新月夜、独りに明かす
蒼水透花
第1話
「何故こんな日に、煌々と輝く満月を貴方と見上げなければならないんでしょうね。ねえ、分かる?」
ここで記憶喪失、とまではいかない。一応覚えてはいる。ただ、心に降りてこない。絵にはなっているんだ。だって何枚これでスケッチブックを破ってきたか。頭の中で留まっている絵―
俺は成功者らしい。盲目なファンとやらに持て囃される事も少なくないし多分本当に幾らかはそうなのだろう。ある界隈ではそこそこ名高い小説の挿絵を担当している。この間映像化されたことでより俺のイラストレーターとしての名も知れたように思う。でも全然違う。これこそ俺の一番なりたくなかった大人だ。羨まれる対象になったのだと自覚した時目眩がした。好きとか応援してるとか言われるこの感覚、思い出したくなかった。
新月夜、独りに明かす 蒼水透花 @yzsm
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