第6話 調べもの
「君たち、二人でこの事件を解決してほしいんだ」
アイシャは足を組みながら、カップに入った紅茶を片手にユウナと服部を見て、事件の解決してほしいとのことだった。
と、頼まれたものの、ユウナは唐突の申し出に理解が追いつかなかった。
「ちょ、ちょっと待ってください。事件の解決って、私たちがですか?」
「ああ、そうだ」
「本当に、言ってます?」
「ああ、私は本気だ」
ユウナの戸惑いながらもアイシャに問うが、アイシャは顔色も変えず、冷静に答える。
アイシャの自信満々の表情からユウナは本気なのだと悟り、それ以上言っても無理だとわかるとやめた。
とはいえ、ユウナはアイシャの考えがわからなかった。
ユウナの戸惑う表情を見たアイシャは察して、依頼の意図を話した。
「もちろん、私は君たちを困らせたいから言ってるわけではないぞ。ちゃんと理由はある。まず一つ、君たちの方が適任だと思ったから、もう一つは、彼の能力に興味があったからだ」
アイシャは彼、服部のほうを見てそう呟いた。
ユウナも服部のほうを見るが、当の本人はこの会話を最初から聞いてもないように思えるが。
「それなら、退屈しないで済むが、目的は?」
服部はアイシャの顔を睨みつけるように見ながら、目的について問いかけるとアイシャはニヤリと笑う。
「目的はないさ。ただ、君はあの中庭で見つかった死体、本当はもうわかっているんじゃないのか?」
「えっ!? そうなの?」
アイシャから出た言葉にまたしてもユウナは驚かされていた。
一体、あの死体を見ただけで何がわかったというのか、そもそもユウナはこの事件の概要が見えずにいるのだ。
「それで、どうなんだ? 気づいているのか、そうじゃないのか?」
アイシャは不敵な笑みを浮かべて、服部を見ながら問いかけると。
「まあ、そうだな」
服部はアイシャをしばらく見ていたが、もうこれ以上、隠し事はできないと確信したのか、ため息ついて認めた。
「え、なに? なんで? どこで? どういうことなの?」
ユウナは二人の顔を交互に見ながらその意味を聞くと服部は静かに死体をみた時の話をした。
「まずは死体を発見したときの状況からして、おかしいのがいくつもあったが、気になったのは殺し方だった」
「殺し方?」
「あの死体は、どうもこれまでとは違って、暴走気味だった」
「…ん? どういう、こと?」
服部が語る死体の詳細にユウナは隣で四苦八苦して完全に頭の中で整理が追いついてない様子だった。
「はっはっは! だいぶ説明が疎かになりすぎてるな」
涼しい顔をしていたアイシャは二人のやりとりを見て、つい吹き出して大声で笑っていた。
飲んでいた紅茶のカップをテーブルに置くと、服部の説明に補足をつけるようにユウナに説明する。
「もう少しわかりやすく言うと、あの腐敗の死体は突発的に起こったということだ」
「突発的に、起こった…?」
「要するに、計画になかったこと、トラブルが起こってしまったということだ」
「計画、突発的、トラブル……ってことは、連続で人を殺しているってことですか!?」
ユウナは服部の言う言葉の意味、概要が鮮明になって、頭にすうっと入ってきた。
アイシャもそのユウナの表情を見て、察したように笑みをこぼした。
「それじゃ、あとの続きを服部くん、説明を」
アイシャが目配せをして促すと、服部はため息をついて事件の概要を説明しだす。
「まあ、今までは几帳面で誠実に計画的に、部分的にやっていたが、それが今回、裏目に出てしまっていた。だからこそ、思ってもない事態になってしまい、あんな形で死体を処理するしかなかった。初めて犯人が失態を犯したのが、あの全身腐敗死体だ」
服部は腕を組みながら目を閉じると、なんだか残念そうな顔をしていた。
「部分的にって、どういうこと?」
「犯人は意図的にか、それともただ目立ちたくなかったのかは知らないが、どの死体も手足、首、腹部のどこかには腐敗した部分があったということだ」
「へぇー、そうなんだ…。はっ!」
服部が語る事件の詳細な情報にユウナは心の底から感心したようだった。
だからつい、素のままの純粋な口癖が出てしまい、慌てて口を抑えて恥ずかしそうにしている。
「それじゃ、ある程度はもうわかっているという感じか?」
「ある程度は、だけど……」
アイシャのあとは大丈夫かという問いに服部は少し煮え切らない答えだった。
「だけど、なんだ?」
アイシャは服部の答えに何かあるのかと思い、聞いてみると服部は胸の前で組んでいた腕を外して、前のめりになるとアイシャの顔を真っ直ぐ見てある要求をした。
「この国の情報をくれ。それがないと捜査が進まねぇんだ」
「…ふっ、そうか。わかった、すぐにこの世界の情報をできる限り、教えよう」
アイシャは服部の答えに自分にとって都合の悪い答えを言われると思っていたが、思いは外れたというより、期待していた答えに安心すらして笑ってしまっていた、
「なに、笑ってんだ?」
当然、服部もその表情に疑問に思い、すこし乱暴に聞くが。
「いや、別に。大したことないさ。それじゃ、取引成立ということで」
もちろんアイシャに軽く答えをそらされてしまう。
ユウナは隣でそんな二人の意気投合したやりとりを見て、なぜだか心の中にモヤモヤした気持ちを抱えていた。
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「それでは失礼します」
二人は話を終えると、学園長室をあとにした。
ユウナは会釈をして扉を閉めると、大きなため息をつく。
「なんでため息なんか、ついてんだ?」
「そんなの、これからのことを考えると、ね……?」
ため息の理由は言わずとも突然の学園長からの依頼、腐敗死体事件の解決だ。
しかも、事件解決の相棒がこの隣にいる、服部だ。
本人はどこか呑気というか、気が抜けてるというか、無関心かと思っていたがあの腐敗死体を短時間で明確に正確に捉えていた。
彼は他人にはわからない、他の人には見えないものを自力で見出すことができる。
「そうか。まあ、そう気に病むな。もう犯人の手がかりはあるんだ」
「えっ、そうなの?」
服部はそれだけ言い残したかと思うと、どこかへ行こうとしていた。
ユウナは服部のあとをついて歩き出す。
「そもそも、お前はこの事件のことをどう感じている?」
歩きながら服部はユウナに事件について聞く。
「どうって…。悪質で気味が悪い事件だなとしか」
「そうじゃねぇよ」
「じゃあ、どういうことよ?」
服部の上から目線の口調にユウナはついムキになって聞く。
「お前、俺の話を何も理解してなかったのかよ」
ユウナの問いに服部はありえねぇという感じで大きなため息をつく。
「悪かったわね、どうせ私は事件のこと何も知らないわよ!」
バカにされたことに怒りながらユウナは顔を赤らめながら言った。
「いいか、俺が言いたいのはこの事件の犯人の目的だ」
「目的?」
「この学園に来る前に何度も死体を見てきたが、犯人の目的がさっぱりわからねぇ」
服部は下をうつむき、顎に手を添えてじっくりと考えこみ、独り言のように語りだす。
「被害に遭った奴らはほとんど接点がねぇし、共通点もない。なのになぜ狙われたんだ? いや、そもそも目的すらあるのか?」
「ねぇ、一つ聞いてもいい?」
「あぁ、なに?」
服部はユウナに聞かれ、考えごとをやめてユウナのほうを見る。
「ここに来るまで死体を見てきたって言ってるけど、他にも腐敗死体があったの?」
「お前も知ってるだろ、この国で起きている事件のことを?」
その時、ユウナの中で服部の言うことがわかってしまった。
この国で今も起こっている不可解な事件、謎に包まれた事件のことだった。
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