第13話

 翌朝、あなたはお祈りを済ませてなお目覚めないサシャを舐め回していた。

 お祈りの時間に寝坊をするとは、さすがに不届きである。お仕置を兼ねてだ。

 ベッドの下側から潜り込んだあなたが舌を這わせる都度、とくとくと溢れ出す蜜。

 それを丹念に舐め取り、なおも執拗に舌を這わせ続ける。


 実に楽しい。


 反応が薄いのは少し寂しいが、時折びくりと痙攣して太ももで挟まれる心地よさはすばらしい。

 浸み出す甘露を求めるように舌を這わせ続けるあなた。目覚める時が楽しみである。





 結局、サシャが目覚めるまで1時間ほどかかった。

 

 シーツがぐしょぐしょになるまで舐め回され続けたサシャは汗だくだった。

 あなたも寝汗で汚れていたので、いっしょにシャワーを浴びた。

 朝起きて、すぐにシャワーと言うのも中々に心地よいものである。

 冷たい水を浴びつつ、あまりにも熱いコミュニケーションをとるのもすばらしい。



 朝っぱらから一戦交えてシャワーから出ると、あなたとサシャはウカノへの祈りを行った。


 エルグランドの神は概ねにおいて寛大である。自身の信徒へもそうだが、他の神の信徒にもそうだ。

 意味もなくよその神の祭壇を焼き払っても天罰を食らったことは無いし、信徒を挽き肉にしても尖兵を差し向けられたことは無い。


 そのため、お祈りをしなくとも別に怒られないし、むしろ毎日お祈りをしていると心配される。

 お祈りしてくれるのは嬉しいけど無理はしないように、とかそう言う感じの内容だ。

 だが、あなたにお祈りをサボると言う選択肢はない。


 毎日必ずモチを供え、苦心して作ったアブラアゲをお供えする。それがあなたのライフワークだ。

 ちなみに、エルグランドにおいてアブラアゲの発明者はあなたである。

 ウカノが時折口にするアブラアゲなる食物をウカノの使徒から詳しく聞き、苦心して作り上げたのだ。

 なので正確に言えば再現者なのだが、あまり大きな違いはないだろう。エルグランドに無かったものを作ったのは事実だ。


「ウカノ様へのお祈りの言葉ってどんなものなんでしょう」


 サシャの疑問にあなたは特に決まった祈りの文句はないと教えた。

 ただ、五穀の豊穣を祈り、旅の安寧を祈願するだけである。


「ゴコクってなんのことですか?」


 五穀とは主要な栽培穀物のことである。

 ウカノ曰く、イネ、ムギ、アワ、ダイズ、アズキのことだそうだ。

 イネとムギは分かるが、アワがなんのことかは未だに不明である。

 アワってなに、と聞いてみると、バブルのこと、という意味の分からない返事が帰って来て困惑したこともある。

 ダイズとはソイビーン、アズキはそのままアズキとして知られる豆だ。


「食べ物がたくさん実るようにお祈りするんですね。なるほど……」


 むむむ、とサシャが眉根を寄せて真剣にお祈りをし出した。

 あなたは五穀の豊穣についてはさほど真剣に祈らない。

 あなたの主食は卵とミルクであり、イネ、ムギ、アワ、ダイズ、アズキへの関心は薄いからだ。


 今日はモチとアブラアゲに加え、アズキを用いて作った菓子、ドラヤキなるものを捧げる。

 茹でた豆のペーストにたっぷりの砂糖を加えるという不思議な菓子、アンコを材料に作る菓子だ。

 香ばしい生地と、アンコの不可思議な甘みは好みが分かれる味だが、決してまずくはない。


 あなたが祈りを捧げると、祭壇に供えていたモチ、アブラアゲ、ドラヤキが光と共に消滅する。


『まぁまぁ♪ 今日も素敵な贈り物をありがとうございます♪』


 ウカノが喜んでいるようでなによりだった。


「きえちゃった……ウカノ様がお受け取りになられたのですか?」


 もちろんそうだ。ウカノの祭壇に供えたものを、ウカノ以外が受け取る道理がない。

 そう言えば、と思い出したあなたは、サシャに料理を教えることを伝えた。


「え? お料理、ですか? ある程度はできますが……」


 あなたが教えるのは、ウカノが好むモチとアブラアゲの作り方だ。

 信仰する神の喜ぶ品の作り方を弁えるのは信徒として当然だろう。


「なるほど……! ぜひ教えてください!」


 もちろんである。とは言え、いきなり料理修行をしても仕方ないので、今日もまずはモンスターとの戦いである。


「きょ、きょうも……が、がんばります!」


 頑張ってほしい。






 今日のサシャは中々冴えており、犬と見事に戦い抜き、腕を噛まれたくらいで危なげなく倒していた。

 戦いのセンス自体はかなりのものがあると考えられるが、純粋に身体能力と武器を扱う技術が不足している。

 その辺りはこれから鍛えていけばいいのだ。と言うか、それ以外にないのだし。


「はぁ、はぁ……ご主人様、倒せました!」


 えらい! とあなたはサシャの頭を撫でまわす。ふにふにとした耳の感触がとても心地よい。

 一生撫でていたいくらいだが、うっかり力加減を間違えてサシャの首をもいでも大変なのでやめておく。

 そして、あなたは懐に手を差し入れると、パンパンの革袋を取り出し、それをサシャに渡した。


「はい? これは?」


 その革袋の中身はハーブだ。あなたが丹精込めて栽培したハーブである。

 あなたはその袋の中身を噛みながら戦うように言った。


「はい。はうっ……」


 袋から取り出したハーブを頬張ったサシャが涙目になる。

 そうもなるだろう。なぜなら、あなたが渡したハーブは大変不味いのだから。


 そもそも生で食べるものではなく、基本的に半生になるまで干してから磨り潰して使うものだ。

 そのほか、様々なハーブを用いて作られる丸薬は、気分高揚と止血効果があり、兵士に珍重される品となる。


 このハーブだけでもほぼ同様の効果が得られるが、とにもかくにもクソまずい。

 丸薬にするのはまずさを緩和すると言うのが一番大きい。衛生に気を遣うのが難しい兵士向けに口臭防止効果を織り込むためでもあるが。


「ご、ごひゅじんひゃまぁ……な、なんなんれすか、こぇ……」


 薬草の一種で戦いに有用な効果があるので、しっかりと歯で磨り潰してから飲み込むようにとあなたは告げる。

 それを聞いてサシャはますます涙目になった。たしかにあなたもあのクソまずいハーブをペースト状になるまで噛んでから飲めと言われたら泣きたくもなる。

 百戦錬磨の冒険者のあなたですら涙目になろうというのだから、サシャが涙目になるのも至極当然と言えた。


 頑張れたらご褒美にこれをやると、あなたは今朝作ったドラヤキを見せた。


「ひょれはウカノひゃまにおささげひていた……」


 甘くておいしいお菓子である。神様も大好物。


「うぅ……がんばりまひゅ!」


 サシャは涙目になりつつも健気に頷いた。

 筋力増強効果のあるハーブなので、本当なら三食全てそれで腹を満たしてほしいくらいなのだが。

 さすがにそれは可哀想なので、戦いの時だけ食べさせることにする。

 常時食べさせるほどの手持ちがない、と言うのもあるが。いずれ栽培できる場所を確保する必要があるだろう。



 その後、サシャは鶏やウサギは余裕で倒し、イノシシには辛勝し、クマには普通に負けた。

 一戦ごとに傷を癒してやり、また新たな雑魚を召喚しては、サシャ、やれ。の繰り返しだ。

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