第10話

目の前に青空が見える。


下を見たくない。


そう、俺は病院の屋上から落ちようと

している。


助けようとした猫は

フェンスの高い高い上の方に浮かんで

ふわんとしっぽをくねらせた。


笑みを浮かべて、にゃーと鳴いている。


ちくしょう!!


なんで俺はこんな猫のために

身を投げたんだ。



死を望んでいたのに

今は、猫のために必死になった

自分を悔しがった。



俺は生きたいと思っている。



パシッと俺の腕をつかまれた。



後ろから追いかけてきた結愛だった。



棒高跳びの新記録を出した元陸上部の

結愛のフェンス飛び越えは早かった。



助かったかに思えたが、

結愛も一緒に地面に

落ちてしまっている。


腕をつかんだだけでは助からない。


俺の方が体重重いんだから。



空中で

自分が下側になるように

急いで、

結愛をきつく抱きしめた。




俺が結愛を守る。




給料も結愛より低い。

介護士と看護師は雲泥の差がある。



頭脳も結愛には勝てない。



家事の労働力も負けている。


それでも、

男として女を守るのは

譲れない。





あんなに死を望んでいたのに

今は人を助けようとしている。





俺は何をしたいのか。




一瞬にして、2つの体は

駐車場のアスファルトに

思いっきり体を打ちつけた。



俺の体が

クッション代わりになったようで、

結愛は無傷で済んだようだ。



「律!!律!!!

 死なないで!!」



 さすがが看護師。

 救護は人一倍完璧だ。



 

 でも、はっきり覚えてない。




 俺は、

 結愛が助かったことが嬉しくて

 笑顔を見せた。





 すぐに病院関係者が状況把握して

 担架を持ってきた。




 すぐに緊急処置室へ運ばれた。


 

 人工呼吸器に

 血だらけの衣服をビリビリと

 ハサミで切られたらしい。


 お気に入りだったのに。


 骨が折れている。


 幸いにも背骨圧迫骨折で済んだらしい。


 命に別状はない。重傷だった。


 完治するのにリハビリをこめて

 半年はかかるものだ。


 もう、生と死の境目のようなものだ。




****



 病室でぼんやりと過ごす時間も酷な話だ。



 何度も読み飽きた漫画を読んで、

 見飽きたテレビを繰り返し見る。



 俺はまだ30代なのに

 病院生活なんてと監獄にいるのと

 変わりないじゃないかと思ってしまう。



 体は動かなくても頭は若いままだ。


 

 病室から季節を感じている。



 冬になるにつれて

 木から落ちる葉っぱを

 あと何枚って

 自分がするとは思わなかった。


 

 結愛の同僚の看護師と

 会話するだけで浮気だなんだと

 疑われる。



 息苦しい空間だった。


 

 早く退院してしまいたいと何度思ったか。



 今、考えてることは

 明日からでも病院から出たい。


 

 まだ生きることを考えている。


 

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