第3話

神社の境内では、

和太鼓の音色が響いていた。


ぼんやりと提灯の灯りが見える。


出店が連なっていた。


高校生くらいのカップルは浴衣と甚平を

着て歩いていた。


結愛は、看護師で同僚の有希と一緒に

神社の秋祭りに来ていた。


毎年恒例の地元では有名の秋祭りだった。


「もう、学生さんが羨ましいね。

 ラブラブじゃん。

 結愛は、律くんとああやって

 浴衣と甚平で歩ける?」


「私だけ浴衣ってなるかも。

 律は、甚平とか恥ずかしいって

 言うから。」


「そうなんだ。

 でも、いいじゃん。

 彼氏いるだけ。

 私はフリーだよ?」


「あれ、この間まで付き合ってた人は?」


「浮気された。

 もう連絡してない。」


「そうなんだ。

 大変だね。

 でも有希は

 モテるからすぐ彼氏できるよ。」


 境内を歩きながら人混みの中を歩く。


「有希、これしていい?」


 ふと横を見ると、射的の出店があった。

 景品はお菓子の箱を当てるともられる

 らしい。

 結愛は射的をしようとする。

 お店のおじさんがニコニコとしていた。


「いらっしゃい。

 1回300円ね。」


「んじゃ、5回で。」


「ほう、1500円だよ。」


「ちょうどあります。」


「結愛、随分使うね。」


「だって、律にお土産頼まれたから。」


 結愛は、射的の景品に並ぶ

 ラムネ菓子の箱が気になった。


 ふと鈴の音が聞こえた。


 周りの音がかき消される。


 射的の台の近くに

 白い猫がいじわるするように

 現れた。

 

 瞳の色が虹色だった。


 変わった猫だった。


 首輪は赤い。


 しっぽを立てて歩いている。



「何、あの、猫。

 邪魔するのね。」


 銃を箱にめがけた。 

 

 何度も狙うがなかなか当たらない。


 レインボーと書かれたパッケージ。

 ラムネ菓子と書いてある。


 1回の射的で5回分。

 全部で15回打てた。

 さすがにこんだけすれば当たるだろうと

 たかをくくった。


「結愛、頑張って。」


「うん。」


 狙いを定めて、ようやく当たる。

 当たった瞬間、同時に光った。


 何かの力が加わったような気がした。


 さっきまでいたクネクネと動く猫が

 いなくなっている。



「あれぇ、当たった。」


「おめでとうさん!!」


 おじさんから

 当たったレインボーラムネ菓子と

 巻取り笛をもらった。


「やった。」


「射的に夢中になるなんて…。

 結愛、たこ焼き買おうよ。」


「う、うん。

 これ、

 律にお土産だから。」


 変にキラキラと光るラムネ菓子が

 気になった。

 取れて本当によかったと安堵した。


 有希に誘導されて

 たこ焼きやに向かう。

 結愛は、取れた満足でなぜか

 お腹まで満たされていた。


 不思議な感じだった。


 

 たこ焼きを食べながら、

 何100発の打ち上げ花火も満喫すると、

 鳥居のそばで有希と別れた。


 2人で話をしてストレス発散ができて

 スッキリした。


 鼻歌を歌いながら、家路に向かう。


 路地裏にささっと動くものが見えた。


 射的の店にいた白い猫だった。


 

 夜なのに光って見える。


 追いかけようとしたが、

 もういなくなっていた。



「虹色の瞳だったなぁ。」



 結愛は気になっていたが、

 仕方なく家に帰った。



 家に着くとソファに

 横になって爆睡している律がいた。



 いつも愛用している風邪薬の瓶を

 見つけた。



 おもしろ半分で

 射的屋で貰ったレインボーのラムネ菓子を

 これでもかと詰め込んだ。


 いつも入ってるラムネと違って

 キラキラしている。


「これ飲んだら、律喜ぶかな。」


 あえて、

 何も言わずに入れておくことに決めた。

 結愛は何だか楽しそうだった。 

 



 翌朝、

 律は腰痛も治ってきたかと

 背中を撫でながら、

 湿布を外す。


 テーブルに目をやると

 いつも飲む風邪薬の瓶が見えた。


 結愛は近くにいない。


 別部屋で寝ていた。


 カレンダーを確認して

 今日のシフトを確認した。


(なんだ、今日は休みか。

 2連休羨ましいなぁ。)


 律は、ボリボリと背中をかいて

 またやるかと

 瓶の中を手のひらに全部出して、

 口の中に一気に飲み込んだ。


 粒は口の中でキラキラと輝きながら、

 パチパチと炭酸のようにはじけた。

 フルーツ味がする。

 

 そうかと思ったら、いつの間にか

 ガンと後頭部を床にぶつけた。




 目の前が真っ白い空間に飛ばされた。



 肉体はそのままに意識が飛んだ。



 俺は、死んだのか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る