第2話 学園入学

  王立学校に着いた私は入学日を前に女子寮の自分の部屋で一息ついていた。


王立学校は全寮制であるここに通う生徒は必ず寮に入らなければならないのだ。


寮といっても完全に貴族たちのためだけに作られているとしか思えないほどの高級ホテルのようだった。


転生前の庶民の私からすると驚愕の連続だなぁ……。



「ではお嬢様、荷物は整えておきましたので私はこれで」


「うん、ありがとう。シエラ!」



シエラは軽く会釈してから私の部屋を出ていった。


外の景色を見ようと思い、腰かけていたベッドから立ち上がる。


窓の近くまで行くと目の前には天まで届きそうなほどに高く聳え立つ王城が見える。


王城を見ながらユウナは心の中でとある野望を胸に秘めていた。


それはこの王立学校で好成績を残せば飛び級で王国聖騎士団の団長になれるという誰もが喉から手が出そうになるほどの噂だった。


その座を目指すのは私だけではない……。


この学校に通う生徒全員がきっとこの座を狙ってくるに違いない。


ユウナは窓にそっと手をおいて決心を新たに外の王城を真っ直ぐ見据えた。


…? あの男、一体何してるんだ?


それはユウナが王城から少し目線を外して窓の下を見ると一人の黒いコートを羽織った男が寮を鋭く睨みつける男がいた。


…というか、あの男の髪色……どこかで見たような?


なぜユウナが気になったのか、それはこの世界では珍しい黒の髪色をしていたのだった。


ユウナは男の髪色に少しだけ見覚えがあったがそれが何かを思い出せないでいた。



——翌日。


王立学校では入学式が行われていた。


学校の敷地内にある校舎と同じくらいかそれ以上と言えるほどの大きな建物の中でたくさん並べられている高級な椅子に座りながらユウナは校長の長い話を聞いていた。


周りを見れば王立学校の生徒だと示すような高い生地で作られた制服を着た生徒が何百人といるのだ。


静かに聞いている生徒もいれば、そうじゃない生徒や小さな声で談笑している生徒、寝ている生徒もいる。


そんな中でユウナはこれからの騎士生生活に自分のありとあらゆる全てを捧げると誓ったのであった。


入学式が終わった後は騎士生徒、魔法生徒、そのほかの分野のクラス分けが貼り出されており、各々自分のクラスへ向かうのであった。



「えーっと、私のクラスは……あ! ここか」



自分の名前が入ったクラスにたどり着いたユウナは両開きの扉の前で深呼吸をした後にドアノブに手をかけて静かに扉を開けるとクラスに入ってきたユウナに一気に注目が集まった。


というのもユウナが入った騎士科のクラスは男女比率で男の生徒が圧倒的に多いのであった。


つまりユウナを含めて女子生徒はほんの数人程度であった。それに加えてユウナは王国の王の次に権力があり、偉いとされる公爵の娘だ。注目されないわけがない。


…うわぁ、めっちゃ注目されてる。そんなに見ないでよ、こっちは慣れてないんだから……。


心の中でそう思っていても表情には出さずにポーカーフェイスを貫きながら自分の席を探しにいく。


…えっと、私の席はぁ………あった!


ユウナの席は入り口から入って教室の後ろの窓際の席だった。


自分の席を見つけて静かに腰かけて座ろうとしたがふと隣の席を見ると金髪のパーマがかった髪をした美少年が窓の外を黄昏れながら見ていた。


ユウナはその少年を見て誰なのかすぐに気づいた。


その少年はユウナの婚約相手の王子だったからだ。

 


「クラウス殿下……」


「ああ、君か……」



声に気づいてこちらを振り向いたクラウスという少年はその目は少し冷たく悲しい目をしていた。


その言葉だけ言うとまた窓の外を眺め始めた。


あまり歓迎はされてないようだった。


言葉の起伏も平坦で感情がない、だけどそれについて怒りは湧いてこなかった。


それは殿下の幼少期の複雑な家庭の事情を知っていたからだ。


それについて言及するつもりはないし、知りたいとも思わないけどそれでもそんな表情をされると心が痛くなる。


周りの生徒が新鮮な気持ちでいる中でユウナとクラウスはただ静かに沈黙していた。


——王立学校で一日を終えたユウナは寮の部屋で寛いでいた。



「ああ、疲れたぁ…!」



長い一日があっという間に終わってベッドに思いっきりダイブして大の字になる。



「はしたないですよ、お嬢様……」


「だって疲れたんだもん!」



シエラにそう諭されてユウナは足をバタバタさせながら子供みたいな口調で言った。


そんなユウナを見てため息をつきながらも優しく微笑みながら見守っていた。



「それよりもお嬢様に少し不吉な知らせがあります」


「えっ!? な、何よ。その色んな意味を含む言い方は!」



シエラのあまりにも嫌な予感しかしない言葉にユウナは恐怖するのだった。



「もうすでに旦那様が調査を始めていらっしゃるのですがこの国でとある不可解な事件が起こっているようでして……」


「不可解な事件?」



ユウナが疑問にシエラが事件の内容を説明していく。


今イリギスト王国しかも王都で起きている事件というのは被害者の年齢も出身地も男女問わず襲われるという事件だった。


犯人の目的も動機もわからない、次は誰が狙われるかわからないような状況で王国聖騎士団も手こずっているというのだ。



「そんなことが起きてたんだ…。それでお父様はなんと言ってるの?」


「はい。くれぐれも周辺の注意を怠るなと」


「そう、わかったわ。情報ありがとう、もう休んでもいいわ」


「ありがとうございます。では、おやすみなさいませ」



ユウナがそう言うとシエラは頭を下げてから部屋を出ていった。


シエラが出て行ったあとユウナはゆっくりと深く息を吐いた。


腰掛けていたベッドから立ち上がり部屋の窓から夜の王都の夜景を眺める。


王都の中心には王族の城が見えており、その周りを囲うようにこおん王都に住む国民の住宅が見える。


その景色を眺めながらユウナは今回の不可解な事件のことを考える。


『不可解な事件』という言葉や事件の内容を聞いてもユウナはどこか冷静な自分がいた。


別に事件と聞いて何も思わないわけではない、事件に関わりたくないわけでもない。


でも聞いたところで私には解決できる能力がないとわかっているのだ。


ただ心の中で被害者を思うだけしかできなかった自分がいた。


だけどそれは騎士学生の時ではなかった頃の話で今は違う。


学生の身であっても学校外での事件も調べることができるし、王都の治安も守れる。


絶対にこの王都、いや国から犯罪をなくしてやる!


ユウナは人一倍胸のうちで犯罪に対する情熱を燃やしていた。

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