第4話 事件発覚

  「きゃああああああああっ!!!!」


女子生徒の一人が大きい悲鳴をあげると次々と他の生徒も正気を保てず次々に悲鳴を上げ始めていく。


一瞬でその場は大パニックに陥っていて収拾がつかない状態になった。


もちろんユウナもその状況に頭の整理ができず、その場に座りこみ動けずにいた。


そうなるのも仕方ないだろう。転生前の警察官時代だった時に死体を見るのはほぼゼロと言っても良いだろう。


それが今目の前に人の原型すら保ってない腐敗死体が出てくれば手足は震えて声も出せずに表情も固まっていた。


周りが錯乱している状況の中でもこの男は腐敗死体を見ても動じることなく、それどころか死体の周りを漁るように観察したりしていた。



「…ねぇ、ちょっと……あなた…怖くないの?」


「はあ? 何がだ?」



ユウナは声を震せながら男に聞くと観察していた手を止めてユウナを見て平気な態度でいた。


男は怖がることも怯えることもなく、ただ冷静で表情も変わることなく平然としている。



「怖いって、まさかこれのこと言ってるのか?」


「…そ、そう……」


「ハッハッハ! お前、こんなんでビビってんのか! マジかぁ! アッハッハ!」



男はいきなりユウナを小馬鹿にするように指差しながら笑い始めたのだ。


ユウナもなぜ笑われてるのかわからない状態であったが馬鹿にされてることに恥ずかしくなり、少々怒りが湧いてきた。



「何がおかしいのよ! 大体そんな死体を見たら冷静じゃいられないでしょ! それにあなたは誰よ! ここは関係者以外立ち入り禁止でしょ…!」



私はついムキになって声を荒げていた。


彼の態度なのか、それとも自分の弱さを隠したかったのか、恐らくは両方かと思う。



「俺の名前は服部 鷹介。ここがどこかは知らないが、立ち入り禁止だったらそういう看板か何か建てとけ」



彼はそう言って表情や態度を変えることなくそう答えると、また死体に目線を落として調べ始めた。



「…何よ、それ」



完全に見ていなかったというか最初から視界に入ってないという感じだった。


それにここの関係者じゃないと普通は迷ってしまうレベルの広さなのに彼はどうやってここまで来たのか。


気になることが多すぎて、一体どこから聞けばいいのやらと困っていた。


だが、そうしているうちに心の鼓動も治っていくのがわかった。それから落ち着いてみると、彼、服部 鷹介へと関心が向いた。



「…あのさ、何してるか、聞いてもいい?」


「お前はビビってると思ってたら、今度は質問か? 忙しいヤツだな」


「別にいいじゃない、気になったんだから!」



一々、人に何かしらの棘を持った言葉を言わないと気が済まないのだろうかと思っていると。



「これは、一体何の騒ぎだ?」



周りにいる学生たちの外側から聞こえてきた力強く響いてきた声で、一瞬でユウナにはその声の主が誰であるかわかってしまった。


その人が通るたびに生徒たちが自ら避けていくと声の主である人物が現れた。


その人物はこの国のトップの息子で第一王女であり、ユウナの婚約者である、クラウス殿下であった。



「殿下、これは……」


「ユウナ嬢、この騒ぎは何かと聞いて……ゔっ!?」



クラウスはユウナにこの騒ぎの原因を聞こうとしたが、それは説明することもなく、察したようだった。


だが、やはり国の王子たるもの、目を覆いたくなるものもある。


当然、今まで城の中で過ごしてきた大人になる前の少年にはこの腐敗死体は強烈に刺激とインパクトを与えたに違いない。


だからこそ、クラウスの凛として綺麗な顔立ちは死体のせいで歪みきっていた。



「なんだよ、これ……。ありえねぇ」


「すこし、気分が………」



クラウスと同様にこの現場に来ていた、恐らくはクラウスの付き添いで来たのだろう2人の学生がいた。


一人はお調子者の男子学生でイリアム伯爵家の息子のルーカス・イリアム。


もう一人はクラウスの側近でもあり、将来はクラウスとともにイギリスト王国の宰相として名を馳せるだろう、イガルド公爵家の息子、ユーリ・イガルド。


この二人も死体を見て、嫌悪感を抱いていた。



「…この騒ぎの原因はわかったとして、そこにいる男は、誰だ?」



クラウスはしばらく乱れた呼吸を整えて、落ち着いたあと、やっと気がついたのであろう彼の存在に。


まずは状況把握をしようとしたが、その状況があまりに強烈だったからか、すぐ彼のことを聞くことが遅れたのだろう。



「ん? ああ、俺のことか」



当の本人はどこか気にしてないというか、他人事のように思っているが自分が今どういう立場かわかっているのだろうか。



「ここは関係者以外立ち入り禁止だが、君はこの学園の生徒なのか?」


「いや、違うが」


「ということは部外者ということで、いいんだな?」



彼がそう答えるとクラウスの目がさらに鋭くなり、ジリっと彼に詰め寄る。


二人が真正面から睨み合いになり、その場の空気がより一層重くなっていく。


身長が同じくらいの二人が目線を外すことなく、お互いに睨み合いを続けていると。



「あ、あの、クラウス殿下! 一つ、よろしいでしょうか?」



時間が止まったように睨み続ける二人の間に流れるピリついた空気の中に勇敢に割って入ったのは他の誰でもない、ユウナだった。



「どうした、ユウナ嬢。これは僕と、この男の話だ」


「いえ、これは私の話でもあります」


「どういうことだ?」



ユウナが反論したことがよほど驚いたのか、クラウスはユウナに鋭く厳しい視線を向ける。


一瞬、その目の鋭さに怯んでしまうほどの恐怖と威圧感を感じたユウナだったが負けず、クラウスの方を目をそらさず見続ける。



「彼は私の……私の、弟子です!」


「は…?」


ユウナから出た言葉にクラウスを含め、その周りの生徒にも初めて聞く話であり、驚きで混乱していた。


もちろん、部外者の彼も、何言ってんだと言う顔だった。



「この男が、君の弟子だと…?」


「はい、そうです。私の大切な、かけがえないのない、弟子です!」



ユウナは真っ直ぐ、クラウスを見続けて力強く言い放つ。


そのユウナの堂々たる態度にクラウスは目を細め、厳しくなってくる。


その場にいる生徒の誰もが察した、王子であるクラウスに楯突くように意見したとき、ここの空気はとても重くなった。


だが、その空気を読んでいないのか、誰もが発言することを躊躇っていたが一人の男は空気を遮るように話に入った。



「おい、俺はこいつの弟子でもなんでもねぇぞ」


「は? 違うと言ってるが』


「あ、ああ、ああああ! 違うんです、違うんです!」



男の余計な否定のせいでユウナは慌てて、さらに否定する。


ここではとてもじゃないが否定し続けても、余計に怪しまれてしまう。


ユウナが撮った最終的に取った行動はただ一つ。



「それでは殿下、これで失礼いたします!」


「あ、おい待て! ユウナ嬢!」



ユウナは考えた末、とった行動は部外者の彼の手を引っ張り、人がいないところへと連れていくしかなかった。


去って行ったユウナ嬢の後ろ姿をクラウスはただじっと見つめていた。

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