第8話 捜査開始

  服部に言われるがまま、ユウナはとあるところに来ていた。


それは王都で起こっている不可解な事件の犯行が行われたであろう現場である。


いきなり教室に押し入ってきたかと思いきや、『資料をよこせ』だ、『捜査に付き合え』だのと横暴で強引なものだった。


だが、そんな服部についてきたユウナはなんとも言えない複雑な表情で捜査の手伝いをしていた。



「ねぇ、さっきから何をしているの?」


「ああ、捜査」


「それは見ればわかるわよ!」



業を煮やしたユウナは服部に聞くが、服部はそっけない感じで答える。


というのも、服部は現場に来てからずっと地面に座っているだけであるのだ。


ユウナはそんな服部のことは放っておいて、現場の方に目を向ける。


二人がいるのは学園で腐敗死体が見つかる二日前に起こった、三番目の事件現場。


場所は建物の間に挟まれた狭い路地で昼間の太陽の光などは遮られていて、視界はとても良好とは言えない。


さらに、殺されたのが夜となると、流石に犯人の顔なんて誰も覚えていないのも当然だ。


ここにくる途中、街の人たちに事件当日のことを聞いて回ったが、目撃者はゼロ、誰一人として事件を知る者はいなかった。



「どうも、気になるな…」



服部がふと、独り言をつぶやいた。



「え、何か言った?」


「おかしいんだよな、なんで誰も知らないのか」


「ああ、もしかして事件のこと? そんなのここにくる途中で聞いたでしょ」


「違う、そんなのは後でいい。俺はなんで誰も死体の腐敗に気づいてないのかだ」


「確かに、そうね…」



なぜ服部が事件の資料をよこせと言ってきたのか、それはここにきて新しい情報が入ったからだ。


不可解な事件の謎の一つ、一部だけ腐敗した死体だが、そんな情報は騎士団の当時の調査ではなかったというのだ。


服部と騎士団との調査で食い違いが起きているのだった。



「でも、騎士団が間違った調査をしたとも思えないし」


「だが現に死体には腐敗した部分がなかった。まさか、短時間で消えたとでも言うのか」



服部が腐敗にこだわるのには理由があった。


事件が起こった当日の夜、服部は偶然、その現場に居合わせていた。


その時に現場に騎士団が来るまでの間、服部は死体の身元を調べていたらしい。


それを聞いたユウナは心の中で一つ分かったことがあった。


以前、貴族のお嬢様から聞かされた事件現場に現れる謎の男というのが誰のことか。



「ああ、あともう少しで糸口が掴めそうなのにな」



服部はムシャクシャした感じで頭を掻きむしる。


そんな服部を見かねたユウナは提案をする。



「ねぇ、少し王都を見てみない?」


「はあ、今はそれどころじゃねぇんだけど」



なんで今そんなことを言ってんだという感じでにユウナを睨む服部。



「でも、その様子じゃ事件解決も届かないような気がするけど。ていうか、今がそうでしょ?」


「それもそうだな。ひとまず、頭の中を整理するか」



服部は今の状況じゃどうにもならないと悟ったのか、ユウナの提案に乗った。



「よし! じゃあ、そうとなれば、すぐに行こう。私が案内するわ」



二人は気分転換も兼ねて、王都を観光することにした。


現場の路地を離れて、人通りが多い中央街道に出る。


無性に張り切るユウナの後ろをトボトボとついていく服部はふと視線を感じ、視線のする方に目を向ける。


その視線の主は黒いマントを纏い、中央道を挟んだ反対側の路地に入る手前に立っていた。


だが人が行き交いしてる中でその主の顔まではわからなかった。


目を凝らしてよく見ようとしたが、いつの間にか人混みに紛れ、姿が消えていて、その場所にはもういなかった。



「何、どうかした?」



立ち止まって何かを凝視している服部に気づいたユウナが声をかけるも、「別に」と言って歩き出した。


そんな服部の顔は気のせいか、少し笑っているように見えた。



###



昼間の王都は人の行き来が激しく、しかも王都の中心部の市場は大いに賑わっていた。


その人気の理由は言わずとも市場に並ぶ、新鮮な食材なのだ。


採れたての野菜や果物、肉などの食材にその場で焼いて売り出している肉焼きなど、食欲をそそるのだ。



「うまっ! これは絶品だわ〜」



ユウナは串刺しの肉焼きを片手にもぐもぐと食べながら市場を歩いていた。


その隣で服部は市場に目もくれず、うつむきながら何か考え事をしているようだった。



「どうしたの? まだ、何か引っ掛かってるの?」


「いや、少し整理をしてるだけだ」


「ふーん、それで整理できた?」



服部は「ああ」と答えると、今わかっていることを一つずつ丁寧に話す。




「まずは殺された被害者の共通点、これははっきりとわかってる」


「共通点って、一見何もないように見えるけど」


「それが犯人の一つの狙い、無差別に殺しているように見えるが、それこそが犯人の思うツボだ。こういうのは年齢とか、性別とかは省いて考える方がいい」



ユウナが肉焼きを口に咥えながら「例えば」と聞くと、服部は説明していく。



「被害者の職業で考えるといいだろう。第一の被害者は時計職人、二人目が薬師、三人目が宝石店のオーナー、この繋がりでいくと三人の被害者の共通点は…商売人」


「でも、他の三人は商売人だけど、四人目の被害者は商売人じゃなかったよね?」


「おそらくは三人の被害者のうちの中の客か、関係者か。それに四人目は犯人の計画にはないものだから、外してもいいだろう。だが、やっぱり気になるのは……」



服部はふと立ち止まり、黙ったままうつむき独り言をぶつぶつとつぶてると思ったら、辺りをチラチラと見回していた。


その様子を見てユウナが「どうしたの?」と聞くと、服部はハッとひらめいた顔をしていた。



「悪い、ちょっと用があるのを思い出した」


「なんで急に! って、どこにいくのよ? ねぇってば!」


「靴屋だ!」



服部はそれだけ言い残すとそのまま人混みの中に消えていった。



「ちょっと、どこへ———。きゃっ!」



服部を追いかけようとしたユウナの前を一台の馬車が疾走して横切った。


驚いたユウナは後ろへ倒れ込み、尻餅をつく状態で倒れた。



「いてて……。何よ、さっきの馬車! 危ないわね」



間一髪で助かったのだがそのせいで服部は見失ってしまったのだった。

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