第9話

虹色の瞳の白い猫は、

病院の屋上にある

フェンスのふちにのぼっていた。


律は、病衣を着て、

スリッパのまま、

猫を見つめた。


手をのばす。


そこから落ちたら、

だめだと

止めようとした。



にゃーと猫が一声鳴いた。



え、まさか

この猫は死神とかじゃないよな。



この屋上から飛び降りちゃうとか

そういうのないよな。



そんなことを考えながら

俺は、猫の体をつかもうと

ジリジリと近づいた。


まだ逃げない。



「おい、危ないから

 こっち来いって。」


 

思わず声が出た。



透明になるのだから幽霊かもしれないのに

必死で落ちるのを止めようとする俺。



何をしてるんだろう。



無我夢中でフェンスを飛び越えた。



白い猫を屋上から落ちないように

助けようと必死になった。


「こっちだ、ゆっくり。」


人間じゃない。

猫1匹ごときにこんな夢中になるなんて

信じられなかった。


スリッパを脱いで、

屋上のふちを裸足で動いてる。



滑り止め効果はあるだろうが、

綱渡りだ。



生きるか死ぬかのギリギリのところに

立っている。


だんだん息が荒くなり、

がくがくと足が震えてきた。


それでも、猫を助けたいという気持ちが

強かった。


「おい!

 こっちって言ってるだろ!!」


 にゃーと凶暴な声で鳴く。


 怒り始めた。


 猫のことを助けている場合かと

 言わんばかりだ。


 足を踏み外して、

 遂にアスファルトに

 体を打ちつけるのかと

 心臓が激しく打ちつけた。


 ギリギリ指先で、コンクリートの壁を

 つかんだ。


 猫は平気な顔をして

 ニヤニヤと笑っている。


 なんだか悔しくなってきた。


 むしょうに腹立ってくる。


 ありあまる筋肉を使って、

 自分の体を持ち上げた。


 やるじゃん。

 自分、腕立て伏せできるやん。


 っと思った矢先、

 登りきったと思った。


 踏み外して、スローモーションに

 体が落ちていく。


 やばい。

 俺、マジ、死ぬ。


 無理。

 これ、助からない。


 目をつぶった。


 

 猫の首輪の鈴が

 大きく鳴り響いた。



 虹色の目が光る。

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