はさほど難しいことは無い。ただ、知らなければまずやらないような手順で作る。

 小麦粉にミルクを加え、よーく温めたオーブンで2分ほど加熱して作る。このやり方は加減が難しい。

 練った小麦粉を千切って、お湯で茹でる。この方法は簡単だが、どうしても水っぽくなってウカノはあまり好まない。

 究極的に言うと錬金術で作ったモチが一番喜んでもらえるのだが、さすがに錬金術から教えるのは大事なのでやめておく。


「なるほど……作り方は意外と簡単なのですね」


 モチの方は簡単である。ちょっとした料理の腕があれば誰にだって作れてしまえるだろう。

 しかし、一方でアブラアゲは難しい。って言うか、アブラアゲは料理の領分ではない。


 アブラアゲ自体は料理だが、アブラアゲの材料となるトウフなる食品。

 この作成は料理ではなく、どちらかと言えば錬金術の領分なのだ。

 さすがにこれは難しいので、トウフに関してはあなたが作ったものをサシャに与える。


「わ。不思議な食べ物ですね……ぷるぷるしてて、プディングの一種でしょうか? 見た目は白くて不思議ですね」


 ちなみに味はほとんどない。素材の味しかしない。

 なので、なにかしらのソースをかけて食べる。


「なるほどぉ」


 ちなみにあなたのお勧めの食べ方は、熱いお湯に入れて少しばかり温めたら取り出し、それをほぐす。

 ほぐしたものに、粒の荒い砂糖を振りかけてスプーンで食べる。簡単だが割とおいしい。


 今回はそうせず、薄く切った後、熱した油に投入する。


 油は熱いもの、少し温いものの2つを用意する。まずは温い方で熱する。

 すると薄い豆腐は熱されて膨らんでくるので、ほどよい具合になったら高温の方に投入する。

 アブラアゲにするには前者だけでよいのだが、後者をすると冷めてもしぼまず、食感もよくなる。


「わぁ……不思議。これは美味しいんですか?」


 美味しいと言えば美味しい。少なくとも、香りは抜群によい。

 あなたは揚げたてのアブラアゲを食べやすい大きさに切り分けると、その上に香辛料と香草を振りかけた。

 食べてみると、シンプルなアブラアゲに香辛料と香草の香りが加わり、なんとも言えないうまさがある。

 サシャにも食べさせると、美味しいのか美味しくないのかよく分からない、と言う表情をした。


「美味しい……とは思うんですけど……な、なんでしょう、味があまりないというか……決してまずくはないんですが、美味しいかと言われると、すぐには頷けないような……」


 まぁ、そんなものだろう。アブラアゲ単体を食べるのはあまり少ない食べ方である。

 本来は、なにかしらのソースに漬け込んで食べたり、スープの具として投入するのだ。


「へぇぇ……これは食べ物と言うより、食材なんですね。ウカノ様はこれが好きなんですか?」


 そもそも、アブラアゲに限らず油を用いたものなら大体なんでも好きらしい。

 ただ、その中でも特別アブラアゲが大好物ということらしい。なぜかは不明だ。

 ちなみにそのアブラアゲを材料とするミスター・オイナリも大好物なのだとか。


 さておき、あなたは次はサシャにやらせることにする。


「はい! がんばります!」


 とは言え、アブラアゲの作り方も、モチの作り方も、そう難しいものではない。

 サシャは危なげなくこなし、立派なモチとアブラアゲを作り上げて見せた。


 あなたは待っている間ヒマだったので、先ほど作ったアブラアゲを用いてミスター・オイナリを作っていた。

 アブラアゲを三角形になるように切り、調味液で味付けをする。

 そして、コメにニンジン、干しキノコ、バーダックを加え、こちらも調味液で炊き上げる。

 ゴモクゴハン、なる料理らしいが、具材が違ってもゴモクゴハンになるらしく、具材は割と自由だ。

 そして、ウカノの耳を模したような形になるようゴモクゴハンを詰めてミスター・オイナリの完成だ。

 オイナリにはなぜか敬称をつけるのが文化であるらしく、オイナリサンと言うのが発祥国では一般的であるらしい。

 そのため、あなたはオイナリサンをエルグランド流にミスター・オイナリと呼んでいる。ミセス、あるいはミスかもしれないが、一応ミスターと言うことにしている。


 それらの用意が終わって、あなたは祭壇の準備をすると、2人で並んで供え物を捧げた。


『まぁまぁまぁ……遠き地からもこんなに素敵な贈り物が……大儀です♪』


 今朝は聞こえていなかったようだが、今度はサシャにも聞こえたようだ。

 サシャが作ったものを、サシャが供えたからだろう。


「ウカノ様が喜んでくださいました!」


 ぶんぶん尻尾を振って喜ぶサシャの頭を撫でて、あなたは余分に炊いたゴモクゴハンで昼食にしようと提案した。

 基本的にあなたはコメを水だけで炊かない。炊くこともあるが、その後に調理する。

 なぜかって言われれば、水だけで炊いたコメの見た目は……率直に言って、最悪に近い。

 最初見た時はウジ虫の集合体かと思ったし、今でも普通にそのように見えることがある。

 だが、調理して色をつけてやればそうは見えないので安心して食べられるのだ。

 それだけにゴモクゴハンは作り慣れており、サシャにも大変好評だった。


 これで午後の戦いも頑張れるね、とサシャに語り掛けると、サシャは涙目になりつつもがんばると震えた声で応えた。

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