第7話
目を開けた。
そこは見たことのある景色だった。
律本人の働く介護施設だった。
現実に戻ってきたのか。
いつもの制服であるポロシャツと
黒いジャージ。
それが仕事着だった。
白ワイシャツのように
アイロンもしなくて良くて
毎日楽だなと思うが、
お風呂入れがあると
着替えを多く
持っていかなくてはなくて
洗濯の数が増える。
またこの仕事をしろということか。
でも、様子がおかしい。
利用者やスタッフがいない。
ふわっと体が浮いている。
魂なのか幽霊としてなのか
空中に浮かんだ。
自分で動かせると思ったら、
自動的にふわふわと流れていく。
利用者用ベッドに移動した。
仕事着のまま、
俺は利用者になったのか、
ふわっとふとんがかかった。
急にズシっと体が重くなり、
動けなくなる。
いつの間にか装着された紙おむつ。
顔がどんどんシワシワに。
浦島太郎のように
おじいちゃんになったのか。
浦島なら、可愛い女の子や
美人の女の子と舞を踊らないといけない
はずどこにそんな。
いや、どこにもいない。
ぬか喜びも束の間、
スタッフルームから人が来たかと思ったら、
目を赤くしたロボットから
静かにやってきた。
人の気配がしない。
ロボットが数人やってきた。
腕を掴まれた。
温かくない。
金属部分は冷たい。
ロボットに触れた腕で
センサーにより、
透明なウィンドウが現れて、
今の健康状態が表示された。
体温、血圧、心電図、
排尿はあるかないか
食事は取れるかどうか
血液検査の結果、意識確認などが
コンピューターにより
全て管理されているようだ。
(これが介護ロボット?!
こんな扱われ方なのか。
全然話もしなければ、
ただ掴まれただけだ。
これでいいのか…。)
なぜかロボットにオムツ交換されてる感覚は
理由もなく涙が出た。
温かくない。
事務的に何も話さずに
金属の機械に
ただ黙々と作業をされている。
いや、これが人間だったら、
話さなくても多少の温かい手の温もりや
オーラとか気持ちが乗っかってくる。
最期の人間の扱われ方が
これでいいのかと自分の体が寂しさを
覚えた。
たとえ、寝たきりでも
誰か人間に扱われるだけで
こんなに違いが現れるのか。
俺のやっている仕事って…。
涙がとめどもなく流れ出る。
この時、ロボットはどう対応するのだろう。
涙と透明なウィンドウに表示されるが、
泣いたこともないロボットに理解ができるのだろうか。
人間の感情を理解できるのだろうか。
ロボットは、涙の文字に首をかしげて
機械音を響かせた。
ロボットは、
近くにあったティッシュを
差し出すことしかできなかった。
ベットに寝たきりになった老人の俺のお腹の上にさらりとティッシュが落ちた。
涙はお腹から出ない。
目から流れるのだ。
腕を伸ばして、ティッシュを取った。
自分で自分の涙を拭う。
「な…み…だ?」
また首をかしげる。
これが人間が求めていた介護なのか。
人口が減ってきたから
一手不足だと言いながら、
ロボットに頼るなんて人間を
バカにしてはないだろうか。
いっそのこと、
安楽死をしてもらった方がいい。
でも、最後くらい、
赤ちゃんのように戻って生きるべき
なんだろうか。
年寄りわらすとよく言ったもんだ。
誰しもが望む
ピンピンころりが理想というが、
そんなあくまで理想ですぎない。
都合の良いように人生を終わらすことが
できない。
余生を楽しめということだろう。
俺には、祖父祖母がそばにいない。
上京してきて、赤の他人の高齢者の
敬意を持ってお世話をしている。
地元のじいちゃんばあちゃんは
元気だろうか。
ハッと何かに気づいた。
白い猫が俺のお腹の上で
くつろぎ始めた。
ゴロゴロと喉を鳴らしている。
この猫は、どこかで見たことがある。
突然、巨大な揺れを感じた。
地震だ。
必死で利用者を守ろうとするロボットたちは、建物に押しつぶされて次から次へと
故障していく。
調理場から火災が発生したようで
火の手がこちらにも迫ってきた。
そして、俺の上にも
担当ロボットが乗っかってきた。
助けようとしたのだろうが、
かえって押しつぶされて苦しかった。
火に飲み込まれて、
そのままロボットは俺の腹の上で故障した。
寝たきりの俺は、
ロボットとともに生き絶えてしまった。
もう、どうしようもない。
ロボットはデータに
基づいた動きしかできない。
ましてやトラブル対処には
まだ対応してないロボットだったようだ。
いくら性能の良いロボットだったとしても
安くて劣勢なものを選んでしまったら、
そういうことも起きる。
人間は優秀だと言うことがわかる。
お金以上の能力があるということだ。
俺は、
また白い世界に飛ばされた。
飲んだ錠数は確か7錠。
もう生まれ変わることはないのだろうか。
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