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9話 理由ときっかけと出会い。
「先輩、そのぉ」
非常に言いずらそう、居心地悪いような、申し訳なさそうな形で友香がおずおずと自分のスマホを差し出してきたので、何だぁ、と思い、真也は覗き込む。
画面にはレインが開かれており、そこには友香と母親だろうか、のやり取りが記載されていた。
「先輩の家に泊らなくて良さそうなので、帰ります」
「駄目よ・・・というか無理よ」
「どういうこと?」
「せっかくなのでお父さんとラブラブデートしてくるわ」
「つまり、どういう事?」
「つまり1週間以内って事よ。昔の事もあるし、そのまま泊めてもらいなさい」
「まって、流石に迷惑だよ」
「ごめんねぇ、もう飛行機乗っちゃった」
そこでやり取りは途切れていた。
つまりアレだ、帰る家はあるが一人という事なのだろう。
「だ、大丈夫なの?」
首を左右に振り拒否を示す。
まぁ、それはそうだろう、いくら高校生とはいえ、年頃の若い女の子が家で一人は少し、などと思ってふと、気になる一文が見えた。昔の事?
「三条さん、昔の事って?」
「先輩、2年前のちょうど今の時期のこと覚えてませんか?」
か細く、声音も弱々し彼女を見ながら、2年前といわれ思い出されるのは、真也としては人生いきてきた中で最大のピンチを迎えた時間の事だった。
そして、目の前の彼女が、妙におびえているような、そんな気がして、まさかと思い、目を見開く。
「え、でも、こないだは1度しかあったことが無いようなことを・・・」
そう、図書室で告白された時確かにそういう確認をしていた。
接点はなかった、はずだった。
「い、言えなかったんです」
俯くその日頬には、スーと涙がこぼれていた。
それもそうだろう、彼女にとっても、俺ともう一人、悪友の和也にとっても2年前の事件はあまりにも価値観や、心情を変えてしまうぐらいの非常に衝撃的なものだったのだから。
その件に関して、彼女、被害者の口からなど、怖くて言い出すことなんてできないだろう。
「私、先輩に助けてもらえなかったら、どうなっていたのか」
何も言えなかった。
その事件の事は、思い出したくもないぐらい良くない話で、彼女が言っていることは事実、本当にどうなっていたのかわからなかったからだ。
「じゃぁ、静流さんが三条さんを気にかけてるのって」
「それもあります。でも、私が北に来たのは、先生に、静流さんに会いたかったからです」
「いや、会いたいだけなら・・・・」
そう口を開くもその後の言葉は続かなかった。
何故なら、真也と和也は、その事件後いく度となく彼女への接触を計ろうとして、ことごとく逃げられ、挙句に、最終手段で彼女の勤務先である北高へと入学するも、それでも捕まえるのに半年かかったぐらい、静流という人は、物事を徹底していたからだ。
何せ同僚にすら捕まえる事の出来ない人らしいから、何の接点もない一生徒が捕まえるなんて、非常に難しいだろう、ましてや向こうはこちらを把握していた節があるぐらいだし。
静流が真也たちにつかまったとき、問答無用で蹴り飛ばされ、何で入学してきたとしこたま怒られた事を、真也も和也も今だ忘れていない、それぐらい、彼女はその2年前の件について敏感で、それだけ大きな出来事だった。
その大きな出来事の中心ともいうべき人間の一人が、今目の前にいる。
「よく、静流さんに怒られなかったな」
「いえ、わたし、入学試験の時にすでに怒られてるんです。それと同時に、ごめんなさいって、静流さん泣きながら誤ってくれて」
耳を疑った。
あの強く孤高と言ってもいい人が、泣きながら誤るなんて。
そうは思いつつも、2年前の事件はそれだけ、関わった人たちの色々を壊してしまったのだと、改めて思った。
「じゃぁ、俺に告白したのってどういう事?」
「私、ずっと助けてくれた先輩の事が、気になってたんです。どうして自分が不利になるような状況になったのに、被害にあった私の事ばかりかばう様に、何も言わないのだろうって」
それは、その事件があまりに被害者が一歩間違えばトラウマにすらなってしまうほどの出来事だったからだった。
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