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「あの、俺。言えわたしは・・・」
「(あ、真也君だっけ? 娘がお世話になっております。三条 友香の母の穂香です)」
「ご、ご丁寧にどうも。今お時間大丈夫ですか?」
「(ええ、何かお話かしら。娘の携帯よねこれ?)」
「はい、えっとぉ。その、娘さんを預かっても良いかというお話でお電話を・・・」
「(良いわよ)」
「いや、そんなあっさり、娘さんに何かあったら」
「(昔の事件は、君も知ってるでしょ。その事件に関わってたのが君というのも私は知っていますよ。だからこそ信用できると思ってますし、娘が好きになった人ですよ、信じたいじゃないですか)」
「し、しかし・・・」
「(アナタに頼みたいの。娘の事頼めるかしら。本当なら昔の件も含めてお話、したいんですけどね)」
昔の件、と言われた瞬間、真也は無意識のうちに声が漏れそうになり、慌てて何事も無い様に相手に聞かれない様に深呼吸をする。
「(ねぇ、真也君。娘はね、助けてくれた王子様にほれちゃったの。ほれさせた責任、取ってくれるかしら?)」
「それは・・・・できません。そんなのよくありません。だから、彼女の気持ちを聞いて、自分の気持ちも確かめたうえで返答をしたいです」
馬鹿正直だとは思う、でも2年前の事件の事があろうがなかろうが、真也としてはここだけは譲れなかった。
「(だからよ、だから私はあなたを信頼できる。誠実に娘の気持ちを受け止めて、真剣に向き合ってくれる貴方だから)」
「・・・・」
「(しばらくお預けしますね。なので、娘にもしばらく帰ってこない様にとお伝えください)」
「え、いや、ちょっと」
「(どういう答えを出しても、私は尊重しますから。頑張って。あと、娘に大人の階段を上らせても私は怒らないわよ)」
そこで通話は切れてしまった。
どうやら一定以上の信頼はすでに得ていたらしく、杞憂だったようだが、それでも真也としては、娘さんを預かる以上、礼儀は軽んじてはいけないと思ったのだった。
「お母さんなんだって?」
「こ、個性的な人だね。さ、最後の一言が余計だったけど」
どうしてこう、真也の周りの大人たちはひと味も、ふた味も違う癖のある人ばかりなのかと、内心喜んでいいのか悲しんでいいのか、分からない複雑な心境になっていた。
「な、何言ってました?」
落ち着きをだいぶ取り戻した友香が、伺う様に真也に問うが、答えずにそっぽを向いたので、なんとなく何を言ったのか察してしまった。
はぁ、とため息をつきつつ、真也からスマホを返してもらい、台所にたとうとエプロンをとるが、そのエプロンがスッと手元から消え、奪われた先に視線を向ける友香。
「今日は俺が作るよ。ここ2日作らせちゃったし」
「えっとぉ」
「大丈夫、千春のようなものは出来上がらないからまず間違いなく」
それを聞いてか、友香は苦笑いを浮かべながら何かを思い出しているようだった。
どうも1日目、真也が爆睡していた時に何かあったらしいことは、目覚めてすぐに気が付いた。
「でも、何を作るんですか?」
「何食べたい? リクエストをどうぞ」
「そうですねぇ。では、先輩が一番得意な料理でお願いします」
友香は少し考えを巡らせた後、少し意地の悪い笑みを浮かべながら、そう言ったので、これはアレだな、作れないのに見え貼るんだから、それなりのもの出てきますよねぇ、という感じだなぁ、と変に邪推してしまい、それならやってやろうじゃないかという、反骨精神のようなものが働き、真也は不敵な笑みを浮かべるのだった。
その後調理に取り掛かる事2時間。
「これ、カレーですか? それからこれはターメリックライス?」
香りを嗅いで、彼であると認識はできるが、妙に赤く、カレーのあの独特の茶色ぽいのとは少し似ても似つかないもの、さらにこちらは黄色いお米が艶々に立ったものが、皿に平べったく盛り付けられていた。
カレーと、ターメリックは別々で、ターメリックライスが皿に、カレーが器によそられており、一見すると、これカレーなの? と聞きたくなる分け方がされていた。
「スープカレーだよ。えっと、カレーマン???とかいうなんか妙に怖く人のレシピなんだけど、簡単に作れてうまい」
「簡単なんですか?」
「1時間は間違いなくかかるけどね」
それは簡単といってよいのかと、友香は思ったが、それよりも食欲をそそる香辛料のスパイシーな香りと、ターメリックの爽やかな香りが空腹を刺激し、お腹が少しなりそうになるのを必死にこらえており、我慢の限界だった。
「いただきます・・・・う、うぅ!
一口食べた瞬間、友香の瞳は輝きを増し、美味しくてつい声が漏れてしまうほどだった。
その姿に、どうやら満足してもらえそうだと、真也はそっと胸をなでおろした。
気が付けば友香は、もくもくとただ食べ進めており、真也としては、予想以上の反応にお届きつつも、とても満たされた気持ちになってつい、彼女を見つめてしまっていた。
「先輩、美味しいです。美味しいですよぉ!」
「お、おう。お代わりもあるぞ」
「いただきます!」
あまりに美味しそうに食べ、さらにお代わりも要求されたが、それがたまらなくうれしくて、真也の口は自然とほころぶ。
食は人を豊かにする、そんな言葉があるが、まさにそうだと今目の前で無垢な子供の様に、屈託のない笑顔を向けられると、先ほどの沈んでいた過去の話も乗り越えられるようなそんな気がしてならなかった。
食事を終え、紅茶を入れる、本日の紅茶は、メルシーミルフォワという名のブレンド茶で、甘い花の香りをイメージされて作られた紅茶だ。
真也は紅茶も趣味の一つで、ブレンド茶を扱うお店にしばしば足を運んでは、自分好みのお茶を探している。
「先輩って・・・女子ですよね」
「いや、男だけど?」
紅茶を入れ、友香の前に差し出す。
ソファーに隣同士で座り、お茶を口元に近づけ、花の甘い香りが隣から香ってくるのを横目で見つつ、楽しんでくれているのを妙に真也はうれしく感じた。
些細な事ではあるとは思うが、こういう細かい小さな幸せが、真也自身は非常に好きだった。
「おいしい。やっぱり先輩、乙女ですよね?」
「好きに言っててくれ。ふぅ~」
紅茶を一口飲み、真也も一息つく。
ここ4日ぐらいだろうか、隣に座る友香に告白され、昔好きだった幼馴染が突然の来訪更には押しかけてきて泊めろと言い出し、そしたら友香までもが泊まると言い出し。
消えた娘を追いかけて、千春の母が乱入、大騒ぎの末、今はホテルに連行され、どういうわけか友香の母たちが家を空けると言い出し。
友香を真也の家で預かることが決まったのと同時に、友香と真也の本当の接点が見つかるなど。
まだ1週間もたっていないのに、よくもまぁここまで濃密な数日がすぎたものだと、真也は紅茶を見つめながら一人、物思いにふけっていた。
そんな真也を友香は見つめつつ、呟くように聞いた。
「先輩、わたし、迷惑ですか」
ここで迷惑だと言えば彼女は荷物をまとめ、真也の部屋から消えるだろう。
だが真也自身は特に迷惑だとは思っていないし、彼女といるのは妙に心地いいとさえ感じていたが、これが恋なのかと問われると、微妙だった。
「迷惑じゃない。でも、好きかとか聞かれると、正直まだわからない」
「それでも、良いです。今はこうしていられれば」
そう言って友香は頭を真也の形に預けた。
一瞬体が反応しそうになる、しかし、人間の慣れとは怖いもので、反応はしなくなってきていた。
「先輩、明日は、デートですよ。その後、今の気持ち聞かせてもらいますよ」
「それは、三条さんに対して、それとも千春に対して?」
「両方です。私には、聞く権利があると思うんです。もちろん彼女も」
方に乗っていた重みが離れ、こちらを向いたのが分かり、真也は隣に座る友香に顔を向けた。
彼女の目は澱みなく、宝石のように輝いていて、吸い込まれそうになるのを真也は必死でこらえた。
昨晩も感じたが、彼女に見つめられると、そのまま身を任せて思うがままにしてしまいたいと、そう思う自分がいる事に。
「お、お風呂、入ってきますね」
「ああ、ゆっくりしてくると良い」
友香が気を使ったのか、それとも友香自身が今の少し甘い雰囲気に耐えられなかったのか、立ち上がると、真也に顔を向けることなく、そう言い放ち、パタパタと寝室に置いてあるバックに向かった。
しかし、数分もしないうちに、ものすごい音ともに、ドアが開け放たれ。
「せ、せせせ、せぇ!」
「ど、どうした。とりあえず落ち着け」
顔から手まで真っ赤にした友香が、声にならない声をあげながら真也に近寄り、顔がくっ付きそうなぐらい近くで言葉を発しようと必死にもがいている。
あまりの剣幕に、いったい何事なのかと思ったら、その手には例の巾着袋が握られていた。
「みっ・・・見たんですか。中身」
しまったと思った。
先ほど彼女がいないときに中身を見てしまい、それをそっと彼女のカバンの中にでも忍ばせておけば問題なかったのだが、真也自身も頭が混乱しすぎたせいで、その存在祖すっかり放置したままになっていた。
どこにあったのか、この場合聞くべきなのだろうが、聞いてしまった時点で、地雷を踏み抜く様な気がしてならなかった。
しかし、すでに見たのか見てないのかの二択になっているので、知らないでつきとうせるのか怪し。
「ベットに、あったんですけど!」
完全にアウトだった。
そんなところに自然に移動するわけがない。
真也は額にへんな汗が浮き出てきて、あれぇ、なんで俺が焦ってるのぉ、という疑問がよぎるも、そら見られたくないよなぁとも思った。
「えっとぉ。落ちてましてね、それでそのぉ、中身何なのかなぁと」
「~~~~」
声にならない悲鳴を上げ、友香は寝間着や下着などを持つと、脱衣所へと消えて行ったのだった。
完全に、言葉を間違えたかもしれないと思いつつも、こんなのどうしろというんだと、愚痴の一つも出てくる真也だった。
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