第2話
「律!!」
無視したままぼんやりと過ごす。
「また何やってるの?!」
彼女は、テーブルに置いた風邪薬の瓶を
確かめた。
空っぽになってるのを見ている。
俺はそれを横目で確認する。
「本当、律も暇よね!?
また、駄菓子のラムネ入れまくって
過剰摂取しまくってるようにするなんて
頭おかしいんじゃないの?
ちょっと、起きてるくせに
寝たふりすんのやめなさいよ!?」
肩を揺さぶり起こされた。
「ふへぇっ!?
俺は、今天国か?」
「バカ!?病院行きなよ。
ただの腰痛でしょうが!?」
「だよなぁ、
毎日やりまくってるからなぁ。」
「おうおう、言うなぁ。
毎日もできないくせにねぇ。」
「それは言わないで。
俺のここも休みが必要なんだよぉ?」
「はいはい。
分かりました!
掃除するからそこよけて!」
結愛は、家政婦のように
テキパキと部屋中を掃除し始めた。
「病人は労わってよ。
頼むから。イタタタタ。」
痛む腰をおさえながら、
ゆっくりと起き上がる。
ふわふわのソファに座り直して、
両足をあげた。
「足をあげるのは早いのね。」
「おうよ。」
「律、今夜のお祭り。
友達と行ってきていい?」
「え?行っちゃうの?」
「うん。
腰痛で酷い人と一緒に神社
歩けるわけないでしょう。」
「そうですけど…。
誰と?
俺以外にも彼氏いるのかよ。」
「何、ヤキモチ?」
「そうだよ!」
「やけに素直ね。
同じ職場の有希だよ。
看護師仲間の。」
「ああ、そう。
別にいいよ。
俺は、一緒に行けないからさ。
楽しんでくれば?
お土産よろしくね。」
結愛は、掃除機を動かして
綺麗に部屋を掃除していく。
病人がいると、掃除が余計に大変になる。
わかっているが、やってあげたくなるのは
母性本能か。
職業柄、お世話やきが好きなのもある。
「ここに、痛み止めの薬置いておくよ。
真面目に飲みなさいよ?
湿布、貼っておいたから。」
「いつの間に?
さすがはナースだね。」
「介護員の介護も大変よ。
介護じゃなくて、今は看護かな?
んじゃ、私、あと少ししたら
出かけてくるね。
ご飯は、台所に置いてたから
温めて食べて。」
「ああ。置いておいて。」
寝返りを打って、腕で顔を隠した。
結愛は、洗面台で身支度を終えて、
バックを肩にかけた。
「行ってきます。」
バタンとドアが閉まった。
急に部屋の中が寂しくなった。
1LDKに熱帯魚が入った水槽が
コポコポと鳴る。
時々、冷蔵庫の氷が落ちる音に
びくんとなる。
腰痛になって、仕事に行けなくなってから
3日は経っていた。
本当ならば、職場になんて行きたくない。
業界から嫌われているキツい現場。
3K
きつい、汚い、危険が
隣り合わせの仕事。
ましてや、スタッフは
人手不足のために
資格の持たない者を
これから資格取ります宣言で
雇うこともあるため、
はっきり言って質の良くない人が多い。
長年勤めているおばちゃんの
パワハラ行為は横行しているし、
セクハラ問題も多い。
下の世話をするから
当たり前だと思うかもしれないが、
若い人は嫌がる人もいる。
若い人が辞めていくのはいろんな理由が
あるが、とにかく大変だ。
俺は、昔から
おばあちゃんにお世話になったことも
あって、
将来はおじいちゃんおばあちゃんに
役に立つ仕事に就きたいと
考えて、都内の福祉大学で学んで、
資格も取った。
蓋を開けてみれば、
理想と現実は全く別物。
ニコニコあははうふふでお世話して
終わりなら問題ないのだが、
一緒に働くスタッフもしかり
お世話する利用者も話せる人ではなく、
認知症がかなり酷い方や
寝たきりが多かったりする。
どこで生きがいを見つければいいって、
不満ばかりだ。
よく利用者にありがとうと言われるので
やりがいを感じますって綺麗事を言う人が
いる。
どこの誰が言うんだよ。
寝たきりのおばあちゃんは何も話せない。
認知症が進めば、ありがとうさえも
いえないのだ。
ましてや、遠くに住む利用者家族は
会いにも来ない。介護施設に丸投げだ。
利用者によっては暴れて、
言うことをきかない人もいる。
つねってくることもあるし、
たたかれることもある。
いくら気をつけていても
ぶつかることだってあるんだ。
それでも必死で笑顔を取り繕って
お世話する。
オムツ交換や、食事の介助。
はたまた、家族への連絡。
行事があれば、その準備や片付け。
具合悪くすれば、病院へ連れて行く。
スタッフ同士での揉め事も
人間だからある。
休みが満足に取れないこともあり、
基本俺は、日曜日は出勤にさせられる。
他のスタッフはこどもの行事で
参加しないといけないからと
土日休みを多く取る。
独身の俺に取っては何の予定ないだろと
半ば強制的に仕事となる。
自由が無いこの職場に
悲観しか浮かばなくなってきた。
だからいつも、
風邪薬の瓶に駄菓子のラムネ菓子を
たくさん詰め込んで
過剰摂取して
天国に行く夢を見るのだ。
つまりは、ごっごだ。
眠くなるわけじゃない。
そういう気分を味わっている。
自分なりの現実逃避だ。
イヤホンをつけて
オルゴールを鳴らす。
今日は、腰痛も酷いこともあって、
そのまま眠りについた。
今は体と心を休めということだろう。
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