異世界ハザード

@TOVIrock

第1話 転生

  私はいわゆる転生というものを生涯で初めて体験したのだ。


私の名前は松田 優奈まつだ ゆうな


高校を卒業してすぐに子供の頃から憧れの職業であった警察官になり、交番勤務が始まった。


警察官になったのは特別な理由があったわけではない。


ただ平和な世の中を守りたかっただけ、ただそれだけのためなのだ。


街の交通整理や街に住む人々が笑顔で安心に暮らせるように日々努めるだけだった。


街の安全を守るために存在する人々のヒーローに私はなれたんだと嬉しかった。


そんな日々が長く続けばいいなと心の中でどれほど願っただろうか…。


もちろん現実はそんなに甘くなかった……。


その出来事は唐突に起こったのだった————。



その日も私はいつもの一日の交通整理を行なっている時だった。


けれどその日は大雨で車の通りは少なかったが事故が起こったのだった。


無線から流れる情報を聞いて現場に向かい事故の検証を行うために整備をしていた時に視界が悪いこともあって反応するのが遅れたのだ。



「優奈っ!?」



名前を呼ぶ声が聞こえて振り返るとけたたましくクラクションが鳴り響いたと同時に私の方に向かってくる車が見えた。


それに気づいた時には私はその車に撥ねられたのだ。



薄れいく意識の中で私の同僚が切迫詰まったような声で駆け寄ってくる。


車が走り去る音が聞こえるのはおそらくひき逃げ、か…。


これはもう助からないのはわかった。


体温が下がっていくのと心臓の鼓動が一定からゆっくりと動いていき、やがて止まった。


これが私が若くして短い生涯を終えた転生前の人生の話だった————。



——そして次に私が目を覚ましたのはすぐのことだった。


太陽の日差しが眩しくて眠たい目を開けた。


「うぅ……眠い」


「おはようございます、ユウナ様」


「ふぇ?」



隣で誰かに呼ばれて目を擦りながら起き上がるとメイドの格好をした女性が立っていた。


辺りを見回すと知らない部屋に知らない天井、日本にいたころには見てこなかった風景だった。


そして目が覚めた私が一番驚愕したのは私自身だった。


ベッドの真正面に立っている鏡に写っていたのは白髪の綺麗な髪に大きくてつぶらな淡い紫色の瞳のお人形のような小さい女の子がそこにいた。


最初は戸惑いはあった、混乱すらもした。



「お、お嬢様………?」


「うっ…ぐ……ゔぅ…うぇぇぇぇん!!!」



途端に不安に駆られて私は目から涙が溢れ出していた。


なぜかはわからなかったが心の中でどこか悔しい思いがあったのかもしれない。


延々と泣き続ける私を優しく何も言わずに抱きしめて頭を撫でてくれたのはおそらくはこの女の子の付き添いのメイドだ。


彼女の名前はシエラ。


最初は突然泣き出した私に驚いていたが次第に寄り添うように優しく抱きしめてくれた。


彼女の温かさは今でも覚えている。


彼女に出会わなければ私は心を閉ざしていたかもしれない。


もちろんそれは彼女だけではない。


それから私はシエラに連れられて女の子の両親、即ち私の両親にあたる二人のところだった。


最初に出会うまでは私はかなり怯えていた。


恐らく私は怖かったのだと思う。


それは女の子の身なりから見るとかなりのお金持ちの家族に違いない。


もしかしたらそれなりに厳しい家庭なのではないのかと……。


だけど私の不安は両親に会った瞬間に吹き飛んだ。


女の子の両親は二人とも超がつくほどの美男美女の若夫婦だった。


だが安心したのはそれだけではない。


シエラが私が大泣きしたことを伝えると両親は驚いていた。


その後私を過保護のように心配してくれた。


母は小さな私を包み込むように抱きしめてくれて頭をゆっくりと撫でてくれた。


父は優しく私を見つめてそっと頭を撫でてくれた。


五才の私にとって両親の暖かさに触れて私は安心したと同時にまた涙が溢れてきた。


私は死んで別の世界で意思をそのままで違う姿で生まれ変わったのだ。




——あれから10年の時が経った。



「お嬢様、今日のお召し物です」


「ありがとう、シエラ」



あれから小さかった私の身体はすっかり大人の身体へと成長して15才になった。


この国では15才は立派な成人として認められているらしい。


私は自分の部屋で軍服かつ学生制服に身を纏いながらシエラが持ってきてくれた朝食に手をつける。


私が生まれてきた国はイリギスト王国という東の大地に位置する国で私はアリエスタ公爵家の長女としてこの世界に生まれた。


名前はユウナ・ヴィスト・アリエスタ。


まさか『ユウナ』という名前をまた与えられるなんて偶然というか運命というか…。


朝食を食べ終えてから紅茶を口に運んでいく。



「お嬢様、そろそろお時間です」


「ええ、わかったわ」



シエラに言われて私は椅子から立ち上がってある場所へ向かう。


ある場所とはこれから私が通うのは『王国魔法騎士学校』である。


『王立魔法騎士学校』とは王族貴族だけではなく庶民や商人の子、そのほかの他国の貴族の子息令嬢が通う名門学校である。


学ぶのはその名の通り、魔法と騎士を自ら専攻して学ぶことができる。


アリエスタの家系はイリギスト王国の聖騎士、右腕として共に戦ってきた名誉と勲章がある。


さらに国の治安を維持するために善戦で人々を守る家系でもある。


そして私の父であるグラン・ヴィスト・アリエスタ公爵は王国騎士団隊の統括責任者であり、国の防衛維持も努めている。


そんな父に憧れがあった私は騎士科に専攻したのは言うまでもない。


剣を腰に掲げて馬車で移動していく最中、領地から王立学校へ向かう途中の風景を眺めながらこれからの学生生活に思いを馳せる。


しばらくして馬車は走り続けていたスピードを落としたことに気づいた。


どうやら王立学校に着いたようだ。


馬車から降りて目の前に大きく神々しく聳え立つ王立学校を見上げる。


…ここで私は聖騎士としての学問、秩序を学んで立派な聖騎士を目指していくんだ!


私の名前は松田 優奈から改めてユウナ・ヴィスト・アリエスタ。


こうして私は二度目の人生の新たなスタートを切ったのであった。

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