第8話

 銀貨1枚と銅貨2枚。それがあなたの手に渡った報酬である。

 銀貨にも大きさによって種類があり、銅貨にも同様に種類があるらしいが、細かい話は不明だ。

 あなたの手元にある銀貨は普通の銀貨より大きく、銅貨もまた大きいということは分かった。


 5倍働いたから報酬も5倍! と出来高制のよさが発揮された報酬ではある。

 石運びをしていた、最も重労働で、最も報酬の高い石運び夫らの5倍であるから、高額なのだろう。


 しかし、唸るほどの金貨を1度の依頼で稼ぐあなたからすると、この報酬はあまりにもささやかだった。

 ある意味、あの親方たちは凄い贅沢をしていたわけだ。あなたの午後の時間の金銭価値は山のような金貨にも匹敵する。

 それをほんの銀貨1枚と銅貨2枚で買い叩いたということだから、実に不当な取引もあったものである。


 しかし、たとえば凄腕冒険者に野菜の収穫をさせようとしたら眼の飛び出るような報酬が必要だ。

 だが、凄腕冒険者が自分から野菜の収穫をさせてほしいと申し出てきたら少額でコキ使えるのは当然だ。


 これは不当な取引ではなく、公正な取引である。

 その事実を噛み締めると、ふと些少な報酬の依頼でも貪欲にこなしていた初心者の時期を思い出す。

 ペットと二人三脚で頑張って来た、懐かしい思い出だ。

 あなたは初心に戻ったつもりになって、そのささやかな報酬を握り締めた。


「あ、あの、ご主人様。こちらを……」


 サシャは小さな銀貨をあなたへと差し出した。


「奴隷の報酬ですから、それはご主人様のものになる……ですよね」


 たしかにエルグランドでもそれは当然のことだ。

 と言うより、依頼の報酬は決まっているので、奴隷に分け前の権利などない。

 主人が全て受け取り、そこから奴隷に分配するかは主人の匙加減だ。

 ゆえに、あなたは首を振って、その銀貨はサシャが取るようにと伝えた。


「私の……私が稼いだ……私の銀貨……」


 手の中のちっぽけな擦り減った銀貨。それは、見た目通りの価値しかない代物だ。

 だが、初めて手にした報酬とは、万金にも値する価値を持ち主の心へと齎してくれるものなのだ。

 いま、あなたが握り締めるささやかな報酬が、昔を思い起こさせてくれた大切な品となったように。




 それから、日も暮れて、あなたとサシャは宿へと戻った。

 先にサシャを部屋へと入れ、自分も部屋へと入ると、あなたはすぐにサシャに後ろから抱き着いた。


「あぅ、ご、ご主人様……?」


 今日はとても疲れた。肉体的な疲労で言えば実際はかけらもない。

 だが、色々な意味で、精神的に疲れたりとかしている。そうに違いない。

 あなたはそのような自己弁護の下、疲れたから疲れを癒したいとサシャに囁く。


「きょ、今日も、アレをするんですか……?」


 もちろんする。サシャの反応も良くなってきた。

 丹念に解きほぐした少女の堅い蕾が花開くさまは何度見てもいいものだ。

 サシャの未だ小さな胸に手を這わせ、もう一方の手はサシャのスカートの中へと潜り込んでいく。


「あ、あの、汗臭いですから、せめて水浴びを……」


 なるほど、いっしょにシャワーを浴びたいというわけだ。

 それはむしろ昂るではないか。シャワールームでならなにをどれだけ出しても問題ないのもいい。


 あなたはサシャを抱き上げると、その耳元に口を寄せる。

 ふわふわとした柔毛の生えた耳はあなたの吐息に触れると、ピクリと揺れる。

 その愛らしい仕草にぞくぞくとした嗜虐心が湧きたつのを感じながら、あなたはサシャの耳元でささやいた。


 今日も蕩けるように甘い時間を教えてあげる、と。


 言われたサシャは顔を真っ赤にすると、へなへなと耳がしおれ、自分の手で顔を覆ってしまった。

 そして、蚊の鳴くような小さな声で、呟いた。


「せ、せめて……やさしく、してください……」


 あなたの理性は限界を迎えた。





 蕩けるように甘い時間を教えてやり、疲れから寝入ってしまったサシャを自分の胸に預けさせながらあなたは天井を見上げていた。

 サシャと言う大変可愛らしい奴隷を手に入れて満足だったが、色々と、こう、物足りないものがある。


 純粋に、欲求不満だった。もっとたくさんしたいが、これ以上やるとサシャの体への負担が大きい。

 負担が大きいというか、下手しないでも死ぬほどの疲労をため込むことになりかねない。

 娼館をはしごするのも悪くないが、あなたに本気になり過ぎる娼婦も少なくないので、些か面倒だ。


 やはり、奴隷がもう2人か3人は必要だ。なにをしてもいい奴隷がもっと要る。

 とは言え、いきなり奴隷を買うのも下策である。買われたばかりで不安なサシャに、新しい奴隷を買うところを見せつけるのはよくない。

 何事も焦りは禁物である。それまではなんとか我慢するほかにないだろう。今は量より質を求める時だ。

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