第3話 出会い

  入学式の翌日——。


ユウナは学校の教室で騎士になるための授業を受けている最中だった。


クラスの生徒は教壇に立っている先生の話を真剣に聞いていたがユウナはどこか上の空でいた。


頬に手をつき、教室の窓の外を見ながらあることを考えていたからだ。


それは最近連続で起きている不可解な事件のことだ。


でも考えるだけで特に何もできないのが現状だった。


新聞などの情報で事件は調査中など進展がないことを明記していた。


でもこのままでは国民にも不安が広がっていく一方であり、もしかすると予想もしない出来事が起こるかもしれない。


それまでに犯人を見つけられたらいいけど……。


そんなふうにぼんやりと考えていた。



「ユウナ様…。ユウナ様っ!」


「…? あら、どうしたの?」



呼ばれて振り返るとユウナの横に二人の女子生徒が立っていた。


一人は縦ロールの赤毛のロングの女の子ともう一人は茶色の髪にボブショートヘアの女の子だった。


二人とも名高い伯爵家の娘だ。



「ユウナ様は昼食は食堂で召し上がりますか?」


「昼食? もうそんな時間!」



考えごとをしていたからかいつの間にか授業は終わり教室にはユウナたちだけしかいなかった。



「考え事をされてましたが何かあったのですか?」


「…ううん、なんでもないわ! さあ、早く食堂へ参りましょう!」



ユウナはクラスの女子生徒二人と一緒に食堂へとやってきたが食堂を見渡すとほとんど席が埋まっていて座って食べれそうにもなかった。



「これは多すぎて座れそうにありませんね…」


「そうですわね。ユウナ様、中庭に移動しましょうか?」


「そうね…」



ユウナたちは食堂での昼食は諦めて中庭で昼食をすることにした。


中庭に来ると生徒が何人かいたが座って食べれないというわけではなかったのでユウナたちはそこで食べることにした。


服が汚れないように地面にシートを敷いて座りながら昼食をしていると縦ロールの女の子がある話題を口にした。



「そうですわ。ユウナ様はあの事件のことはご存知ですか?」


「あの事件ってもしかして『不可解な事件』のこと?」


「やはりもうご存知でしたのね。実は私その事件で妙なことを聞きましたの」


「妙なこと…?」



ユウナは縦ロールの女の子の話に興味があった。


なぜなら話の内容によっては事件の進展につがるのではないかと思った体。



「実はその事件が起こると同時に王都である男が現れると言われてるんです」


「ある男…? どんな男かわかる!?」


「…え、ええ。一応聞いておりますわ」



縦ロールの女の子はユウナの勢いに圧倒されて少したじろきつつも話続けた。



「…色々と話に辻褄が合わないことがありますが、確かなのは事件が起こると必ずその男が現場に現れるそうですわ」


「王都民の目撃情報ではその男は死体を見るなり大声で笑っていたそうですわ」


「笑っていた……?」



…死体を見て大声で笑うなんて、人としてかなり非常識な男のようね。



ユウナはその情報から聞く限りその男は異常で危険な何者かではないかと考えていた。


だがその情報は今の国にとって良い情報ではなく、かなり厄介なものであった。


『不可解な事件』の他にも『死体を見て笑う男』が現れてくるとなると王都民に不安が広がり混乱も避けられないはずだろう。


ユウナはその事件を早急に解決せねばと心の中で決意するのであった。


そう思ったとき周りに目を向けると人どおりが多くなったことにユウナは気がついた。



「どうされましたか、ユウナ様?」



突然のユウナの様子に気づいたボブショートヘアの女の子が声をかける。



「…ああ、なんか生徒の数が増えたような気がしてね」


「そう言われてみれば、そうですわね。何かあったのでしょうか?」


「私、ちょっと見てくる!」


「ユウナ様っ!」



制止も聞かずにユウナは我一番に生徒たちが向かっているもとへかけだして行く。


しばらく走っていくと人だかりができている場所にたどり着いた。



「ちょっとごめん、通してちょうだい…。っ!?」



ユウナは生徒で人だかりができているところへ割って入っていくとユウナはとある異臭に咄嗟に鼻を覆い隠した。


人だかりができていた理由は学園のど真ん中の地面から明らかに変な異臭が漂ってくるのがわかる。



「ねぇ、何この匂い?」


「なんか変な匂いしねぇか?」



周りの生徒からもヒソヒソと囁く声が聞こえてくる。


誰も見るだけでその場所に近づこうとしなかった。


意を決してユウナが異臭の原因の正体を確かめるために少し踏み出して地面に手を伸ばそうとしたときだった。



「触るなっ!!」


「…っ!?」



突然頭上から聞こえてきた怒号に驚いたユウナは後ろに尻もちをついて転んだ。


緊張感が漂う雰囲気の中で声を荒げられて乱れた息を整えていたユウナはふと顔をあげるとその怒号の主と思われる男が立っていた。



「あなた、一体……」


「その地面の先からは触らないほうがいいぞ」


「はあ…? いきなり現れてなにを……!」



…なんなのよ、この人! それよりここは関係者以外立ち入り禁止のはずだけどどこから入ってきたの?


ユウナはその男の態度に怒りと嫌悪感を抱いていたがふとどこかで見たことがる顔だと気づいた。


だがそんなことも気にせず地面の中に手を突っ込んで何やら手探りをしているようだった。


不可解な行動にユウナだけではなく、周りの生徒も男のことを奇異の眼差しで見ていた。


だが同時にユウナはその男の顔に見覚えがあったのだ。


この国では珍しい黒の髪色に黒い瞳に黒一色のスーツを見に纏っていた。



「ねぇ、さっきから何を————」


「お! あったあった」


「えっ…?」



男はしばらく地面の中を手で探ていたが何か見つけたようにニヤリと笑ったと思ったらそのまま片手の腕力を使い、地面から引き上げた。


その瞬間、その場にいた生徒全員がパニックになるのに時間はかからなかった。


突然現れた男が地面から引き上げたのは異臭の原因であろう物の正体は腐敗しきった人間の死体だった。


一体どれだけの時間この地面に埋まっていたのか……。


人の皮膚とは思えない色味に体の筋肉などなくなり、ただ皮膚が骨にくっついていると言っても過言ではなかった。


これがユウナとこの男、服部鷹介との最初の出会いだった。

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