第6話

あの時

飲んだレインボーのラムネは

何錠飲んだのか。


飲んだ数だけ

生まれ変わった世界に行けるのか。


もしかしたらと考えてしまう。


6回目の

違う世界に切り替わった。


真っ白な眩しい世界から

急に白い天井が目の前に現れた。


空中にまたあの白い猫が

鈴の音を鳴らして横切った。



横を見ると消えていなくなる。


幽霊なんだろうか。



今度は入院している病人に憑依したようだ。


年齢はそんなに歳でもない。


推定50代。


まだまだ現役で働ける歳だ。



サザエさんに出てくる

波平さんくらいだろうか。



白い髭を生やして、

頬は痩せこけている。



鼻に人工呼吸器のチューブが

繋がれて、

心電図の音が響いている。



あまり長くは生きられそうにない。




「鈴木さん、調子はどうですか?」


回診だろうか、

担当看護師が個室の病室に入ってきた。



俺は話せないくらい呼吸が苦しい。


目で追って、頷くことしかできない。


体温計で熱を測られて、

血圧を測られた。


毎日のことで、

定期的にする仕事なんだろう。


テキパキとこなしてる姿を見ていると

介護士をしていたときの自分と重なった。


無心に利用者の方と関わっていた。


時々笑顔を見せたりして

いつでもどんな時でも尽くしていた。



何も話せなくても看護師は

変わらず、関わってくれている。



温かさを感じた。




「今日の調子は

 いつもより良さそうですね。

 点滴もスムーズに送られています。

 もう少ししたら先生来ますからね。」


 サマリーにチェックしていくと、

 看護師は病室を出た。


 ちょうどいなくなった時だった。


 不意に想像を絶するくらいの

 呼吸困難に陥った。


 息ができない。


 点滴のチューブを引っ張って、

 スタンドを倒した。


 ナースコールがあることを忘れている。


 心電図が激しいアラームを鳴らしていた。


 俺はまた死ぬのか。



 慌ただしく、ナースステーションから

 走ってくる看護師がいた。


 ナースコールをしなくても、

 ナースステーションには

 心電図データが飛ばされている。


 緊急事態だと察した

 さっきの担当看護師が

 駆けつけてくれた。


 

「鈴木さん!鈴木さん!」


 体から抜け出た魂から

 寝ている人を見た。


(俺は鈴木ではない。

 確かに名札には

 鈴木って書いてるけど。)



 担当医師が到着する前に

 鈴木という人に憑依した

 俺は生き絶えた。


 

 目の瞳孔は開くこともなく、

 心臓は動くこともなかった。



 


 余命1か月と宣言されて

 3か月長引いたらしい。



 なんだろう。


 この感覚は。



 生きたいと必死で

 思っている人が

 生きられなくて、

 死にたいという人が

 生き延びている。



 神様はいじわるなのか。



 望みを素直に受け入れられないのか。



 いや、

 こうやって、死に行く人を

 肌で感じてみろという

 ミッションなのか。


 俺にどうしろというんだ。


 


 魂がふわふわと浮かんで

 また真っ白い空間に飛ばされた。


 

 アンミカが白は200種類あるんだとか

 いうが、今はたぶんオフホワイトだと

 思う。


 って、そんな違いがすぐに分かるかーっと

 ちゃぶ台をひっくり返したくなるが

 そんなことも言ってられない。


  

 白い猫が白いキャンバスの上に

 乗ったように現れて、虹色の瞳しか

 見えなかった。



 金色の鈴を首につけている。


 何度も鈴の音が響く。


 じっと目を見つめてきて、

 にゃーと一声鳴いた。



 猫が金色に光り輝き始めた。


 眩しすぎて

 目を開けていられなかった。




 腕で顔を隠した。





 猫がいなくなって、

 まぶゆい光に包まれた。






 俺は一体何をされているのだろう。







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