32
みみみみみみ。
混乱し、脳内の言葉は(み)しか出てこない友香は、真っ赤な顔で、脱衣所のドアにへばりついて、次にもう泣きたい気持ちでいっぱいだった。
バレた、先輩に中身バレた。
痴女だと思われたよぉ、どうしよぉ。
そもそも、あんなものを手渡してきた母が悪いのよ。
だいたい今日だって、何でいきなりお父さんと旅行なんて。
文句を言いながら、脱衣を済ませ、お風呂場に入り、シャワーを出してお湯になるのを待つ。
シャワーはどうしてもすぐにはお湯にならないため、少し出して待つ必要性があるのだ。
「だいたい、どうするのよぉ、こんなの新婚生活みたいじゃない!」
先ほどの、まったりと流れるような雰囲気と時間を、友香はたまらなく手放したくないと感じてしまっていた。
だがそれと同時に、あの甘い時間が自分の中で酷くむずがゆく、歯がゆく、いたたまれない気持ちになったのもまた事実で、正直、このまま一緒に居たいという気持ちと、羞恥心が喧嘩を始めていて、どうするのが正解なのか、友香にはわからなくなり始めていた。
そのうえ、逃げる様にバックの置いてある部屋に行けば、まさかの巾着袋がえっとの上に投げ出されていたなんて。
「~~~~」
地団駄を踏みつつ、暖かくなったシャワーを頭からかぶせ、落ち着く様に自分に言い聞かせる。
おそらくだが、母のアレは嘘だろう。
母なりの気遣いなのか、それとも、本当に旅行へと行ってしまっているのかは正直わからないが、それでも、私が逃げ場を無くして、覚悟を決める。もしくは先輩の家に上がり込める口実をもう少し伸ばす、などなど、考えられる理由はいくつも存在した。
我が母ながら、あきれてものが言えない。
しかし、それでもありがとうと思う。
頭をあら、体を洗い終え、お風呂の湯船につかるころにはだいぶ落ち付いていた。
先輩、あれ見てどう思ったのかしら。
そう冷静に考えれば、アレを見られたのだ、私にその気があるとか、思春期真っ盛りの男子高校生がソレに至らないわけがない。
全身の熱が、再度浮上し、体が湯船よりも熱くなっているような感覚に襲われる。
「わたし、今夜どうしよぉ」
泣きそうな声が、風呂場全谷に響き渡り、それがまた否応なく、この後の展開に逃げ場がない事を示していた。
びっくりした、というか、迂闊だった。
これでは、俺が彼女と夜のいけない事に前向きで、今夜にでもゼヒなどと言っているようなものではないかと。
誓っていうが、断じてない・・・とは言えない。そら、昨晩からアレやコレやの、可愛い仕草や表情、寝顔、そして何より温もりと甘い香り。
男子高校生がソレに耐えられるのかと言われると、今のところ耐え忍んではいる、しかしだ、流石にいつまでもは無理がある。
てか無理です。
自分自身にまるで友香に襲い掛かっても許されるんじゃないのか? という言い訳をまくしたてるように並べはしたが、ふとよぎる、2年前の出来事と幼馴染の3年前の顔。
「ったくぅ」
頭をかき、乱れた脳内にある邪念を撲滅していく。
「いったん忘れよう」
深呼吸をし、自分の風呂に入るための準備をするため実のドアを開け、すぐに閉めた。
見間違いかとも思ったが、そんな事もなく、ゆっくりと再度ドアを開けると、そこにはバックの中身が散乱しており、洋服やら下着、ブラなどがまたとんでもない状態で散乱していた。
おそらく、先ほどの巾着袋が存在しない事に気が付いた友香が全部ひっくり返し、くまなく探した後、あろう事かベットの上にアレがあったため、びっくりしてそのままこちらに聞きに来てしまったのだろう。
アレだけ取り乱してればこんなもんかと、そう思い、散らばった服をかき集め始める。
その中にはまぁ、ショーツやブラといったものもあったが、もはやこれだけ散らかってたら、それを恥ずかしいだのなんだのと言ってなど居られるず、一か所に集めたところで、綺麗に折りたたみ始めた。
ただ無心に、そう、ただ無心に一つ一つたたんでいく。
何をやっているんだ俺はとも思ったが、それよりも、綺麗にたたまれていく服などを見ると、一仕事したという気にもなるもので、術たたみ終えた時には、それなりの時間がたっていた。
そう時間がたっていたのだ。
「せんぱぁい、お風呂あがり・・・」
「あ、あがったかぁそれじゃぁ俺も風呂にぃ」
「待ってください」
真也が立ち上がり、友香の横を通り過ぎようとして、寝間着の友香に肩を掴まれ静止された。
「な、何をしていたんですか」
「ひっくり返したようだから、片付けを」
「せ、先輩のばかぁ!」
「うぉっ!」
不意打ちにビンタが一発飛んできて、回避する事も出来ず、まともに受けてしまい、ものすごい音が鳴る。
昨日もビンタの音聞いた気がするなぁ、などと他人事の様に思いながら、痛みに耐えるのだった。
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